実証実験
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メドナ兄さんの出仕に合わせて宮廷へ出かけた。
今日も僕は護衛役である。
といっても、護衛の数は16人に増えている。
たとえ襲撃があったとしても僕の出番はないだろう。
予想どおり、きょうの道中も平和だった。
監査庁に到着すると僕はメドナ兄さんに申し出た。
「捕縛部の修練場を使ってもいいですか? 剣の訓練をしたいのですが」
「よい心がけだ。好きに使うといい」
兄さんは快く許してくれたが、真面目に訓練する気はない。
僕はいつだって実戦を求めている。
【黎明の神器】の中で……。
頃合いを見計らって修練場を抜け出し、僕はクォールのところへ向かった。
宮廷には大勢の貴族たちが住んでいるのだが、クォールがいる東翼の四階はひっそりしていた。
ここにはあまり優遇されていない人たちが集められているようだ。
「いらっしゃい、セドリック」
僕のことを待ち構えていたのか、ノックしたとたんにドアが開き優しい笑顔のクォールに出迎えられた。
「手紙をありがとう。すごく楽しみにしてきたんだ」
「うふふ、楽しみなのは【身体強化薬】かしら? それとも黒のレース?」
「そ、それは……どっちもだよ……」
「もう、かわいいんだから♡」
クォールはソファーに座った僕を抱き寄せてキスしてくれた。
「それじゃあ【身体強化薬】を作製していく?」
「うん、これを使って」
空間収納から素材をだすとやっぱり驚かれた。
「セドリックはすごい魔法が使えるのね」
「偶然なんだけどね」
「それに、絶滅しかけのプルルフをこんなにたくさん用意できるなんて信じられないわ」
「それも偶然かな。あまり気にしないでよ」
クォールは僕の手を握って問い質す。
「愛した殿方のことだもの。ちゃんと理由を知りたいわ」
「それは……いずれ必ず教えてあげる。だからいまは【身体強化薬】を作ろう」
「……もう、しょうがないわね」
魔法薬の作成は楽しかった。
材料を刻んだり、すりおろしたり、分量を量ったり。
僕らは楽しくおしゃべりをしながら熱を加え、攪拌し、様々な工程をこなす。
最後にクォールが魔法処理をして【身体強化薬】はできあがった。
「さあ、これでいいわよ」
「思ったよりたくさんできたなあ」
一回分にあたる小さな小瓶は23本もある。
「一本飲み切れば、薬効は5分持続するはずよ。さっそく試してみる?」
「そうだね……」
本当はエビスタで試したいんだよなあ。
向こうなら、薬が害になっても死ぬことはないからさ。
でも、クォールはワクワクとした顔でこちらを見ている。
自分の作った薬の効力を確かめたいのだろう。
期待は裏切れないもんなあ……。
よし、覚悟を決めて一本だけ飲んでみよう。
「じゃあ、試してみるね……」
一回分を二口で飲み干した。
「どうかしら?」
「体が熱くなってきた。うん、パワーがみなぎっている感じだよ。反応速度も上がっている気がするなあ」
「私も飲んでみるわね」
クォールも僕と同じように【身体強化薬】を飲み干す。
「これは本当にすごいわね」
重い樫材のテーブルを持ち上げてクォール喜んでいる。
薬のおかげで華奢なクォールでも軽々と頭上に掲げているぞ。
「ちょっとごめん、剣を抜くけど怖がらないでね」
あらかじめ断っておいてから、僕は燕の剣を抜いた。
まるで木の棒を操っている感覚だ。
軽い剣がさらに軽く感じるぞ。
ピュッ! ピュッ!
風切り音がいつもより高い。
ずっと高速で振れている証拠だ。
切り返しだって楽々とできる!
試しに【スワローテイル】を使ってみたけど、驚くべきスピードになった。
「すごい! いまのはなに? セドリックがヒュンヒュンヒュンって!」
「僕のスキルのひとつさ。この薬があれば刺客が襲ってきても余裕を持って対処できそうだ」
「よかった」
自分のことのようにクォールは安心しているようだった。
「ありがとう、クォール。大事に使うからね」
「お役に立ててよかったわ。でも、そろそろ剣はしまってくれないかしら?」
「ごめん、ごめん。怖かったかな?」
「そうじゃなくて、こんどは違う方法で薬効を試してみない?」
「違う方法?」
「そう、違う方法……」
白くしなやかな指でクォールは僕のシャツのボタンをはずしていく。
「ク、クォール……」
「まだセドリックは動いてはだめ。動くのはあちらに行ってから……ね♡」
ちらりとクォールは寝室の方に目をやってから残りのボタンをはずしていく。
この流れはやっぱりあれだよね……。
僕の上半身を裸にすると、クォールは自分が身に着けているものをその場で脱いだ。
これが黒のレースか……。
僕の装備品では太刀打ちできない迫力である。
清楚なお姉さんが妖艶な美女に変身する瞬間を僕は目の当たりにしてしまった。
「さあ、あっちへいきましょう」
うららかな午後の薄暗い部屋で、【身体強化薬】で強化された僕たちの動きは激しかった。
冒険の記録
【持ち物】身体強化薬×23 → 15
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