いきなり、おとなになった!
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「お、お願いとはなんでしょう?」
うわずった自分の声が恥ずかしかった。
「どうぞ、わたくしをセドリック様の恋人にしてくださいませ」
いきなりの告白!?
「しかし、僕には……」
「リューネ・エンゲルスさんのことですね? わかっていますわ」
いえ、違います。
僕には【黎明の神器】があると言いたかっただけだ。
大切な時間をこれ以上女性に割きたくない……。
「私は後ろ盾もなく、セドリック様より年上です。ですが、助けられたあのときから、私はずっとあなた様に恋焦がれておりました」
「はあ……」
困ったなあ。
クォール様は美人で優しそうで脱いでもすごいんだけど、0・5ゲーム差で軍配は【黎明の神器】に上がってしまうのだ。
「せっかくですが、この話は……」
「私のこと、お嫌いですか?」
「そんなことはありません!」
相手は【アバンドール】の真珠だぞ。
僕にはもったいないくらいの人だ。
「ごめんなさい。急に恋人にしてほしいなんて、セドリック様を困らせるだけでしたね」
「いえ、そんな……」
「でしたら、お友だちからならいかがかしら?」
「お友だちですか……」
「やっぱり、これも迷惑でしょうか?」
「そんなことありません。ぜひ、お友だちになりましょう!」
たまに一緒に遊ぶくらいならありだよね!
【黎明の神器】のやりすぎで疲れたときとか……。
僕ってクズ?
「よかった……。さっそくですが、大切なお友だちにお茶を振舞いたいですわ。わたくしの部屋まで遊びに来ませんか?」
兄さんの仕事は夜までかかると言っていた。
【身体強化薬】の素材がそろったいま、特にやることはない。
「じつは暇を持て余していました。喜んでご招待にあずかりましょう」
「よかったですわ! どうぞ、こちらへ」
僕はクォール様をエスコートした。
***
二時間後、僕とクォールは素っ裸で同じベッドに横たわっていた。
二人とも荒い息をつきながら汗まみれでぐったりとしている。
どうしてこうなったかというと……、よくわからない。
まあ、クォールにグイグイ来られて、あっけなく僕が陥落したわけだ。
最初は本当にお茶をいただくだけのつもりだったんだけどな……。
とにかく、こうして僕はおとなになった。
「セドリックは閨の中でも強いのね」
僕の脚に自分の脚を絡ませながらクォールが微笑みかけてきた。
「そうかな? 初めてだったからよくわからないよ」
「あら、はじめてなのは私も同じよ。意外だった?」
「そんなことないけど……」
清楚なお姉さんというイメージだけど、クォールは大人びているからなあ。
正直、よくわからなかった。
「うふふ、セドリックなら【身体強化薬】なんて必要ないわね」
「え……、いまなんて言った!?」
「身体強化薬よ。私の母が先王陛下に頼まれて作っていたの」
「そうか、君のお母さんはルミール・ミンダス夫人だったね!」
「そうだけど……?」
僕は空間収納から【身体強化薬】のレシピを取り出した。
「僕はこんなものを持っているんだ」
「あなた、裸なのにどこからそれを取り出したの!?」
「まあまあ。それよりこれを見てよ」
レシピを一目見たクォールが跳ね起きた。
ブルンッ!
すごい揺れだったなあ……。
二つの丘がうねっていたよ。
「これ、お母様の字だわ! どうしてこれをあなたが?」
「ひょんなことから手に入れたんだ。僕が薬草園にいたのも【身体強化薬】の素材を探していたからなんだ。ただ、作り方はよくわかっていないんだ。特別な器具もいるみたいなんでね」
「器具ならお母様の残したものがあるわ」
「じゃあ、クォールなら【身体強化薬】を作れるんだね?」
ところが、クォールは悲しそうに首を横に振った。
「残念ながらそれは無理。どうしても足りない素材があるの。プルルフって言うんだけど」
「プルルフならここにあるよ」
空間収納から今度はプルルフを取り出してみせると、クォールは眼を丸くした。
「セドリックは奇術師? どこに隠していたの?」
そんなことを言いながらクォールは僕の脇や股の間を調べている。
すでに見られた場所とはいえ恥ずかしいからやめてほしい。
その袋にプルルフを入れていたわけじゃない……。
「大事なところを凝視するのはやめてくれ。それより【身体強化薬】は作れるの?」
「できると思う。でも、よくプルルフを見つけられたわね。ほとんど絶滅しかけだって聞いていたのに……」
「運がよかったんだよ。クォール、お願いだから【身体強化薬】を作るのを手伝ってくれないか?」
「あら、そんなものなくてもセドリックは元気じゃない」
クォールは勘違いしているな。
「エッチのために使うんじゃないよ。僕は純粋に身体を強化したいの!」
「あ、そっちね……」
「いまは危険な時期だからね。きょうだって僕は兄さんの護衛として宮廷に来ているんだよ」
そう言うとクォールの目が真剣になった。
「すぐに作りはじめましょう。道具を用意するわ」
「時間はどれくらいかかる? あっ!」
カーテンの隙間から見える外は真っ暗だった。
「まずい、兄さんがもう帰る時間かもしれない! 僕、行かなくちゃ」
兄さんを待たせて情事に耽っていたことがバレれば、お小遣いを全額カットされてもおかしくない。
床に落ちていた服を拾い集め、大急ぎでシャツを羽織る。
クォールは裸のまま、僕の着替えを手伝ってくれた。
「クォール、明日もまた来ていい? 【身体強化薬】の作製をお願いしたいんだけど」
僕の頬を両手で包みクォールはキスをする。
「好きな時間に来て。私はたいてい部屋にいるから」
「多分午後になるよ。それじゃあ、また」
もう一度だけキスをしてから、僕は監査庁へ走った。
執務室へ入ると、兄さんはもう帰り支度を整えていた。
「どこをほっつき歩いていた? もう帰るぞ」
それほど待たせたわけではないようで、怒り心頭という感じではない。
ギリギリで間に合ってよかったよ。
「失礼しました。その代わり体調は万全です。夜道は危険なので用心しながら帰りましょう」
「うむ、頼りにしているぞ」
僕がやる気を見せているので兄さんも満足したようだ。
新しく手に入れた燕の剣を装備して馬車に乗り込む。
昨日の今日で襲撃はないと思うけど、用心だけはしておこう。
その夜は静かで、僕らは平穏に屋敷まで帰ることができた。
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