舞踏会
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魔物を排除しつつ40個のプルルフを集めた。
僕の命を奪ったバロワーム(芋虫の魔物)にもきっちり復讐しておいたぞ。
プルルフの数がデイリーミッションの必要数より10個も多いのは個人用だ。
空間収納に入れておけば役に立つことがあるかもしれない。
それに、アレは美味しいのだ。
寝る前に自室で食べるのなら問題ないだろう。
デイリーミッションをクリアした結果、僕のステータスはこんな感じになった。
【ジョブ】魔法剣士(レベル6→7)
【スキル】二段切り (レベル3 次のレベルまで 72/100%)
火炎剣 (レベル2 次のレベルまで 82/100%)
【魔 法】初級治癒 (レベル2 次のレベルまで 36/100%)
【装 備】鋼の剣、厚手の服、革のブーツ、旅人のマント、旅人の帽子
【持ち物】ポイッチュ×10、傷薬×2
【所持金】586レーメン
【ヴィレクト金貨】3枚
死んで経験値を失ったけど、だいぶ取り戻すことができたぞ。
新たに旅人のマントと旅人の帽子という装備も加わっている。
もっと頑張りたいところだが、そろそろお昼ご飯の時間になる。
続きは午後にするとしよう。
名残はつきなかったけど、僕はログアウトした。
【黎明の神器】を脱ぐと、ノエルが僕の礼服を並べているのが見えた。
どれもこれもよそ行きの一張羅である。
「なにしてるの?」
「お忘れですか? 夜は宮殿で舞踏会じゃないですか。いまから衣装を選んでおかないと時間がなくなります」
「げっ! 舞踏会って、きょうだっけ?」
国王陛下主催の舞踏会だからサボると言っても絶対に許してもらえないだろう。
メドナ兄さんのことだから僕が病気でも連れていくはずだ。
「理髪師ももう到着しています。お昼ご飯を召し上がったら髪を切ってもらってくださいね。そのあとはお風呂ですよ」
はぁ、きょうはもう遊んでいる時間はなさそうだ。
初級治癒魔法のレベルを上げておきたかったなあ。
「なにをそんなに落ち込んでいるのですか? 素敵なご令嬢と知り合えるチャンスですよ」
舞踏会は若い貴族にとってお見合いと同義だ。
誰もが、ここで気になる相手を見つけるのである。
そりゃあ僕だって女の子のことは好きさ。
だけど、それ以上にいまは【黎明の神器】なのだ。
それに、僕はダンスが大嫌いだ。
はじめての舞踏会で転んでしまい、大恥をかいたことがあるから。
あれからずっと苦手意識が克服できないでいる。
「まだ、あのことが忘れられないのですか?」
「だってさあ……」
悪い意味で会場中の注目をあびたもんなあ。
あれ以来、僕をダンスに誘う令嬢はいない。
僕も踊りたくないからいいんだけど、こちらを見てクスクス笑う人がいるのだ。
きっとあの夜のことをおぼえているのだろう。
「今夜はきっといいことがありますって!」
「そうかなぁ……」
「なかったら私が慰めてさしあげますわ」
にっこりと笑うノエルにはかなわない。
「わかった。お昼を食べて散髪だね」
「それからお風呂ですよ。髭は私が剃ってさしあげますから。お気に入りのジャスミンの香水をつけましょうね」
「ありがとう、ノエル」
元気が出た僕は食堂へ向かった。
舞踏会はやはり楽しいものではなかった。
知人などと談笑はできたけど、音楽がはじまると誰もが僕から離れていってしまったのだ。
僕の周囲に残っているのは年上のおじさまやおばさまばかり。
話だって合うもんじゃない。
いたたまれなくなった僕はふらふらと庭園へ逃げ出した。
散歩でもして時間を潰そうと思ったのだ。
「セドリック、こんなところでなにをしているの?」
声をかけてきたのはリューネ・エンゲルスだった。
「僕はダンスが苦手でね……。君こそなんでこんなところに?」
「あなたが出ていくのを見かけたから追いかけてきたの」
「いいのかい? 君とダンスをしたがっている貴公子は多いだろう?」
リューネは小さく笑って肩をすくめた。
「どうかしら? 強い女ってモテないのよ。それに私もダンスは好きじゃないわ」
「じゃあ、少し散歩でもする?」
「それも悪くないわね。本当は散歩より冒険がいいんだけど」
「冒険好きの美女か。君がモテないなんて信じられないよ」
僕らは並んで夜の庭園を歩き出した。
月は明るく、風もあり、気持ちのいい夜だ。
「聞いたわよ、メドナ様が襲撃されたんですって? それをセドリックが撃退したって」
「耳が早いな」
「私の父もメドナ様も同じ陣営ですもの。情報はすぐに入ってくるわよ」
「ああ……」
宮廷では国王派と公爵派の政争が繰り広げられているのだ。
兄さんやエンゲルス殿は国王派である。
「それに、もうすっかり噂になっているわよ。バッカランド家の次男坊は腕が立つって。あなたこそ、ご令嬢方の憧れの的なんじゃない?」
「まだその恩恵は受けていないなあ……ん?」
くぐもった声が聞こえたような気がして、僕は人差し指を口に当てた。
リューネもさっと身を寄せて小声でささやく。
「どうしたの?」
「この奥に誰かいる……」
耳をすますと声はさらにはっきりした。
「うぅ……ぐっ……うぐぅ……」
途端にリューネが顔を赤くする。
「これって、あれだよね……?」
「あれ? …………ああ!」
アバンドールの貴族というのは性に奔放なところがある。
パーティーの最中でも庭園の茂みや、空いている部屋でいたしちゃうなんて日常茶飯事だ。
だから、リューネもそんな想像をしたのだろう。
たしかにこの声は快感を押し殺しているように聞こえなくもない。
だけど、本当にそうなのか?
この声には恐怖のような色合いが滲んでいる気がする。
「ちょっと見てくる」
「のぞき?」
「違う。ただ事じゃない気がするんだ」
「だったら私もいくわ」
僕らは足音を立てないように植え込みの間を進み、庭園の端っこまでやってきた。
「う、うそだろ……」
僕は我が目を疑った。
だって、そこにあったのは台座に載った白い天使像だったからだ。
これはエビダスでみた地下納骨堂の入り口じゃないか!
こちらの天使像は苔で汚れているけど、同じもので間違いない。
さらに驚くことに、天使像はすでにスライドしており、地下に続く階段が露出していた。
「うぅ……」
やっぱり声は地下から聞こえてくる。
この下になにかがいるのはたしかだ。
あのときと同じように幽霊なのだろうか?
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