表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/27

反撃

1/2


 やっぱりだ。

 空間収納が使用可能になっている!

 だったら、そこに入っている鉄の剣を使えばいい。


「兄さん!」


 メドナ兄さんを襲った刺客の剣をギリギリで受け止めることができた。


「セドリック……?」


 兄さんは僕に助けられたのが信じられないようだ。

 僕の能力を過小評価していたのだろう。

 これでも毎日わずかな暇を惜しんで修行しているんだぞ。

【黎明の神器】の中だけどね。


「お下がりください」

「うむ」


 一般家庭なら兄が弟をかばうのだろうが、上級貴族の家だとそうはいかない。

 長兄と弟では君主と家臣くらいの差があるのだ。

 僕もそれが身に染みているので無意識に兄さんをかばってしまう。

 刺客と兄さんとの間に僕は体を滑り込ませた。


「小僧、そこをどけ!」

「断る!」


 刺客の剣をもう一度はじき返した。

 たいした敵ではないな。

 まさか弟の僕に抵抗されると思っていなかったのか、反撃をくらって刺客は狼狽ろうばいしている。

 やられる前にやる。

 それが【黎明の神器】で学んだ、命のやり取りにおける鉄則だ。


「せいっ!」


 敵の体勢が整う前に二段切りを打ち込んで決着をつけた。

 自分でも驚くほどあっけなく勝負がついてしまったよ。

 敵の死体を確認していると、リンガールが戻ってきた。


「メドナ様、お怪我は?」

「うむ、問題ない」

「セドリック様は?」

「平気だよ。あれ、君は怪我をしているね。診せて」


 右腕から出血しているな。

 傷はけっこう深そうだ。


「治癒魔法を使うから動かないで」


 治癒魔法を二回かけると出血は収まった。

 完治したわけじゃないけど、応急処置としてはじゅうぶんだ。


「あとでちゃんとした治癒師に診てもらって。他に怪我人は?」

「あちらに重傷者がいます」


 助けられるのなら一人でも助けたい。


「すぐに診よう。リンガールはメドナ兄さんを連れてこの場を離れるんだ」

「承知しました。セドリック様、部下をお願いします」


 リンガールは一礼すると兄さんを馬車に乗せて立ち去った。

 やれやれ、僕も屋敷に帰りたいよ。

 帰って早く遊びたいけど、人命がかかっているから、そんなことは言っていられない。

 僕はそこまで廃人じゃないからね。


「セドリック様、こちらです!」


 軽症の家臣が僕を呼んでいる。

 倒れているのは五人。

 うち三人がバッカランドの家臣か……。

 僕の治癒魔法はあと六回が限界だ。

 敵に塩を送るのは見送るとして、一人につき二回ずつかけるしかないな。


「カーネル先生を連れてくるんだ。走れ!」

「はっ!」


 先生は我が家の掛かりつけであり、都でも評判の治癒士だ。

 もう遅い時間だけど、バッカランド家の要請を断ることはないだろう。


「死ぬんじゃないぞ! 全員生き延びて見せろ!」


 それぞれの怪我人に二回の治癒魔法をかけ、傷薬も等分にかけていく。


「口を動かせるか? 頑張ってこれを食べるんだ。傷が塞がるからな」


 手持ちのポイッチュもすべて家臣の口に放り込んだ。

 これで僕が出来ることはすべてやったぞ。

 あとは怪我人たちの生命力次第だ。

 カーネル先生はまだだろうか?

 僕は通りの向こうに目を凝らす。

 やれやれ、長い夜になりそうだ。

 治癒士を乗せた馬車は、まだ到着しそうになかった。



 昨晩はカーネル先生のところに家臣たちを送り届けると、【黎明の神器】もせずに眠った。

 寝不足だったうえに刺客と戦い、そのうえ怪我人の治療までしたのだ。

 もう体力の限界だったよ。

 いや~、久しぶりによく寝たから頭がすっきりしているなあ。

 でも、夕飯を食べていないからお腹が減ったぞ。

 太陽はだいぶ高い位置にあるようだけど、いま何時だろう?

 部屋の中を見回したけどノエルの姿はない。


「ノエル~? いないのぉ?」


 普段ならすぐにやってくるけど返事がない。

 お使いにでも行ったのかな?

 仕方がない、腹も減ったし食堂にでも行ってみるか。

 ひょっとしたら朝食の残りがあるかもしれないからね。

 朝食が残っていなくても、誰かいればサンドイッチくらい作ってもらえるだろう。

 そして、ご飯を食べたら【黎明の神器】だ。

 きょうも頑張るぞ!


 食堂へ向かって歩いていると数人の騎士たちがこちらに駆け寄ってきて膝をついた。


「な、なにごと?」

「セドリック様、昨夜は命を救っていただき、ありがとうございました。この御恩は生涯忘れません!」


 騎士たちは深々と頭を垂れている。

 僕もなにか言った方がいいのだろうか……?


「あ、そう……。うん、助かってよかったね……」


 さっさと切り上げてご飯が食べたいのだが騎士たちは僕を離してくれない。


「意識が途切れかけたあのとき、セドリック様のお声が聞こえたのです。死ぬんじゃないぞ! 全員生き延びて見せろ! あのお言葉に勇気づけられました」


 うん、日中に言われるとすごくハズイよ……。


「そんなに気にしないで。みんなもよく兄上を守ってくれたね。お疲れさん……」


 これくらいでもう勘弁してくれ。

 僕はお腹が空いて死にそうなのだ。

 それに、ご飯を食べたらトイレへ行って【黎明の神器】に浸りたい。

 騎士たちに適当なあいさつをして、僕は食堂に向かうのだった。


このお話がおもしろかったら、ブックマークや★での応援をよろしくお願いします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ