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ミッションコンプリート

1/2


 通路を抜けると棺が並ぶ部屋に出た。


【古の王――ちが眠る聖―なり。静謐―る―――――せよ】


 石板の文字はかすれて読み取りづらい。

 そうとう古いものなのだろう。

 ところで細工師の道具はどこかな?

 周囲に目を配ったけど、それらしいものはどこにも見当たらなかった。


「うぅ……うぐぅ……」


 いた!

 幽霊がいたっ!

 頭を抱えた状態で棺の前に座り込んでいる。

 思わず身構えてしまったけど、幽霊が襲い掛かってくる気配はない。

 攻撃の意志はないのかな?

 さらに幽霊に近づいてみると、向こうも顔を上げて虚ろな瞳で僕を見上げた。

 ずいぶんと美人の幽霊だ……。

 妖艶ようえんっていうのかな?

 色っぽい大人の雰囲気があり、ちょっと怖くなってしまうほどだ。

 服はボロボロに擦り切れていて、隙間から白い肌が露出している。

 見てはいけない、と思いながらもつい目がいってしまう。

 だってあばらの上に下乳のラインが見えているから。

 骨と肉の絶妙なバランスは男の子を惑わせる……。

 いかん、いかん!

 侯爵家の子弟として僕は紳士らしくふるまわなければならないのだ。


「どうかなさいましたか?」

「うぅ……助けて……」


 縋りつかんばかりに幽霊は白く華奢な指を僕に伸ばした。

 その手を取ろうとしたのだが、相手は幽霊である。

 触れることすらかなわない。


「教えてください。僕はどうすればいいのでしょう?」

「こちらへ……」


 幽霊は立ち上がって、スッと奥へと移動していく。

 どうせこの部屋に探している細工道具はない。

 僕も幽霊の後を追った。


 部屋の奥は行き止まりになっていて、壁には白骨死体が鎖でつるされていた。

 この死体が身に着けているのは幽霊と同じ服だ。

 つまり、これは幽霊の遺体か。


「私の亡骸をおろしてください……」


 おや、遺体の横に比較的新しい石板がある。


【大罪人・王妃ルイマ】

 王妃の地位にありながら姦通の大罪を犯せし者。

 その罪を知らしめるため、石棺を与えず遺骸をここに晒すものなり。


 あ~、国王陛下を裏切って不倫をしちゃったのかあ。


「私は生きながらここに繋がれました。もうじゅうぶん罪は償ったと思います。いつまでもこのような辱めを受けたくはありません。どうか自由にしてくださいませ……」


 ここに拘束されて餓死してしまったってこと?

 それはかわいそうだなあ。

 いくらなんでも、それはやりすぎだと思う。

 ここの王様は嫉妬深い人なのだろうか?

 コントロールパネルが開き、僕に選択を求めてきた。


【王妃の亡骸をおろしますか?】


 ▶はい  いいえ▶

 これ以上辛い思いをすることもないだろう。

 僕は『はい』を選択して、白骨死体を床に置いた。


「お若い方、ありがとうございます」

「いえ。これで安らかに眠れますか?」

「そうでございますね。ですが……、死出の旅路にひとりきりは寂しゅうございます」

「え?」

「あなた、きれいな肌をしていらっしゃいますね。美しい方……」

「え~と……」


 僕は剣の柄に手をかけた。


「ねえ、私と一緒に逝ってくれませんか?」

「断る!」


 やっぱりこうなるのね。

 たとえ美人が相手でも恩を仇で返すようなやつに遠慮はしないぞ。


「せいっ!」


 抜き打ちざまに【二段切り】を仕掛けた。

 だが、手応えはほとんどない。

 幽霊が相手だと物理攻撃はほとんど通用しないということか。


「うふふ、もっと優しくしてくださいな」


 笑いながら幽霊は先端が尖った骨を飛ばしてきた。

 剣で撃ち落として事なきを得る。

 だが、ここは納骨堂である。

 骨のお代わりなんていくらでもあるのだ。

 守勢に入れば追い込まれる。

 そう判断した僕は攻撃の手を緩めないことにした。


「火炎剣ならどうだっ!」


 炎を宿した剣が幽霊へと襲い掛かった。


「ぎゃあっ!」


 物理と魔法を融合させた火炎剣は幽霊にも有効打を与えるようだ。


「未練を断ってあの世へ旅立て!」


 とどめとばかりに僕は火炎剣を斜めに斬り下げた。

 浄化の炎が幽体を焼き、納骨堂に絶叫がこだまする。


「ぎゃぁああああああああああああああああああああっ!」


 残響はいっときだけその場にとどまったが、すぐに静寂が訪れた。

 意外とあっさり片付いたな。

 レベルを5にまで上げておいたのがよかったのだろう。

 痛いのは嫌だから今後も慎重にいくとするか。

 ただ、それだと治癒魔法のレベルが上がらないというのが悩みどころである。

 それについてはいずれ対策を練らないと……。

 お、壁のすみにヒビがあり、そこが光ったぞ。

 力を加えれば崩れそうだな。

 よし、蹴ってみよう!

 ブーツで数回蹴ると積んである石が崩れ、壁に小さな穴が開いた。

 あ、なにか落ちている!

 ロール状の革鞄に包まれていたのは小さな工具一式だ。

 それだけじゃない。

【細工師の道具】の下にはヴィレクト金貨が輝いているではないか。

 菩提樹の下にいる熊の絵柄だ。

 ヴィレクト金貨はいろんな種類があるんだなあ。

 コレクトするのが楽しみになってきたぞ。


【細工師の道具を見つけた。クロード・ボーガンに返しに行こう】


 それはいいけど、クロード・ボーガンはどこにいるんだ?

 でも、僕は慌てない。

 地図を開くと、見慣れない赤いマークが打たれている。

 やっぱりな。

 このマークがクロード・ボーガンの居場所だろう。

 ミッション中はこのように地図にもヒントが出るんだな。

 そうとわかれば、これ以上こんな辛気臭いところにはいたくない。

 剣を鞘に納め、納骨堂を後にした。


 クロード・ボーガンは神経質な顔をした中年男性だった。


「いやあ、助かったぜ。これがなければ仕事にならないからな。ほら、これはお礼の品だ。俺が作った細工物の中でも傑作のひとつだぜ」


 手渡されたのは【金の卵】である。

 ニワトリの卵くらいの大きさで、手触りはスベスベだ。

金属製だからひんやりとしているな。


「ふふふ、そいつを手のひらで温めてみな。おもしろいことが起こるから」


 僕は言われたとおり両手で卵を包んでみる。

 僕の熱を吸収して卵がじんわりと温まってきたぞ……。


「うわ! うごいた?」

「ビクビクって震えたら台の上に置いてみな」


 そっと卵を置くと表面に亀裂が入った。

 まさか……。

 殻が二つに割れて現れたのは機械仕掛けの雛だった。

 精巧な作りで、金属の体ながら雛の仕草はかわいらしい。

羽根をつくろったり、餌をついばんだりしているぞ。


「どうだい、たいした品だろう?」

「すごいですよ! こんなの見たことありません」


 王都アバンドールを探したって、これほどのカラクリを見つけることはできないだろう。

 やがて雛は卵の中に戻り、卵も元のとおりになる。

 表面の継ぎ目だって見えないほどだ。

 いいものが手に入ったなあ。

 ノエルやリューネに見せてあげられないのが残念だよ。

 きっと喜んだろうになあ。


【チュートリアル6 ~最後のテスト~ 完了】


目の前にミネルバさんが現れた。


「お疲れ様でした。これにてすべてのチュートリアルが終わりました。ご褒美にこちらをどうぞ」


【経験値、鉄の剣、空間収納、150レーメン】


 より攻撃力のありそうな剣を手に入れたぞ。

 それに経験値を取得してレベルも上がった!

 なんだかパワーアップした気分だ。


【ジョブ】魔法剣士(レベル6)

【スキル】二段切り(レベル3 次のレベルまで61・85%)

     火炎剣 (レベル2 次のレベルまで38%)

【魔 法】初級治癒(レベル2 次のレベルまで22%)

【装 備】銅の剣、鉄の剣・厚手の服・革のブーツ

【持ち物】ポイッチュ×11、傷薬×1

【所持金】473レーメン

【ヴィレクト金貨】3枚


 そして驚くべきは【空間収納】という魔法だ。

 これは亜空間に十種類のアイテムを保管できるという素晴らしいものだった。

 静かに微笑みながらミネルバさんが語りかけてくる。


「その魔法は今後の旅に役立つでしょう。これからも広くエビダスの世界をめぐり、この世界の謎を解き明かしてください」

「喜んで! でも、ひとつだけわからないことがあります。どうして神々は僕に【黎明の神器】を使わせてくださるのでしょうか?」


 すごく楽しいからありがたいんだけど、いいのかなって気はしていたのだ。


「【黎明の神器】は誰にでも扱える代物ではありません。それに、あなたというテストプレイヤーがいることによって、神々は様々なことを解決していく手がかりを得るのです。つまり、セドリックさまも世界の創造に一役買っているのですよ」

「おお!」


 そんな重大な使命をおびているとは知らなかった。


「私はさらなる努力を誓います!」


 もっと、もっと、エビダスの世界に入り浸らくなくてはならないな。

 とりあえず、きょうも限界までレベルを上げるとしよう。

 現実での時刻は日付をまたいだと思うけど、僕に眠る気はさらさらなかった。



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