地下納骨堂へ
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中庭というのはすぐに見つかった。
石造りの建物に囲まれた小さな庭園で、季節の花が咲き乱れている。
地下に通じる入り口があるかと思ったのだが、それらしい場所は見当たらない。
【試練の入り口】の洞窟のように、特別なギミックで隠されているのかもしれない。
手掛かりは幽霊の泣き声だ。
ここで待っていれば幽霊の泣き声が聞こえるのだろうか?
ちょうどベンチが置かれていたので、僕はそこに腰かけた。
「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」
いくら待っても泣き声は聞こえない。
暇だな……。
こうして漫然と待っているのは退屈である。
そうだ、素振りをしよう!
【スキル】二段切り(レベル3 次のレベルまで47%)
これの経験値を上げるのだ。
スキルの経験値は魔物を相手に使うほど上がるのだが、素振りでもわずかに上昇することを発見した。
いまのところ、20回素振りをすれば1%上がることがわかっている。
とりあえず60回ほどやって経験値を50%にするぞ!
しかし、不思議だなあ。
現実世界の僕はけっして勤勉ではない。
それなのに、仮想世界ではどうしてこんなに頑張れるんだろう?
まあいいや。
周囲に人は……いないな。
僕は剣を抜いて二段切りの練習をはじめた。
***
「57!」
少し疲れてきたけど強く地面を蹴って大きく踏み込む。
上段左右から打ち込まれる高速の剣が空気を切り裂いた。
「ハア、ハア……」
少し息が上がってきたな。
【スキル】二段切り(レベル3 次のレベルまで49・85%)
でも、もう少しで50%だ。
きりのいいところまではやりたい。
「うぅう……ぐっ……ぐぅうう……」
あれ、いまなにか聞こえなかったか?
「うぅ……うぐぅ……」
ひょっとして、これが幽霊の泣き声?
泣き声というより女性の呻き声に聞こえるぞ。
でも、やっぱりこれがそうなのだろう。
僕は耳をすまして声の出所を探る。
「こっちか?」
庭のすみの木陰に、台座に載った白い石像があった。
表面がつるつるの白い石でできた天使の像である。
似たような石像はいくつかあったけど、音はこの石像の近くがいちばん大きい。
どこかに仕掛けがあるのだろう。
僕は石像のまわりをグルグルとまわりながら、つぶさに観察する。
お、翼の付け根が光ったぞ!
ここになにかあるな。
よく調べて見ると左側の翼が動きそうだ。
「ぐぬぬっ……」
力をこめて翼をひねると、台座がスライドして地下へと続く階段が現れた。
「うぅ……」
恨めし気な女性の声が大きく、クリアになっている。
ここが地下納骨堂の入り口で間違いなさそうだ。
階段の下には燭台の炎が揺らめいているから、このまま突入しても問題はないだろう。
覚悟を決めた僕はゆっくりと階段をおりた。
階段を降りきると、巨大な蜘蛛に襲われた。
手のひらサイイズなんて生易しいものじゃないぞ。
中型犬くらいの大きさがある!
そんなのが三体も出てきたのだ。
「くっ!」
とっさに放った二段切りが決まり蜘蛛は動かなくなった。
だが、残りの二体は左右に分かれて僕を挟撃する。
知ってる?
蜘蛛って跳ねるんだよ!
顔の高さまで飛んできた蜘蛛の攻撃を避けて足を切り落とす。
やつらの足は八本もあるから完全に動きを封じたわけじゃない。
でもこれで少しは動きが鈍くなるだろう。
「うわっ!?」
蜘蛛がネバネバとまとわりつく糸を放ってきたぞ。
このままじゃからめとられて動けなくなる。
「火炎剣!」
よかった、火炎剣で焼き払うことができた。
僕自身も火傷を負ってしまったけど、捕まるよりはずっとましだ。
別の蜘蛛がまた現れるかもしれない。
だとしたら火炎剣の多用はしない方がいいな。
魔力が回復するには時間がかかるからだ。
糸を封じるためにも火炎剣は温存しておこう。
いまは魔力を使わないこの技で勝負だ。
「二段切り!」
スキルの連発でどうにか蜘蛛の群れを蹴散らした。
【スキル】二段切り(レベル3 次のレベルまで58・85%)
やっぱり実戦の方が入ってくる経験値はいい。
素振りとはえらい違いだ。
落ち着いた僕はあらためて納骨堂を見回した。
階段を降りたところは広めのホールになっていて、細い通路が奥へと続いている。
「ぬぅううう……」
幽霊の声がさらに大きくなっているぞ。
それにしても不気味な声だ。
よほどの怨みを残して死んだのだろうか?
ちょっと怖いけど、ここまで来て引き返すという選択肢はない。
どうなるかはわからないけど、幽霊と対面してみよう。
と、その前に中途半端な経験値が気になるな。
「うりゃあっ!」
僕はその場で三回素振りをし、二段切りの経験値を59%にしてから奥へ進んだ。
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