最後のチュートリアル
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夕飯を食べ終えると僕はそそくさと自室にこもった。
いまから朝までは誰にも邪魔されない自由な時間がとれる。
睡眠不足ではあるが、そんなことには構っていられない。
仮想空間が僕を待っているのだから!
パジャマに着替えると僕はベッドにダイブした。
「それじゃあノエル、あとは頼むね」
「また【黎明の神器】ですか? まるで憑りつかれたみたいです。本当は呪われたアイテムなんじゃ……」
「違うって。これのおかげできょうはすごい発見があったんだから!」
30万グロンの価値があるレイマール金貨を二枚も見つけたんだぞ。
今後だって貴重な発見があるかもしれない。
「そうそう、護衛の方から聞きましたよ」
ノエルがジト目で僕を睨みつけてきた。
「なんだよ?」
「リューネ・エンゲルス嬢と人気のない洞窟に入られたとか……」
「ああ、あれのことね」
「事実なのですか!? 嫁入り前の令嬢をそんなところに連れ込んで、なにをされていたのですか!」
「なにって、冒険だけど?」
「なんですって! 冒険してもいい年頃とでもお思いですか!?」
めんどくさいな……。
「べつにやましいことはしてないよ」
「そんなことを言って、手くらい握ったのでしょう?」
「いや」
「まさか、キスしたとか……?」
「ぜんぜん」
「舌を入れた……?」
「してないって!」
ゴブリンを討伐しただけだ。
「でも、洞窟に入る前と入った後では、リューネ嬢の態度があからさまに変わったと聞きました。セドリック様が絶対になにかしたはずです!」
「僕を犯罪者みたいに言わないでくれ。一緒に洞窟を調査して少しだけ仲が深まっただけだよ」
「本当に? エッチなこととかしていないでしょうね?」
「していないって! もういいだろ? 僕は忙しいの!」
しつこいノエルを追い払って【黎明の神器】をかぶった。
エビダスの世界に戻ってきた僕はホッとため息をついた。
はあ、ここは楽しくていいよなあ。
これでようやく最後のチュートリアルが受けられるぞ。
そのために頑張ってレベル上げをしておいたんだよね。
チュートリアル6を受けるにあたって、僕はミネルバさんから忠告を受けていたのだ。
「チュートリアル6は少々難しいミッションです。受ける前にレベルをもう少し上げておいた方がいいでしょう」
ミネルバさんはレベル3くらいでいいと言っていたけど、慎重な僕はレベル5にしておいたのだ。
これで問題はないだろう。
コントロールパネルを開いて【チュートリアル6 ~最後のテスト~】を選択するといつものようにミネルバさんが現れた。
「セドリック様、最後のチュートリアルを受ける準備はできましたか?」
「うん、お願いします」
「それでは街の中央広場へ移動してください」
地図を開いて中央広場の位置を確認する。
郊外で雑魚を相手にレベル上げばかりしていたので、まだ街の中はよくわからなかったのだ。
「ふむ、中央広場は城の南側か」
小さいながら城はここからでも見える。
あそこを目印に歩いていけばいいだろう。
それにしても小さな城だよなあ。
国王陛下が住むアバンドール城と比べたら、地方の砦くらいの大きさだ。
道を覚えながら中央広場へたどり着いた。
「広場のすみに掲示板があります。わかりますか?」
「あれのことですね!」
屋根付きの大きな掲示板が立てられており、数人の市民がそれを見上げている。
「問題を抱えた人が掲示板に依頼を出しています。最後のチュートリアルは依頼を受けて、問題を解決してあげることです」
依頼は定期的に更新されるそうだ。
うまいこと依頼を解決すると経験値やおかね、アイテムなどが貰えるとのことである。
どれどれ、どんな依頼があるのかな?
掲示板を見ると依頼は一つしかなかった。
つまり、チュートリアル6を完了するにはこの依頼を受ければいいのだろう。
大切な仕事道具を王城の地下納骨堂に忘れちまった。
取りに戻りたいが、あそこは幽霊が出るから近づきたくねえ。
誰か代わりに取りにいってくれないか?
取ってきてくれたら、俺が作った傑作をプレゼントするぜ。
御用細工師・クロード・ボーガン
王城の地下納骨堂へ行って、細工師の仕事道具をとってくればいいのだな。
レベルは5になったし、ポイッチュだって6個残っている。
そのうえ傷薬もひとつあるのだ。
幽霊が出るようだけど、なんとかなるだろう。
まずは王城へ行って地下納骨堂の入り口を見つけるか。
僕は北に進路をとり、今度は城に向かって歩き出した。
近くで見てもやっぱり小さな城だった。
簡素な門は開けっ放しで、門番が二人立っているだけだ。
これ、入っても怒られないよな?
「すみません、中に入ってもいいですか?」
「通れ!」
警備がこんなにザルでいいのだろうか?
通しておいて後ろから襲ってきたりしないよね?
おっかなびっくり入ったけど、叱られるようなことはなかった。
ん、門番たちの会話が聞こえるぞ。
「見回りに行きたくないな。中庭にいくと女の泣き声がするんだよ」
「俺も聞いたことがある。ありゃあ幽霊の泣き声だぜ」
ほほう、中庭に行くと幽霊の声が聞こえるのか。
ということは、地下納骨堂の入り口は中庭にあるのかもしれない。
手がかりを得た僕は中庭を目指した。
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