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熱視線

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 洞窟内部の構造もチュートリアルで体験したものとまるっきり同じだった。

 おかげで僕は迷うことなく進んでいける。


「道を記憶しているの?」

「まあね……」


 リューネは感心していたけど、そんなにたいしたものじゃない。

【試練の入り口】をやったのは、つい昨日のことなのだ。

 やがて僕らはたき火の手前までやってきた。

 大きな岩に隠れながら様子をうかがうと、やはりゴブリンが二体いる。

 ただチュートリアルのときと違って、こちらに背を向けてはいない。

 なにからなにまで一緒というわけではないようだ。

 まだ僕らに気がついてはいないけど、このまま近づけばすぐに見つかってしまうだろう。

 一気に距離をつめて討伐するしかない。


「僕は左のをやる。リューネは右をお願い」

「わかったわ」


 緊張でかたくなっているなあ。

 僕も初戦はそうだった。


「深呼吸して。肩の力を抜いた方がいい」

「セドリック、あなたはずいぶん落ち着いているのね。ひょっとして実戦の経験があるの?」


 仮想空間でならね、とは答えられない。


「頭の中で何回も試したんだ。大丈夫、僕らならできるさ」


 火炎剣が使えるということは初歩治癒魔法も使えるだろう。

 だったら恐れることはない。

 思い切っていってしまおう。


「走るよ。討伐のコツはためらわないこと」

「わかったわ」


 僕らはゴブリンに向けて地面を蹴った。

 敵の接近に気がついたゴブリンが腰をあげてナイフを抜いたが問題ない。

 武器はこちらの方が長い。

 有利なのは僕たちだ。

 ゴブリンのナイフが届く前に僕は敵を切り伏せた。

 すぐに飛びのきリューネの方を見る。

 リューネも少し遅れてゴブリンを倒した。


「フー……フー……」


 荒い息を吐いているのは疲労ではなく緊張が解けたからだろう。


「よくやったね。けがはない?」

「平気よ……」

「よく確かめて。自分では気がついていないことがあるんだ」


 僕がそれだったもんなあ。

 極度の興奮状態で腕の傷にしばらく気づけなかったほどだ。


「うん、どこも負傷していないわ」

「ならよかった」

「…………」


 黙り込んだリューネがじっと僕を見つめている。

 なんだろう、視線が熱い気がするぞ……?


「どうしたの?」

「セドリック、あなた、すごいのね」

「すごい? なにが?」

「剣の腕もだけど、淡々と戦闘をこなして……、それになんというか……冷静で……」

「そうでもないさ」


 はじめてのときはこうはいかなかったもん。

 なにごとも慣れが肝心ということだ。


「よし、そろそろ行こう。肝心の祭壇はこの奥だ」

「残る敵は三体ね」

「そのうち一体はゴブリンメイジだ。これは僕に任せてくれ」


 作戦はチュートリアルのときと同じだ。

 厄介なゴブリンメイジを最初に倒し、雑魚はそのあとで始末する。

 今回はリューネという仲間がいるから討伐も楽になるだろう。

 チュートリアルではゴブリンメイジに火傷を負わされた。

 今回は逆に、僕の火炎剣で仕返しだ!

 小さな復讐心に燃えながら僕は奥へと進むのだった。


 洞窟の奥もやはり同じ作りだった。

 祭壇があり、ゴブリンメイジと二体のゴブリンがいる。

 相手がゴブリンメイジでも火炎剣なら一撃で仕留められるはず。


「一気にいくぞ!」


 僕はゴブリンメイジに駆け寄り一撃で片づけた。

 よしよし、今回は反撃の機会を許さなかったぞ。

 もちろん二体のゴブリンの邪魔が入りそうになったけどリューネがうまく牽制してくれている。


「すまない、リューネ。右は引き受ける!」

「了解!」


 戦いを重ねて僕らの息も合ってきた。

 互いを思いやる動きができているぞ。

 それほど時間をかけず、僕らは残りのゴブリンも討伐することができた。


「ふぅ、これで終わりだね」

「セドリック、祭壇の下に箱があるわ。あなたの目的はあれでしょう?」


【試練の入り口】では二枚のヴィレクト金貨と革のブーツが入っていた。

 ここではどうなのだろう?


「これ、ヴィレクト金貨じゃないな……」


 入っていたのはやはり金貨だったけど、レイマール金貨だった。

 レイマール金貨は今から50年前くらいに鋳造ちゅうぞうされた普通の金貨である。


「すごいじゃない! これひとつで30万グロンの価値はあるわ」


 いいお小遣いにはなると思うけど、求めていたのはそれじゃないんだよなあ……。

 だけど、これはこれでよかったか。


「ちょうど二枚あることだし、これはふたりで山分けしよう」

「え……、受け取れないわ。あなたが持っていて」

「そんなこと言うなよ。初デートの記念にしようよ」

「は、初デート!?」


 祭壇の炎に頬を赤く染めるリューネの顔が浮かんだ。

 いまさら照れてどうする?

 遠乗りに誘ってきたのはリューネの方なのだ。

 まだためらっているリューネの手をとって、僕はレイマール金貨をねじ込んだ。


「セドリック、実際のあなたってずいぶん印象が違うのね……」

「そう? もっとボンクラなお坊ちゃまだと思っていた?」

「悪いけど、そのとおりよ」


 まあ、ボンクラ坊ちゃんというのはまとた評価だと思う。

 僕は自分を過大評価しないのだ!


「セドリック様ぁあああ!」

「リューネ様ぁ! ご無事ですかぁっ!?」


 入り口の方から護衛たちの声が聞こえる。

 かなり焦っているようだ。

 そろそろ冒険の時間も終わりだな。


「セドリック、きょうは楽しかったわ。こんなデートなら大歓迎。また誘ってくれる?」

「こんな場所はなかなかないと思うけどね。でも、見つかったらまた声をかけるよ」

「絶対よ。すっごく楽しみ!」


 笑顔を見せるリューネはとても自然体だった。


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