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現実世界でも?

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 馬を走らせる僕のすぐ後ろからリューネが迫ってきた。


「突然どうしたの?」

「気になることがあるんだ。悪いけど、ちょっと調べさせてくれ」


 僕がいきなり動き出したので、護衛たちはまだ馬にすらまたがっていない。

 でも、ここら辺に野盗はいないし、問題はないだろう。

 郊外に出かけるということで僕もリューネも剣だけは持ってきている。

 自分の身くらいは守れるはずだ。

 それよりもいまは洞窟の存在が気になる。


 馬を巡らせて丘の反対側までやってくると、見覚えのある切り立った斜面が目に入った。

【黎明の神器】の中では土と岩がむき出しだったけど、ここでは長いつる草が生えている。

 でも、崖の形状はそのままだ。


「ここだ……」

「なんなの?」

「ちょっと待って」


 馬をつなぐと、僕はつる草をかき分けて目印である岩の突起を探した。


「あった! ほら、この岩だよ!」

「その岩がなんだというの?」

「見ていてね」


 僕は岩を掴むとグイッと左にひねった。

 ガコンと音がして【黎明の神器】の中と同じように大岩がスライドしていく。


「くくく、やはりな……。この世界にも【試練の入り口】は存在しているんだ」

「ちょっと、これはなに!? 説明して!」


 う~ん、リューネがうるさいな……。

 説明するにしたって【黎明の神器】のことは伏せておきたい。


「えーと……、この辺りに古代の遺跡があるのでは、っていう文献を読んだことがあるんだ。で、土地の形状が似ていたもんだから……」

「ふ~ん……」


 もしこれが【試練の入り口】と同じものなら、中にはお宝があるはずである。

 革のブーツなんて要らないけどヴィレクト金貨は手に入れておきたい。


「僕は中を調査するから、君はここで待っていてくれ」

「私もいくわ」

「だめだ。ゴブリンがいるから危険なんだよ」

「どうして知ってるの?」

「…………」


 合理的な説明がとっさに思いつかない。


「え~と……、文献にあったんだ。ここは五体の小鬼が守ってる、って」

「だったら、なおさら一緒にいかないと。これでも私の武芸の腕は確かなのよ」


 リューネは眼を爛々《らんらん》と燃やしている。

 洞窟を調査したくてうずうずしているようだ。

 父親であるダヴィッド・エンゲルス殿はリューネに武芸を叩きこんだと言っていたもんな。

 だがそんな彼女も深窓の令嬢であれば、おそらく実戦は未経験。

 魔物なんて、田舎に行かない限り遭遇することはない。

 たぶん、本物の魔物と対戦したくて仕方がないのだろう。


「だけど、君になにかあったらどうするんだ?」

「私が勝手についていくのよ。あなたやバッカランド家に迷惑はかけないわ」

「そうは言ってもなあ……」

「お願いだから連れていってよ。すぐ近くに魔物がいるにもかかわらず、対戦しなかったなんて知れたらお父さまに叱られるわ!」


 エンゲルス殿は武闘派だから、本当にそうなりそうだ。


「リューネさん、戦闘に自信はある?」

「父上に言わせれば、いますぐ戦場に連れて行っても役に立つそうよ」


 だとしたら僕より腕前は上か……。


「わかったよ。ただし、奥の祭壇にあるものは僕がいただく。それは約束してもらえるかな?」


 謎が残るヴィレクト金貨だけは自分のものにしたい。

 もっとも、こちらの世界にもあるかはわからないけどね。


「私は自分の腕を試したいだけ。遺跡の財宝になんて興味はないわ」


 話がまとまったので僕らは剣を抜いて洞窟へと踏み入った。



 洞窟の中はやはりエビダスと同じだった。

 壁には松明が掲げられており、薄暗いながら視界は保たれている。

 チュートリアルのときは、この先の焚火のところで二体のゴブリンと遭遇した。

 今回はどうなるのだろう?

 そういえば、僕は回復アイテムを持っていなかったな。

 チュートリアルのときはポイッチュがあったけど、いまはなにもないぞ。

 はたして無傷で討伐することができるのだろうか?

【黎明の神器】の中なら初級の治癒魔法が使えるんだけどな……。

 考えてみれば、本当にゴブリンを討伐できるかどうかも分からなくなってきた。

 仮想世界ではレベル5になって、すっかり強くなった気でいたけど、現実の僕は以前のままだ。

 仮想世界にハマっている分だけ、ここ数日はむしろ運動不足でさえある。

 くっそぉ、火炎剣が使えればゴブリンメイジだって一撃で倒せるんだけどなぁ……。

 僕は剣の柄を握って【黎明の神器】の中にいたときのように魔力を送り込んでみた。


 ブォンッ!


「うぇっ!? で、できた……」


 なんと、僕の剣が炎をまとっているではないか。

 ひょっとして【黎明の神器】の中でレベルが上がったのと同時に、現実の僕の戦闘力も上がっているのか?

 だとすれば……。


「セドリック、その技は!?」

「シッ!」


 僕は口に指をあててリューネを落ち着かせた。

 焚火の位置は近い。

 こちらの接近をゴブリンたちに気づかせてはならない。

 僕は声を潜めて説明する。


「火炎剣という魔法剣士の技だよ」

「そんなの見たことがないわ」


 僕だって【黎明の神器】を使うまでは知らなかった。


「そろそろゴブリンがいるはずだ。相手が格下だからといって気を抜かないように。これは実戦なんだからね」

「ええ……」


 実戦という言葉にリューネの頬がピクリと動いた。

 緊張しているようだ。

 だが、それ以上にリューネはワクワクを隠しきれていない。

 やれやれ、とんだご令嬢である。


「僕が先導して案内する。リューネも周囲に気を配ってくれ」

「わかったわ」


 臨戦態勢のまま、僕らはゆっくりと奥へ進んだ。


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