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黎明の神器

新作です。

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 もっと小さいころは僕にも夢があった。

 一人前の男になったら屋敷を抜け出して、世界を旅してまわろうと考えていたのだ。

 冒険、ロマンス、それらは幼いころに聞いたおとぎ話の再現だ。

 いや、それ以上のものを僕は求めていた。

 幼すぎたし、世間を知らなかったのだろう。

 しょせん僕はお坊ちゃま、侯爵家の次男坊だ。

 貴族としての暮らしの中でいつしか、子どものころの夢は消えてしまっていた。

 でも、本当に夢はなくなった?

 そんなことはないと思う。

 夢は死なず、ずっと心の奥底で燻り続けていたんだ。

 ある朝のこと、僕は倉庫で妙なものを見つけた。

 消えかけた炎を再び燃え上がらせるアイテムだ。

 それは【黎明れいめい神器じんぎ】と呼ばれる秘宝だった。



 家庭教師の先生が帰ると、僕は自分の部屋に鍵をかけた。

 ついに例の品をじっくりと検分する時間である。


「さて……」


 ベッドの下に隠しておいた重い金属製の箱を引っ張り出し、その前にあぐらをかいて座る。

 屋敷の倉庫で見つけたこれが朝からずっと気になっていたのだ。

 関連のありそうな、ひいおじい様の日記も見つけた。

 いまこそこれの秘密を解き明かしてやるのだ。


「エッチな本ですか?」

「違うって。これは今朝がた倉庫で見つけた……うわっ!?」


 不意に声をかけられて卒倒した。

 誰もいないと思っていた自室にメイドのノエルがいたのだ。


「どうしてここに?」

「ベッドメイキングとお掃除をしていました」


 ノエルは僕専属のメイドである。

 大きな瞳に水色の豊かな髪。

 僕と同じ十六歳で、最近になって体つきがふっくらしてきた。

 僕の困惑を無視してノエルは質問を重ねる。


「エッチな本でないなら、どうして隠していたんです?」

「倉庫で見つけて、こっそり持ってきたんだよ。メドナ兄さんには言うなよ」

「私が告げ口するとでも?」

「そうは思わないけどさ……」


 ノエルが僕のお付きになって一年以上が過ぎた。

 いつだって彼女は献身的で、僕を裏切ったことなんて一度もない。

 だから信じているのだが、兄さんが怖いのも事実だ。

 バッカランド侯爵家はのんきな父上ではなく、生真面目なメドナ兄さんが切り盛りしている。

 メドナ兄さんは十八歳も年上なので逆らいようがないのだ。


「メドナ様に見つかったらまずいものなんですか?」


 背中越しにノエルが箱をのぞき込んできた。

 胸の先端が僕の肩に触れ心地よい重みも伝えてくる。

 あいかわらず無防備だなぁ……。

 鼻の下がどこまでも伸びてしまいそうになるのをこらえて、僕は平静を装った。


「見てみろよ。ここにメモが貼ってあるだろう」


 箱の天井には古びた羊皮紙に飾り文字が書きつけられている。


【黎明の神機】


「セドリック様、これはなんと読むのですか?」

「【れいめいのじんぎ】と読むようだね。ひいお爺さまの日記があるんだ。ここを見て」


 日記を見ようとしたノエルの胸の重みが増し、髪の香りが鼻先をくすぐる。

 昇天してしまいそうな気持をこらえて、僕はページをめくった。


「うん、ここだ。これによると【黎明の神器】とは神々がこの世界を創造するためにつくったアイテムなんだって」

「そんなすごいものなのですか……」


 本物の世界を創造する前に、神々はまずこれで仮装世界を作ったそうだ。

いうなれば模擬的な実験だったらしい。


「この箱の中には、神々が最初につくった仮想世界を体験する装置が入っているんだって」

「それを使えば、誰もが仮想世界を体験できるのですか?」

「それがそうでもないらしい」


ひいお爺さまの日記には、【黎明の神器】はバッカランド家の家宝とある。

ところが、これを使えるのは一族の中でも先祖の血を濃く受け継ぐ者だけらしい。


「この日記が書かれた時点で、二百年も【黎明の神器】は動いていないって書いてあるんだ」

「壊れてしまったのでしょうか?」

「それか、起動できるほど濃い血を持つ者が現れなかったかだな」


 だからこそ長い間、倉庫の奥に放置されていたのだろう。

 そして、いつしか存在を忘れられてしまったに違いない。

 僕が見つけたときは分厚い埃をかぶっていたほどだった。


 ムニュ!

 大きな胸を押し付けてノエルが急かす。


「セドリック様、蓋を開けてくださいな。【黎明の神器】を見てみましょうよ!」

「そ、そうだな」


 ノエルをそのままにして、僕は箱のふたに手をかけた。


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