夢想店
気がついたら、知らない場所にいた
辺りを見回してみると、半透明な木々が生い茂っている
桜のような綺麗な花を咲かせる木、虹色に光る紫陽花のようなもの、水もないのに見える虹
どこまで見ても幻想的だ
木々というか、もはや森に近いそれは中央に一本の道を作って、目の前に佇んでいる
入ってみたい
そう思ってしまった
体が吸い取られるように森に引き込まれていく
森は、外から見た時よりも幻想的で、上を見あげてみると何故か空は赤紫色をしている
さっきまでは雲ひとつない快晴だったのに
不思議と、足を止めることはなかった
見た事のない景色に楽しみとさえ思う
ふと、急に視界が開けた
さっきまで出口のなかった森にいきなり出口が現れた
その先は野原で、何かに例えようともできない花が一面咲いている
空は黄色、雲は水色
別の色だったらもっといい感想を持っているだろう
相性の良い組み合わせだが、この色は好きではない
この組み合わせが好きではないのだ
奥に小屋のようなものがみえる
ゲームでセーブできそうなというか多分できる小屋
というか、ゲームで何百回も入った
草花がさけていき、道のようなものができた
小屋に行けと言っているのか一歩一歩進むごとに道は小屋のほうへ伸びていく
不思議なものだ
なにもやってないのに道が出てくる
気がつくと、すでに小屋の前
見たことのない装飾のついた奇妙なドア
入っていいのだろうか
小屋には人らしい気配はない
辺りを見回してもだれもいないが、森、どこいったんだ?
さっきまで野原にいて、その後ろは森だったのになにもない
なんで、これじゃあ帰れないじゃん
かすかな焦りがじんわりと心の中に宿る
きっと、小屋の中に入るしかないのだろう
それ以外に帰る道など考えられなかった
ふと、視界の切れ端になにかが見えるのに気がついた
そちらの方を見てみると半透明で異質な木材?がある
きっと森で見たものと一緒だろう
それには何かが書かれているようで近づいて見てみると
『ようこそお越しくださいました。
ここは、貴方様が起きるまでの暇つぶし
夢をお見せする場所と言った方が簡単でしょう。
ただ、普通の夢とは違います。
とても、とても特殊な夢をお見せしましょう……。』
……意味がわからない
ここが夢の世界じゃなくて?
ありえない……半透明な木も、異質な空の色も、虹色に光る紫陽花も、どれも地球にはないもの
これを夢と呼ばすになんというのだろう
焦りよりも大きく不安、警戒が大きくなる
「夢ではないですが、現実でもございません」
いきなり声が聞こえた
慌てて声がする方を振り返る
銀色の長髪にこの場所には合わないような深紅のドレスを着こなしている
目は髪に隠れて見えない
微かな隙間からはエメラルド色の目が見える
一体誰だ
急に近づいてきて
「……とりあえず、中に入って説明しましょう」
謎の人物は颯爽と小屋の中に入っていく
とりあえず入ってはみたが、中は思ったよりも広かった
思っていた小屋には程遠く中はかなり洋風な作りをしている
赤い絨毯に大理石の机、外見からは想像ができないほど、豪邸仕様であった
謎の人物は慣れた手つきで石造りの暖炉に火を灯す
不思議なのが、謎の人からは全く音が聞こえない
足音がしないからさっき気づかずに接近されたんだ
謎の人物はこちらに向き直り椅子をすすめてきた
誘われるがまま座るがどうも落ち着かない
謎の人物は静かに口を開いた
「先ほど説明した通り、ここは夢の世界でも現実でもありません。ここはその狭間の世界です。夢の世界と現実を自由に移動することができます。そして、様々な世界を繋げることができるのです。」
「じゃあ、現実の世界に帰してください。」
「それは難しいです。貴方はまだ起きることを望んでいません。」
起きることを望んでいない?
いや、もうすでに帰りたいんだけど……
謎の人物と思っていることが噛み合わない
というか、この人誰……?
名前教えてもらってない
「申し遅れました。この世界の案内人、夢想店の店主の夢霧異 紡と申します。」
心も読むように名を名乗った謎の人物は、紡というみたいだ
「看板は見てくれたでしょう?その名の通り夢をお見せします。ですが、少し変わった夢をお見せするのです。」
「変わった夢……?」
「はい。」
変わった夢……
そこら中虫だらけとか……?色々はみ出てる世界とか……?
「一度、見てもらった方がわかりやすいかと思います。」
見てもらった方がわかりやすい……
「どういうこと……。」
「別に、警戒する必要はありません。ただ、他人のーーを見るだけですから。」
他人の……?
声が聞こえなかった
なんだかノイズがかかる感じでそこだけ……
「面白いお話があるんです。ある子どもの話なんですが、その少年は村に住んでるんですが、その村はとても奇妙な村なんです。」
ちょっなに勝手に話進めて!
こっちついていけてないんだけど……!
紡は機械質な声で淡々と説明をする
「蟲、それは生命体の名前です。ですが、この村で蟲は別の意味を指すものです。少年はその真実に気づいてしまったのです。」
「えぇ……」
戸惑いを隠せずにいるが、
「それでは行ってらっしゃいませ。」
「ちょっと!!」
そのまま、視界が暗くなっていくその感じる
最後、紡が何か言っている気がした
聞くには意識が足らなすぎた
謎の力に抗うこともできず、ばたっと倒れる音が聞こえた