【9】隠者
【隠者のキーワード】
正位置のキーワード
理想の追求/悟り/ひたむきさ/追求/自己発見/人道的
逆位置のキーワード
思い出/没頭し過ぎ/卑屈/寂しさ/目を逸らす/言い訳
お爺ちゃんはダチョウを連想するような薄さではあるがハゲではありません。
隠居したツヴァイ家元当主は蒸し暑い時期なのに何処か寒々とした内装の部屋で安楽椅子に身を預け今後について思案していた。
安楽椅子が揺れる度に色んな意味で薄い白髪の混じった銀髪が申し訳なさそうにほわほわ揺れる。
娘を神の御下に送ってから急に老けた気がする。
広くなった額に手を当てた。
暗い部屋にランプの灯り一つだけ、ベルを鳴らせば誰か来てくれるだろうが考え事をしたいので人払いしてある。
家令が銀月茶と満月の様な糖蜜パイを用意してくれたがまだ手をつける気分にならない。
銀月茶を入れたグラスの中で氷がカランと音を立てた。
弔った娘に与えていた爵位が乗っ取りされている事が発覚し私の所に戻ってくるようだ。
真面目そうな青年だと思って娘婿に迎えたがこの顛末とは、どうやら私は商才があっても人を見る才は無かったようだな。
ツヴァイ商会で取扱っていた商品の倉庫在庫を確認し阿呆共が食い潰した資産整理をする羽目になった。
家令が入れてくれた銀月茶も倉庫在庫の一つだ。
氷で冷やしても色味が美しくこれなら上手くやれば販路はなんとかなりそうだ。
茶菓子に成りそうな物と合わせたいな。
日持ちしそうな物は蓮の実を砂糖漬けにしたものが良いか…
本来は孫のアァルが家督を継ぐはずだったがあの阿呆婿が愛人を引き入れる際に出奔したと聞いた。
一言相談してくれれば手を回したのに…いや、第二王子の縁談ごと嫌になって切り捨てたのか?
もしそうなら我が孫は不敬とバレぬよう上手いこと対処したのではないか?
鼻で笑ってしまった。
誰も見ていないから良いだろう。
決まった話ではない、あくまで妄想だ。
今は孫が帰る気になった時に困らぬようにしておかないといかんな。
ふと、商会の在庫目録を捲る手が止まる。
…薄荷のキャンディスを商会で取扱っていたのか。
死んだ娘が好きだったがアァルも好むだろうか。
急に孫の顔が見たくなった、面談依頼したら会ってくれるだろうか。
茶葉と合わせてアァルへ贈ってみよう。
深く皺が刻まれた顔は先ほどまでの商人の顔から孫を思う祖父の顔に変わっていた。
大アルカナの中で隠者は一桁最後のカードです。
0〜8までに受け取ったメッセージを整理し次のステージに向かう準備をするためのカードともいえます。
ご隠居はまさにぴったりなポジション。
次回、【10】運命の輪
それは逃れられない運命。
正位置ならこれ以上ない幸運、逆位置は…
第二王子との縁談を王命で結ばれる事になった宰相娘の話。