【8】力
【力のキーワード】
正位置のキーワード
誠実さ/真心/信じる心/包み込む/諦めない/協力
逆位置のキーワード
現実逃避/断念/媚び/疲労困憊/気弱/休養が必要
第一王子の婚約者であるアハトは王宮内の勉強部屋から広場で行われている処刑の喧騒に眉を顰めた。
「殿方は血の気が多いのかしらね。」
罪が罰せられる事は理解しているつもりだが罪の内容によっては血を流すやり方以外の償う方法が何かあるのでは無いかと思っている。
今回のツヴァイ家騒動に関しては亡くなったツヴァイ夫人は他殺ではないことが死体を検分した調べ直しで分かっている事や汚職などの金銭に絡む罪状から労働刑の方が妥当な気がするが殿方は一つのショーのようにして民衆の気を引きたいようだ。
空気の入れ替えのためには窓を開けていた方が良いのだろうが耳を塞ぎたくなる罵声は今は聞きたくない気分なので窓を閉めた。
「窓を閉めて暑くないのかい?アハト。」
振り返ると第二王子と共に処刑場に出かけたと思っていた第一王子が本を数冊抱えて立っていた。
「殿下は広場に御出にならなかったのですか?」
私は笑顔で複雑な胸中を誤魔化した。
目線を上げると殿下は俯き苦笑していた。
「私はあの様な催しは好かない。罪人を処刑する事の意味合いは理解しているつもりなんだけれどね。」
軽蔑するかい?と言うように首を傾げてみせる。
私は首を振った。
「セプテム殿下はアァルさんと歩む予定だった未来が潰えてしまいました。怒りの矛先を何処にするべきか悩んでいらっしゃるのでしょう。」
たしかアァルさんの義妹は王都から追放され移動の馬車が事故を起こして生死不明と事故の確認を行なった憲兵から聞いた。
生きていたとしても護衛なしに森を抜けるのは不可能らしいので死んだことになっているらしい。
セプテム殿下から感じる怒りの根元が何かまでは分からない、ただ怒りを誰にぶつけて良いか分からないまま発散させているようにも見える。
上に立つ者として看過できない。
「だから法を学ぶのか?」
殿下に指摘されてハッとした。
今回の罪状を過去の判例に当てはめて考えて居たのだが資料を散らかしたままだった。
今度は私が苦笑いする番だわ。
「判例を学んでおきたいと思いました。何を正しいと思うかはそれぞれの胸の内にしか答えがないきがしますが。」
「君らしい考えだ。」
焦ってはいけない。
「まだ、分からない事が多すぎて。」
殿下と目があった、私は上手く笑えているかしら。
「共に学べば良い。」
殿下の言葉は少ないが真っ直ぐ心に響いた。
この方とならいつか答えが見つかるかもしれない。
窓を閉め切っているのに外の歓声が大きくなった。
焦ってはいけない、一つずつ変えていくのだ。
アハトの語源はドイツ語の8(acht)から。
内側からゆっくり侵食していく力の物語。
次回
【9】隠者
隠居したツヴァイ家元当主は今後をどうするか思案していた。