罠と策略、交渉の崩壊
「……迎撃準備を始めるぞ」
俺はそう言いながら、銃を手に取った。
だが、すぐには動かない。
相手の目的を正確に見極める必要がある。
無闇に攻撃すれば、貴族派に「交渉を壊したのは遼の側だ」と言い訳を与えることになりかねない。
「まずは動きを観察する」
俺はモニターに映る影の動きをじっくりと見つめた。
敵の人数は5人。すべて軽装で、動きに無駄がない。
明らかに貴族派の騎士団とは違う連中だ。
モニターの映像を拡大し、敵の装備を確認する。
黒ずくめの軽装に、腰には短剣と……妙な細工の施されたワイヤーが巻かれている。
「……ワイヤー?それに、ナイフの刃が普通のものじゃないな」
「見ろ、刃先に細工が施されている。たぶん毒か何かを仕込んでるな」
ガイルが険しい顔をするが、俺は呆れたように肩をすくめた。
「……こんな装備で突破するつもりか?」
「は?」
ガイルが俺を見返す。
俺はモニターに映る帝国工作員たちを眺めながら、思わず笑ってしまった。
「いやさ、確かに奴らは帝国の工作員らしく動きは洗練されてる。
でも、こんな装備で俺の拠点をどうにかできると本気で思ってるのか?」
ガイルは呆れたように息をつく。
「……お前、本当に楽しそうだな」
「ああ、そりゃ楽しみだろ?」
俺は司令室の椅子に深く座り直し、モニターを切り替える。
帝国の連中が"侵入ポイント"として狙っている北側の壁に、すでに自動防衛システムが作動しているのが映し出された。
「さて、ショーの始まりだ」
――その瞬間、工作員の一人が仕掛けたワイヤーに触れた。
「ピピッ――!」
ギュンッ!
罠が作動し、瞬時に高圧ワイヤーが弾けるように展開。
工作員の手元から工具が吹き飛び、驚いたように身を引いた。
次の瞬間――地面から伸びた機械アームが、彼の足を絡め取る。
「ッ――!?」
工作員が静かに叫びを飲み込むのが見えた。
必死でナイフを抜こうとするが、ワイヤー拘束システムはそれすら許さない。
ガイルが腕を組みながらモニターを見つめる。
「……なんだこの罠の数は」
「お前の国のやり方に合わせて、"最先端"の設備を揃えたまでさ」
俺はモニターを切り替え、他の侵入者たちの様子を見る。
一人は壁を登ろうとしていたが、壁に仕込んだ圧縮空気噴射装置が作動し、衝撃で吹き飛ばされる。
もう一人は、仕掛けたワイヤーを起動させる前に、微細なセンサーが反応し――
パシッ!
ナノワイヤーが逆に工作員の手を絡め取った。
「……いいぞ、もっとやれ」
俺は画面を眺めながら、優雅にコーヒーを啜った。
「……おい、司令官としての威厳とかはないのか?」
「ないな。だってこいつら、何もしなくても勝手に自滅してるじゃん」
俺はガイルにモニターを指さした。
すでに工作員の半数が、侵入を試みる前に罠に絡め取られていた。
「……手も足も出ねぇな」
「そりゃそうだろ。俺の拠点が帝国の工作員ごときに好き勝手されるわけがない」
ガイルが苦笑する。
「お前、本当に楽しんでるな」
「まあな。こんな茶番に付き合わされてるんだから、せめて楽しませてもらわないと」
俺は悠々と椅子に座りながら、モニターを眺め続けた。
「……さあ、お披露目といこうか」
俺は司令室の椅子に深く腰掛け、モニターに視線を向けた。
映し出されるのは、罠に絡め取られた帝国の工作員たち。
ワイヤーで拘束され、身動きの取れない者。
足を絡め取られ、逆さ吊りになったまま微動だにできない者。
壁を登ろうとした瞬間に圧縮空気で吹き飛ばされ、茂みに転がる者。
誰一人として拠点内部への侵入すら果たせず、あえなく捕縛されていた。
俺はコーヒーを一口啜る。
「ははっ……まるで虫取り網だな」
ガイルが腕を組みながらモニターを見つめる。
「まさか、帝国の精鋭ですらこうも無力とはな……」
「それほど、俺の拠点が"最強"ってことだろ?」
俺は涼しい顔で言ってのけたが、内心では胸の奥が少し高鳴っていた。
――本当にゲームと同じ性能なのか?
この世界に来てから、俺はまだ"実戦"で拠点の防衛力を試したことがなかった。
だからこそ、今回の侵入者たちは"最初の実験台"でもあったわけだ。
もちろん、王国軍が来る前に一通りの防衛システムの動作確認はしていた。
監視システム、迎撃用タレット、侵入者探知センサー、衝撃吸収トラップ――
どれも、ゲーム内の仕様どおりに"機能している"ことは確認済みだった。
だが、それでも実戦は別だ。
敵がどんな手段で侵入を試みるのか、どこまで防衛ラインが機能するのか、
そして、"ゲーム内最強"だったこの拠点が、現実でも同じ力を発揮するのか――
「……ふっ」
自然と口元に笑みが浮かぶ。
結果は――完璧だった。
工作員たちは、一歩も侵入することなく捕縛され、
"俺の拠点は現実でも無敵である"ことを証明したのだ。
「いやぁ、これは予想以上の成果だな」
俺は満足げに頷きながら、モニターを切り替える。
「まさか、帝国の精鋭がこうも無様に敗北するとは……。
正直、もうちょっと頑張ってくれるかと思ったんだけどな」
ガイルは苦笑しながら肩をすくめた。
「まぁ、お前の拠点が強すぎただけだろ。
ここまで完璧に迎撃されたら、敵もやる気をなくすんじゃねえか?」
「だな」
俺は椅子に深くもたれ、改めて勝利を実感する。
貴族派の陣営では、明らかな動揺が広がっていた。
だが、彼らは騎士団を動かすことも、武器を手にすることもない。
それどころか、ラグナ・アストリアは涼しい顔で野営地の中央に座し、
何事もなかったかのようにワインを傾けていた。
「……ずいぶん落ち着いてるな」
ガイルがモニターを見ながら呟く。
俺も頷く。
「当然だ。ここで彼らが下手に動けば、"帝国と繋がっている"と自白するようなものだからな」
帝国の工作員が捕らえられた以上、貴族派が取り得る選択肢は限られている。
「さて、どうするつもりか……」
俺はモニターを眺めながら、興味深く彼らの出方を待った。
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