紙飛行機で飛ばした願いは
『自由になりたい。外に出たい。お願い、誰か助けて……』
無駄だと分かっている。
ここは魔物が蔓延る深淵の森に立つ塔。こんなところに来る人などいない。凄腕の冒険者だって避ける場所だ。
それでも、わずかな希望を捨てられなくて今日も想いを綴る。誰かに届くと信じて紙飛行機を折るのだ。
「お願いね」
祈りを込めて、鉄格子の隙間から紙飛行機を飛ばす。
この手紙を読んでくれる人はいるだろうか。
いつか外に出られるだろうか。
救いはあるだろうか。
***
孤児で路地裏暮らしだった私は、才能を見込まれ魔塔の魔導士に拾われた。これでまともな生活ができると喜んだが、新たな地獄が始まった。
最強の魔導士を生み出す。
そんな馬鹿げた思想に取り憑かれたあいつは、幾度も人体実験をおこなった。そして、壮絶な痛みと引き換えに、私は膨大な力を手に入れた。
そんな苦痛に満ちた10年もの日々は、ある日突然終わりを迎えた。あいつの存在は魔塔にとっても異端らしく、審問官の手によって呆気なく断罪されたのだ。
しかし、私が解放されることはなく、魔力封じの枷をはめられ塔に幽閉された。強大な力を持つ私が魔導士への恨みから、自分たちを攻撃することを恐れたのだ。
あれから2年、私は塔の中で生きている。
幸か不幸か、実験で普通の人間ではなくなっていたから、食事は摂らなくて平気だった。けれど、精神は限界に近づいていた。
魔法を使えない今、自力での脱出は困難。誰かに助けてもらうことでしか逃げられそうにない。でも────
「もう、無理かも」
必死に奮い立たせてきた心は不安で押し潰されそうになっていた。その時、世界の終わりを告げる大きな音が響いた。
***
魔塔の連中? まさか殺しに?
階段をのぼる足音が聞こえてくる。少しずつ大きくなっている。分かっているのに、どこにも逃げ場はなかった。
やがて、足音が扉の向こうで止まる。少しの静寂の後、ガァンッと扉が吹き飛んだ。
「きゃあぁっ!」
悲鳴とともに、ぎゅっと強く目を閉じる。嫌だ、怖い。死の恐怖が、絶望が、全身に襲いかかる。
しかし、何も起こらない。
いくら待てども、覚悟した痛みがやってこない。
どうして……?
恐る恐る目を開く。真っ白な何かが視界いっぱいに舞っていた。羽根のように見えたそれは、紙飛行機だった。
驚愕のあまり放心する私に声が届く。導かれるように顔を向けると、ひとりの青年が光のように笑っていた。
「助けに来たぞ」
願いは、届いたのだ。