ハーレムがほしい
「なあ、アフリカっていいよな」
のんびりと居間でテレビを見ながら、ついボソッと口に出た。
同じ部屋でコタツに入って、ぜんざいを食べていた千春と千秋が箸の手を止めて、俺のほうを向いてきた。
「はあ? 恭平、何言ってんの?」
「そうだそうだー、恭平ってば何言ってるのー?」
それぞれが憎まれ口をたたいて、またぜんざいを食べ始める。
「いやだってさ、アフリカって知ってるか? ほとんどの国で一夫多妻制なんだぞ! 日本じゃ一夫一妻制で、どんなにもてようが、嫁が1人しかもらえないんだぞ。そんな面白くないことはないじゃん。はぁ……ハーレムほしいなあ」
「あほらし……恭平ってば、何言ってるんだか」
千春は興味なさそうに、ぶつぶつと文句を言ってまたぜんざいを食べる。
……なんだかそのぜんざいを取り上げたくなってきた。
「ほーヘイってうあ、ひははへひほひも……」
お餅をびよーんと引っ張って口に含みながらもごもごと何かしゃべろうとする千秋。おいこら、全く何言ってるかわからないぞ。
「千秋、先に餅食ってからしゃべれ、待っててやるから」
「ふぁいふぁい……んぐんぐ。ぷはぁ……げぷう。あー、うまうまー。恭平、おかわりー」
お餅を飲み込むと、大きくげっぷをして、コタツにおいてある爪楊枝を手にとって歯をシーシーしている。親父くさいぞ、千秋。
千秋がおわんを差し出してきたので、なべからお餅とあんこをたっぷりと入れ、また千秋に渡した。
「恭平、ありがとー……あー、おいしー。やっぱり冬はコタツにぜんざいだよねー」
「で、さっきは結局千秋は何言おうとしてたんだ?」
「あ、そうそう。えっとねー。恭平ってば、今までひとりも彼女いたことないくせにー、ハーレムがほしいなんて何寝ぼけた事言ってるのさー? 寝言は寝て言えー」
うるさい、いつもいつも俺に付きまとって邪魔しているのは千春と千秋じゃんか。
「千秋、ぜんざい没収。お前にはこれ以上食わさん」
お餅を食べようとした瞬間に、千秋からおわんを取り上げた。
「ああ! わたしのぜんざいー! 恭平のばかー! あ、食べないで食べないでー!」
ふむ……それはいい考えだ。食べる気はなかったけど、食べて千秋に仕返しが出来るのはいいかもしれない。
「ごめんなさいごめんなさい! 神様仏様恭平さまー! どうか私のぜんざいをー……あ、あ、あ……食べちゃった……私のぜんざい食べちゃった……」
「ああ、ぜんざいうまいなー。うん、うまいうまい」
「恭平、間接キスだねー」
「ぶふっ!? ごほっ、ごほっ……千秋、変な事言うなよ。いいよ、返すよ」
「おお、恭平の液体が入ったぜんざいを私に食べろなんて、恭平ってば大胆だねー」
ものすごい変な言い方をするな。この残ったぜんざいをどうすればいいかとても悩むじゃないか。
……考えるのもめんどうになってきたので、そのまま千秋にぜんざいを返す。
「わーい、恭平と間接キスー」
「言うな! 黙って食べなさい!」
「ふぁーひ、あつあつ……はふぅ」
お餅を一口ほおばるたびに千秋はほっぺがとろけたような至福の顔をする。たかだかお餅1個でここまで幸せになってくれるとは、いいやつだ。
「はあ……それにしてもハーレムっていいよなあ……」
「恭平ってばまだ言ってるよ。だいたいさ。恭平、これだけかわいい幼馴染が目の前に2人もいるのに、これ以上何を求めるって言うの?」
「そうだそうだー」
「千春、千秋、自分で自分のことをかわいいなんていうな」
というか、お前らとは幼馴染ではない気がするんだけど。
「うるさい。かわいいものをかわいいって言って何が悪い。千秋、私たちってかわいいよねー」
「うんうん、私たちってかわいいよねー」
「ほらー、恭平は私のことどう思うのよ?」
確かに千春も千秋もかわいいと思うけど……。
「けどな、俺は17歳だ。千春、何歳だ」
「レディーに年齢聞くなんて失礼だよ、恭平」
「いいから言えよ。大体、レディーというほどの年齢でもないだろ」
「恭平ってば、ひどいんだーひどいんだー」
「いいから言えよ。ほら千春」
「10歳だよ。それがどうかしたの?」
「はい、千秋は?」
「8さーい! 将来の夢は恭平のお嫁さーん」
そこまで聞いてない。そんなことまで言わなくていい。
「千秋、俺はロリコンじゃないから却下。俺が千春や千秋と付き合ってたら俺は社会で生きていけなくなる。そしてそんなちびっ子2人がいても、全然ハーレムな気分になれない」
「なんでー? 私のお父さんとお母さんは40歳と31歳だよ? 何も問題ないじゃんかー」
確かにいるよ、そういう年の差カップルは。でもそれはもっとそれぞれが大きくなってからだろ。
「ああ、じゃあ後10年後な。せめて高校卒業してから付き合おうな」
「ええ? そんなに待たないといけないのー? 千春姉、そんなに待てないよねー」
「え、えっと、別に私は別に……えとね、別に……きょ、恭平なんてどうでも」
どもるな、千春。なんかこっちまで気恥ずかしくなってくるから。
「だから、恭平。今すぐ私たち2人と付き合おうよー。お互いの液体を飲みあった中なんだからー」
「やめい! なんかその言い方は卑猥すぎる!」
ただ単にぜんざいを食べただけだろうが。そんな言い方をしたら、なべを食べたら全員が間接キスになっちまうだろうが。
「そういや千春、千秋。日本じゃ一夫一妻制だから、2人とは付き合えないぞ。どちらか1人としか結婚できないし」
「ええ!? そんなの駄目だよー! 私たち2人と結婚するって約束したじゃんかー!」
最初に説明したと思うんだけどな。というか、結婚するなんて約束した覚えはないぞ。
「それじゃあ将来は、海外に移住だね、恭平! 千春姉!」
「いや、え、えっとね、だ、だから私に振らないでね。恭平も、き、気にしないでね」
だから千春、気恥ずかしいから、どもりながら言うのはやめい。
「じゃあ海外に移住して! 千春と千秋と、それとたくさんの女をはべらせて、絶対にハーレムをつく……いたっ、今蹴ったのどっちだ!?」
コタツに入ってるからどっちが蹴ったかわからない。2人の顔を見ても、2人そろって知らん顔。くそっ、どっちだ。
「駄目なの! 恭平は私と千春姉以外と結婚しちゃ絶対に駄目ー! 寝言は寝ても言うなー!」
なんか8才の女の子に怒られる自分って何なんだろう……将来仮に結婚しても、尻にしかれる様子が目に見えてしまう。
今でもイスラム国家、アフリカの国々では一夫多妻制の国は多数あるそうです。
ちなみに、どこかの国では8歳の女の子と結婚することも可能なのだとか。