デートのその前に
持つべきものは頼りになる妹……かもしれない。
愛音は流行りに疎くオシャレがよく分からない。だから、同じ男性の大知に意見を求めようと思っていた。遠い昔に愛音を好きだったことは知っているが、まさか放心してしまうなんて思わなかったのだ。
凛はませているため、高校生が読む雑誌を買っている。
「お姉ちゃんは色白で細いから、パステルカラーのワンピースに、リボンベルトが付いてる服が似合うよ!」
「そう?」
クローゼットから持って来た服を広げて、大きな姿見の前で服を合わせてみる。
「うん! あとね……メイクするんでしょ?」
「メイク?」
「……まさか、メイクしないでデート行くつもり?」
ありえないとでも言いたげな顔で凛は愛音を見る。
「……つもりだった、かも」
愛音は普段あまりメイクをしない。何となく苦手意識があり、手が出せずにいた。
「しょうがないなぁ……教えてあげる!」
凛は9歳だ。9歳ではあるが、オシャレに興味津々でメイクの勉強までしている。将来は美容家にでもなるつもりなのか?
「……ありがとう」
何で9歳の女の子がメイク用品を持っているのか……という謎はそのままにしておいて。
「はい。お姉ちゃん。まずは、スキンケアからだよ!」
凛が愛音にスキンケアからメイクの仕方まで教える。愛音は見様見真似で何とかメイクを終えた。
「……まあ、最初は誰でもこうなるよ」
凛に慰められたのも無理はない。舞台化性のような濃いメイクになってしまった。このような顔をさらしては、奏太は卒倒しそうだ。
「うぅ……」
(メイクって難しい……)
「練習あるのみだよ」
「そうだね。ありがとう凛。色々教えてくれて」
「デートまで日にちもあるから大丈夫だよ。頑張ってね!お姉ちゃん!」
「うん!」
「ところでお姉ちゃん」
「ん?」
「奏太兄ちゃんのことはどう思ってるの?」
「え……?」
「奏太兄ちゃんはお姉ちゃんのこと好きでしょ?」
「え? そうなの?」
「……気付いてないの?」
「……うん。奏ちゃんの気持ちは分からないけど、私は……好き……だと思う」
「良かったー!」
「え? 何で?」
「だって、2人共大好きだから」
「ずっと幼なじみとしてしか思ってなかったんだけど、この間の事故のショックで気付いたみたい」
(さすがに転生した話は出来ないからね)
「そっか。告白するの?」
「う〜ん……どうしようかな。このままでも良いかも」
「え? マジ? 奏太兄ちゃんモテるでしょ? 誰かに取られちゃうよ?」
「え?……あ。そっか」
凛に言われ実感する。奏ちゃんはイケメンだけじゃなく優しいし、穏やかで無害な性格をしている。今までだって沢山の女の子に告白されている。付き合っていないのは奏ちゃんが断っているからで……。もし、断らない子が現れたら……。
(彼女、出来ちゃうんだ……)
モヤモヤした黒い雲が心に広がって行く。
「取られたら嫌かも……告白……しようかな?」