季節外れの……
愛音と大知が覚醒して数カ月後。じっとりとした熱気が肌にまとわりつく不快感を感じる夏。セミが合唱している。
愛音が学校へ行くと、奏太は休みだった。
学校から帰り奏太の様子を見に行くと、母親が姿を見せた。身長がモデルのように高く、奏太に似た大きなパッチリ二重が特徴の美人な母親だ。
「こんにちは、あの、奏太君は?」
「愛音ちゃん、ありがとう。奏太ね……インフルエンザなのよ」
「……え? 季節外れの?」
「そう。だから、お見舞いはごめんなさいね」
「いいえ。分かりました」
「良くなったら来てあげてね。喜ぶから」
と、愛音に優しい瞳を向けた。
うなされている奏太の夢の中にも地底人の男性が現れた。
「おお……今度は君か」
「え? 誰ですか?」
奏太は突然の出来事に思わず警戒する。
「そう警戒せずとも良い。君も忘れているからな」
地底人の老人が宙にスクリーンを映し出し、奏太へ見せる。その映像は奏太の頭の中へ流れ込んで行く。
「そうか……あなたは先生ですね。お久しぶりです」
「ああ、久しぶりじゃな」
「俺……いや。俺達は志願して産まれてきた。愛音や大知さんも」
「そうじゃ」
「ピーターやウルリーカ達はどうしてるだろう?」
「彼らはまだじゃ。しかし、直に目覚めよう」
記憶を思い出したことで覚醒し、体の中からエネルギーが湧いてくる。
「俺……そうか! 俺はピアノで敵を攻撃するのか……」
「全て、思い出せたようじゃな」
「はい! 先生、ありがとうございます!」
「久しぶりに会えて嬉しかった。頑張るのじゃよ」
先生は奏太に向かって笑顔を向け、姿を消した。
奏太は目を覚ますと母親が様子を見に来た。控えめにドアをノックする音が聞こえ、中へ入ってくる。
「奏太? 目を覚ましたのね?」
「……うん」
「何か食べれそう?」
「水飲みたい。あと……アイス食べたい」
熱があり、真夏にインフルエンザ。暑すぎる。眉上まである前髪が汗でべっとりと額にくっついている。体中が痛い。
「分かったわ」
ふと目覚まし時計を見ると、夜6時半だった。スマホに目を移すと点滅している。ライモのメッセージが来ていた。
『奏ちゃん。インフルエンザだって? 大丈夫? ゆっくり寝てしっかり休んでね!』
奏太は熱でぼんやりする頭で返信する。
『愛音。ありがとう』
『起きたの? 起きてるの? 心配!』
『たまたま起きたんだよ』
『そっか』
『今、アイス食べる所なんだ』
『食べられるもの食べた方が良いからね』
『うん。愛音』
『何?』
『治ったら話したいことがある』
『話したいこと? 分かった。待ってるね!』
了解と愛音からスタンプが送られる。
『おやすみ』
奏太ももう一眠りしようと愛音にスタンプを送った。
母親が持ってきてくれたアイスを食べ終えた奏太は、薬を飲み眠りについた。
2日して熱も下がり、奏太は少しだけ……とピアノを弾く。すると、ライモにメッセージが届いた。
『奏ちゃん! ピアノなんて弾いて平気なの?』
『熱も下がったし大丈夫』
『大人しく寝てなさい!』
『大丈夫だよ』
『ぶり返しても知らないよ?』
『そんなに心配しなくても……』
『心配するよ!』
『なんで?』
『だって……そんなの……』
『そんなの?』
『とにかく、ちゃんと治してよね!』
『愛音……ありがとう』
奏太は愛音にありがとうのスタンプを送った。