ぬいぐるみ
愛音が産まれてから5年後のこと。
愛音には優しいお兄ちゃんと、家が隣の幼なじみの奏太がいた。愛音の家で愛音と奏太と大知で遊んでいたある日のこと。
「ねぇ、そうちゃん」
大知は奏太に近づいた。
「なぁに?」
「そのぬいぐるみ貸してくれる?」
「いいよ」
奏太が持っていたうさぎのぬいぐるみを大知が受け取ると、大知はそのぬいぐるみを川へすててしまう。
「おにいちゃん?」
その現場を愛音に見られ、後ろから声をかけられてしまった。
「あっ、愛音?」
「それそうちゃんの……ぬいぐるみ?」
「え? いや〜? なんのことかな?」
「ぜったい、そうだよ! なんで? おにいちゃん?」
愛音は川の方へ近づくが、大知に体を掴まれ止められる。川は浅いが子供には危険だ。
「愛音、危ないよ」
「だって、はやくしないとぬいぐるみが………!」
「愛音……」
愛音の泣きそうな顔に大知は耐えきれず、川へ入って行く。
「おにいちゃん?」
「待っててな、今取ってくるから」
「うん!」
大知もまだ子供だが、愛音よりは大きい。
大知の膝の辺りまで水位がある。川は穏やかに流れている。
川の流れが緩やかなお陰で大知は、すぐにぬいぐるみを見つけた。
「あった! 愛音、あったよ!」
「ありがとう、おにいちゃん!」
「でも、これ……このまま返せないな……僕のせいだけど……」
川から上がり、大知はびしょ濡れのぬいぐるみを持ち上げた。
「ママなら、なんとかしてくれるかな?」
「そうだね、帰ろう愛音」
その後。大知は母親に頼みぬいぐるみをキレイに洗って貰い、奏太に謝った。
「ごめんな、そうちゃん」
「ううん、いいよ。ぬいぐるみ、ほしかったんでしょ?」
「ぬいぐるみ……じゃなくて、愛音がそうちゃんに取られそうで嫌だったんだ。ごめんな」
「だいにいちゃんは、あいねちゃんがだいすきなんだね?」
「……うん」
「いっしょだね」
「え?」
「ぼくも、あいねちゃんだいすきだから」
大知は奏太の屈託のない笑顔に、奏太になら愛音を取られても良いかもしれないと感じた。
「うん、そうだね」
「よかった。なかなおりだね」
愛音が突然現れて嬉しそうに笑いながらかけ寄ってきた。
「愛音……」
「もう、ケンカしちゃダメだよ? おにいちゃん?」
「そうだね、愛音」
大知は愛音と奏太をそっと抱きしめた。