記憶
「そうじゃ! 皆、大事なことを忘れておった」
先生は皆へ向かって声をかける。
「産まれる前に記憶は消すことになっている。今ここで学んだこと、仲間のことも全てじゃ」
「どうしてですか?」
アンナが質問する。
「地球に産まれて環境に馴染む為じゃよ。10歳以上に成長してその時が来て覚醒すれば、記憶は戻るのじゃが」
「それまでは皆のことも忘れてしまうんですね?」
「そうじゃ」
「少し寂しいね」
アンナがレオに言う。
「まぁ、でも思い出すし」
「また皆に会いたいわ」
とウルリーカ。
「そうだね」
珍しくピーターが同意する。
場面が更に変わり、ジェイ達が産まれるための準備に入ることになった。
「それじゃあ、オレ達は一足先に行くね」
ジェイとウルリーカ、ピーターが皆へ向かって笑顔を向ける。ジェイは愛音の兄として産まれるからだ。ピーターとウルリーカも愛音達より先に産まれる。ジェイ達は、産まれる準備をするために記憶を消し、眠りにつく部屋へ移動する。
「いってらっしゃい」
「すぐに行くから」
アンナとレオは声をかける。
「うん。持ってる」
それから4年後。愛音達は産まれることになる。
(あ。戻るみたい……)
愛音の意識が体へ吸い込まれるように戻って行く。その時声が聞こえた。
『また会おう』
地底人の先生の声だった。
☆ ☆ ☆
「愛音!」
「んん……?」
(ママの声?)
うっすらと瞼を開けて体を起こそうとすると、あまりの頭の重さに枕に引き戻される。
「愛音、無理しないで」
「愛音、大丈夫か?」
「お姉ちゃん……大丈夫?」
「愛音……先生を呼ぼう」
パパが先生を呼んでくれる。
「パパ、ママ、お兄ちゃん、凛……ごめんね」
「愛音が謝ることないよ。オレこそごめん……」
「お兄ちゃん? お兄ちゃんは悪くないよ、車が突っ込んで来たんだから」
「そうよ、大知」
医師がやってきて診察をすると、ひとまず様子を見て一泊入院することになった。
「……お兄ちゃん」
「何だ?」
「話したいことがあるの……」
「ああ……うん。オレも」
あとはお兄ちゃんに任せるからと皆は帰り、大知と愛音は二人きりになった。愛音は体を起こしうつむくと、サラサラの焦げ茶のボブカットがかすかに揺れる。
「お兄ちゃん……私ね、夢を見たの。遠い……昔の夢」
「うん。オレも。愛音が事故にあいかけて頭の中に全て流れてきたんだ」
愛音と同じく焦げ茶色の髪にゆるいパーマのかかったショートヘアに、切れ長のクールな瞳が愛音を見つめる。クールなイケメンと言われるらしい。
「それじゃあ……」
ややタレ目の二重の瞳を見開く。
「うん。思い出したよ。アンナ」
「ジェイ……ずっと一緒に家族としていたのに、不思議ね。こうして生まれ変わって生きてる……」
「本当にね。それに、オレ達には特殊能力があるみたいだね。闇の宇宙種族と戦うための」
「うん、私は歌で闇を浄化する能力」
「オレは結界を張り守る能力と姿を敵から隠す能力」
「他の皆は思い出したのかな?」
「どうだろう? アイツは隣りに住んでるけど……」
「レオ……じゃなくて、奏ちゃんね。まだじゃないかな?」
「うん。何にしろこれから闇の宇宙種族と戦うことになるからな」
「そうだね……これから始まるんだね」
神妙に2人で話していると夕食の時間になったようだ。
「どうする? 泊まってこうか?」
兄は愛音に向かって心配そうな瞳を向ける。
「う〜ん……大丈夫だよ、お兄ちゃん、もう元気だし」
妹として愛音は兄に笑顔でピースをした。