地底世界の街
翌朝、皆は町へ繰り出した。
街は小高い丘があり、街を見下ろせようになっている。美しく澄んだ小川は海へ続いて行く。
「本当に、地上そっくり!」
「まさか、川や海まであるなんて……」
「それだけじゃないんじゃよ」
先生は楽しそうに話す。
「農業や漁業、地上にあるものはほとんどある。電気はないのじゃが、地底世界の魔法があるからの」
「車もあるんですか?」
気になった大知が先生に聞く。
「車もあるんじゃよ」
「どうやって動いてるんですか?」
「魔法じゃ」
「全部魔法……」
「さて……君たちをあそこへ連れて行くかの?」
「どこですか?」
「着いてのお楽しみじゃ」
先生は皆に向かってウインクをした。
先生の後に付いて行くと、地底世界のショッピングモールに着いた。ショッピングモールは食品、衣料、ガーデニングコーナー、映画館などがある。
ソフィアが目を輝かせて見せたのは、ガーデン付きのカフェだった。薔薇の香りが鼻をくすぐる。思わずソフィアは深呼吸した。
「なんて、素敵なの!」
「ソフィア、入る?」
ロナルドはソフィアに尋ねると、ソフィアはコクリとうなずいた。
「オレはあっちが見たい」
大知が向かったのは地底世界の家電売り場。
正確には電気はないから家電ではないが。
「お姉ちゃん、あっちに面白そうな物があるよ?」
「これこれ、皆。バラバラになって会えなくならないように、気をつけるんじゃよ!」
「はい!」
皆がそれぞれ返事をして、思い思いにモールの中を歩き回った。
ロナルドとソフィアは2人で地底世界の飲み物を注文する。カフェの中は数人の客がくつろいでいた。
「この世界にはお金がないなんて、びっくりしたね」
「ええ、地上とは全然違うもの」
「メニューも何がなんだか分からないけど、何となく地上の物と似てるからね」
ソフィアはハーブティー。ロナルドはコーヒーのような飲み物を飲んでいた。
「ソフィア」
「何?」
「あのさ……今まで色々と支えてくれてありがとう」
ロナルドは真剣な眼差しで、何の前触れもなく告げた。
「どうしたの? 急に」
「うん。お礼が言いたくてさ」
ロナルドは何故かそわそわしているようだ。
「ロナルド? どうしたの?」
ソフィアは心配になり、ロナルドの顔を覗き込んだ。
「あ、いや……あのさ」
ロナルドの顔は茹でダコのように真っ赤に染まって行く。
「こんな時になんだけどさ。僕……ソフィアが好きなんだ」
「え? でも……愛音は?」
「もう友達にしか思ってない」
「ロナルド……」
「本当に、こんな戦いの真っ只中に言うなんておかしいかもしれないけど、こんな時だから、何があるか分からないから伝えたかったんだ」
「ありがとう、ロナルド」
ソフィアの瞳から大粒の雫が流れ落ちた。
「私もロナルドが好き」
大きなため息を付いて、ロナルドはうつむいた。
「……良かった……友達にしか思ってないって言われたら、立ち直れなかったよ」
「それはないから、大丈夫。だって、あなたが愛音を好きな頃から好きだったんだから」




