日本人
愛音は別の日に来ていた。
「……はるか遠い昔の聖書に記された時代から、人間は同じことを繰り返して来たのじゃ」
「未だに地球には戦争や貧困が無くならないのね」
つぶやいたのはウルリーカだった。
「だから、神々は何度も人間を滅ぼそうとした。一部の者をのぞいて……」
重苦しい空気の中、レオが話す。
「ノアの方舟のように?」
ウルリーカはレオに問う。
「ああ、恐らく」
「でも! でも、そんなのおかしいよ……選ばれた者しか残らない世界なんて……」
(そうだよ! アンナさん、私もそう思う!)
「アンナ……」
レオは優しくアンナを見守る。
「そうじゃな。色々な意見はあると思うが、これが地球の歴史なんじゃよ」
先生は悲しげな瞳をアンナや周りの生徒へ向けた。
「さて、皆へ尋ねるが、皆はどこの国へ産まれたいかな?」
「まず……アンナ」
「はい……私は日本が良いです」
「ではレオ」
「俺も、日本」
「では、ジェイ」
「オレだって日本」
「次は、ウルリーカ」
「私も日本を希望します」
「ピーター」
「僕も日本」
他のメンバーもほとんどの人が日本を希望していた。
「皆、日本へ行きたいんじゃな」
「はい!」
皆がそれぞれに返事をする。
「では、よく聞いてほしい。日本人へ転生はとても厳しいのじゃ」
先生の声は静かに部屋に響き渡った。
途端に部屋中がざわついた。
「どうしてですか?」
「日本人は世界の中でも精神性が高く、人と協調し合い、辛い時も助け合える精神の者が多いと言われている。自分よりも人を優先出来る心。それも見返りのない清らかな心。そういう者が多いとされている。もちろん……中にはそうではない者もいるのじゃがな」
「……そのようになれなければ、日本人への転生は難しい……と?」
レオが先生へ質問を投げかける。
「そこまでではなくても大丈夫じゃが……ここにはいないはずじゃが、自分だけ良ければと考えるような者には厳しいじゃろうな」
「日本は自然災害が多い国でもある。過去にもあったように、日本人はそのような時にも自分さえ良ければ……となる者は少なかったのじゃ」
「凄い……」
誰かが呟いた。
「そんな状況じゃ、我先にとなったっておかしくないのに……」
ピーターは誰にともなく呟く。
「そうじゃな。それが日本人なんじゃよ。そして、日本には日本の神々もついている」
「神々?」
「日本神話に出てくる八百万の神々じゃ。神々が日本列島や日本の民を守っている。皇室にもつながっているのじゃよ」
(へぇ……そうだったんだ!)
「日本には確か、王様ではなく皇室があり、天皇陛下がいらっしゃるのですよね?」
アンナが先生に質問をする。