ソフィアとロナルド2
ソフィアとロナルドはそれからというもの、頻繁にオンラインで話をしていた。
「……それでね、今日は羊のランが面白くて……」
「へぇ……そうなんだ」
2人はかなり仲良くなっていた。
「家はね、牧場だから子供の頃からいつも手伝って来たの。学校から帰ると勉強もあったけど、まずお手伝い」
「そうなんだ」
「ロナルドは?」
「家は……」
「ロナルド?」
ロナルドは突然口をつぐんでしまう。
「あ、ああ……ごめん。家はさ、両親は宇宙開発技術者で忙しくてさ。あまり家にいなくて、家政婦はいたんだけどね」
「それは、寂しかったのね」
「まあ……でもさ、子供の頃はそれが言えなくて、いつもヴァイオリン弾いてた」
「胡弓じゃなくて?」
「うん。元々はヴァイオリンやってたんだ。けど、ある日フーチューブで胡弓を弾いてる人がいてさ。もう、その瞬間胡弓がやりたい! ヴァイオリンなんて辞めてやる! ってなったんだ」
「へぇ……そうなのね」
「うん、運命の出会いだったんだと思う」
「そうね」
ソフィアは優しくロナルドを見つめる。その瞳はあまりにも愛しさがにじみ出て、さすがのロナルドもその熱い視線に戸惑いを感じていた。
「子供の頃さ、日本へ行ったことがあるんだ」
ソフィアの視線から逃れるように、ロナルドは遠い昔の記憶を浮かべる。
「パパ? どこへいくの?」
「ん? 演奏会がこの近くであるんだよ。行ってみないかい?」
「うん! いきたい!」
2人が到着したのはピアノの演奏会。ピアノ教室の生徒さんが発表する小規模な演奏会だった。父は仕事で来日し、その合間にロナルドと演奏会に行こうと思っていたのだ。
会場には沢山の人が集まり、演奏が始まるのを心待ちにしていた。
「パパ?」
「なんだい?」
「ピアノを弾くのは、ぼくとそんなに変わらない年の子が多いの?」
ロナルドはパンフレットに写っている少年少女を見てそう言った。
「ああ、そうだよ」
「そうなんだ」
ロナルドは演奏が始まるとある小さな男の子に釘付けになった。小さいのに早い指の動きで鍵盤を叩いていく。
「凄い……」
まだこの時はヴァイオリンを弾いていたロナルドは、小さな男の子の情熱的な演奏に闘争心を感じた。男の子の演奏が終わると、男の子は深々とお辞儀をして、照れくさそうに笑っていた。
「パパ、僕帰ったらヴァイオリン弾きたい!」
「そうか。帰ってから楽しみだな」
ポンッと軽くロナルドの頭の上に手を乗せ、父は微笑んだ。しかし、それから少ししてロナルドは胡弓と出会ったのだ。
「懐かしい思い出だよ」
意識を現実に戻しソフィアに話を続ける。
「素敵な思い出ね」
「うん。最近知ったんだけどさ、パパがその時の演奏会を撮影していたんだよ」
「そうなの?」
「うん。この間出てきてさ。びっくりしたんだ」
「いつかそれを奏太君に見せたら、本人か分かるわね?」
「そうだね。皆で会ってそんな風に過ごせたら良いね」
それから少しして、世界中に記憶の病が広がった。




