不穏
朝、目を覚ましスマホのニュースを確認した愛音は、目を見開いた。
「スウェーデンから記憶を失う原因不明の病が発症した?」
急いで愛音は奏太にライモする。
『奏ちゃん、ニュース見た?』
『うん。スウェーデンから発症したニュースでしょ?』
『そう。ソフィアさん、大丈夫かな?』
『うん。心配だね』
『そろそろ学校行く準備しなきゃ。またあとでね』
『うん、またあとで』
☆ ☆ ☆
ニュースで流れてからすぐにネットの中でスウェーデンに対する誹謗中傷が書かれた。
(ソフィアさん達は悪くないのに)
もやもやした思いを抱えながら1日を過ごした愛音は放課後、2人でパソコンの前に座りソフィアにメッセージを送った。
『ソフィアさん、こんにちは。スウェーデンのニュース見ました。大丈夫ですか?』
すると、すぐに返信が来た。
『困ってます。周りの人がかかり始めてます』
2人は顔を見合わせる。
『私達はソフィアさんの味方です。何かできることありますか?』
『気持ちだけで大丈夫。ありがとう』
そのやりとりの後。ソフィアの母も感染してしまった。
ソフィアは2人の言葉に胸が暖かく感じていた。
病気が広がり始める数日前、スウェーデンでは、ソフィアの母の様子がいつもと違っていた。
「ねえ、ソフィ」
「なに? ママ」
「羊にご飯あげたかしら?」
「さっきあげてたでしょ?」
「……覚えてないのよね」
「もう、大丈夫? ママ。まだ若いのに」
「ええ……」
ソフィアは少し気になったものの、牧場の羊の世話を手伝いに行っていた。ところが、翌日。母は自分の名前が分からなくなった。
嫌な予感がしたソフィアは、医師に診てもらう。
「原因不明の記憶の病ですね」と告げられた。
認知症ではないし、脳に異常もない。けれど、記憶だけがすっぽりと消えてしまう。
「そんな……治療法は?」
「今出来るのは新薬を待つことです」
「悪化したらどうするんですか?」
「落ち着いてください。このようなことは前代未聞です。脳に異常もなく、心因性でもなく、記憶だけが抜けるなど。とにかく、できることは近くで見守ることです」
肉体のない闇の存在は人間に取り憑き、製薬会社や政府に紛れ込み、ワクチンや新薬を作ろうとしていた。
そして、再びニュースが流れる。
「ワクチンと新薬が開発されました! 発売はまもなくです。 皆さん、これで安心です!」




