メッセージ
夏休みに入り、奏太の部屋で2人はフーチューブ撮影を始めた。
ポロンポロンと奏太の演奏が部屋に響いて行く。愛音も発声練習を行い、奏太と合わせてみると、部屋の中に穏やかな優しい空気が音と共に振動して広がって行く。
奏太が作曲をして、愛音が作詞をした歌を配信してみることになり、まずは皆の知っている歌にしようと、学校で教わる曲にしてみた。
1回目、2回目、3回目と撮っていき、休憩をはさみながら何とか収録し終えた。
「……終わった〜!」
「終わったね。お疲れ様、愛音」
「奏ちゃんもお疲れ様」
始めたのは朝10時頃でもうすぐ夕方になりそうだ。
「納得行くまで撮ろうとすると、時間かかるんだね」
奏太の母親が持ってきてくれた麦茶を飲みながら、愛音は奏太に向かって微笑む。
「そうだね、愛音は大丈夫だけど俺の演奏が納得行かなくて」
「そうかな? 私にはどれも素敵だったけど?」
愛音の言葉に奏太は頬を染める。
「ありがとう。でもさ、俺はより良い物を配信したいから」
「うん、そうだね」
2人がフーチューブ配信を始めて一週間、徐々に聴いてくれる人が増えてきた。そして、2人へメッセージが届いた。
メッセージの差出人はスウェーデンのソフィア。もう1人はアメリカ人のロナルドだった。
『こんにちは。初めまして。スウェーデンのソフィアです。2人の配信観ました。愛音さん、とてもピュアな声をしていますね。心がクリアになりました。素適です! 奏太さんのピアノも心を揺さぶりました! 応援してます!』
『アメリカのロナルドです。天使の歌声を聞けて僕は幸せだよ。奏太、ピアノも熱い音色で君の音色をもっと聴きたい。出来れば、ピアノだけで配信して欲しい!』
愛音と奏太は初めてのメッセージにとても嬉しくなった。差出人の2人はピーターにウルリーカなのだが、まだお互いに気付いてはいない。
愛音と奏太は2人にお礼のメッセージを送った。
『こんにちは。ソフィアさん。コメントありがとうございます! 心がクリアになったんですか? 嬉しいです! 奏ちゃんのピアノって、本当にすごいですよね! ぜひまた、聴きに来てください!』
『こんにちは。ロナルドさん、コメントありがとうございます。天使の歌声なんて、褒めすぎですよ! ありがとうございます! 奏ちゃんのピアノも本当にすごいので、ぜひぜひ楽しみにしてください!』
送信してしばらくすると、更に2人から返信が来た。
『ソフィアです。お返事ありがとう。私もハープの動画を配信しているので、良かったら見てみてください。』
『ロナルドです。返信ありがとう。また聴きに来ます。』
「奏ちゃん。ソフィアさん、ハープの演奏配信してるみたいよ」
愛音がパソコンを見ながら勉強机にいる奏太に話しかける。
「へぇ……そうなんだ。早速聴いてみよう?」
「うん」
2人でソフィアの動画を観ると、美しいハープの音色が2人を包みこんだ。
「素敵……」
「そうだね」
そんなやりとりから数日後。スウェーデンから記憶を失う病が広がり始めた。




