初デート1
日曜日。愛音は早起きして出かける準備をしていた。
(メイクも服もこれでオッケーだよね?)
愛音は鏡を見ながら確認した。凛に勧められたワンピースに歩きやすいミュールを合わせた。奏太と10時に駅に待ち合わせをしている。大知には詳細は伝えていない。
昨日の夜も“どこへ行くんだ?”、“何時に行くんだ?”としつこく聞かれた。付いてこられては困る。愛音は凛にライモで伝えると、こっそり家を出発した。
☆ ☆ ☆
9時50分頃、愛音は駅に着いた。奏太はまだいないようだ。その時ライモのメッセージが届く。
『愛音。今どこ?』
『駅に着いてるよ。奏ちゃんは?』
『俺も着いてるよ』
『え?』
愛音はスマホから目を離し、辺りをキョロキョロ見渡す。
『どこ?』
「愛音」
突然真後ろから声が聞こえる。
「え? 奏ちゃん?」
愛音が振り向くと奏太は嬉しそうに笑いながら立っていた。
「びっくりしたー! 真後ろから声が聞こえるんだもん!」
「ごめん! 驚かして」
「ううん。大丈夫」
なんだか照れくさくて笑ってしまう。
「愛音……」
「ん?」
「……可愛い」
赤くなりながら奏太は微笑む。
「……ありがとう」
愛音の心拍数はどんどん上昇する。
(暑いのに余計に暑くなりそう……凛、ありがとう!)
電車を乗り継ぎ水族館へ到着する。中へ入ると人で溢れかえっていた。
(日曜日だしね)
2030年の水族館は海の生きものがモニターで映し出されている大きなスクリーンがあり、皆3Dメガネを装着すると3D映像が流れる。
水族館に海の生きものを閉じ込めるのは廃止になっていた。動物園も同じだ。生きものがいる場所にカメラを設置し、リアルタイムの映像が水族館や動物園へ流れている。
浅瀬の生きものや深海の生きものが、壁に付いているモニターごとに分かれている。
愛音が奏太を見ると、奏太は人混みに圧倒されていた。
「奏ちゃん?」
「……何?」
「大丈夫?」
「うん……大丈夫」
「ね? 奏ちゃん」
「ん?」
「手繋がない?」
「え?」
奏太はかなり驚いているようで目を見開いている。
「嫌?」
愛音は思わず奏太の顔をのぞき込む。すると、奏太の顔が赤く染まって行く。
「嫌じゃ……ない」
「良かった。ほら、はぐれないようにね?」
「……子供じゃないんだけどな」
奏太は愛音に聞こえないように小さな声で呟いた。
「え? 何?」
「ううん、何でもないよ」
愛音から手を繋ぐ提案をしたものの、愛音も負けずにドキドキしていた。
(奏ちゃんと手を繋ぐなんて、久しぶり。いつの間に奏ちゃんこんなに手が大きくなったのかな? ドキドキしてるのバレてないよね?)
2人でゆっくりモニターを見て回る。奏太はクジラのいるモニターで足を止めた。愛音も一緒にモニターを見つめる。
「大きいなぁ……」
「そうだね。すごいね」
「うん」
奏太は笑顔でクジラを目で追いかける。
「本当、奏ちゃん好きだね、クジラ」
「うん、好き」
一通り見て回るとお腹が空いてきた。
「奏ちゃん」
「何?」
「お腹空かない?」
「……そういえば」
奏太はピアノを弾かせると凄いが、それ以外のことは、ほぼ無頓着な所がある。ほっとくとご飯も食べない時があるらしい。
「何か食べよ?」
「うん」




