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授かったのは外れスキルでした

 

 外れスキルと聞いてどんなものを想像するだろうか。


 増幅値が他よりも低いスキル? ろくに機能しなくて使えないスキル? それとも使い手の足を引っ張るデメリット塗れのスキル?


 何はともあれ、だ。

 世界中の人間が十四歳になる年の初めに女神様からスキルを授かるこの世界において俺ほど見事な外れスキルを授かった人間もいないだろう。



 だって外れスキルってデカデカと書いてあるからな!!


 俺の頭上に光り輝く文字で外れスキルって書いてあるならこれが世界で一番の外れスキルに決まっているよなあ!!



 ──周囲には俺と同じく神官様にスキルの開示してもらうために神殿に集まった同年代の男女やら上位のスキル持ちを確保するために視察に来ている役人やら他者のスキルを読み取って可視化できる神官様やらが集まっているわけだけど、この時ばかりは立場も何も関係なかった。


 全員揃って笑っているんじゃないぞ、ちくしょう!!



 ーーー☆ーーー



 上位のスキルは天候を変えたり、金や銀みたいな希少な物質を生み出せたり、とにかく一人で既存のパワーバランスをひっくり返すこともある。


 だからこそ俺のような何の変哲もない平民も授かったスキルを調べる義務がある。貴重なスキル持ちをいち早く国が確保するためにな。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()調()()()()()()()()()()()()()()()し、悪質だと判断されれば死刑もあり得るんだから新年早々息が白くなるくらいには寒い朝っぱらから神殿にいく以外の選択肢はなかったわけだけど……、


「ぐ、ぐぐ」


 他者のスキルに関して読み取れるのは一部の神官様だけで、だからこそ今日この日にみんな揃って神殿に集まる。そこで時間短縮の意味も兼ねてとりあえずスキルの名前だけ調べてもらい、後でスキルの使い方を教授してもらうことになっている。


 まあ大抵は珍しくもないスキルだからマニュアルに従ってスキルの使い方を教えてもらうわけだけど、一部の珍しいスキルの使い手に関してはより上位の神官様に個別でスキルの使い方やら何やらを読み取ってもらう必要があるとか。


 つまり俺のような過去に例のないスキルを授かったら本当なら時間をかけてスキルの使い方やらを読み取ってもらうのが通例なわけだけど、普通に無理だ、あんな周囲の人間全員が全員笑いを堪えている中でそんなことできるわけないだろうが!!


 耐えられずに神殿を飛び出した時に一応珍しいスキルだから本来なら詳しく調べる必要があるけど外れスキルだから別にいいかとでも言いたげにニヤニヤ笑いやがってあの役人め! まあわざわざ王都から出向いてきたお前が変に真面目じゃなかったおかげでこれ以上の辱めは回避できたがな!!


 外れスキル。

 これまで確認されてきたスキルの中にはこれちょっと使えねえなあってのもあるにはあるが、これはそのどれよりも『ハズレ』だろうな。


 文字通り外れスキルって書いていたからな!!


「ぐぅおおおおおっ!! なんでこんな辱めを受けないといけないんだあ!? なあ俺ここまでひどい扱いされるほど罰当たりなことでもしたか!? おい女神、テメェだよ無視するなよ降臨でも神託でも何でもいいからこんなもん授けやがった理由を答えやがれってんだよォおおおおおおおおお!!!!」


 天に向かって叫ぶが、もちろん返事なんてあるわけなかった。



 ーーー☆ーーー



 外れスキルなんて汚点を一方的に叩き込まれたのは俺の人生でも最大の不幸だっただろう。


 だからもう不貞寝したかった。

 なのに、それでも、不幸ってのは重なるもんなんだな。


 俺が暮らす街は田舎と都会の中間、まあ栄えてはいるけど王都や有名な都市に比べたら劣るそんなところだ。


 王都みたいに最先端ってわけじゃないが、一通り生活には苦労しないから俺としては不満はなかった。レンガ造りのこの街はハズレにもほどがあるスキルを授かったことが最大の不幸だと嘆く余裕があるくらいには平和そのものだった。


 そのはずだった。



 轟音を響かせて、『それ』はいきなり降ってきたんだ。



『それ』が着地した衝撃でレンガ造りの街道がひび割れていく。


 頭と胴体、そして二本の腕に二本の足。要素だけなら人間と同じで、だけどスケールが狂っていた。


 巨体。

 軽く四メートルはある筋肉の塊のような怪物。


 何より額に伸びる角がその存在の正体を示していた。


「オーガ、だと!?」


 それなり以上に戦闘に特化したスキル持ちの騎士や冒険者でも複数人で対処する必要はある魔獣だぞ!!


 そんなのがどうして街中に現れるってんだ? 街の近くにこんな高ランクの魔獣がいるわけないのに!


 それに万が一こんなのがやってきても街には結界が張られているから仮に魔獣が侵入するにしてもその前に結界が破壊されるはずだけどそんなことはなかったし、つまりなんだ?


 現にオーガは街に現れた。空から降ってくる形で。

 もちろん結界は上空も囲っているとなると、何かしら結界を無視する侵入方法で?


 例えばあらゆる障害や距離を無視して対象を呼び出すスキル召喚でオーガをこんなところに呼び出した馬鹿がいるとか。


 まあそんな世界でも数十人ってレベルのとんでもスキル持ちがこんな街に住んでいるわけないし、外からやってきたなら門を通る時にスキルを調べられているからこんな騒ぎを起こせば一発で容疑者にあがるのは避けられないわけで、いいや違う、そうじゃない。いつまで現実逃避をしているんだ。考えることが根本から間違っている。



 爆発するように悲鳴が炸裂する。

 そう、オーガは街道に降り立った。新年ということで多くの人が集まっているど真ん中に騎士や冒険者であっても圧殺する怪物が現れたんだ。悲鳴と共に我先にと逃げ出していくのは当然だった。



 思考がようやく現実に追いつく。

 理由なんてどうでもいい。現にあの怪物は俺の目の前にいるんだ、ほんの少し拳で突かれただけで木っ端微塵になるんだぞ!!


 ──早く逃げないと。


 人が濁流のように流れていく。

 オーガを中心に人の壁が崩れて、そして、その『流れ』に弾かれて一人のおっさんが倒れていた。


 ──早く逃げないと。


 動け。オーガは歴戦の騎士や冒険者でも太刀打ちできずに殺されることもある本物の怪物なんだぞ! 戦闘経験もなく、身体を鍛えているわけでもなく、魔法だって掌サイズの火の玉を放つのが精一杯な俺が狙われたら一発で殺されるんだ!! だから早く足を動かせよ!!


 ──早く逃げないと。


 不幸ってのは重なるもんだ。外れスキルなんて嫌がらせみたいなものを女神から押しつけられて、しかもその帰り道にこんな怪物に遭遇して本当に最悪だ。


 ああ、だけど、まだマシか。

 オーガが動く。俺にじゃなくて、逃げ惑う人々に巻き込まれて倒れた一人のおっさんにそのギラついた目を向ける。俺じゃなかった。だからまだマシだった。今のうちに逃げれば、そうだ他の連中だって何も気にせず逃げているんだその流れに乗っかればいいんだ俺は何も悪くない別にあのおっさんは俺の知り合いでも何でもないし大体おっさんだぞこれが家族とか親友とか絶世の美少女なら悩むのもまだわかるが何でおっさんを命をかけて助けにいかなきゃいけないんだこんなのは偶然見てしまっただけでこういう不幸は世界のどこにでもあることでそもそも俺には世界を救うようなご立派な力はなくてこの最悪の状況を覆す力はないんだから首を突っ込めば確実に死ぬわけでこんなところで無駄に死ぬ必要はなくてこういう場面で命をかけて戦うのは騎士とか冒険者とかそういう荒事で金を得ている連中で俺は関係ないちょっと運が悪かっただけで不幸が重なっただけでだけどほんの少しマシだからここで背を向けて走れば生き残れるんだ早く逃げないと俺が殺されるんだから仕方ないだろうが!!


 オーガの拳が飛ぶ。

 四メートル以上の体躯から放たれたその拳はおっさんの身体を粉砕するには十分すぎた。



 そこに俺は飛び込んだ。

 おっさんを突き飛ばして、代わりに俺に向かってオーガの拳が迫る。



「ああくそ」


 そうだ、そうだよ。

 名前も知らない誰かを見捨てて逃げるのが最善だってわかっていてもぐだぐだ悩んでいたんだ。


 納得なんてできなくて、こうするほうがまだマジだなんて思ってしまって、だから、わかりきった力の差が当たり前の死を突きつけてくるってだけで。


「馬鹿やっちまったなあ」


 そして。

 そして。

 そして。



 ぐっるん!! と。

 俺の身体を滑るようにオーガの拳が横に逸れた。



「……あ……?」


 しばらく、だ。

 俺は自分が生きていることが信じられなかった。


 どうして生き残れたのか。

 何が起きたのかこの目で見たはずなのに信じられなかったんだ。


「ォオ、アア……!?」


 それはオーガも同じだったんだろう。

 目を見開き、僅かに固まって、そしてまるで子供が癇癪を起こすように逆の拳を叩き込もうとしたんだ。


 だけど同じだった。

 さっきと同じように俺を襲うはずだった拳は滑るように逸れたんだ。


「なにが、起きているんだ?」


 オーガの意思ではない。あれだけ殺意に満ちたギラついた目をした怪物がわざと拳を逸らす理由はない。


 だったらどうしてオーガの拳は俺に当たらない?


 いや、待て。当たらない……逸れる……()()()()


「まさか外れスキルって敵の攻撃を外れさせるスキルなのか!?」


 確かにスキル名に嘘はないけど、だけど、そんな、マジで?


 せめて回避スキルとか敵の攻撃が絶対に当たらないスキルとかもっとわかりやすく書いてくれよ女神様あ!!



 ーーー☆ーーー



 本当にどうしようもなく不幸が重なった日だったが、最後の最後にとんでもない幸運が待っていた。


 もう死んだかと思った。というか、本当なら馬鹿やってしまったせいで粉々になって死ぬはずだった。それが女神様から授かったとびっきりの幸運がひっくり返したんだ。


 外れスキル。すなわち敵の攻撃が必ず外れるスキル。

 この力があれば俺は絶対にダメージを受けない。あれだけ恐怖の象徴だった四メートル以上の怪物が今は赤ん坊よりも無害な存在にしか見えない。


 愛しているぜ、女神様!!

 こんなチートスキルがあればオーガどころか魔獣の頂点である古龍だって敵じゃない!!


「よお、デカブツ。いきなり殺しにきたのはテメェだ」


 俺は掌をオーガに向ける。

 魔力を集中させて炎系統の初級魔法を展開。


「だったらよお」


 掌サイズの火の玉なんて四メートル以上の怪物には大した傷は与えられないだろう。


 それでいい。ほんの少しでも傷をつけられれば後はそれを繰り返して積み重ねればいいんだ。百発でも千発でも致命傷になるまで叩き込めばいつかは倒せる。前までの俺ならそんな悠長なことをしていたら反撃を食らって終わりだったが、今の俺は違う。


 外れスキル。

 敵の攻撃が絶対に外れるなら安全圏から一方的にぶちのめすことができるんだから。


「テメェもいきなりぶっ殺される覚悟はあるんだよなあ!?」



 ぐっるん!!!! と。

 俺が放った火の玉はオーガの身体を滑るようにあらぬ方向に飛んでいった。



 …………。

 …………。

 …………ええっと。


 いやいや、そんなはずはない。今のは俺が調子に乗って力みすぎて当てられなかったってだけだ! いやあ、格好つかないなあ!!


 でも大丈夫。

 チャンスは何回でもある。何せ今の俺は敵の攻撃が絶対に当たらない無敵状態なんだからな。


 深呼吸してえ、じっくりと狙いを定めてえ、炎系統の初級魔法を展開してえ、発射してえ、さっきと同じく火の玉はオーガに当たらずにあらぬ方向に飛んでいった。


「まさか」


 かなり近い距離で、しかもマトは四メートル以上もある。どこかに当たるのが普通で、外すほうが難しくて、つまり、だから、もしかして俺の外れスキルの本当の効果は──


「敵の攻撃だけじゃなくて俺の攻撃まで絶対に外れるってのか?」


 そっか。

 なるほどな。確かに俺が授かったのは外れスキルだ。読んで字のごとく、もう完璧なまでに外れを司るスキルだな、うんうん。


「それじゃあ一生決着つかないじゃないか、何だよこのクソスキルはァあああああああああああああ!!!!」


 やっぱり外れスキルは外れスキルだった。

 ほんのちょっとでもこのスキルがあれば最強へと成り上がれるんじゃないかって期待していたんだぞ、ちくしょう!!



 ちなみにオーガは駆けつけた騎士たちが退治してくれた。一応俺が囮になったから目立った被害が出なかったことだけは幸いってヤツだろう。


 なんかこの短時間で散々感情を引っ掻き回されて複雑だけどな!!



 ーーー☆ーーー



 その後、まあでもこのスキルがあればとりあえず無敵なんだから危険な魔獣蠢く秘境なんかに突っ込んで貴重な素材を狩って大儲けしたり。


 調子に乗ってそんなことを続けていたら『攻撃の余波までは外れずに直撃する』という外れスキルの致命的な欠点が見つかって死にかけたり。


 オーガを放り込んできたのと同様の長距離・無差別召喚によるテロ行為の主犯を捕まえたせいでなんだかんだで騎士にさせられてしまったがために戦争に巻き込まれたり。


 隣国の軍勢が攻めてきた際には攻撃が絶対に当たらないことをいいことに敵軍の真正面から突っ込んで敵の戦力やら武器や糧食の量やら堂々と偵察したり。


 敵の攻撃が当たらなくても俺の攻撃も当たらないならプラマイゼロのクソスキルだと思っていたが、使いようによっては役立つことが分かったんだ。まあ性能がちょっと尖りすぎているから調子に乗るとすぐにピンチになるんだがな!!


 今だって最高のスキルだとは思えないが、なんだかんだでこのスキルを授かって良かったと思ってはいるんだ。このスキルがないとどうしようもない難問だってあったからな。


 まあ今でも俺が前代未聞(笑)の外れスキル持ちということだけが広まって残念な奴扱いされることもあるから、女神様にはせめてスキル名だけでももうちょっとどうにかならなかったのかと言いたいがな!!

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