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chapter2

分割で投稿していますが、一話一話がすごく文字数が長いです、ご了承ください。

 ……しばらくして、俺はストーリーを進め……。

 「いやいやいや。ありえないでしょ……怖いんだけど」

 エンドロール画面を眺めていた。

 「いやぁ、いやぁ! 神ゲーだなぁあ!」

 俺は鼻水を啜りながら涙を流して拳を握り締めていた。やはり『トラクエⅢ』は伝説と呼ばれるゲームにふさわしい。時間にして、三時間。久しぶりの攻略だったが、どうやら腕は鈍っていなかったらしい。

 「いやぁ。久々見たけどすごいね」

 「ソウジさんずっとこんなのを見てたの……?」

 「ツグはトラクエⅢの最速クリアタイムの保持者でね。昔からこのゲームが大好きで、ひたすらやり込んでたんだよ」

 「へ、へぇ……」

 ヒトミの隣でソウジは大笑いする。対してヒトミは青ざめて、怯えている。

 「トラクエⅢマスターの俺にかかれば、お茶の子さいさいだぜ」

 久しぶりに気分が良い。そうだ。引きこもりニート童貞のこの俺でも、このゲームのクリアタイムだけは世界一なのである。もっとも、この能力が役に立つことはないのだが。

 そんなことよりも、俺はヒトミに感想を聞かなければならない。このゲームはどうだったのか、を。

 「全ッッ然面白くない!」

 「……え?」

 おかしいな。俺の予想していた感想は『馬鹿にしてごめんなさい。神ゲーでした』なのに。

 面白くないだと。

 「早く進めすぎて何が魅力なのかもわからないし。てか、セリフとかもちゃんと見れなかったし。アンタが一人楽しんでただけじゃん」

 「ツグ……。それは言えてるかも」

 「あ」

 しまった。ド正論だった。トラクエの魅力を伝えるためにゲームを始めたはずが、気がつけばゲームクリアばかりを考えていた。布教するための思いやり。一番大切なのを忘れてどうするのだツムグよ。

 「ごめんなさい……。もう一度やり直す!」

 「もういい……。帰る」

 「えぇ。なんでだよぉ。もっとトラクエしようぜぇ」

 「駄々こねんな!」

 ヒトミは顔を引き攣らせて俺から距離を置いた。

 「でも、そろそろ辺りも暗くなってるし。頃合いだね」

 「うう……。もう一八時かよぉ」

 せっかく『トラクエⅢ』の楽しさをみんなで共有して語り合いたかったのに。時間というものはどうして進むのだろうか。この際俺が良いというまで時が止まって欲しいものだ。

 結局。俺は自分が満足してしまうことに気を取られて、ヒトミにトラクエの魅力を伝えることができなかった。この戦いは敗北を期したのである。

 夕陽が顔を出し始めている。いくら夏場とは言え、バイトの時間を過ぎて何時間も娘が帰ってこなかったら親は心配するに違いない。ヒトミを帰さなければ。それに、ヒトミのような年頃は親に叱られるのはうざったく感じるものである。ここは配慮するべきだろう。


 「なんで。ついて来てんのよ。ストーカー?」

 「うるさい。俺だってお前となんか歩きたかねえっての」

 「だったらついてこないでよ」

 仕方ないだろ。と大声で怒鳴ってやりたいが。それを次のバイトの際に母にバラされたら面倒になる。我慢するしかない。それに、母に頼まれてヒトミを駅まで送ることになったのだ。見送りの途中で帰れば当然怒られる。この歳になって『常識』に関する事でことで怒られるのは御免だ。恥ずかしいだろ、普通に。とまあ、そういうわけで俺にもとい拒否権などないのである。

 「あーあ。せっかくソウジさんと話せると思ったのにー」

 「残念だったな」

 ざまあみろ。このクソ生意気め。

 「ははは。ヒトミちゃんは本当に冗談が好きだね」

 「冗談じゃないですって」

 あざといヒトミの言葉に、目を細めてソウジは笑う。帰り道が途中まで一緒。ということで、ソウジも駅まで着いて来てくれるそうだ。そうして俺は、もどかしい空間にしばらく耐えて、ついに駅まで、ヒトミを送り届けることができた。それしても、これからもヒトミが(はじめ)商店で働くのであれば、俺は毎度のように駅まで見送をしなければいけないのだろうか。そう考えると悪寒が……。

 「それじゃまたね」

 と、ヒトミは明らかにソウジの方を向いてにこやかな笑みを浮かべ、すぐに改札へとあおの姿を消した。溶け込むような紫色の空、少しおとなしくなった蝉の声。取り残された俺とソウジはお互いに口を開くことなく。もどかしい空気の中、歩き始める。

 ヒトミがいたからそれほど意識していなかったが。本来、俺はソウジと会話なんてできない。そもそも俺はソウジに会いたくはなかった。こんな見窄らしい姿を見て欲しくなかったからだ。

 俺は気を遣って声をかけることすらできない。だが、お互いに沈黙に身を任せられるほど、精神的に強いわけでもなかった。

 「楽しかったよ、今日。久々ゲームなんかしてさ」

 最初声をかけたのはソウジからだった。

 「そっか。なら、よかったよ」

 俺は先導するように先を歩いているソウジの背中を見つめながらそう返答した。不細工な会話だ。質問に対して回答をするだけ。単純で味気のない会話。

 「そういや、トラクエの新作が出るんだよ」

 今度俺から話を切り出した。話題はトラクエの新作について。好きなゲームのことしか話題が作れない自分。正直言ってイタイだろう。

 「トラクエⅪだっけ?」

 「そそ。はやくやりてえな」

 「そうだね。最近ゲームやれてないし」

 「そ、そうなんだな」

 ソウジの言葉に、俺は心臓を鷲掴みされた気分になる。

 俺とソウジには大きな違いがある。俺は年数経過で抜け殻のようにこうして生き延びているだけだけど。きっとソウジはそれなりにうまくやって大人になったんだ。もう、あの時と、あの頃とは違う。

 ニートの俺と違って、ソウジは大人として生活をしているのだ。

 ……夢を追って、失敗した俺とは、違う。

 心が苦しくなった。

 その後もろくな会話をすることなく、口を開くよりも先に、足を前に出すことに気を遣ってしまった。時々聞こえる、タイヤが道路を這う音。街は暗闇に包まれていく。

 人気の少ない帰路で、勇気のない俺は俯いたままだ。

 「あのさ。連絡先、交換しようよ」

 背中を見せるソウジはふとそんなことを提案する。

 「ああ……」

 ソウジとの会話を諦めようとしていた最中。ずっと背中ばかりを見せていたソウジが振り向いてそんな提案をする。こんな俺に、それでもソウジは気を遣ってくれる。

 俺はその提案に乗って。手慣れたスマホ操作ですぐに連絡先を交換することにした。

 「それじゃ。またね。ツグ」

 「おう」

 連絡先を教えると、ソウジはすぐに前を向き、街頭の集まる街中へと消えていく。帰り道が一緒なのはここまでだ。

 「ソウジ」

 俺は慌てて名前を呼んだ。ソウジは立ち止まる。

 「また、ゲームしような」

 俺の言葉を聞いて、ソウジは手を振ると、再び遠ざかっていく。俺はその姿をただひたすら、眺めていた。

「ん?」

 ふと、スマホ画面に明かりが灯った。ロック画面に表示された通知。ゲーム記事やチャットのできるアプリからのようだ。反射的に俺はそのアプリを開き、掲示板を閲覧してしまう。

 掲示板のタイトルは『トラクエの新作について』である。


 無名の勇者 : トラクエはどれも神ゲー

 さすらいのオタク : 小さい頃はみんな勇者だった。

 名無し : 友達とよくトラクエごっことかした。

 夜ふかし大魔王 : どこまで進んだかが、クラスメイトとの会話だったな。懐かし。

 三度目の僧侶 : 兄妹で代わり番こでしてた。妹がデータ消しちゃって大変だったw


 コメントを見ながら、自然と頬が緩む。そこには俺と同じ『トラクエ』を共有する仲間たちがいるからである。

 「そうだよなぁ。トラクエ発売も、いよいよ一ヶ月……ってあれ?」

 トラクエⅪの発売日って二ヶ月後だったような……。俺が予約したのも二ヶ月後に発売するって言ってたが。予定よりも前倒しで発売するのだろうか。早く遊べるなら嬉しい事この上ないのだが。

 「まぁ、いっか」

 兎にも角にも、家に帰ろう。

 俺はスマホをポッケにしまって、街明かりを背に、暗闇が広がる帰路へ足を踏み出していくのであった。


         ◇◇2◇◇


 「やっぱクソゲーだな」

 深夜三時。闇に包まれた自室で、ゲーム画面を映しているモニターの光だけが、俺の輪郭を捉える。ヒトミ、ソウジと別れてから、家に帰るなりこの時間帯まで、俺は眠る事なくひたすらゲームをしていた。現在プレイしているゲームは、今年から配信開始した、基本プレイ無料の、一人称視点シューティングゲーム。俗に言うFPSという類のものだ。

 その流行りのゲームで、七度目の連敗を期した俺は、ため息を吐いて愚痴をこぼしていた。

 このゲームはランク制度があり、勝つ回数分ランクが上がり、負ける回数分ランクが下がる使用になっている。が、下手くそで才能のない俺は負け越しばかりで苛立ちを覚えている。

 だから。完成度の高いゲームは嫌いなんだ。

 俺は諦めてゲームの電源を落とし。布団に逃げ込む。不幸なことに、明日もヒトミの面倒を見ないといけない。ということは、半日ヒトミを相手しなくてはならないということなのである。辛い。

 逃げ場はない。しかし、これ以上俺が不幸にならない選択を取るべきだろう。次の日になる前に十分な睡眠を取らなければ。寝よう。そう思って俺はゆっくりと瞼を下ろした。

 「トイレ行きてぇ」

 しかし、俺の尿意が睡眠を阻害した。俺はあくびを噛み殺しながら、すり足でトイレまで歩いていく。無事に用を済ませると、部屋に戻り、布団に入ろうとしたその時だ。つま先に何かがぶつかった。

 「これ……」

 つま先に当たったのは、昨日祖母の家から俺が盗んできたフレコンソフト『Re:makers』だった。俺はカセットを手に取る。何故か、このゲームには惹かれてしまう。祖母の家から持ち帰って、起動した時も、取り憑かれたように見入って、目が離せなかった。

 「……寝る前に、もっかい試してみるか」

 そう言って俺はフレコンを起動する。一度起動はしたが、二度目以降は電源を付け直しても、タイトル画面を拝むことすらできなかったが……。奇跡的についてほしい。やはり起動させたい。ゲームをプレイしたいと、そう思った瞬間。

 画面は強い光を放つ。俺は目を細め掌で光を隠した。光はやがて消え、画面は暗転する……。一体、何が起きたのだろうか。


 『おもいで は きみの たいせつな トラクエのことだよ』


 と。突然、真っ暗な画面からテキストが表示された。そのテキストを読み上げた瞬間、背筋が寒くなる。冷や汗が噴き出た。このゲーム。まるで俺に話しかけている(・・・・・・・)かのようだ。

 だが同時に、俺はこのゲームの言う事に従いたいと、そう思ってしまう。

 このゲームをやりたい。やってみたい。と。

 『このゲームをはじめるには トラクエをゲームハードにセット しなくちゃいけないよ』

 「トラクエ……? フレコンにセットしろってか?」

 フレコンにゲームカセットを二つセットすることは不可能だ。同時にカセットを差し込むことができるハード……。

 「ん? まてよ」

 唐突に、ある仮説が俺の脳内をよぎった。

 俺はその仮説を実証するために、黒いカセットをフレコンから引き抜く。そして、すぐに隣にあった多機能型互換ゲーム機に差し替える。


 レトロマニア。レトロゲーマーなら誰もが知っている代物である。このゲーム機にはカセットを差し込むスロットが二つ存在するのだ。


 ……これでゲームをできる。わけはないと思うが。とりあえず、俺は『Re:makers(リ メイカーズ)』と『トラクエⅢ』のカセットをレトロマニアに同時に差し込んだ。

 非現実的な話ではあるが、『思い出』と言うのが俺にとっての思い出。つまり一個人の思い出だとするなら。このゲームの指定するものは『トラクエⅢ』であり、トラクエを同時にセットすることで、このゲームを始めることができる。のではないか。


 そう考えたのだ。


 「……って。んなわけねえよな。これ、フレコンのカセットだぞ。昔のゲームが未来のゲームハードに対応するわけ……な、いって……」


 こんなバカみたいな推測が、現実になっていいはずがないのに。

 「おい……嘘。だろ?」

 俺は苦笑いしながら、目の前で起きている奇跡に戦慄した。本当にこれでプレイできると言うのだろうか。


 再び『Re:makers』のタイトル画面が表示された。

 俺は息を呑みながらタイトル画面からステージ選択画面に移動する。すると、前回とは明らかに一つの変化が起きていた。

 ステージ選択画面の中にある六つのステージのうち、一つだけが強い光を放っているのである。

 俺は条件反射のように、そのステージを選択し、決定ボタンを押した。


 ……するとテキストが表示される。


 『じぶん を みつめなさい』と。

「んだよそれ……」

 俺はそう呟きながら、すぐさま表示されたテキストをメモした。このテキストは後にゲームを攻略する上でのヒントになりうるかもしれないためである。ゲームをする以上は、何事も記録して後々活用しなくてはならないのだ。それに、初めてやるゲームだ。奇跡的に今は起動しているが、何か一つでも間違えたら取り返しのつかない事になる。もしセーブデータが破損でもしたらその時に役立つ保険になるわけだし。

 しばらくして、画面上に表示されたのは、白黒の世界であった。

 これが、このゲームの世界。

 「思い出ってのが反映されてるのか? トラクエⅢの城に激似だ」

 どうやら、ゲームジャンルはRPGのようだ。思い出が反映されて良かったと、俺は思う。

 視界に映るのは、今日の昼間プレイしたトラクエⅢの最初の街『アーリハン』の城内と瓜二つのもの。突如始まったと思いきや、始まりは城内からとは。とりあえず、俺は十字キーでプレイヤーを移動させる。

 場所はおそらく二階の王室。俺はプレイヤーを前の方向に進ませる。この先に王様が座っているはずなのだ。案の定、進むと、その先に誰かが玉座に座っていた。

 話しかけるやいなや、突如イベントが発生して。王室に花火が打ち上がった。

 「もてなしのある城は初めてかもな」

 トラクエⅢにおいては、最初の街の勇者の扱いはぞんざいであることが有名だ。

 『よくきた! ひとりのちょうせんしゃ よ! まおうを たおしてまいれ!』

 王様はプレイヤーにそう言い放つと、最初の所持金として、五〇〇枚の銀貨と、質素な資金。おまけで装備の棍棒。放浪の服を貰った。ここらへんのケチ加減はトラクエと変わらないようだ。これでは門勢払いと変わらないではないか。

 「ったく。魔王倒しに行くのにこんなんでやってられるかって。毎度思うんだよな」

 笑いながら俺はそんなことを呟く。

 「さーて。一応物語は始まったな。とりあえず()()()()始めっかあ」

 トラクエだけに限らず、RPGにおいて必須であり、基本中の基本が『聞き込み』である。

 今の時代のゲームは懇切丁寧に趣旨や方向性について諭してくれるのだが。レトロゲームは基本自分で手がかりを見つけなければならない。

 何をすればいいか分からなければ、まず街の人々に聞き込みをする。そうすれば自ずとヒントを与えてくれるのだ。


 俺は王様にもう一度話しかける。しかし、会話に変更点はないようだ。作業のように城内を一通り探索し、自分に利益が無いかを確かめた。が、特に具体的な情報を聞くことは叶わなかった。仕方なく俺は城内を移動して、他の人たちの話を伺う事にする。

 「人……。いねえな。この城人手不足すぎだろ」

 たいていはヒントをくれそうな兵士や姫様が城の中にいるはずなのだが。

 「はぁぁぁ。よかったあ。街の人はいるみたいだな」

 外を出てみると、NPC(まちのひと)が動いているのを確認した。街並みはトラクエⅢのアーリハンそのもので変更ではないように見えるが……。


 「とりあえず話聞かねえと」

 俺は街の人々に早速書き込みを始める。


 『なんでも せかい は ふたつあるそうだ』

 『ゆうしゃさま どうかわたしたちを おすくいください』


 と。話しかけても具体的なヒントを教えてはくれない。俺は仕方ないようにそのテキストをメモするのだが……。

 「んだよ。急に詰みか? それともトラクエⅢと内容は変わらねえのかな」

 もしそうであれば、俺はトラクエⅢの進め方を熟知している。同じゲームなら、クリアすることは容易だろう。


 「ってか! 完全にこのままだとパクリゲーじゃねえか!」

 俺は思わ声に出てしまった。もう深夜だ。大声は厳禁である。


 咳払いをして、気を取り直す。

 まずは、冒険に必要な仲間を集めるために、街の右上に位置する『イルーダの酒場』に行かなくては。


 ……ところが。

 「って、イルーダの酒場ねえじゃん! え?同じじゃねえの? 仲間はどこで増やすんだよ」

 まさかの、このゲームで重要となる仲間を増やす場所が見当たらない。

 「てか、マップ自体少し変化してるか、これ」

 俺の記憶している『アーリハン』の店配置と、このゲームとでは、少し違いがある。

 どうやら、ただのパクリゲーではないようだ。トラクエを媒体としているのだから、それなりに楽しませてくれる演出でもあると嬉しい。


 「何のために元のマップを確認してみっか」

 俺はスマホで攻略サイトを開く。高校生の的に自分で解説した攻略サイトだ。主にRTA用に作ったサイトだが、トラクエⅢの攻略サイトでも上位を誇るアクセス数。

 さすが、トラクエⅢオタクの俺のサイト。なのだが。


 思わず舌打ちした。

 「今日はついてねえな。サイトがエラって開かねえや」

 ホームページを何度開いても、エラーコードが表示される。回線が悪いのだろうか。仕方ない。別のサイトを使うしかないだろう。


 ところが、どのトラクエⅢの攻略サイトを検索しても開くことはできなかった。

 なんだか。ネットに頼ってはいけない。と、言われている気がした。

 そうだ。昔は検索なんてせずに自分で考えて進めいたはずなのだ。文明の利器に頼らず、誠実にゲームを楽しむ。いや、それしかない。


 そうして、くまなく街を探索すると、大きな変化が三つあることが判明した。

 まずは、イルーダの酒場、武具屋が存在しない事。配置どころか店の有無が変更されているようだ。

 二つ目に、住民の有無。イルーダの酒場などで出来る事を教えてくれる住民がいなかったり、これから何をすればいいか、と言うものがほとんど抹消されている。これも記憶頼りになるだろう。

 そして三つ目。


 『にしのとうに さんぞくのカギ が ある』

 と言う明確なヒントをもらった事。

 山賊の鍵というのは、扉を開けるために必要なアイテムである。とりあえず、ストーリーを進めるためにはそれが必要だろう。


 といっても……。

 「武具屋も酒場もねえなら。経験値を稼ぐしかねえが……。鬼畜だなオイ」

 ため息をこぼしながら、俺はゲームに従い、街から出る事に。すると、フィールドに移動する。ここから移動すればモンスターがエンカウントする事になる。一歩間違えば死ぬことだってありえる。

 大体、トラクエⅢでは仲間無しで外に出るとボコボコにやられてしまうわけだし。


 「って! BGMまでまんまかよぉ!」

 本日二度目のツッコミ。まさかの、トラクエⅢの有名なフィールド曲が堂々と流れている。著作権とか、このゲームが発売した時は大丈夫だったのだろうか。問題になるレベルをゆうに超えているではないか。


 兎にも角にもレベル上げだ。

 俺は適当にフィールドを進む。

 すると画面は一瞬硬直して、すぐに戦闘画面に切り替わった。現れたのは『スライミ』と言うモンスターだ。

「最弱モンスだ。意外と運がいいのか?」

 スライミの攻撃力はそれほど高くない、様子を見て、注意深く戦えば勝機はある。実際、仲間を使用しないソロプレイ縛りでトラクエⅢをクリアした時は、序盤はスライミが出やすい場所を移動して、レベル上げを行った。


 戦闘画面には、攻撃、防御、道具、逃げる、作戦。の五つのコマンドがある。その中で俺は、攻撃コマンドを選択し、棍棒でスライミに攻撃を与えた。


 トラクエの戦闘はシンプルであり、モンスターとプレイヤーのお互いが交互に攻撃を繰り返すターン制となっている。戦闘でどちらかのHP(たいりょく)がゼロにすれば勝利となる。

 与えたダメージは七。スライミの体力は八だ。後一撃で倒せる。対して、スライミの反撃。食らったダメージは四である。


 「痛い」


 ダメージを食らった直後に、現実で何か肩を叩かれた感触がした。辺りが暗くて見えないが、何かが落下したのか、ぶつかったのだろう。反射的にゲーム内の攻撃に反応してしまう、俺の昔からのクセだ。

 そんなことよりもゲームに集中しなければ。あと一度攻撃を当てるだけ。


 俺は攻撃コマンドを選択する。

 これで戦闘は終わり。そう思ったのだが。


 スライミの方が行動が早く、先攻を奪われた。トラクエのターン戦闘はステータスの内、すばやさが相手より上回っていれば行動で先行を取ることができる。例外は呪文や特殊効果がある行動。先制攻撃ができる技などである。


 『スライミ は なかまを よんだ』


 「げっ」

 トラクエⅢの恐ろしいゲーム性が垣間見える。仲間がいなければこのゲームは無常と言えるまでに鬼畜仕様……。画面上にスライミが一体増加した。そして、呼び出されたスライミも同じように仲間を呼ぶ。


 「おいおいおい! さすがに鬼畜すぎんだろ! ゲームバランスどうなってんだよ!」

 今度増えたのはスライミではなく、オオクチバシという鳥型のモンスターである。


 オオクチバシは俺に攻撃をした。七ダメージ。残りHPは四だ。

 そしてまたもや、胸あたりに痛みを感じた。今度は突かれるような痛み。胸が苦しくなる。こんな時に何かの病気だろうか。健康体のはずだが……。


 「まずいな……」

 思わず首筋に汗が滲む。スライムを一体倒したところで、新たに増えたモンスターの相手をしなくてはならない。アーリハンを出る前に薬草をできるだけ購入しておいたが。対策ありきでも面倒な事になった。HPを回復する以外に他に選択の余地はない。今度は道具を選択して、薬草を選択する。


 HPを十回復。これで一六にまで体力値は元に戻る。だが、二体のモンスターの攻撃で、またもやHPを削られる。残り数値はたったの五だ。


 「さっきから……んだよこの痛み!」

 鬱陶しい。攻撃を喰らうたびに同時に現実でゲームをプレイしている俺自身に痛みが生じている。最初は偶然かと思ったが、何か、変だ。


 『まったく しかたないね』


 と。突然画面にテキストが表示された。それと同時に、画面に炎系呪文のベギルガンが放たれた。トラクエⅢでは後半で習得する上位呪文……。当然、敵は一掃され、リザルトテキストが画面に表示される。


 『まものたち を たおした!』


 誰かが俺を助けてくれたのである。

 「まさか……。こういう演出なら教えてくれよ……」

 してやられた。どうやら、初めからこうなるゲーム進行であったらしい。

 つまり、プレイヤーは、わざとフィールドに移動せざるを得ないように仲間と武具屋を街から消して。フィールドで戦闘せざるを得ない状況にした。という事だ。今こうしてスライミたちを倒してイベントが発生していると言うことは、正しくストーリー進行に沿っている。という事だろう。


 リザルトテキストが終了すると、画面はフィールドにから変わることなく、黒い画面のままテキストが続けて表示された。おそらく、先ほど戦闘に介入した助っ人が会話を始めて、何かしらストーリーが進むという流れだ。


 テキストの左上に『???』という名前が表示される。俺はそれを目で追って読んだ。


 『やあ。 このゲームを みつけてくれて、ありがとう』

 「どーいたまして」

 このゲームは祖母や親族の了承なく盗んできたのだ。親切にされると罪悪感で、俺は申し訳なくなってしまう。

 早く会話を進めるためにボタンを押したが。反応しない。それどころか、テキストは一人でに進行し始めた。


 『もっとも。 きみに であえたのは ぐうぜんではないんだけどね』

 

 「随分凝った演出だな」

 トラクエⅢにはないオリジナル要素。突然現れた謎の助っ人。燃える展開だ。


 『えんしゅつ? やだな。 ぼくは きみとしゃべってるじゃないか』


 「は?」

 テキストを呼んだ俺は体が硬直し、口角を上げる。

 「偶然でも、ゲームと会話できんのは嬉しいな。おい」


 『だから。 ぼくはきみとはなし を している』

 「……それじゃあすげえな。フレコンなのに技術は最新どころか未来の技術みてーだ』


 『そうかも しれないよ?』


 『???』の返答に俺は寒気を感じた。偶然にしては、あまりにも綺麗な会話が成立したからだ。本当に現実で、俺はゲームと会話をしているというのだろうか。いや、おかしい。そんなことがあっていいわけがない。

 俺は目の前で起きている非現実を必死に否定しようと頭の中を駆け巡せ、働かせる。


 「マジで。俺と会話してんのか?」

 真偽を確かめるための質問。我ながら何をやっているのだろうか。

 『しんじて くれないのかい? ハジメ ツムグ。 いま がめんをみている きみにはなしてるんだよ』

 「だとしたら……お前」

 俺は言葉に詰まってしまう。

 今までだって、冗談混じりで、怪奇なこのゲームのシステムを楽しんできた。レトロマニアを使用しなければ遊べないシステム。不規則なテキスト表示。ついには現実世界に話しかけてくるゲーム。冗談じゃない。

 こんなのは、あまりにも不気味だ。


 やはり呪われたゲームかなにかではないのだろうか。


 『まだ しんじて いない ようだね』

 「当たり前だ。そう簡単に信じられるわけねえだろ」

 夢であって欲しいと、俺は願うばかりである。そうだ、深夜でゲームしていて寝落ちして、変な夢を見ている。ただそれだけなのだ。そうであって欲しい。


 『なら せんとうのさいの いたみのかんかく は?』

 「ダメージ直後の……まさか」

 確かに、戦闘中にスライミやオオクチバシからの攻撃の際、現実世界の俺の体に、何かしら痛覚があったのは確かだ。それを変だとも思っていた。


 『このゲームは ふつうのゲームじゃないんだ』

 画面の中にいる『???』はそう告げる。

 俺は目を見開く。頬から滴り落ちる汗すら気に留めず、ただひたすら画面を見つめるのである。


 「お前。何者だ。つうか、このゲームは一体なんなんだ」

 『ぼくは このゲームのまおう とよべるもの』


 『このゲームは げんじつとれんどうする だれもしらない わすれられたゲームだよ』


 『???』の発言に。俺は空いた口が塞がらない。とんでもない物を俺は祖母の家から持ち出してしまったのかもしれないのだから。


 だが……。同時に芽生えた感情が小さな灯火を宿し始めていた。それは、俺が常々ゲームをプレイする時に抱く感情。欲求。


 「……マジかよ」

 それは好奇心である。

「魔王。てことは、このゲームのラスボスってことだな?」

 『そう。 ぼくはこのステージを とうかつするすべて だからね』

 どうやら、画面越しに話しかけていたのは、このゲームの敵そのものだったらしい。自分から挨拶に来るだなんて。トラクエⅢのリスペクトが強いプログラムだ。賞賛に値する。


 『そして いまきみに せんせんふこくを する』

 「宣戦布告……? なんだそりゃ」

 なかなかに面白い物語構成だ。このゲームが世に出ていたのならば、歴史に残る名作と言ってもいいかもしれない。それだけ斬新なギミックが詰まっている。


 『ぼくは このせかいから トラクエ を しょうめつ させる』

 「……この世界から? トラクエを消滅させるだあ? ふざけんじゃねえ。 もしそれが本当なら、俺は全力で戦うぞ」

 『それが ねらいさ。だから きみが このゲームをクリアすれば、トラクエはすくわれる』


 『だけれど ぼくが そのまえに せかいから トラクエを けしさったら ぼくのかち だ』

 「ふざけんじゃねえよ。んだその馬鹿みたいな勝負。俺一人には荷が重すぎる話だろ」


 『???』の提案することは、つまり俺の人生の全てを消し去る。ということに直結してしまう。

 つまりは、俺は『Re:makers』を猶予までにクリアしなければ、俺の生き甲斐が全て消え去る。ということになる。

 新作がもう時期発売するというのに。そんなことがあっていいはずがない。


 「だいたい。んなもんできるのかよ?」

 『できるから ていあんしてるし それに ぼくはもう しかけているよ?』


 「……とにかく。俺はそんな馬鹿みたいな話には乗らないからな」

 『いいのかい? きみにとって たいせつな おもいでが きえてしまう』

 「お前に、そんな力あんのかよ」


 『ああ。あるさ』

 そう告げると、画面が再び戦闘画面に変わる。目の前に現れたのは『???』当人。白い人形の形をしている。

 すると、突然『???』は攻撃をしてきた。俺は胸部に燃えるような痛みが走り渡るのを理解した。


 痛い痛い痛い痛い。


 「なっ……。なにすんだよ!」

 『いたみを くらっても。 きみはかんぜんに ひてい できるかい?』

 『???』は問いかけてくる。

 俺は言葉を口にすることができない。涎を垂らしながら、画面を睨み続ける。ゲームが、人間を殺す能力を持っているというのだろうか。


 俺は、触れてはならない物に触れてしまったのだろうか。


 『まあいい。 サービスしておこう。 きみをいちど ころす』

 「ちょっとまて! マジでシャレにならねえよ!」

 首筋に冷や汗が滴る。現に焦げるような激痛が胸部を襲っているためだ。このゲームは『本当に』現実に痛覚を与えることができる。殺す。というなら、本当に俺は現実で。


 死ぬのである。


 こんなホラー展開があっていいはずがない。


 『またあおう』

 「ちょっとまっ……」

 俺が言葉を告げようとしたその瞬間。体の感覚がなくなった。というよりは頭の感覚がなくなったのだ。


 だから。何も考えられない。


 『ふふ。 だいじょうぶだよ。 チャンスは3かい も ある。 せいぜい こうりゃくに はげむことだね』


 『おきたら。 この せかいのいへんにすぐ きがつく。 それと きみの きおく の いちぶを いただくよ』


 『それじゃあ しょうぶ を たのしもう‼︎』



         ◇◇3◇◇



 「平日からだらだらと……。いい加減起きなさあい!」

 死んだ俺が、息を吹き返して目を覚ましたのは、母から平手打ちを食らって、慈悲のない言葉を浴びせられた時だった。

 「布団にも入らないで!」

 「……か、母さん? おはよう……ございます」


 最悪のセーブポイントだ。ゆっくりと体を起こして、時刻を確かめるために、俺はスマホ画面を除いた。現在八時四七分。まだ眠たい。昨日は夜遅くまでゲームをして……。


 「あーそうだった」

 嫌なことを思い出した。


 『ぼくは このせかいから トラクエ を しょうめつ させる』


 そんなふざけたことを『???』は言っていた。


 本当にそんなことができるのか。そもそも、昨日の出来事は本当に現実で起こったことなのか。俺はすぐにレトロマニアに視線を向ける。

 「……おいおい。マジかよ」

 視界の先に映り込んだのはレトロマニアにセットされているトラクエⅢと『Re:makers(リ メイカーズ)』の二つのカセット。昨日考えた、馬鹿げた事を俺は現実で行っていたようである。

 あの時、あの瞬間。起きた事象は、本当に現実で起きた事なのだろうか。


 「ん? 通知か」

 追い討ちをかけるように、今度はスマホから一通の通知が届いた。通知先はトラクエの掲示板アプリだ。俺は慌ててそのアプリを起動する。


 通知を読んで。俺は明らかなある異変に気がついた。

 「なんで……。トラクエの記事じゃねえんだ」

 そこにはトラクエに関する記事の一切が表示されていなかった。

 『???』は『世界からトラクエを消滅させる』と宣言した。それでも信じることのできない俺は、トラクエのキーワードを入力してインターネットで検索をかけてみる。


 『トラクエ に関する情報が見つかりませんでした』


 「嘘……だろ?」

 いくら検索しても。SNSのアプリで調べても。『トラクエ』という単語が見当たらない。存在しないのだ。

 「あ……」

 さらに俺は、昨日の一件で、一つ心当たりがある出来事を思い出した。


 「俺の作った掲示板も。他の攻略サイトが表示されなかったのだって。全部アイツの仕業なのか……?」


 『Re:makers(リ メイカーズ)』をプレイした際。トラクエ関連の情報を調べようと検索をした。だが、それに関与するサイトは全てエラーコードを表示したのだ。


 現在進行で、トラクエは世界からしょうめつしようとしている。

 トラクエは俺にとってかけがえの無いない存在で、俺の大切な思い出。その全てと言っても過言ではない。

 このままでは『???』が俺の全てを奪ってしまう。

 七月十二日。この日は、今年最も猛暑と報道された日だった。そのせいなのか。全身が熱気で覆われ、身体中から汗が噴き出していた。



 「もう店に入ろうぜ」

 「ダメだよ」

 「この花。かれてる」

 「白いお花さんと、ピンクのお花さん! お水ないかな? お花さんに水あげよ」

 「かれてるから。もうおそいんじゃないの?」

 「しらないよ。そんなの」


 蝉の声が街を包む。その中では子供たちの声が会話をしていた。駄菓子屋『(はじめ)商店街』の前に飾ってある花壇を、じっと見つめながら。


 「あれ、もう来てたの?」

 「あ! ヒトミ姉ちゃんだ!」

 「こんにちは。スグル君。みんな」


 次に現れたのは、俺が大嫌いなイマドキ女子高生。ムツミ ヒトミ。子供たちと、ヒトミとの会話を俺は頬杖をつきながら、店の中で眺めていた。

 それにしても。ヒトミが来てから二日目。早速客を連れてきたヒトミ。恐ろしい。

 「客引きチートレベルかよ」

 思わず俺は呟く。どうやら、あの小学生たちはヒトミが今朝のうちに集客して連れてきたらしいのだ。何はともあれ、母の作戦は順調に進んでいる。


 「おばさーん! じょうろとかあります?」

 「あるわよ。ほらこれ」

 「ありがとうございます!」


 ヒトミは母から受け取ったじょうろを、子供たちに渡す。

 「えぇ。ヒトミ姉ちゃんこれかれてるよ?」

 「枯れても分かんないじゃん。もしかしたら元気いっぱい咲くかもよ? 諦めない諦めなーい」


 平和な会話を適当に鼓膜に流しながら。俺はずっと『昨日の事』を考え続けていた。

 先ほど、母にトラクエの事について尋ねてみたが。


 「トラクエ? あの、子供の時からずっとアンタがやってたやつよね?」


 と。返答してくれた。

 まだ母の記憶にはトラクエがあるらしい。


 「げっ。またいるし」

 「教育係なのよ。俺は」

 うざったい。本当は無視して、『Re:makers(リ メイカーズ)』のことを考えたいのだが、母がいるうちはぞんざいにヒトミを扱うことはできない。

 「子供たちにアレやってどうすんだよ」

 枯れてる花に水やっても逆効果だろ。無駄な事をさせて、子供たちの夢を奪わないでもらいたい。


 「毎日水やりをするって約束したの。そうすれば毎日来るし、もしかしたらもっと人がくるかも」


 「さすがぁ。ヒトミちゃん。雇って正解だったわ」

 と。母がにこやかにヒトミに告げる。ヒトミは母に、満面の笑みを浮かべた。良く言えば商売上手。悪く言えば狡猾な詐欺師だ。


 「てかさ。アンタに私何も教わってないけど?」

 確かにそうだ。ヒトミに俺は何も教えてない。だとしても、イラつく奴だ。もっと言葉を選んで発言してほしい。

 「弟子は師匠の業を見て盗むんだよ。教えてくれるだなんて思うな」

 「おばさーん」

 「待て待て。懇切(こんせつ)丁寧に教えるから。まずは駄菓子からだな」

 面倒だ。このままだと本当に俺の存在価値が無い。一生ヒトミに頭を下げたまま、俺は馬鹿にされ続けるのだろうか。女子高校生に、肩身の狭い思いをさせられるというのだろうか。まさに、屈辱である。

 そんなの俺が可哀想だ。せめて、誰か慰めてくれ……。ください。


 悪戯に時間は流れ、午前中はヒトミに駄菓子商品の名前や種類。特徴などを教え、ヒトミに接客をさせた。普段、生意気なヒトミだが、子供と接するその姿は天使そのものだ。顔が良いというのは、本当に恵まれてて羨ましい。

 ようやく昼になり、母はパートに出稼ぎに行った。子供たちも帰って、駄菓子屋には俺とヒトミだけが取り残される。


 「なぁ」

 「話しかけないで。キモいのがうつる」

 「うつらねえよ。人を腫れ物見たく扱うな」

 「世間一般ではアンタは腫れ物でしょ」

 なんで酷い事を言うんだこの子は。小学生の時に「チクチク言葉」を学ばなかったのか。人を傷つける言葉は使っちゃいけないんだよ。謝りなさい。ほら。もうすぐツムグ君泣いちゃうよ。


 「いいから、俺の質問に答えろ」

 「ヤダ」

 「あのさ」

 「ヤダってば」


 「お前。トラクエって知ってるよな?」


 「はぁ?」

 「だから。昨日見せたろ。トランジェントクエストだよ」


 とりあえず調べておかないといけない事がある。俺の周りで、どれだけの人がトラクエを覚えているのか。だ。本当は街に出てトラクエを知っている人を調査したいのだが。まずは近い人だけでも、情報を得ないといけない。トラクエの存在がどれだけ消えているのか。昨日ヒトミはトラクエⅢを見て、トラクエを知っているはずなのだ。


 「あーあの。面白く無いヤツね。覚えてるけど?」

 「……そっか。サンキュ」

 「え。キモ」


 良かった。ヒトミはトラクエの記憶を覚えているようだ。どうやら俺の周りの人はトラクエを知っている確率が高いらしい。あとは、ソウジだけなのだが……。


 「時間通り来たよ。ツグ」

 「おう。待ってたぜ」

 と。ここでソウジが登場。実は今朝、俺はソウジに「昼に来れないか?」と連絡をしておいた。俺は今からやるべき事があるのだ。

 「あ。ソウジさーん。昨日ぶりですね」

 「ヒトミちゃん。昨日ぶりだね。こんにちは」


 「お前のあざとさも昨日ぶりだな」

 「うっわ。割り込まないでよオタクキッモ」

 俺はヒトミの言葉を無視してソウジの顔を見た。じっと見つめる俺にソウジは首を傾げている。


 「とりあえずソウジ。話があるから、俺の部屋に来てくれるか?」

 「うん。いいよー」

 「え。ちょい。仕事サボるの? 教育は?」

 不満げに俺を見つめるヒトミ。俺は悪辣な笑みを浮かべる。

 「なわけあるか。俺は今から休憩。お前は一時間後だよ。馬鹿め」

 「最ッ低!」

 ようやくヒトミの嫌がる顔を拝めた。ああ。至福だ。そうだ。今後バチが当たらないのであれば、俺が下せば良いだけの話じゃないか。頑張ろ。俺。


 「それじゃ、せいぜい一時間仕事頑張れよ。新人」

 俺はヒトミを挑発しながら、ソウジを子供部屋に案内した。


 「で、なんでお前がいるんだよ」

 「私も休憩したいからに決まってんじゃん」

 「ずらせよ。店番居なくなるだろ」

 「ヤダ」


 この野郎。どうしてことごとく俺の邪魔をするのだろうか。俺はトラクエを、大切な思い出を守るために必死であるというのに。こんなところで油を打ってる暇はない。

 第一、ソウジは役に立つから手伝ってもらうのだ。

 対してヒトミはなんの役にも立たない。もし役に立つとするなら、店番をしてもらうくらいである。


 「お前が居なけりゃ、店に誰も居ないだろが」

 「閉めてきたもん」

 「いやいやいや。後でバレても知らねえからな」

 「その時はアンタが怒られるんじゃないのお?」

 先ほどのことをよっぽど根に持っているのだろう。ヒトミは楽しそうだ。

 俺はため息を吐いて、ヒトミを説得することを諦めた。そうだ。ここに居ないものとして扱うべきだ。

 ヒトミはここに居ない。


 「ソウジ。ごめんな呼び出して」

 「ううん。いいけど。どしたの?」

 まずは、ソウジの疑問を解いてやらなければならない。俺は簡単に呼び出した経緯について話す事にする。


 だが。その前に。

 「ソウジ。まずお前に聞きたい事があるんだが」

 「ん? なんだい」


 「お前。トラクエ知ってるよな?」


 意を結した問いかけだった。もしソウジが覚えていないのであれば、作戦を二つ目に移行しなければならず『???』の言っていた『消滅』は手の打ちどころのない進行速度である事になる。なら対処の余地も、反撃の一手すら、考えられないだろう。


 ソウジはゆっくりと口を開く。

 「何言ってんだよ。トラクエはツグの大好きなゲームだろ?」

 「……そっかぁぁ」

 俺は全身の力を抜いて、安堵のため息を吐き出した。本当に、良かった。


 「んじゃあ。本題に入るぜ」

 俺は本題に入るために『Re:makers(リ メイカーズ)』を取り出して。ソウジに見せた。

 「何? この黒いカセット」

 「この前、俺が祖母の家で見つけた。謎のフレコンカセットだ」

 「ラベルも貼ってないし、カセットの形状も見たことないね」

 「だろ。レトロゲームマニアの俺の目をもってしてもこのゲームは見た事がない、正体不明のカセットなんだよ」

 「へぇ。すごいな。ツグでもプレイした事ないゲームだなんて」


 ソウジは俺の話に興味を持ってくれたようだ。俺はそのまま話を続ける。

 「今回呼び出したのは、このゲームについての話なんだ。実は折り入って手伝って欲しくてだな」


 ソウジは頷きながら、話を続けるようにそのまま促し、そのままそれに従った。俺は改めて協力を促す。


 「このゲームの攻略。手伝って欲しいんだ」


 「別に良いけれど……。俺は何ができるかな?」

 ソウジは少し困ったような表情を見せる。だが、了承はもらえた。これで作戦を進める事ができる。


 「このゲーム。トラクエを媒体にしてプレイするってやつなんだ。言ってもわかんねえだろうから、とりあえず実演するわ」

 そう言って、まず俺は『Re:makers(リ メイカーズ)』だけをレトロマニアに差し込む。そして電源を入れた。当然ゲームは起動しない。何度電源を入れても起動しないのである。


 次に、俺はトラクエⅢを差し込んだ状態で再び電源を入れる。すると、正常にゲーム画面が表示された。

 「ゲームカセット二つ……。これでプレイできるってこと?」

 「そう。まずこれがこのゲームの特徴」

 プレイヤーはアーリハンの街の真ん中に表示された。たしか……一度『???』によってゲームオーバーにさせられたのだが。復活して、最初の街に戻ってきた。と言う解釈でいいのだろうか……。


 と。色々と考えたいところだが。まずはソウジにこのゲームを説明するのが先である。

 「見ての通り、このゲームに映し出されているのはトラクエⅢでの始まりの街アーリハンだ。ただ少しだけ構造が変わってたりする」

 「確かに……。昨日見たアーリハンの街とほとんど変わらないね。……酒場と武具屋がないのか」

 「他にも、このゲームは媒体にしたゲームがクリアできないように沢山の情報の改変をしてる」

 「必要なものがなかったら、ゲームを進められないだなんて、大胆だねこのゲームは」

 「でも攻略法は必ずあるはずなんだ。お前は俺よかよっぽど頭良いし、冷静な判断もできる。だから、お前が必要なんだ」

 俺は真っ直ぐ、ソウジの目を見つめてそう告げた。ソウジは目を見開いている。俺の真面目さが伝わったのだろうか。


 「ゲームでそこまでボクが必要かは、わからないけれど……わかったよ。手伝う。なんだか、面白そうだしね」


 作戦完了。これで無事、ソウジを仲間にする事ができた。本当の事実は隠したままだが。

 ソウジに『???』との勝負のことは、このゲームをクリアしても打ち明けないつもりで、俺はいる。


 言ったところで、この世界から『トラクエ』が消えてしまうとか、ゲームの痛みが現実になる。だなんて必死に伝えても信じてはもらえないだろう。

 俺だって信じたくはないのだ。こんな面倒な事は。


 だが。このゲームをクリアするためには、俺だけでは絶対不可能であることは確かだ。

 相手は世界の概念すら変えようとする超常現象。それを人間一人が阻止するだなんて不可能である。俺が予測できない情報や、一緒に考えてくれる仲間が必要だったのである。


 その仲間に、ミスミ ソウジは最適なのだ。

 なにせ、失敗してこの家で引きこもっている俺なんかよりも、今こうして、上手く生きているソウジのほうがよっぽど信頼できるし、それ相応に頭も切れることだろう。



 「……あのー。それはいいんだけどさ」

 と。突然ソウジが申し訳なさそうに俺の後方を指差した。俺は示された方向に首を向ける。


 「ヒトミちゃん……。拗ねてるよ」

 そこには。正座をしたまま俯いて黙っているヒトミの姿があった。


 めんどくさいなこいつ。

 俺は苦笑いしながらヒトミに声をかけることにした。

 「む、無視しすぎたな。ごめんな?」

 ソウジと先ほどまで会話をしていたが、合間合間にヒトミは話しかけてきた。それを無視していたのだが。ヒトミはいじけてしまったのだ。


 「……別によかよ。私が悪かと」

 ヒトミは何故か博多弁口調になってしまった。


 俺はため息を吐くのを必死な思いで堪えて。笑みを浮かべる。

 「な! お前も一緒にやろうぜ! トラクエの魅力。お前にまだ伝えてなかったしな! はははは!」


 そんなこんなで。俺は『トラクエ』を救うための戦いを始めたのであった。

「そういや、このゲーム説明書なかったの?」

 と、隣に座るソウジが俺に尋ねる。

 「屋敷にあったのは、このカセットだけだったからな。それに、あっても読まないよ。んなもん」

 説明書は読まない。操作方法はプレイヤーを動かしながら覚える。感覚に身を任せるのが俺の流儀だ。

 「そっか。何か重要なゲームシステムが有れば良かったけどねぇ……」

 と、残念そうなソウジ。

 「これからゲームして覚えていけば良いんだよ」

 なんの気兼ねもなく俺はそう返答する。


 「ねー。この前と変わんないじゃん。物語のストーリーはどれよ! どれ!」

 そしてもう一人。ソウジの隣に座るヒトミが尋ねてくる。やはりうざったい。

 「それも進めるうちにわかるから! 安心しろ。このゲームは初見だから慎重に進めっからよ」

 なんせ、トラクエの『存在』が掛かっているのだから。


 俺は街でもう一度会話をすることにした。昨日は興奮していたせいで大切なことを忘れていたのである。


 RPGでの必須要素。その二。『メモ』


 「なに書き込んでんの?」

 「記録しておいて、いざ困ったときにヒントになるかもしれないから。こういうのはメモするんだよ。もしかしたら、宝箱のありかかもしれん」

 俺はそう言いながら、NPCに話しかけるたびにこまめにキャンパスノートに書き込んでいく。


 そうして、聞き込みを一通り終えたところで気になる台詞がいくつかあった。


 『おうごんのツメ は ピラミッド に あるの』

 『さいご の かぎ は とざされたしろ にあるよ』

 『なんでも やまもきりさく ガリアのつるぎ があるらしい』


 という三つの情報。そのどれもが『アーリハン』では手に入ることのない情報だった。だが、この三つの道具は手に入れればこのゲームでは有効にストーリーを進めるものになるのは確かだ。

 聞かないとストーリーを進められない。トラクエの常套(じょうとう)手段である。


 「とりあえず、まずは西にある塔に登って、山賊のカギを手に入れなきゃいけないな」

 俺は呟くようにそう告げる。と言っても、前回それをしようとして、スライミに殺されかけた。俺の横にはソウジとヒトミがいる。頭を堪えながらゲームをするというのは、なかなか堪えるものだが。


 やるしかないのだ。


 「ね。その塔に行くなら裏道使えば良いんじゃないの?」

 と。ヒトミの提案。俺は思わずコントローラーを握る手の力が抜けてしまう。それくらい驚きだった。

 「お前にしては良い見立てすぎないか⁉︎」

 あの何も考えなさそうなヒトミが、これからストーリーを進める上での、指標を俺に提示したというのか。

 確かに聞き込みの際。

 『とうへの うらみち が あるよ!』

 と、子供のNPCが言っていた。

 俺は涙を流しながら、ヒトミを讃える。


 「すごい。お前にそんな事ができるだなんて」

 「失礼すぎるわ! 普通に街の人たちの会話見ててそう思っただけなのに」

 屈辱的だが。ヒトミの提案は正解かもしれない。

 「すごいね。ヒトミちゃん」

 と。ソウジ。

 「えへ。ありがとソウジさーん」

 と。ヒトミ。


 なんだか呼吸が乱れている気がするが、俺はとにかく城の中に入ることにした。一階の左端に護衛兵が、侵入を防ぐために進路妨害をして入らない扉が一つだけあった。妨害するその護衛兵に話しかけると、


 『おっと! ここは とおれない!』

 とだけ告げるのだ。この手の正攻法で入れない場所は、実用性の高い装備品の眠る宝が隠されてあったり、ストーリーに重要なものがあったりする。


 だから、ヒトミのいう裏通路があるのはここの可能性が高いのである。

 「でも、裏道がここにあっても、通れないんじゃ意味ないじゃん」

 ヒトミはは不満げに俺にそう告げる。

 「城から一旦出て、城の外壁から入れたりするかも」

 ヒトミが空気を吐くように発した疑問を、すぐにソウジが解決してくれた。

 「そういう事だ。さすがソウジ。わかってんな」


 早速俺は城外に移動する。豪勢な佇まいの城には左右に、プレイヤーが通れるだけの一直線の細い空間がある。俺は扉が封鎖されていた左側の通路を進んでみることにする。

 そこらの城壁の見た目と、変わりないが。俺は十字キーの右ボタンを押した。

 すると、画面は暗転する。それと同時に、建物やダンジョンに入る時の効果音が響いた。


 「うし。無事入れたな」

 「わわ! ねえねえ! 穴空いてるよ!」

 部屋の真ん中に大きな穴がある。それを発見したヒトミは興奮している。おそらくこれが塔に行くための裏道。

 俺はその穴にプレイヤーを移動させる。すりと、プレイヤーは穴へそのまま落下した。

 フィールドは城から地下洞窟に画面表示が切り替わる。


 「ダンジョン……ではないみたいだね」

 「ああ。モンスターのエンカウントが無いみてえだ」

 俺はとりあえず安心する。戦闘を行わないで良い。というのは、あの痛みを味わう必要が無いという事だ。

 地下洞窟は一直線の道なりになっていて、俺はそのまま十字キー上ボタンを押し続ける。プレイヤーはそのまま前進する。


 「仲間が増やせない以上は、ゴリ押しで進むしか無いけど……。あらかじめ進められるような通路があっただなんて」

 しみじみとソウジは発言した。

 「だな。案外楽に攻略できてよかったぜ」


 本来ならあの抜け道はレベルを上げた状態で使えるショートカットの仕掛けなのだろうが。モンスターにリンチされずにここまで移動できるのは、このゲームでは有利に進めるための方法だ。


 というか、本来トラクエⅢにはこんな抜け道など存在しなかったわけだし。どうやらゲーム側にも慈悲くらいはあるらしい。


 随分進んでいると、突然、階段が現れた。

 「お。上がれるぞ」

 「上がってみよう」

 俺はソウジに同意して、その階段を登ってみる。

 すると画面表示は再び切り替わり、フィールド画面へ。普通ならフィールドに出た以上。モンスターの出現を想定しないといけないのだが。フィールドに移動したと言っても、目と鼻の先に、西の塔が(そび)え立っている。……はずだった。


 「な……街かよ」

 目の前に現れたのは塔ではない。村であった。

 「でも、この村に何かのヒントがあるかもしれない。行ってみよツグ」

 「ああ。仕方ねえな」

 「えぇ。つまんなーい!」


 俺はあくびを噛み殺しながら、村の中に入っていく。

 「でも、ここから気を引き締めないとね」

 ソウジは俺に注意を払う。俺は頷いた。

 「ああ。この先何が仕掛けられてるかわからねぇ。慎重に進ませてもらうぜ」


 まずは『聞き込み』だ。何かしら塔に行く手立てや、このゲームを進めるための手立てがあるかもしれないのだから。

 「この村も構造変わってねえか?」

 最初はただのパクリゲーだと思っていたが、一筋縄ではクリアさせないための『???』の嫌がらせに思えてきた。


 「村に入って、何かイベントが起きるわけでもないし。聞き込み消化だけで終わっかなぁ」

 「何もないなら、別のとこ行けば?」

 ヒトミが当然のように俺にそう聞いてくる。

 「あのな。さっきメモとってたろ。聞き込みしないと後々気がついて戻ったりとか、色々面倒なんだよ」


 特に。刻々と『トラクエ』という存在が消えようとしている今。悠長にやっていたらゲームプレイしている暇はない。

 「このゲームで大切なのは聞き込み。NPCがいたらまず話しかける。どんな村でもどんな街でも、一人の噂みたいなんで、世界を救うヒントになんだよ」

 「へー。そーなんだ」


 質問の回答を聞くと、目を細めて頬杖をつくヒトミ。その見え見えの『楽しくない』態度が気に食わない。本当に、トラクエの何もわかっちゃいない。

 トラクエ消滅の危機が訪れるのであれば、あの時、しっかりとヒトミにトラクエの重要さについて教えるべきだった。


 「ね。なんで人の家の壺割ったり、箪笥の中覗くの」

 「あ? いい道具あるかもだろ」

 「ドロボーだし。器物損壊じゃん。掴まれよ」

 「ははっ。ヒトミちゃん面白いなぁ」


 ソウジは、真面目にヒトミが質問しているのが、どうやら面白いらしい。


 そうして、聞き込みを続けながら、俺はメモを欠かさず行っていた。その中で気になるものがあった。


 それはとあるNPCの発言。


 『おべんきょう は がっこうでしないとね』


 というもの。

 俺はメモに記入した台詞を指でなぞる。それをソウジが気がついた。

 「どうにかした?」

 「いやな。コイツ。なんで急に日本人みたいな名前で、場違いな台詞なんだろうと」

 学校はこの世界に存在しないし、ましてや、これを発言したのは『かずき』という日本名のNPCだ。


 「たしかに。学校ってこの世界観にあってないセリフだもんね」

 と、珍しくヒトミが『ゲーム』の会話に参加している。

 「確かにな……」

 と、俺は答えて。ゲームを再開する。この謎発言が、何かしらのヒントになるといいが……。


 他にも、似たようなものが見つかる。それは『なおき』というNPCの発言。


 『がっこう の せきぞう は ひだりから みな』


 「学校っていう単語が重複するなら。大切になるのは確かだろうね」

 ソウジの見解に俺は頷く。

 「そうだな。もしかしたら学校がこのゲームには出るのかも」

 「えぇ。夏休みなのに学校ヤダ」

 ヒトミは嫌そうにそう告げる。

 「現実じゃないからいいだろ」


 「お。これ答えだろ」

 聞き込みを続けていると、いかにも塔に関する露骨すぎるヒントを貰った。


 『にしのとう に いくなら。 ここから みなみにすすんで すぐに ちかくにあるわよ』


 俺は早速村から出るためにプレイヤーを入り口まで移動させる。

 「そういや、宿屋とかはあるんだね」

 「ああ。でもこのゲームセーブはできないぞ」

 「え……」


 俺の発言にソウジは唖然としている。

 「それじゃ、一度ゲームオーバーになったら最初だからってことなの?」

 「そのかわり……」

 俺はレトロマニアの電源ボタンをオフにする。当然画面は暗闇に支配された。

 「何やってんの⁉︎ ええ?」

 「急になにしてんのよ!」


 二人は青ざめている。しかし、俺はニヤついていた。俺は再び電源をつける。すると、先ほどまでの村の入り口に立っているプレイヤーが映し出される。


 「オートセーブ付きだ」

 「……えぇ。そうなのか。よかったぁぁ」

 「事前に説明してよ! また最初からって思ったんじゃん!」


 気を取り直して、俺たちは早速村から南に進んでいく。すると。そこには大きな塔が、今度こそ聳え立っていた。俺はすぐに塔の中に入る。


 「ありゃ。場所の名称……。ヒガシヤマ小学校になってるぞ」

 表示されたダンジョンの名称が変化している……どういう事だろうか。


 「ツグ。これ、俺たちの通ってた小学校の名前だよな……?」

 「……ああ。とりあえず、進むぞ」

 「いやいや! 二人が通ってた学校って、それってホラーじゃない⁉︎ このゲーム怖いんだけど⁉︎」

 ヒトミの意見はごもっともだが。進めるしかない。俺はこのゲームを進めて、どうしても『トラクエ』を進めないといけないのだから。


 ソウジはしばらく口を閉ざしていたが。

 「進めよう」

 と。言ってくれた。俺はそれに頷いて、ゲームを先に進める。


 ダンジョン内は、外装と同じように塔の造りをしている。バグで片付けたいところだが、地元の特定の学校名が表記されたのだ。そんな偶然もあるわけがないだろう。


 「構造は、トラクエⅢの西の塔のままだね」

 「そうだな。……わかんねえけど。とりあえず登ってみるしかねえな」

 俺は登る前の下準備としてメニューを開き道具コマンドを選択する。トラクエではお馴染みのシステムだが。プレイヤーの情報や所持品を使用、確認したり、さまざまな用途を凝縮したものを『メニュー』と総称するのである。俺はその中で道具コマンドを選択したのだ。


 その中から聖水。という道具を使用する。

 事前に村で購入したものだ。使えば一定時間モンスターのエンカウント数を増やしてくれる。こうすることでモンスターの出現を減らして進める事ができるのだ。


 塔の中に入ると、トラクエⅢでお馴染みのダンジョンBGMが流れる。


 聖水の効果で無事に、俺は塔を登っていく。トラクエと構造は変わらない。難なく俺は最上階まで進んだのだが。

 最上階の一歩手前で、戦闘画面に切り替わる。

 俺は舌打ちする。

 今まで避けていた戦闘だ。


 「現れたのは盗賊か」

 確か俺は、初期状態で、レベルも一だったはずだ。もちろん。勝てるわけない。


 と。思ってたが。

 「あれ。レベル上がってる」

 俺のレベルは十で上がっていた。何が影響して俺のレベルが上がったのかは分からないが。これで戦闘はできる。事前に、なけなしの金で買い揃えた皮の防具一式。そして銅剣。これなら、満足に戦うことができる。


 俺は攻撃コマンドを選択する。

 先手必勝。俺は盗賊に会心の一撃という、ダメージが倍になるクリティカルを与えた。

 「うっしゃ会心!」

 「なにそれ」

 ヒトミは首を傾げている。

 「トラクエには会心の一撃っていうクリティカル判定があるんだよ。確率は低いが、当たれば倍のダメージを出せる。モンスターも一撃で倒せたわけだぜ」

 運良くダメージを食らうことなく、俺は盗賊を倒した。


 リザルト画面に移行する。どのくらい経験値がもらえるんだろうか。

 俺はボタンを押してリザルトを進めていく。


 「……は?」

 「嘘だろ」

 「なになに何が?」


 俺とソウジは言葉を失う。

 「……おいおい。これがなきゃモンスターと戦う意味ねえじゃねえかよ」

 「ツグ。このゲーム流石にやりすぎなんじゃ……」


 「何が!」

 一人だけ変化が分からないヒトミは声を荒げる。俺はため息を吐いて。その変化について発言した。


 「このゲーム。EXP値。……つまり、経験値が存在しねえんだよ」

 『Re:makers(リ メイカーズ)』西の塔(ヒガシヤマ小学校)攻略にて、驚愕の真実を知った俺たちだが。それでも俺は、なんとかその事実を受容して。ゲームを進めることにした。

 ソウジは未だに経験値が存在しないことについて、絶望しているが。俺だって本来はこんなクソゲーやりたくない。ソウジの反応が正常なのである。


 気を取り直して、俺は最上階に上がる。そこには大きな門が待ち構えていた。画面越しに映るその門に俺はプレイヤーを近づけた。


 「……やはりな」

 と、俺はまたもやため息をこぼしながらそう告げる。


 ダンジョンに入って、およそ十五分。ついに山賊の鍵が眠っているであろう場所にたどり着いた。だが、ここに来るまでに、ダンジョンを進める事が容易すぎたのである。

 なぜなら、今の今までストーリーを進めさせないように、ゲームシステムすら改変するこの『Re:makers』が一筋縄でゲームの肝とも言えるダンジョンを、生優しく調整するわけがないためだ。聖水の効果で安易に登ったのはいいが。俺は扉に近づいても。

 「開かねえや。この扉」

 扉が開くことはない。俺は扉の目の前でメニューを開いて調べるというコマンドを選択した。


 『このとびらは あんごう によって まもられている ようだ』


 と。テキストが表示された。

 振り出しに戻らないといけないらしい。


 「どうやら。塔の中にあるはずなら暗号を探さないといけないしい」

 「ええー、せっかく登ったのに?」

 これまでの道が長かった分、ヒトミは嘆いている。俺だって同じ気持ちだが、これもRPGゲームの一興。一筋縄ではいかないからダンジョンなのである。


 ということで、俺はすぐに最上階から一階ずつ、階段を降りながら、暗号を調べることにした。

 途中、いくつか戦闘を行ったが、なぜかレベル十になっていた俺は、そんなに体に痛みを感じることなく。戦闘を難なく切り抜けることができた。


 「ツグ。その昔からのダメージ食らうと、いたっ。っていうのは治ってないんだね」

 と、ソウジは笑ってくれているが。事実。本当に痛みを感じているのである。まだ冗談で流せるから良いのだが……。これから先が思いやられる……。


 「ね。この塔の端っこってさ。壁になってるの?」

 探索を続けていると、突然、ヒトミが疑問を口にした。思いついた疑問を考えなしに聞いてきやがる。

 「壁じゃなくて、空洞になってるよ」

 「へー。そうなんですね」

 「で、間違えてそこまで移動した落下するんだ」

 そんな時でも、ソウジは懇切丁寧に教えてくれる。ありがとう。俺は心の中で感謝を伝えた。


 「で、落ちたらどうなるの?」

 「リセットすんだよ。塔を離脱して、また最初に戻る」

 今度は俺が返答した。間違っても塔から落ちることがないようにしなければ。面倒な事になる。なにせまた一階から登らないといけないためだ。

 しらみつぶしにこうして一回ずつ降りて確認しているが、途中で暗号を見つけれたら、そこから戻ればいいが。

 俺はこのゲームで周りくどいことはしたくないのである。


 「あ!」

 「今度はどうした」

 いちいち横で表情が変化するヒトミに苛立ちを覚えてしまう。さっきから邪魔しかしていない。


 「ね! これって落ちたら扉が開くんじゃない?」

 何を言い出すかと思えば、また馬鹿なことを思いついたようだ。そんなわけがあるか。

 「んなわけあるかよ。ただ一階にもどるだけだろ」

 「いや、ヒトミちゃんの勘……。もしかしたら当たるかも」

 ソウジは楽しそうに、俺に提案する。二人ともこのゲームが一つのゲームの運命を左右するなんて考えていないのだ。

 「さっすがソウジさん。わかってる」


 俺は、これで何度目になるのかわからないため息を吐いた。

 「まぁ……。お前の提案で一度救われてるからな。乗ってみるか」

 トラクエ存続の未来が掛かっているというのに。いい加減で良いのだろうか。

 と言っても、何ごとも挑戦しなければわからない。

 RPGの基本の一つ。挑戦である。


 俺は頭に疑念を残したまま塔の外まで移動し、落下した。


 「ええい! こう言う時はノリと勢い!」

 どうにでもなれ。と、俺は心の中でそう叫んだ。思わず目を瞑る、失敗した時のことを考えると、それを直視するのだけは嫌なのだ。

 ゆっくりと、視界を開いた。


 すると、プレイヤーは塔の外に放り出され、フィールド画面に変化していた。

 「ほらやっぱりだ! そんなヒントあるわけねえんだ!」

 馬鹿を信じて損した!


 「あははは! 全然ダメじゃん」

 涙を流しながら拳を握る俺を尻目に、ヒトミは腹を抱えて笑っていた。他人事だからと、調子に乗り過ぎではないだろうか。俺は怒りが込み上げる。

 「はは。ダメだったね」

 「笑ってる場合じゃあねえっての……」

 笑っているソウジが目に映ると。怒る気が失せた。

 仕方ない。挑戦をしてダメだったのだ。男に二言はない。だから、文句を言わない。


 「仕方ね。一階からギミックがないかどうか。見直すぞ」

 気を取り直して俺は塔に入っていく。

 すると、前回入った場所とは違う画面に変更されていた。そこには三つの石像が佇んでいる。

 そして、石造の先には唐の外壁が佇んでいた。

 よく考えてみれば、俺は塔に入る時に先程後側から入ったのだ。冷静になって考えてみれば、後ろから入る。と言う選択肢があったのである。


 またもやヒトミに気付かされてしまった。不覚だ。


 「ほら! ほらほらほら! やっぱ間違いないじゃん⁉︎」

 「たまたまだろ。……でもまぁ。助かったよ。サンキュな」

 「いいってことよー。ふははは」

 調子乗っているヒトミは置いといて……。俺は石像を調べることにした。すると、三つの石像に、このような記号が順番に表示されふ。


 『K2 K1 K40』


 これは石像を右から調べた順番である。すぐに俺はメモを取った。

 「後は、何も無えみたいだな」

 「良かったね。多分これが最上階のヒントになる記号だ!」

 「はいはいはーい! 私もそう思いまーす!」

 「まあ、待てよ。ヒントだからって。直接扉が開くわけないだろ」


 そうだ。あくまでも、見つけたのは扉を開くための助言の可能性が高い。ヒントはヒントだ。名前ではない。そのヒントたちを掛け合わせて、初めてトラクエでは答えが導き出せるのだ、


 これも、RPGの基本の一つ。考えること。


 試行錯誤はRPGの醍醐味(だいごみ)である。

 ならば、ここからはプレイヤーである俺が役割を果さなければならない。

 考えて考えて。答えを見出さないといけないのだ。


 さっそく俺は塔の一階にたどり着くと、何かギミックがないのかを調べることにした。

 まずは床だ。スイッチがあるかもしれない。俺は一歩一歩進むたびに、メニューコマンドで『調べる』を選択する。


 しかし、何も『なにもないようだ……』という反応しか返ってこなかった。


 「床がダメなら……壁か」

 残念ながら、一階には宝箱も、柱も存在しない。殺風景な造りなのである。

 仕方なく俺は壁を調べることに。


 「右もダメ、左もダメ。前もダメなら……。後ろはどうだ!」

 消去法で最後に残ったのは後方の壁。俺は調べることに。

 すると、『調べる』の返答に、変化が起きた。


 『かべ を しらべてみると、 ちいさな あなが ある。 その さきには せきぞうが みえる』


 と、テキストに表示されたのだ。俺も含めて三人が言葉にする前に拳を作ってガッツポーズをした。

 「これってさっきのだよね! てことは」

 「うん。ということは、記号の謎が分かれば扉の暗号が解ける!」


 二人の意見に俺も賛同する。塔攻略の兆しだ。俺は気を引き締める。


 「つーことは。この謎記号だけだな。Kってのは何だろう」

 「んー。学校だから、教室とか?」

 こんな時に冴える発言をするヒトミ。そろそろ俺はヒトミという人間を見直さないといけない。馬鹿とハサミは使いよう。とよく言ったものである。


 「教室……。つーことは、数はクラス人数……?」

 謎解きは昔から嫌いだが、そんなことを言っている場合ではない。

 考えろ。考えるんだ。

 俺は必死に頭の中の知恵を振り絞った。

「たしか前にNPCが、それにまつわるヒントを言っていたよね」

 と。ソウジが顎に手を当てながら俺に尋ねる。

 「ああ。ちょっとまってくれよ」

 すぐさま俺は、メモを取っているノートを見返した。

 「これだな」


 該当するのは。


 『おべんきょう は がっこうでしないとね』

 『がっこう の せきぞう は ひだりから みな』


 の二つ。

 一つ目のヒントで、まず暗号が、学校にまつわることであることが確定した。そして二つ目。

 「左から見る……。K40からK1。そしてK2になったな。教室で人数……。だめだわっかんねえ!」

 必死に考えてみるのだが全く答えが出てこない。教室とクラス人数……。なんかの実証実験とかだろうか……。


 「ツグ……。到底あり得ない。話なんだけど」

 そう言って、ソウジはゆっくりと口を開いた。

 今まで軽やかで、いつも笑みをこぼしていたソウジが、初めて頬を下げて真剣な表情をしている。俺は心臓が止まるような緊張感に苛まれたが。話を伺うことにした。

 「聞かせてくれ」


 「これ。僕とツグの話じゃないかな?」

 ソウジの放った言葉に。背筋が凍りつく感覚が芽生える。すなわちそれは俺とソウジの過去だ。すぐさま俺は否定した。

 「んな。そんなわけあるか。こ、怖いだろ」

 「そ、そうだよ。だってこれゲームでしょ? 二人の過去を示してるんじゃ……」


 そう。そんな事が現実に起きてはならないのだ。だが、俺は否定しながらもその可能性があるかもしれないと、そう思ってしまう。相手は世界の概念を変える超常現象だ。俺たちの身近なものを再現した、と言われても、信じれない話ではない。


 「根拠はあるんだ。まず、この場所の表記が西の塔ではなく。『ヒガシヤマ小学校』であること」

 「……俺たちの母校だな」

 「そしてもう一つ。村に登場したNPC。かずき、なおき。について……。ツグ、聞き覚えがあるんじゃないか? これは、ヒガシヤマ小学校のカズキと、ナオキのことなんだ」


 「カズキ……。ナオキ……。 あ」

 忘れていたが、思い出した。カズキとナオキ。二人は双子の兄弟で、小学校五年と、六年の二年間一緒だったクラスメイトだ。たまに、ソウジと一緒に四人で遊んだこともある。

 これを認めたことで、この暗号が、俺たち個人の過去であることの妥当性が確立された。


 「……そうか。この暗号。俺と、ソウジが」

 「そうだよ。これは、僕とツグが」


 「「初めて会った時のことを示してる」」


 俺とソウジ。二人が初めて会った場所。それは空き教室で、すべての始まりの場所だ。

 「なぁ……。ソウジ。お前と会ったのは、俺が独りの時だったけか」

 ソウジには伝わらない思い込めて、俺は話を切り出した。

 「うん。覚えてるよ。最初に声をかけてくれたのは、ツグだけどね」

 「そうだっけ? あ。そっか。そうだった」

 「それで、しばらく一緒に遊んで、トラクエとかRPGのゲームを語り合ったんだ。同世代でレトロゲームに詳しい人間なんて、ツグぐらいしかいなかったし」

 「でも、楽しかったよな」

 「うん」


 何気ない日常の淡々と過ぎていく会話のように、俺とソウジは会話を続ける。


 「なに! なに! 私も混ぜてよその会話! アンタの過去ぉ!」

 「んだよ。気になるのか?」

 「うん」


 こいつが俺の過去が気になるなんてのは珍しい。ま、どうせソウジのお墨付き効果だろうが。仕方なく、俺はヒトミに『その当時』を話すことにした。


 「俺は昔っからオタクだったからな。んでもって、ゲームを作りたいって夢を持ってた。クラスの端っこでノートにゲームの設定を創ったりしてな」

 いつも笑い声や走る音、友達同士が話し合う声の隅で、俺は自分だけの世界にいた。なにより、ゲームの事を考えるのが楽しかったし、独りで考えるのが好きだったから、ずっとそうしていた。


 「まぁ。色々あって、てか。一人でいたかったから、空き教室でヒソヒソと趣味を堪能してたんだわ」

 ヒトミは「うわぁ」と言いながら、話を続けるように促す。


 「だけど。コイツに……ソウジに出会った。同じ趣味がある奴なんていないと思ってたけど。コイツに出会って、沢山の話をして。ゲームがもっと好きになった」

 痒くもない後頭部あたりをさすりながら、俺は笑みを浮かべて話を続ける。

 「それはボクも一緒だったよ。同じ趣味を持つ友人に出会えて。は本当によかったって思ってる」


 ソウジの言葉に俺はゆっくり口角をあげる。

 「だな」


 「へぇ……。それが二人の初めて会った時の思い出なんだね」

 ふと。気がつけば、俺はヒトミの方へ視線を移動させていた。目に映るヒトミの表情が予想外で、そのヒトミの反応に、俺が驚いたからだった。


 目の前に映るヒトミは、楽しそうに笑っているのだ。


 「そうだよ」

 俺も釣られて笑みをこぼす。コイツ、割と悪くない奴なのかもしれない。


 「何笑ってんのよ。キモ」

 「お前な……」



          ◇◇5◇◇



 気を取り直して、俺らは謎解きを再開する。

 「つーことは……。左から石像を見るとK40からK1。そしてK2になるんだよな」

 「うん。だから、最初はクラス全員の数、次にツグ。そして、ツグとボクになる」

 「クラスってそんないたっけな」


 俺は昔のことを思い出しながら、石像を左から順番に調べることにした。

 すると。画面が暗転して、真ん中に文字が表示される。それはいつものテキスト表記ではなく。特殊演出のものだった。


 『よくぞ。 みやぶった。 さいじょうかいにて きさまを まつ』


 画面は元に戻ると、一階の真ん中にワープホールが発生した。

 「なんか! ボワワワってのが出てきたよ!」

 先程から無駄にテンションの高いヒトミ。しかし、これは近道だと考えていいだろう。

 「どう思う? ソウジ」

 一応。ソウジに確認を取ってみるが。

 「多分これは、最上階にワープできるものと思うけど……」

 疑念に思ってしまうのは、この『Re:makers』というゲームが、これまでありとあらゆる悪辣使用によって、俺たちを苦しませてきた。ということ。これが罠である可能性は十分に高いのだ。


 「ま。考えたいところだが……」

 俺はプレイヤーをワープまで移動させる。


 迷った時は、考えても仕方ない。それはヒトミが気付かせてくれた大切な事だ。


 冒険は、常に挑戦の連続なのだから。


 「一か八か! どんと来い!」

 意を決して、今度は目を瞑らずに、俺は結果を見つめたのだった。


 視界に映る場所は……。

「なにこのブタさん」

 「わかんねぇ。鎧甲冑着てるし。ボスか?」

 「財宝を手に入れる前の、試練って感じだね」


 最上階……。ではあるが、扉の前に豚型の戦士が仁王立ちしている……。見た目は強そうに見えないのだが。


 だが……。


 俺はコイツが現れた時から、身震いしている。ゲーム画面から感じる、威圧感。圧迫感。圧。圧。圧。

 溢れ出て俺の全身に降り注ぐように、その脅威は迫り来るのである。


 これが。このゲームのボス戦なのだ。


それではまた。

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