prologue
『自分が書ける物語とは何か』というのを必死に模索して、思いついたのがこの物語でした。
ゲーム×ミステリって結構面白いんじゃないのかな。と思ったわけです。
読んでいただけると幸いです。
ロクでもない人生を、今日まで歩んできた。
そんな人生で、大きな挫折を二度経験した。
一つは、中学生以降、友好関係をこじらせ、まともに友人と付き合うのをやめたこと。
もう一つは『ゲームディレクター』という夢を諦め、尻尾を巻いて地元に戻ってきたこと。
ハジメ ツムグ。二三歳。童貞。
職業。ひきこもり、ニート。
好きなもの、レトロゲーム。
二〇一九年。七月八日。
現在。二ヶ月後に発売される某有名ゲームソフトの予約を済ませて、帰宅途中。久しぶりの外出だった。
強い日差しからなる倦怠感と、拭うことすら億劫な汗がまとわりつく。さらには帰り道の途中。追い討ちをかけられたかのように、足止めを食らってしまった。
「ああもう‼︎ サイアク」
それは、こっちの台詞である。
視界の先で、容姿端麗な女子高生が苦渋の表情を浮かべ、文句を言い放つ。
肩までのツヤのある黒髪に、今時のナチュラルメイク。もちろんスカートは短い。その姿はまるでゲームのヒロインのよう……。
その『ヒロイン女子高生』が、眉を顰め、毎朝入念にセットしているであろう前髪を、無造作にかき上げている。おまけに、大きな目は潤み、今にも涙が零れ落ちそうだ。
「アンタのせいで、学校の奴らに馬鹿にされるの。変な噂が立って、笑い物にされる!」
「んな事言われても……俺はただ良心で助けたわけだし……」
「余計なお世話って言ってんでしょ!」
帰り道に見かけた女子高生が、男子にウザ絡みされていた。それを助けようと声をかけただけなのに。目の前の女子高生は、脳内処理の末、俺の善行を迷惑極まりない行為と罵った。
いや。たしかに俺はキモいだろうけど。
見ず知らずの他人を助けるには、こんなひきこもりのキモオタは場違いだろうけども。
だがしかし、人助けをしたはずの俺が、不服を訴えられているのはおかしい。
俺が容姿的に恵まれていないとしても、助けただけでこれは……さすがに、不幸が過ぎる。
『人生』はクソゲーだ。
よく考えてほしい。この世界をゲームに例えてみよう。目に映る全てが流行を抑えた美麗グラフィック。かつ自由度は限りなく無限大。人生というストーリーはボリューム満点だ。善行を積めば、信頼という経験値も貰える。
ただ。それだけではないから『クソゲー』なのである。
まず、この神ゲーとは、キャラクリ要素で自己選択ができない。ほぼ運によって、容姿が決められてしまうガチャシステム。
二つ目はセーブデータが一つしかない事。スタートボタンを押したきり、やり直しなんてことはできない。リセットも不可能で、自分自身でゲームをやめない限りは、死というクリアまで果てなく続く。
三つ目は、上記に述べた要素のせいで、プレイヤーに差別が生じてしまう。
イケメンはもてはやされ、ブサイクはこんなふうに……。
「なんでお前なんかに……はぁ。もうマジでウザい!」
と、罵られてしまう。
個体それぞれに違いがあり、プレイスタイルも無限大だが、大前提、思う存分楽しむためには旧作の継承データが必要だ。(遺伝子など)
そう。このゲームはのっけから平等ではない。一見神ゲーに見えるこのゲームは、プレイしてみれば身震いするほどクソゲーなのである。
改めて言おう。人生は『不平等』だ。
「ねぇ。てか、人の話聞いてるの?」
と、俺が考え事をしているうちに、気がつけば女子高生の端正な顔立ちが急接近してきた。俺は顔色ひとつ変えず、ため息混じりに口を開く。
「あー。うん。聞いてた聞いてた。クソゲーの話だろ?」
「全ッ然違う」
女子高生は、俺の返答に、顔を紅潮させながら怒鳴る。
困ったな。
しばらくこの無意味な時間が終わることはないだろう。
とりあえず、俺は思考停止することにした。
ハジメ ツムグ。二三歳。童貞。
職業。ひきこもり。ニート。
『特に』好きなもの。レトロゲーム。
『特に』嫌いなもの。完成度の高いゲーム。
読んでいただきありがとうございます。これからも何卒、よろしくお願いします。