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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
三章 習うより慣れろ

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いかにもな品



 再び照明魔法を唱え、洞窟内を照らす。

 あの時は倒れていたカドルクを見つけた事でそれ以上周囲を見たり先へ行けそうな場所を探したりする余裕はなかったけれど今は違う。

 落ち着いて周囲を見れば、特に道が分かれたりしているわけでもなく一本道で奥へ続いていた。

 よく人が通っている場所はそうでもないが、あまり人が通らないだろう端の方は岩だとかがゴツゴツとしている。下手に中を駆けまわろうとすれば、間違いなく怪我をするのが目に見えるようだ。


 一体どれくらい続いているのだろうか……と思いながらも進めば、思っていたよりも短かった。途中から海と繋がっているような事をカドルクが言っていたけど、想像の中ではもっと先まであると思っていたのだ。結果として思っていたよりも半分くらいの短さだったけれど。


 そうして辿り着いたそこは、通路が途切れ途中から海になっているような状態だった。どれくらい深いかはわからないが、村で暮らしている者たちは泳げるだろうからあまり気にしていないのだろう。

 異形化してお互いが殺しあっていた、という言葉通り既にそこに何があるでもなかったけれど、通路の終わり付近には血の跡がべっとりとついていた。明らかに殺人現場。死体はどこにもないけれど、誰が見てもここで殺人事件が起きたと言うに違いない。そう思える程に酷いことになっていた。血の匂いだけではなく海の匂いも混じっているから、呼吸的な意味で思っていたより酷くはない。とはいえ視界的には酷いものだが。


 道が途切れ海に続いているその先、大体二メートル程先だろうか。そこに、何かが突き刺さっていた。

 もしかしたら浮いているだけかもしれないが、浮いているだけなら波だとか潮の流れでうっかりどこかに流されていてもおかしくはない。けれども揺れる波に漂うでもなくそこから動かないまま存在しているので、恐らくは下に突き刺さっているのではないか。ウェズンはそう判断しつつギリギリまでその突き刺さった何かに近づこうとした。

 とはいえ、完全に近づくとなると海に入らなければならないのであくまでも道がある場所までだ。


 それが何であるのか、を問われるとウェズンとしては正式名称がわからないので答えようがなかった。

 そもそも本当にそれがそうであるかも疑わしい。


 例えばゲームに出てくる武器で、杖。

 その杖の上の方に何やらゴツゴツとした飾りがついているような物。

 魔法の触媒だとかで使うのではなく、時として打撃武器として扱う事もできるような。


 見た目としてはそんな感じが近いと言えた。


 武器というよりは儀礼用の杖と言った方が近いのかもしれない。

 だが、海に突き刺さっているらしきそれが、本当に杖かと問われるとウェズンには断言できるような自信はなかった。


「まぁ、でも、これだよなぁ……」


 誰にともなく呟く。

 カドルクの話に出てきた旅人が設置しただろう、海の瘴気を浄化するだろうアイテム。

 それっぽい物はこれしかない。

 海の底に沈めてある、とかだと下手すれば流されていくだろうし。錨のような重しがあれば話は別だがそう都合のよいものだろうか? とも思う。

 旅人があらかじめここに何らかの用事があってやって来た。そしてそこに設置するために準備していた、というのであればまだしも、そうでなければ錨のような物などそう用意してあるはずもないだろう。


 ウェズンたちのようにリングという無限収納に近しい物があるなら、意味もなく無駄アイテムをため込んであったからあった、という可能性もあるけれど。

 だがリングに施された術式はあくまでも装着者の魔力に準ずる。魔力量が少なければ無駄なアイテムを溜め込む余裕すらないのだ。


 それに、と思う。


 すっと手の平に出したモノリスフィアを海から生えてる杖みたいな物に向ける。


 瘴気汚染度 85%


 どう足掻いてもアウトである。


 正直見ない振りをしたかったけれど、何だったら杖からは黒というか紫というか、まぁともかくなんとも不穏っぽい色をした靄のようなものが出ているのだ。これで浄化していますよと言われても信用できるかという話である。


 最初の頃はもしかしたらきちんと浄化できていたのだろう。

 だが、途中からその効果は消えたか変質したか……どちらにしても、この近辺の瘴気濃度の汚染度合が上昇した原因はこれだと断言してもいい。これがある限りいくらウェズンやイアが浄化魔法を唱えたところで完全に浄化しきれる事はないだろうし、いずれは自分たちの身も浄化魔法でどうにもできないくらいに汚染されるだろう、とよく考えなくともわかる事だった。


 壊すのは確定している。


 だが問題は、このまま破壊して大丈夫なのか? という点だった。


 壊した途端に瘴気が周囲に霧散して散っていくならまだいい。

 だが、爆発的にこの杖の中に溜め込まれたかもしれない瘴気が広まったら。

 一番危険なのは勿論この場にいるウェズンだ。異形化、というのがどういうものかはよくわかっていないけれど、そうなった場合果たして自分の浄化魔法で戻れるかもわからない。

 自分だけが被害に遭うならいいが、村の方で待機してもらっているイアたちも危険かもしれない。何も知らないうちに突然大量の瘴気が襲うなんて事になったら、イアならまぁ、大丈夫だろうとは思うがカドルクが無事でいられる保証がない。


 ここで壊すというよりは、まずはあれを回収するべきだろうか……と考えてウェズンは魔術を発動させようとして――


「あれ? 壊さないんですか?」


 発動は、できなかった。

 声は背後から。咄嗟に振り返ったウェズンが見たのは、カドルクのようないかにもこの村の住人ですといった服装とはかけ離れた――それこそ旅をしています、と言わんばかりの服装の男だ。


 漁をしている割に肌が白かったカドルクとは違い、こちらは日に焼けているのか生まれつきかはわからないが、南の方の生まれです、と言われれば素直に信じられる程度には褐色の肌をしていた。だがしかし、銀色の髪は肩のあたりで揃えられたおかっぱではあるが、こちらは一切傷んだ様子がない。

 余程手入れに力を入れているのか、そうでなければあまり日の光の下で活動する事がなかったのか……ウェズンには判断がつかなかった。


 金色の瞳はどうして壊さないのかとでも言い出しそうな程不思議そうにウェズンを見ている。


「ここで壊した場合、周囲の影響がどう出るかわからない」

「あぁ、英断ですね。でも、この土地を犠牲にしてでも貴方は壊すべきだったと思いますよ」


 その言葉が終わるよりも少し早く、男の周囲で魔力が高まるのを感じて咄嗟にウェズンは何かを避けるように跳び退っていた。後ろに下がれば海に落ちる。なので無理やりにでも横に跳んだがそれが正しい行動なのかはわからなかった。いっそ素直に海に落ちていた方がマシだったかもしれない。


 黒い稲妻のようなナニカが杖へと伸び、意思を持ったようにその杖を引き抜く。そして次の瞬間には杖は男の手に収まっていた。


 海から引き抜かれたそれは、事実杖であった。

 長さはそこまでではない。てっきり海の底にでも深く突き刺さっているのだとばかり思っていたが、長さを見る限りはそうではなかったのだろう。

 波に揺られる事もなくただそこにあった、と言われても到底信じられないが、信じる信じないは問題ではない。


「はい、回収完了。残念でした」

「……あんた一体何者だ」

「何って言われてもな……うーん、ボクの名前はリィト。でも聞きたいのそういうやつじゃないですよね」

「そうだな」


 名前だけ聞いてもどうしろと、という気持ちは確かにある。

 あるけれど、彼がどこかの界隈で有名な人物であれば、名前から素性を割れる可能性もある。

 なんかわからんがとりあえず学園に戻ったらテラ先生に聞いてみよう、と思いながらも嫌な予感が止まらない。リィトの手に杖が渡ってから特に嫌な予感というべきか、背筋がぞわぞわするのだ。


「まぁ、これも一応上からの指示なんで」

 言いながら杖を構える。

 構える、といってもこれから魔法や魔術を使いますよみたいな構えではなく、物理的な攻撃に移りますよと言われれば納得しそうな構えであった。なんとも禍々しいオーラのように瘴気めいた何かが杖から出ているし、それでうっかり殴られでもしたらどうなるかわかったものではない。

 逃げようにも来た道を引き返すにはリィトをどうにかしなければならないし、しかしどうにかするにも下手に近づけばあの杖で殴り掛かられるのは言うまでもない。

 逃げ道は海だが、生憎とウェズンは着衣水泳が得意とは言い難かった。

 Tシャツに短パンとかならまだいけたかもしれないが、学園の制服は流石に厳しい。水を吸ったら間違いなくとんでもない重さになる。かといって今から制服を脱いで身軽になってから海に飛び込む、なんて猶予をリィトが与えてくれるとも思えなかった。


 じゃりっ、とリィトの靴底が地面を擦る音がする。

 来る――!! 思った次の瞬間目前に杖が迫っていた。

 回避できたのはほとんど偶然だっただろう。もう一回同じように躱せと言われてもできる気がしなかった。事実二撃目は回避しきれず――


「っ!?」


 だぼん。


 という音がしてごぼごぼという音が耳に響く。


「おや落ちちゃった」

 流石に自分も海の中に――としてまで追うつもりはないのか、きょとんとした顔でウェズンが落ちただろう場所を見る。リィトが何が何でも追いかけてやろう、という気概がないのはウェズンにとっては救いだったのかもしれない。とはいえ、何の準備もないままに海に落ちたウェズンからは、そんなリィトの様子などわかるはずもなかったのだが。

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