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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
三章 習うより慣れろ

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怪しさ満載



 男は自らの名をカドルクと名乗った。水色の髪がふわふわとした、正直どこか頼りない印象の男であった。事実村の中での彼の立ち位置は下から数えた方が早い、みたいな状態であったらしい。スクールカーストならぬ村カースト。村八分まではいっていないが、村の人間からすると何かの折にあぁそういやいたなこんなの……という認識だったらしい。

 漁村で、魚を獲るにしても割と人力な部分がある以上どうしたって体力勝負になるが、カドルクは見たところそこまで体力だとかがあるようには見えない。それも、村の中での立場の低さを加速させたのかもしれなかった。更にはそこまで漁も得意ではない、とくればさもありなん。


 だがしかし、だからこそ今回難を逃れたと言っても過言ではなかったようだ。


 恐らくもうちょっと色々ハイテクな道具がある状態で漁をしているような所であったなら、カドルクも助からなかった可能性が大いにあった。


 ここ最近村での漁は不漁がちで、このままでは村での食料が不足する……となっていた。そのかわりに山の方へ行く者もいたようだが、そちらも結果は芳しくなく。神の楔で他の土地に出向いて物々交換をしようにも物がないし、金はこの村ではあまり使わないので村全体での資金はそこまでなかったために買いだしに行く、という手段も村全体で却下されていた。


「神の楔で他の所に行けたんですか?」

「あぁ、行けなくはなかった。とはいえ、今はもう……」


 無理だろうな、とかすれた声がとても小さく紡がれる。


 だろうな、とウェズンは思った。大体瘴気汚染度80%ってなんだ。人生で初めて見たわそんな数値。こんなところにうっかりヴァンが来てたら帰れなくなるところだぞ。

 幸いウェズンもイアも瘴気耐性がそこそこあるからか、今のところは体調に何の異変も感じてはいないが、だからといって油断はできない。あからさまに体調に変化が出るようならまだわかりやすいが、知らぬ間に蝕まれていって気付いた時には……なんて事になったら流石に洒落にならない。

 浄化魔法で浄化できるとはいえ、それも限度がある。浄化できる限度を超えて汚染されてしまえばこの土地に縛られるも同然だ。モノリスフィアで学園に連絡を入れたくとも、現時点での瘴気汚染度からして通じないのは目に見えているし、瘴気汚染が低い場所まで行ければいいがそうでなければ確実に詰む。


「ここ元々こんな瘴気汚染酷かったわけじゃないんですよね。一体何が?」

 そもそもこんな瘴気汚染されてるところに学園が行けと言うはずもない。どうしても行かなければならないような状態であれば、それこそウェズンだとかの生徒ではなく教師が出向いているか、もしくはもっと浄化能力の高い相手に話がいっていただろう。


「先程も言いましたが、最近不漁がちだったんです……そこに、旅の方がやってきまして原因に心当たりがある、と」

「あやしい」

「イア、気持ちはわかるがとりあえず最後まで聞こうな」

「はぁい」


 ウェズンも怪しいとは思ったが、そこで話の腰を折っても意味がない。


「不漁がちなのは海も瘴気に汚染されつつあるからだ、と言っていたようです。すみません、村の人からの又聞きなので……自分で聞いたわけじゃないから正確にどう言われたかまでは……」

「あぁ、はい。そこは仕方ありません。続けて下さい」

 そう言いつつも、ウェズンとしては「あれ?」という気持ちはあった。

 確かに世界は瘴気汚染が問題になっているけれど、神の楔による結界で閉じ込められている場所が主な部分だ。神前試合で結界が解除された土地は基本的に今まで閉じ込めていた瘴気が各地に霧散するし、その後に新たな結界が張られたとはいえ以前よりはマシになっている。マシ、といってもだから問題がないかと言えばそれは全くこれっぽっちも、となってしまうのだけれど。


 だが、あくまでも汚染されているのは土地が多く、海などは神の楔があるでもない。そういう意味では海は世界で瘴気汚染の低い場所、という認識でもあった。自浄作用が高い、というのもある。瘴気がほぼない――全く無いわけではないが――ので、海は魔物も出現率が低い。

 ゲームであるなら逆に出現率が高そうではあるけれど、この世界では海は比較的安全な場所であった。


 かつての魔王の考えからしても、海だとかに魔物を解き放ったところで誰も倒してくれないとなれば意味がない、と思ったのもあったのかもしれない。

 自然発生するタイプの魔物であっても、海で発生するという事は滅多にないようであった。極まれに出る事があっても強さはそこまでではないらしい。

 とはいえ、何かの拍子に自分が海に落ちたりした場合は死ぬ可能性がとても高まるわけだが。


 なので海も汚染されつつある、という部分に違和感を抱くのは仕方のない話であった。

 むしろそうなった時点で陸地は手遅れになっていてもおかしくはない。

 事実この周辺の汚染度が高まっているので、嘘だと一蹴するわけにもいかないが、それでも何かがおかしいなと思える。


「それで、確かその人が浄化できるアイテムがあるから……と言って」


 はいとても怪しい。


 いや、素直な気持ちで受け止めればなんてありがたいんだとか思うんだろうけど、現状こうやって話を聞いてる身としては怪しい以外のなにものでもない。どう考えてもそれ原因では? と口から出そうになって仕方がない。いやまだだ、いくら怪しくても決めつけはよくない。そう思ってウェズンはじっと話に耳を傾ける事にした。イアも同じなのか、やたらと神妙そうな顔をしてじっとしている。


「あの洞窟に設置したんです」


 既に洞窟から離れた場所にいるので、何となく顔ごと洞窟がある方へ視線を向けたところで別に何が見えるわけでもない。


「実際、その後は緩やかではありましたが魚が獲れる量も増えつつあったんです」

「効果があった、って事ですね」

「はい。それで村の人たちはすっかりその旅の方を信用していました」

 まぁ、効果があったわけだし気持ちはわかる。わかるが、とてもフラグである。

「しばらく村に滞在していたのですが、旅の方は少し前に旅立ちました」


 何をしにこの村に来たのだろうか、と思いはしたが、ちょっとした旅行気分だった可能性もある。ウェズンからすればここが異世界だからなんとなく旅人というと明確な目的をもっているような気がしてしまうが、しかし単純に故郷に居心地の悪さを感じて自分に合う土地を見つけるために各地を移動している、なんて可能性もあるしな……と思い直す。

 適当に滞在して住みやすいなと思ったところに腰を落ち着ける、というのが目的であればどこが目的地だろうとそうかわりはしない。数日滞在したのもそこら辺しっくりくるかどうかの確認だった可能性がある、と思えばそこまでおかしなものではない。


 少なくとも滞在中に何か仕出かしたといった話はないらしかった。

 とはいえ、カドルクはその旅人とほとんど接点がなかったのでこれもまた村の中で漏れ聞こえてきた話のようではあったが。旅人は村長だとか、それに近しい村人たちに持て成されていたらしい。

 まぁ、村に益をもたらした相手だ。村の中でもそれなりの権力者が持て成そうとするのは何もおかしくはない。親切にしたらもしかしたら他にも何か恩恵があるかもしれない、と考えた可能性もあるだろうし。

 そして逆に益をもたらすだけの効果を果たした相手だ。何かやらかして不興を買えば村は更なる不利益に見舞われるかもしれない、と考えた可能性もある。

 そうなれば失礼のないように、と村の中の権力者たちが持て成す流れは当然と言える。上がそうであれば、下の者たちも旅人を丁重に持て成すだろうし、万一そうじゃない村人がいた場合そいつは間違いなく裏で袋叩きにされる。

 ウェズンの中の偏見ではあるが、この手の閉鎖的な村ならありそうだな……と思ってしまった。

 カドルクに面と向かって言わない程度の自重はしている。


「魚の量は問題なくなったんですが、それからです。村の中で体調不良を訴える者が増えてきました。ハッキリとした原因が最初わからなくて、数日休んだりしていたものの良くなる様子がなくて。

 もしかしたら瘴気のせいでそうなったのではないか? と村の誰かが口にして、それで……海の瘴気を浄化しているアイテムを設置してある洞窟に駄目元で行ってみればいいんじゃないか? となりました」


「ふむ、まぁ、言ってる分にはそこまでおかしくはないかな……」


 原因がわからないならまずはちょっと休んで様子見するだろうし、原因がわからないうちから適当に薬を飲むわけにもいかない。そもそもこの村の中で薬がどの程度貴重な物かもわからない。近くの山で材料が採取できて調合できるなら気軽に試してみるのもありかもしれないが、そうでなければ神の楔を使うかはたまた徒歩で薬が売っているところまで行かなければならない。


 それでなくともこの村では貨幣をそこまで使う事がないとの話だったし、物々交換にするにしても魚以外で何かあるのか、となると……気軽に薬を、とならなかったとしてもおかしな話ではない。

 その上で瘴気をどうにか抑える、もしくは浄化できる物が洞窟にあるというのなら洞窟に行けば……もしかしたら、という希望を持つのは理解できる。これで良くなれば原因は瘴気だったとなるし、そうでなければ瘴気以外の何かが原因であると判明するだろうし。

 そのアイテムが体内の瘴気に効果がない、という可能性もあるので必ずしもそうと断言はできないけれど。


 どちらにしても村の人たちはその洞窟にある瘴気を浄化できる何かに縋るくらいしかできる事がなかった。それはわかる。

 ウェズンもイアも成程ね、とばかりに頷けばカドルクは続きを口にする。


「結果として、効果がありました。それで、体調不良は瘴気が体内に入り込んだからだ、となりました。だから、そこからは体調不良が起きた村の皆はちょくちょく洞窟へ行くようになったんです」


 海だけではなくその近くに行っただけの村人にまで効果を及ぼすとかそれ、実はとんでもない浄化機なのでは……? と思ったが口には出さなかった。それが浄化機であればまだいいが、もし別の何かであった場合、という可能性がよぎったからだ。どうにもウェズンの中の嫌な予感のようなものが消えないからそう思ったのもある。けれどもそういうのが浄化機以外にあるか? と問われるとウェズンには答える事ができなかった。


「ただ……治ったと思って戻ってきても数日でまた症状がぶり返してしまうようで……そうこうしているうちに、一人、また一人と村の人は皆洞窟へ行くようになりました」

「……カドルクさんは?」

「あぁ、お恥ずかしい話、村での立ち位置は低くて。村の外れに居を構えていたのが良かったんでしょうか。そこまでの被害はありませんでした。元々生まれつき瘴気耐性が高かった、というのもあるかと思います」


 聞けばカドルクは昔からこの村に住んでいるわけではなく、別の土地から幼い頃に親に連れられここで暮らすようになったらしい。けれども親が死んだあと、カドルク一人での暮らしはそう良いものではなかったようだ。

 多分、村という閉鎖的な場所の悪い意味での田舎なんだろうな……とウェズンは思った。そういう場所は新参者に対して特に厳しい。


「とはいえ村のほとんどの人たちが洞窟へ行き、また戻ってこない日が続きまして……そうこうしているうちに、自分もいよいよ体調不良に陥りまして。藁にも縋る思いで洞窟へ行ったはいいけれど、洞窟の奥では異形化した村の人たちがお互いに殺しあって……止められるだけの力もありませんし、情けないけど逃げだそうとして……」

「洞窟の入口辺りで力尽きてた、と」

「お恥ずかしい……」


 申し訳なさそうに眉を下げて言うカドルクの言葉に嘘はないだろう。真実かどうかはさておき、彼にとっての事実はそうである、と思える。

 ウェズンはイアに視線を向けるが、イアは何がなんだかよくわかっていない顔をしていた。

 ……原作にある展開かどうかもその表情からは読み取れない。


「……ひとまず、その洞窟ちょっと確認してきます」


 先程までは村の人を探していたから、異形化した人たちが死んでると言われれば行く必要を感じなかったが、今は違う。

 その設置されたアイテムとやらを念の為確認しておくべきだろうと思ったのだ。


 浄化はされていた。とはいえ、村の住人のほとんどが洞窟へ行き、そしてそこから戻ることができないままほぼすべてが異形化したのであれば。

 浄化機に見せかけた別の何かではないか、と思えてくる。

 なんにせよ、このまま放置しておくわけにもいかない。

 正直な話、この村近辺の瘴気濃度がやたら高いのはそのアイテムが原因ではないかとすら思えてくる。他に怪しい物がないので疑いがそこに向かうのは当然だった。


「おにい大丈夫なの?」

「さぁね。とはいえ、カドルクさんをまたあの洞窟に行かせるわけにもいかないし……イアはちょっとここで待っててもらえるか?」

「ぅえ!? えっ、一人!? 一人でいっちゃうのおにい。大丈夫!?」

「一時間以上経過しても戻らない場合はありったけ浄化魔法かけて学園に戻って報告してくれ」

「ぇあ、う、うん。わかた……」

 わかった、という顔をしていないけれど、それでもウェズンは念を押すような事を言うでもなくすぐさま行動に移る。


 二人で行くのが何かあった場合安全である、とは思うのだけれど。

 万が一ここで一人にしたカドルクが再び瘴気汚染されて異形化した場合、洞窟から戻って来たウェズンたちがそれに気付かず奇襲攻撃を受ける可能性もある。

 洞窟は既に内部で争いが起きて、既に全滅しているという話なので――カドルクの話が本当であれば――むしろウェズンの方が安全かもしれない。とはいえ、保証はできていないが。


 カドルクが異形化した場合、イアの浄化魔法でどうにか戻せる範囲であればいいが、もしそうでなければ倒すしかない。

 とはいえ、流石にそこまでを今ここでイアに説明できるはずもない。万一異形化してどうしようもなくなったらカドルクを殺せ、と本人がいる目の前で言うのはウェズンであっても躊躇われた。

 言わなくても理解してくれてるだろうか……と少々不安ではあるものの、ウェズンは一言頼んだぞ、とだけ告げて洞窟へと向かう。


 ただ、お使いに来ただけのはずだったのに……そんな事を思えば、無意識に溜息が吐き出されていた。

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