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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
三章 習うより慣れろ

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防犯意識の低い村



 一応学園からは魔法薬の材料になるらしき跳ねトビウオの羽とやらを仕入れてこいと言われてこの村にやって来た。

 お使いなので事前に金銭も渡されている。

 とはいえ、買い取る時に値切りなどをしてその交渉が上手くいったとしても、余った分を自分の懐におさめる、というのはできないようになっているので、ちょっとちょろまかそうとか考えるだけ無駄であった。

 確かに金額的に少し余裕をもって渡されているから目が眩む奴が出てもおかしくはないのだが、金だけではなく場合によっては物々交換の場合もあるらしいので、万一そうなった時用のアイテムも渡されている。


 神の楔があるとはいえ、それで世界各地を好きに移動できるようになっているとはいえ、瘴気汚染度合によっては出向いたが最後帰れない、という事もあり得るのだ。なので気軽に各地を移動する、というのができるのは浄化魔法を覚えた者だけだ。


 なのでこういった海の近くでの物々交換用に山だとか海の近くでは手に入れるのが難しい品もそれなりに渡されていた。


 余程こちらが騙されるような事になってぼったくられるとかでなければ、また不用意に相手を怒らせるような事をして交渉決裂になるような事をしなければ。

 何事もなくお使いは終わってすぐに帰れるはずだったのだ。


 ウェズンのリングの中にはぎっしり袋に詰まった金貨があるし、ついでにイアのリングには物々交換になった時のためのアイテムが入れられている。


 魔法薬の材料と一言で言ってもピンからキリまであるので、生徒にお使い頼める程度の物ならそこまで高価な物でもないのだろう……とはいえそれでも渡された金額が洒落になってない気もするが。


 よからぬ事を考えるなら、というかゲームだとかならこうやって支給されたやつをそのまま自分の所持品にしてしまう事もあるけれど、流石にそれを現実で実際にやるとなると後が怖い。

 というか学園ならそこら辺何らかの仕掛けとかしてそうだし。悪事とかしれっとバレてそう。その上で泳がせてどうしようもない状況になってから断罪とかしてきそう。偏見ではあるが、ありそうだなと思えるので下手な事はしない方がいいんだろうな、なんて思い始める。



「お使いさっさと済ませて帰りたいだけだったんだけどなぁ……」

「だぁれもいないね、おにい」


 近くの小屋の戸を叩き、声をかけて少し待ってそれでも何の返事もこなかったから、悪いと思いつつもそっと戸を開けてみれば鍵すらかかっていなかったのかあっさりと戸は開いた。

 小屋の中は今までウェズンが訪れたような魔女の家だとか魔女の作った館だとかと違い、空間拡張魔法だとかは施されていなかった。まぁ当然か。そこら辺の家のほとんどに空間拡張魔法なんぞかかっていてたまるかという話である。


 小屋の中はなんというかこれまた日本むかし話に出てくるようなもので、小さな玄関スペースで靴を脱いだら後はもう家の中全部見渡せる状態だった。ワンルームと言えばお洒落さがあるが、そんなお洒落なものを想像していたら間違いなくガッカリする。台所っぽい部分も寝室も何もかも全てが繋がってるような空間。そういや風呂とトイレは……? と思って見渡してみたがそれらしいものはない。


 まさか……共同か……!?


 思わず戦慄する。風呂はまぁ、ウェズンの前世、昔は風呂とかついてない家もあったから銭湯が主流だった、なんて話を聞いた事もあるけれど、実際に体験した事はない。銭湯を利用した事がないわけではないが、家の風呂がちょっと調子悪くて修理してもらう時だけの一時的なものであった。日常的に利用する事はない。


 だがしかしトイレは。


 流石にトイレが家にない、というのは戦慄以外何を感じろというのだ。

 キャンプ行って仮設トイレとか使用してるのが日常です、みたいな感じになるのだろうか、と考えると尚の事戦慄する。


 家の中ならまだ、夜中に起きてトイレに……なんて平気でできるけれど仮に外、共同トイレがある場所まで行けとか小さなお子様一人で行けるのか? という疑問すら浮かぶ。


 思わず家の中を見回していた首を引っ込めて外へ戻し、そうしてもう一度村を見渡せるだけ見渡してみたけれど、いかにもな公衆トイレ的な何かが見えるでもなかった。

 ……一応、見た目がレトロだろうとも中身がハイテクな建物もあるのでもしかしたら案外共同トイレだけど綺麗でそうと気付かないだけかもしれない。そんな風に思い始める。むしろそうであってくれとすら。


 前世のウェズンですらお目にかかったことのないような汲み取り式のぼっとん便所とかいうものだったら流石に気付くはずだ。主ににおいで。

 そういう部分から生活してるかどうかの判断とかしたくないんだがな……と内心げっそりしつつ、家の中と外とを交互に見比べてみる。


 家の中はつい先ほどまで人がいた、という雰囲気があるでもない。

 むしろ何日か家を留守にしている、と言われればそうなんだと納得できる。

 何事もなかったかのように戸を閉めて、次の家に向かう。

 そこも鍵がかかっていなかった。確かに田舎って鍵かけない風習あるって言いますけれども! 防犯意識を! もっと持て!!

 そう声高に叫びたい衝動にかられる。

 いやお前が不法侵入しようとしとるやないかい、と言われると反論もできないのだが、移動手段が限られて訪れる人間も限られている、みたいな場所ならともかくいくら見た目が田舎だろうとも神の楔で世界各地から来ようと思えばいくらでも人がやってくる事ができるのに、こんな防犯意識がガバでいいのか。


 盗まれる物なんてないと思ってるのか、それとも泥棒とか見つけたらすぐさまどうにかできると思いあがっているからなのか……


 ともあれ留守にしているのは事実なのでここも何事もなかったかのように戸を閉めて、気を取り直して次の家、また次の家……とやっていって。


 結果、全ての家が留守であった。鍵は開いてるし誰もいないしどういう事なの。

 あと、どの家も似たような感じすぎて結局どれが村長的立場の人の家なのかもわからなかった。


「行先、間違ってなかったよな?」

「うん。神の楔に行先指定してきたから間違ってないはず」


 ちょっと前に神の楔の転移事故に巻き込まれたウェズンではあるが、あれは神の楔に衝撃を加えた事が原因である。今回はそういったハプニングもなく普通に使用したので転移事故が発生するはずがない。


「廃村にでもなったのか……?」


 考えられる結果としてはそれくらいだろうか。

 村人一同最低限の荷物を持って夜逃げした、と考えれば誰もいない理由にも説明がつく……と思う。


 だがしかし、村に住む者全員が村を捨てる、と決断するような事そうあるだろうか?


 普通に考えれば村を捨ててどこかに逃げようとしたとして、まだそう時間も経過してなさそうなので近くを探せばいる、と思うところなのだが。それは神の楔というものがない場合に限る。

 神の楔があるなら逃げよう、で神の楔を使用してそれこそ一瞬でこの村から遠く離れた場所に移動も可能だ。


 便利な転移アイテムがなければ徒歩なり馬だとかを使っての移動を考えるが、神の楔があるので村から出てちんたら歩いているとは考えにくい。同じ大陸にいるならまだしも、普通に考えて別の大陸に行っててもおかしくはない。

 そういう意味では逃げる、という点においてこの世界とんでもなく追う側からすると面倒なところである。

 まぁ、逃げた先が瘴気汚染の酷いところでそこから身動きがとれなくなる、なんて可能性もあるので根気強く探し続ければいずれは……という程度には希望がないわけでもないけれど。


 ちなみにとてもどうでもいい話ではあるが、小屋を延々開けていくうちにトイレも発見した。やはり共同スタイルであった。最悪である。

 しかも見た目は他の小屋と同じような感じだったので最初開けた時、一瞬すぐにそうだと理解できなかった。えっ、何ここ。トイレであると認識するまでの感想はまさしくそれである。


 ちなみに中身はとても綺麗だった。まぁ、汚かったら悪臭とかもしてそうだし、だとすれば開ける前から気付けたかもしれない。どっちにしてもどうでもいい情報である。


「仮に、廃村になったとして。ではここの住人はどうなったか」

「んー、どっか行った?」

「行先がわからないな。追いかけるにしてもどこに、という話なのでどうしようもない。あてがあるならともかく」

「そだね。……えっ、それじゃどうしよっかおにい」

「お使いができませんでした、で素直に学園に戻るか、一応念の為この周辺を軽く探してみるか。もしくは、自力で跳ねトビウオの羽とやらを集めるか」

「二キロも?」

「流石に無謀が過ぎるか」


 そもそも跳ねトビウオとやらを直に見た事がない。普通のトビウオともしかして違う可能性もある。なのに普通のトビウオの羽を集めるなんて事をして学園に戻った場合、それはそれでテラからのお小言が炸裂しそうではあった。


「んー……正直この展開は知らないからなぁ……どうしよ。一応周辺探して誰か探してみる?」

「誰かがいる可能性は低いけど、まぁ、村に誰もいなくてどうしようもなかった、っていう証拠があればお使いの品を手にしないまま帰っても言い訳はきくかな……」


 事前に実物を見ていたなら自力で集める、という方法もちょっと考慮したかもしれないが、名前だけ聞かされてあとは代金とそれにかわる物を渡されただけだ。どうにかできるとは思えなかった。


 かくして。

 どちらにしてもこのまますぐに帰る、のは何となくよろしくない気がしたのでウェズンとイアはとりあえず周辺を探索する事にしたのである。

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