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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
三章 習うより慣れろ

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難易度の高いお使い



 学園周辺の土地の風土気候は基本的に穏やかである。

 思えばウェズンたちがここに新入生としてやってきたばかりの頃はまだ春になったかどうか……といったところであったが雪があるでもなく、またそこまで寒さが厳しいといった感じでもなかったが、同時に花が咲き乱れている、なんて事もなかったのでいかにも春! という季節を実感したりはしていなかった。それでもまぁ多少なりとも季節の移り変わりを実感できるような事は小さいがそれなりに存在する。


 春先に咲いていた花が散り、葉が青々としてきたりだとかの小さな変化ではあるけれどそういった部分でふとあぁ、夏になってきたんだな、とウェズンは思っていた。

 学園がある土地は四季の移り変わりにそこまで影響を受けるところではないらしく、気温の変化はそう大きくはないけれど神の楔で別の土地へ転移した時、その変化は顕著だった。


 学園よりも寒いと感じる場所もあれば、逆にあまりの暑さに転移した直後「何事だ!?」と思わず硬直するような事もあった。驚くくらいの暑さに一瞬燃え盛ってるどこかに転移してしまったのかと錯覚した程だ。

 実際はちょっと南国の方に出てしまっただけなのだが。それにしたって太陽の熱が凄かった。

 それでなくとも黒を基調とした制服。そんなのを着ての南国とか無駄に目立った。


 暑さで死ねる、と思ったのは一瞬でその後はすぐさま魔法で制服の内側を冷やしたので事なきを得たが、それができなかったら間違いなく死んでた。



 さて、そんな感じで季節を実感する、という事は学園の中ではあまりないわけだが。

 学外であればそれなりに存在している。


 今回テラに言われてやって来たのは南にある大陸の、とある小さな漁村である。

 青い海。輝く太陽。白い砂浜。遠くに見える山は木々の緑だろうか、それらが青々としていて、そこに大きな白い雲がかかって、ついでにどこまでも行けそうなくらいのスカイブルー。


 前世の海水浴で見たような光景だな……なんて思ったものの、生憎とここは海水浴場ではない。

 そりゃいかにも夏休みに遊びにきました、的雰囲気が漂っていようとも、漁村なのである。

 なので砂浜近くにはビーチパラソルだとかを差してあったりするでもなく、海の家なんてものもなく、村の人たちが使っている漁へ出るための小舟があるくらいだ。

 潮風の匂いと、波の音。

 見える範囲の建物は掘っ立て小屋というのが正しいような木造の簡素な造り。

 もうちょっと寂れた雰囲気があったなら、それこそ昔話にでも出てきそうな所だな、と思っていたに違いない。


「で、今回ここに何しに来たんだっけ……」


 ざざぁん……という波の音に耳を澄ませながらも、ウェズンは同じように風を浴びて目を閉じているイアに問いかけた。


「お使い。もう忘れたのおにい。ここでなんだったか魔法薬の材料仕入れて来いって言われたじゃん」

「そういやそうだった……」


 さて、最近学外授業という名の魔物退治以外にも他のお使いがしれっと混ざるようになってきた。

 危険度は特にないとの事なのでそれこそ組んだメンバー全員で行け、とかそういう事はなかったが、それにしたって生徒の扱いが雑ではなかろうか……という気がしなくもない。

 教師の手が足りていないなら、せめてゴーレムとかホムンクルスだとか学園にやたらいるそいつらを使えばいいのでは、と思うのだがまぁそこら辺は色々な事情で無理なのだとか。大人の事情を切々と語られてもウェズンとしても困るだけなので多くを聞いたりはしていないが、だからといって生徒がお使いに行くとかいうのを完全に納得したわけでもない。


 何せこのお使い、とてもクソだと思ったのはこのお使いに行ってる間の授業に関して分の課題が後程出るとの事なのだ。学園の都合で行ってるんだからそこは免除じゃないのかよ、という気が凄くする。公欠とか間違いなくこの学園には存在していなかった。


 テラ曰く、公欠にしたらしたで数日戻ってこねーからだよ、とか言われたので何となく過去の生徒たち何やらかしたん? となったりもしたのだが。

 なんでも過去、課題免除の公欠扱いにした結果、数日音沙汰なく戻ってこなかった生徒がいたらしい。

 お前のせいで……ッ!!

 見知らぬ生徒への憎しみがギュンッ! と増した瞬間だった。


 例えば何らかの事件に巻き込まれていただとか、思わぬハプニングに見舞われてしまってだとかの、話を聞いて「じゃあ、仕方がないね」と言えるような状況であったならまだいい。そういう事情があったなら仕方がないな、と思えるならまだ許せる。

 しかし実際は学園の授業だの鍛錬だのに嫌気が差してずる休みするどころかこの手のお使いを利用して公欠扱いなら数日ハメ外そう、とかやらかしたようなのだ。

 過去、中には勿論それっぽい事情だとか理由をでっちあげて実際遊びまわった生徒だっているかもしれない。だが、そこで堂々と公欠っていうからその間に自分的バカンス楽しんできました♪ とか言う奴も出てしまったのだ。この手の馬鹿がいるから……何故今そいつが目の前にいないのだろう。ウェズンは割と本気でそう思った。いたら殴ってた。そりゃもう全力で。


 まぁ嘘ついてそれっぽい同情できそうな理由でっち上げたとして、それがバレた時も大概なのだがそこはさておき。


 戻ってきたら休んだ授業分の課題が待っている。

 そう考えるととても戻りたくないが、そうやってずるずる長い間学園から離れていたらそれはそれで戻った時が地獄であるし、ましてやこのまま二度と学園には戻らない、となったらそれはそれで問題である。

 親だとか他の家族がいない、どうせ今ここで自分が学園から消えても誰も心配なんてしないし誰も困らない、そんな奴ならともかく家族がいるのなら、学園からバックレて家に帰ったら。


 ……ウェズンとイアの場合は間違いなく両親がブチ切れるだろう。

 明らかに怒ったりしないとは思うが、そりゃもう笑顔で淡々と正論パンチしてこちらのメンタルをゴリゴリ削るだろうな、というのは想像がつく。

 自分がこれ以上面倒な事になりたくなければ、それこそサクッとお使いを済ませて即帰還。これに限る。


 というか、そもそも長期間学園に何の連絡もなく戻らなかったら除籍処分とかになるんだろうか。ふとそんな事をウェズンは考えたが、まぁ最悪死んだ扱いになりそうだなとは思った。

 学園から与えられたリングやモノリスフィアとかもある日突然使用できなくなったりするんだろうか……などと考えてみたが、下手な事聞いて知らなきゃ良かったなんて事にもなりたくないし、とりあえずこれ以上考えるのをやめた。



「それで、今回のお使いってなんだっけ」

「んっとねぇ……跳ねトビウオの羽をこの村の人たちから買い取る感じ? 二キロって書いてる」

 手にしたメモを見ながら言うイアに、跳ねトビウオ……? いやそれ普通のトビウオじゃなくて……? と思いつつもウェズンはそっか、と相槌を打った。

 というか、トビウオの羽二キロって相当では……?


 ウェズンの脳内で思い出されるトビウオの羽なんて、一匹からとれる枚数は限られてるし一枚の重さもたかが知れてる、というかそこまで重たいものじゃないのは確かだ。

 仮にそれを二キロ、と考えると果たしてどれだけのトビウオが犠牲になる事やら……


「とりあえず、それじゃこの村の村長的ポジションの人に声かけた方がいいんだろうな」

「そうだね。村の中で好き勝手やらかすわけにもいかないだろうし、最初に上の人の許可とっておけば下が何言おうとどうにでもなるよね」

 いやそうなんだけど、言い方。

 とはいえ事実でもあるので世知辛さを感じながらもウェズンは、さてではこの村の村長さんの家は……と周辺を見回した。

 神の楔でやって来たとはいえ、比較的村の入口付近に出たので流石にすぐ近くが村長の家とかはないだろう。

 大体この手の権力者の家というのは奥にあるか、立地的に日当たりが良いだとか何となく良さげな場所と相場が決まっている。

 少なくとも日陰でじめじめして何かすぐカビ生えそう、みたいな所であるとかではないだろう。

 ましてや海辺の村だ。

 なら、少し海から離れている可能性も高い。海が荒れた時、家がそう簡単に被害に遭うような場所には流石に権力者の家などないだろうし。


 だがしかしそう思わせておいて神の楔の近くにある場合もあるので油断はできない――とは思ったが、近くにある小屋を見る限り違う気がする。やっぱ奥の方だろうな、と思ってぐるりと周囲を見回すも、正直どれもこれも似たような感じの小屋にしか見えずちょっぴり途方に暮れた。

 建物から権力者の家が判断できない。

 えっ、もしかして当番制みたいなやつだったりする? そんなまさか。


 内心でそんな風にボケ倒しながらも、しかしやはり小屋の見分けがつかない。

 これはもう諦めて誰かに聞くしかないだろうなと判断する。


「……ねぇおにい」

「あぁ、うん」


 きっとイアも同じような結論に到達したのだろう。

 そして同じ事に気付いた。


「今の時刻は」

「大体お昼であります」


 ぴっ、と敬礼なんぞをしてイアがこたえる。


「誰一人外にいないっていうのおかしくないか?」

「夜ならともかくこの時間だと変だねぇ。あ、皆で漁に出てるとか?」

「そこに船あるのに?」


 恐らくはそれぞれの家で使っている船なのだろうと思える物がかなりの数ある。残っている船が一つ二つ程度なら、その船の持ち主は別の船に乗せてもらっているのだろうと思えるのだが。


「……っていうかさ、人の気配なさすぎないか?」

「…………言われてみれば。えっ、ここだよね? お使いで行けって言われたのここだよね!?」

「間違ってはいないはずだ……とりあえず適当な家の戸叩いて誰かいないか探してみるか」


 ウェズンがそう言えばイアは深刻そうな顔をして深く頷いた。とはいえ、別行動でそれぞれが別の家に訪ねてみる、という事はしたくなかったのか、ウェズンの制服を引っ掴んで後ろからついてきた。


 ――結論から述べるのであれば。


 どの家の戸を叩いてもどこからも誰の返事も返ってはこなかった。


 まさかの村人全員無人である。

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