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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
二章 チュートリアルなんてなかった

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二人の関係性



 結論から言うと、イルミナの実家に祖母はいなかった。

 書き置きも何もないまま家を出ているらしく、何処に行ったのかイルミナにも皆目見当もつかなかった。


 そもそもイルミナが学園に行ってから、そう頻繁に戻ってこれるはずもないとわかっていたのだろう。だからこそ、出かける時に書き置きを残すなんて事あるはずがなかったのだ。事前に連絡していたならまだしも。


 少しだけ待ってみて、戻らないようなら諦めるしかない。

 そう判断してイルミナとウェズンは少しだけ待ってみたけれど、戻ってくる様子はなかった。待ってる間にレポートもついでに纏めておこうか、となったので無駄な時間にはならなかったけれど、鍵がどこの鍵なのか、それがわからないのであればこれ以上の進展は見込めない。


 次なる魔女の試練、というような感じで言われていたので、どこか、イルミナにとって所縁のある地に行けばいいのではないか、とも思えたがそれに対してイルミナは首を横に振った。

 この家の周辺と、あとはあの黒の森。幼い頃のイルミナの行動範囲はあまりにも狭かった。

 ここから少し離れた町にも行った事はあるというが、流石に町の中に魔女の試練があるとは思えない。


 最初の試練みたいに家の中で魔術の練習するだけで済めばいいが、あんなのどう考えたって入門編とかそんな感じのやつだ。チュートリアルと言ってもいい。魔女が作ったからこそ、建物の中で魔術の練習してても建物が壊れる事はなかったけれど、普通の町中であんな建物があったら流石に問題になりそうだ。試練クリアしたら建物消える、とか周囲のあれこれに影響が出ないにしてもいきなり近所の建物が消えたらビックリされるだろうし。



「……あと知ってそうなのってあの森の妖精だと思うんだけど……話してくれるとは思えないんだよね」

 レポートが一段落したので、鍵について知ってそうな相手、と考えていたウェズンが口を開く。

「でしょうね。きっと知ってても教えてくれないと思う」

 魔女になるのなんて諦めてしまえ、と言わんばかりだった妖精の事を思い出して、イルミナもまた頷いていた。きっと、知ってたって口が裂けても教えちゃくれないだろう。

 それに、試練をクリアした後の母の幻影。あれもまた魔女にならない方がいいと言っていた。


 その母の友人である妖精たちの態度。

 違和感がないわけではない。けれど、きっと真実を直接語ってくれたりはしないのだろう。


「当面、この鍵についてはもうちょっと調べてみるわ。学園に何かこう、詳しい人とかいるといいんだけど」

「先生とか? 魔女について詳しい感じの人がいるといいね。もしくは他の魔女の方が詳しいとかあるかもしれない」

「どうかしら……魔女って一言で言っても皆が皆知り合いってわけでもないし」

「まぁそうだろうけど。でも、蛇の道は蛇とも言うからさ。話してくれる気がしない妖精たち締めあげて吐かせるよりは、他の魔女に聞いた方がいいかもしれない。

 って言っても魔女になんてそう簡単に会えるものなのかわかんないけど。僕もセルシェン高地で知り合った魔女を一人知ってるくらいで」


 そう言えばイルミナはそろそろ書き終わりかけていたレポートに文字を綴るのをピタッと止めてウェズンを見た。


「セルシェン高地の魔女……?」

「あれ? 前に話した事なかった? 学外授業で僕とヴァンとルシアの三人で行った時に、色々あって雨宿りに行った先の建物にいたんだよ。

 ……他のクラスの生徒が取引持ち掛けて死んだんだけど」


 言われてイルミナはそういやそんな話もあったような気がするわね……とぼんやりと思い出していた。まだ学園に入ったばかりの頃だ。それこそ精霊と契約して魔法を覚える事が出来るようになったばかりの頃の。

 あれからまだそこまで月日は経過していないが、そもそも毎日が忙しすぎて随分と昔の事のように思えてくる。


 あの頃は自分にも魔法が使える事が判明して、内心でそれこそ浮かれていた。

 だから、何かそんな話を聞いた気がするな、程度にしか覚えていない。


 ウェズンが話す内容を聞いているうちに、何となく思い出してくる。


「――って、それ、欲望の魔女じゃない!?」

「んえ?」

 話を聞いていくうちに思い出す。そしてイルミナは思わず立ち上がっていた。


 えっ、という声が知らず出る。

 そしてウェズンを見て、何に視線を定めていいのかわからず何度かうろつかせて、そうしてまたウェズンへと視線を戻した。


「よく生きてるわね……」

「知ってる魔女?」

「有名よ。大陸が違えどあの魔女の話は。

 どんな願いであっても叶えてくれる、そう聞いてるわ。ただし、対価が願いに見合わなければ……」


 魔女との取引で死んだ、という生徒の話は確かに聞いた覚えがある。けれどその時は、ふぅん、で済んでしまったのだ。魔女にもよるけれど、魔女との契約や取引というものはかなりリスキーなものが多い。正直悪魔に魂を売るのと近いと思って間違いない。

 取引を持ち掛けるにしたって、魔女が快く受け入れれば話は別だがそうでなければそれこそ本当に細心の注意を払わなければならない。

 取引が成立した後、もしくは契約が成された後で話が違う、なんて言い出して反故にしようなんてすればそれこそ命を失ってもおかしくはないのだ。

 祖母は、そこら辺厳しくイルミナに言っていた。

 気軽に誰かの願いを叶えるようなことはするものではない、と。

 叶えるにあたって、それは本当に自分が手を貸して問題のないものかどうか見極めろと。


 勿論魔女として力を使わない範囲内であれば好きにすればいいとも言っていた。だが、魔女として、となると話は大きく違ってくるのだ、と幼いイルミナにそれこそ洗脳のような勢いで何度も言われた事はハッキリと覚えている。


 例えば魔女が相手を気に入って、対価を軽めにしてくれる、とかであれば構わない。魔女だって感情を持つ生命体だ。好き嫌いはあって当たり前だし、そこに多少手心を加える事はおかしな話でも何でもない。

 嫌いな相手との契約だろうと取引だろうと、きっちりとこなすのは勿論だが、好きな相手であったならそこに更にプラスの何かが含まれる。違いがあるならそれくらいだ。

 勿論、契約も取引も結びたくないくらい嫌いな相手、となると更に話は異なってくるけれど。


 対価を軽めにするにしろ、逆にふっかけるにしろ、そこら辺は魔女と取引をしようとした相手との問題だ。嫌ならやめればいいし、足元見られてようがやるしかないならその条件をのむしかない。

 そしてそういった契約や取引において、欲望の魔女と呼ばれる存在は魔女たちの中でも一際有名な存在であった。


 彼女に叶えられない願いはない。

 そう謳われているほどだ。


 まぁ実際叶えられない願いだって大量にあるだろうとは思うのだけれど。


 そのあたりをウェズンに聞かせればウェズンはどこか納得したように、あぁそういう……と小さく呟いて頷いた。


 ウェズンが死ぬのを目の当たりにした生徒、アインの取引は確かにそりゃそうなるよなぁ、と今更のように納得したのもある。

 あの時点でそれなりにそりゃそうだろうよ、と思う部分はあったけれど、イルミナの話を聞いてよりはっきりと理解してしまったというべきか。


 霊薬の対価がアインの所持する全財産だとかで最終的に彼は開きにされて使えそうな部分を回収されていたけれど、あの所持金とやらが霊薬を得るに過不足なければああはならなかったはずだ。

 二度、あの魔女と出会ったウェズンとしてはあれを見ているので気軽に契約だとか取引だとかを持ち掛けようとは思わなかったが、それはもしかせずとも大正解だったらしい。


 まぁ、あの家にある神の楔を使うのに多少の手伝いをする事はあったが、あれはきっと契約にも取引のうちにも入らない。だから、今こうして生きているのだと考えると皮肉にも思えてくるけれど。


「対価が用意できればどんな願いでも叶えてくれる……か」

「そう聞いているわ」


 逆に言えば対価が用意できなければどれだけ悲惨な結果になっても仕方がない、という事でもある。

 仮に世界を救ってほしい、なんて願いをしたとして、それを叶える対価は一体どれほどのものになるのだろうか。

 死んだ人間を生き返らせてほしい、だとかの対価など、誰か他の人の命を犠牲にしてなおそれで対価になるかは微妙なところだ。同じ一つの命である、と考えれば等価に思えるが命の価値などそれこそ不平等の極みのようなものだし。


 極論、あの魔女が気に入って自らの命を投げうってでも願いを叶えたい、と思えるような相手が出たならば案外軽い対価で世界が救われる可能性もある……と言えなくもないが……

 そこまでの相手がそう都合よくあらわれるはずもない。


「え、でも、そう、あの魔女今セルシェン高地にいるの……定期的に居場所を変えるって聞いてたからすぐにそうだってわからなかったわ」

「そうなんだ」


 まぁ、居場所が常に同じで割れてるならそりゃ願いを叶えたい相手がこぞってやってきそうではあるよな、とウェズンも思ったし納得はした。


「……その鍵について、聞きに行く?」

「やめておくわ。この鍵がどこで使えるかにもよるけれど、もしとんでもない対価を要求されるようなものだったら払えないもの」

 イルミナの次なる魔女の試練に使う鍵、ではある。

 どこで使うかもわからないその鍵に価値などあるか、と問われれば無いと思えるが、しかしそれはウェズンたちの感覚であって、もし他の魔女からすればとんでもない価値を秘めている、という可能性だって有り得るのだ。


 気軽に尋ねて結果要求される対価が支払えず、なんて事になればウェズンもかつてのアインのように開きにされる可能性がある。そう考えると確かに気軽に尋ねるのも憚られた。



「次の試練がどんなものかはわからないけれど、ねぇウェズン」

「うん?」

「これからもちょくちょく魔術に関して教えてもらえる?」

「教えるようなもの、そもそもそんな無いと思うけどな」

「私にとってはあるのよ」

「……ま、イルミナがそれでいいなら好きにしなよ」


 そう言えば、イルミナはやった、と小さくガッツポーズをする。

 その様子が、なんだか前世の妹の一人を彷彿とさせられて。


 仕方ないなぁ、とばかりにウェズンもまた笑っていた。

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