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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
二章 チュートリアルなんてなかった

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見えた希望



 気付けば丸一日経っていた。


 光った石は三つ。

 火と水、地はどうにかなった。

 というのもウェズンがお手本として術を構成するあたりからじっくり観察させていたからだ。今まで自分の身近にいた自分よりも実力のある者を参考にしようとしても即座に術が発動し、参考にする余裕も何もなかった状況と比べれば最初から最後まで見本になってくれる相手がいる。それはイルミナにとってとても大きな事だった。


 今まで学園の授業でも他の生徒が魔術を使うところを見なかったわけではない。が、しかし、じっくり観察できる余裕があったかと言われれば否である。体術などを交えた上での実践訓練みたいな感じでやってたので、周囲をのんびり観察なんてしていたら、自分がその隙にボコボコにされてしまう。


 だからこそ、学園でイルミナができた事はあまり多くはない。精々知識をため込んだ程度だ。

 あとは今まであまり重要視してこなかった体力だとかを鍛える事だとか。


 イルミナは今まで、家に居た時に周囲の魔物を倒したことがないわけではない。魔術の扱いだけは一応教わっていたので。本来イルミナは学園だとかにいかずとも、身内が魔女なのだから魔法を教わる事だってできたはずであるのだ。

 魔法を教わるための第一段階としてクリアしなければならなかったのが、この試練であるのだが。

 しかしそれをこれっぽっちもクリアできる気がしないまま時間だけが過ぎていったので、イルミナは最終的に身内に匙を投げられて学園へ行く事を決めたのである。

 母は知らぬ間にいなくなっていた。

 祖母はイルミナにあまり多くを望まなかった。

 直接的に酷い言葉を投げかけられた事はないけれど、それでもイルミナは自分がこの家に必要のない存在であると察するには充分すぎるくらいであった。


 魔術に関しても期待されず、ただ使える事にかわりはないので制御に関してだけはきっちりできるように、そこだけはいっそ厳しいくらいに教わったけれど。

 それ以外は薬草の調合だとか、魔術だとかとはあまり関わらない事の方が多かったくらいだ。


 試練一つロクに乗り越えられなかったくせに、それでも学園で精霊と契約して魔法を覚える事ができたのは、果たして良い事だったのか……イルミナには判断できなかった。

 魔術に比べれば精霊が手助けしてくれるだけあって魔法の方がまだマシであるとは言えた。そこから魔術も連動してどうにかできるようにならないだろうかと、一応授業が休みの日に密かに訓練したりもしたのだが……結果はお察しである。今まで自分が使ってきた魔術のイメージが根付いてしまって、術を発動させようとなるとどうしても今までと同じものになってしまうのだ。

 魔法だとまだかろうじて火とか水とかどうにかなったりしたのだけれど。どうにかなってるのは間違いなく精霊の助けあってこそである。


 今はまだどうにかなっているけれど、そのうち精霊の助けがあってもどうにもならなくなってしまったら。


 そうなる前になんとかしなければ……という思いがあったのは確かだ。

 魔女から魔法や魔術をとったら何が残るというのだという話である。


 ウェズンを巻き込んでやって来たイルミナであるが、このままいけばまさか本当に試練をクリアできるのではないか……!? と思えるとは実のところ思ってはいなかった。どうにか一つくらいは、と思ってはいたけれど、その場合レポートには何かこう、上手い事書いておくつもりではいたのだ。試練をクリアできなければイルミナのせいでウェズンも成績が危うくなるかもしれない。それもあったから勿論やる気ではいたけれど、しかし本当にクリアできるとは思っていなかった。だが残す石はあと一つ。

 風属性の術をマトモに発動できれば終了する。


 だというのに、その最後の風の術が中々上手くいかなかった。


 火や水、地属性は目で見て理解できた。正直ちょっと地属性で躓きかけたけれど、そこら辺はウェズンの話を聞いてくうちに何となく理解できてきたのでどうにかなった。

 けれど風は。

 目で見てもよくわからないのだ。

 そもそも風って肌で感じる事はあっても目で見れるものではない。

 かといって、じゃあウェズンにちょっと自分に風属性の魔術を、と頼むには危険がある。ただのそよ風程度のものなら簡単にできるだろう。けれども、それを自分がうけたとして、理解できるかとなると……正直とても自信がなかった。


 術としてうけるより、直接外で風を感じた方がいいんじゃないか? とウェズンに言われ、ほぼ一日こもっていたのもあってイルミナは気分転換にと外に出る事にしたものの。

 散歩しようとまでは思わなかった。

 とりあえず泉に足だけをつけてぼんやり空を眺める。何せここを離れて移動するとなると、この森に住む妖精たちとまた出くわすのが目に見えているからだ。


 かつて、この森に試練を受けに来た時、母に連れられて足を踏み入れた時にあの妖精たちは古くからの母の知り合いなのだと紹介された。この森は母にとって思い出深い場所で、だからこそイルミナに与える試練の場にしようと決めたのだと言われて、当時のイルミナは何を思ったのだったか。

 もどかしいような胸の一部がむずむずするような気持ちもあったし、母にとって大切らしい場所というのを教えてもらえたというので何となく自分を認めてもらえた気もして、誇らしいような気分になったのも覚えている。

 まぁそんな微笑ましくも甘酸っぱい気持ちはその後の試練失敗で粉々に砕け散ったのだが。


 この森に足を踏み入れて、母が娘だと妖精たちに紹介した時はまだ彼らも友好的であった。

 試練に失敗した後は手のひらを返されたけれど。だが、まぁそれも当然だとイルミナは思っている。


 母は、魔女として優秀だと言われていた。

 その人の娘が試練もまともにクリアできない出来損ないでは、ああいう態度になっても仕方ないと思うのだ。その後しばらくは母もいたのに、気付けばいつの間にか姿を消していた。祖母に聞いても答えはなく。


 しばらくは魔術の練習も頑張っていたのだけれど何度やってもどろ闇しか出てこなくて祖母もそのうち匙を投げた。制御だけはしっかりできていたから瘴気が発生しなかったのだけが救いかもしれない。もし、失敗ばかりして瘴気を出していたら。

 そうしたらもう魔術すら使うなと言われていたに違いないのだ。


 学園に行くと言った時だって祖母はあまりいい顔をしなかった。けれどもどうにか懇願して行く事ができたのだ。学園は命の保証まではしてくれない。死んでも文句は言えない場所だ。祖母が反対したのは死ぬことを惜しんでくれたのか、それとも単純に才能がないからなのか……そこは怖くて聞けなかった。落ちこぼれの自覚はあるが、流石に死んでもいい相手だと身内に思われているというのを改めて確認する勇気はない。


 せめて、学園にいるうちにどうにかできなければ。

 このまま学園を卒業できたとしても、きっと帰ったところで自分の居場所はなくなっているだろう。


 これ以上考え事をしたところで、どんどん後ろ向きな思考ばかりが浮かんでくるからかイルミナは軽く頭を振って強制的に思考を打ち切った。草葉を揺らす風を浴びて、何となくこれくらいなら再現できそうとも思ったけれど、恐らくこの程度の威力で風を起こしたとしてもきっとあの石は光らないだろう。


 もっとこう……威力を強めないと……

 ウェズンがあれこれ教えてくれたので、何となくイメージは掴みかけている。とはいえ、ウェズンみたいに氷の花を出したりだとか雷を内包した鳥なんてものを出したりはできそうにないけれど。

 なんだったら水の術の時にふわふわ漂う水の玉を出してそこに光の術も組み合わせて虹とか出したりしてたのとか、何の役に立つかはわからないけどそのうち自分でもやってみたいな、とか思い始めている。


 ともあれ、多少の休憩にはなった。

 あと一つ、風属性の術をマトモに発動できれば試練はクリアだ。


 気合を入れて、泉に浸けていた足を引き上げる。

 そうしてさて引き返そうと思った矢先に。


「おい役立たず」


 真上から声をかけられて、歩きだそうとしていた足が止まった。

 そのまま視線だけを上に向ける。ゆっくりと。相手に悟られないように。

 とはいえそれも向こうにはわかっているのだろう。どうしたって多少は顔を上に向けないとその姿を視界におさめるのは難しかったので。


 そうして見上げたその先には。

 予想通りというかなんというか、妖精が一人、浮いていた。

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