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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
二章 チュートリアルなんてなかった

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基本はシンプル形



 想像力を鍛えろ、と言われたところで具体的にどうすればそうなるのか、という正確な答えはウェズンの中に存在していなかった。

 大体そういうのって何か勝手に芽生えたりしないか? というのがウェズンの持論である。


 例えばやる気のない授業の時に窓の外を眺めつつ、今ここにテロリストがやって来たとして……なんていう妄想。あれだって華麗に自分一人でテロリストを倒す妄想をするにしてもだ、倒すまでの手段だとかが人によって異なってくる。

 一瞬の隙をついて必殺〇事人みたいな感じで倒していくのか、それとも建物の中に罠を仕掛けて倒していくのか。はたまた異能力ありな設定で想像するならもうちょっと色々できる事が増えるだろう。実際に使えるかどうかは別として。だがしかしそれら全てはあくまでも空想・妄想なのでどんなパターンの話になろうともそれはそれで想像する側の個性みたいなものである。


 そこがしっかり想像できるタイプと、途中経過がとてもふわっとしているけれど一応最初と最後だけは決まってるタイプだとか、それどころか更にそこから派生してサイドストーリーの方がむしろ脳内で盛り上がるタイプかは人による。


 想像するにあたって、例えば自分が今までに見てきた物を参考にする事はあるだろう。

 例えば昔読み聞かせてもらった童話であったり、適当に本屋で手に取った漫画や小説であったり。

 全然そういったものとは関係のないテレビの番組からふと着想を得たりだとか。


 無から有を生み出すのは中々に大変ではあるけれど、雛型があるなら多少楽になる。


 ウェズンが使う魔術だとかは大抵前世で弟たちが遊んでいたゲームだとかの真似事のようなものであったり、最新技術を駆使した映画の特殊効果だったり、妹たちが見ていたアニメだとかからだ。

 特にゲームの特殊効果はわかりやすい。

 炎に関する攻撃魔法は大体ちゃんと火であるとわかるようになっている。

 ちょっと凝った感じで闇属性の炎だとかもあるけれど、ああいうのだってきっちり燃える演出があるので炎であるという認識ができる。


 水だって風だって雷だって、地属性だとかの魔法だってちゃんとそうだと一目でわかるような演出であるからして、ウェズンはそういった術を使う時に困らなかった。

 時折凝った感じの属性だとか別の言葉に置き換えているものもあったりしたけれど、それだって自分の脳内でわかりやすく変換してしまえば再現は可能である。あまりにも凄い威力のやつとかは気軽に再現しようとは思わないけれど。



 イルミナの母がイルミナに与えた魔女の試練。

 柱に埋め込まれた石四つを光らせれば試練はクリアらしい。

 それぞれの属性に合わせた術を発動させる事が試練なのだとか。


 それだけ聞くととても簡単である。ウェズンにとってはボーナス問題か? というくらいには楽勝の予感しかない。

 けれどもイルミナにとっては最高難易度にも等しい試練であり、事実以前挑戦してまんまと失敗している。

 一度失敗して、そこから更に成功できるビジョンが見えないのであれば再び試練に挑もうとしても中々気持ちは上がらないだろう。ある程度攻略の糸口が見えているならともかく、そうでなければまた失敗するんだろうな……という弱い気持ちになっても仕方がない。


 四つの石はそれぞれ地水火風の術を発動させればいいらしい。とてもわかりやすく属性もオーソドックス。多分ある程度の者からすれば完全にサービス問題だし、イルミナ以外の魔女相手であってもサービス問題だと言えるだろう。

 けれどもイルミナはその属性を上手く発現できなかった。


 魔法にしろ魔術にしろ身近な人が使うやつを見てイメージを固める、というのができればどうにかなりそうな気はするのだが、イルミナにとってそれが悪い方向へと傾いた。

 何せ彼女の身内は魔女である。母も、祖母も。

 父と祖父については何も言わなかったので、ウェズンはそこを深く聞くつもりはなかった。家庭に関してどうしても深入りしなくてはならない状況であるならともかく、今はそうではない。


 魔女が身近にいるならさぞ参考になるだろう、と思えそうではあるのだけれど、イルミナの母も祖母も魔法や魔術を使う時はほとんど一瞬なのだとか。なのでじっくり見て観察できるような余裕はない。

 火をつけるにしても、術を発動させたと思った次の瞬間にはもう火がついている状態なのだ。

 結果が既に出ていて途中経過がほとんどない状態。


 イルミナが炎の術を発動させようとしても次の瞬間には結果となっているものを参考にしようとしたところで、上手くいかないのは割と当然である。

 例えば焚火に火がついた状態を想像するのは容易い。野宿だとかで見る機会もあるし。

 けれど、その焚火に火をつけるのを魔術でやる、となるとその部分がイルミナの中ですっぽ抜けているのだ。


 魔物を倒す時などは、見た目がどうだろうと最終的に魔物を仕留めさえできれば問題ないので思っていたのと何か違う感じで出たな……術が、とかいう状況になってもどうにかなっていたけれど、そうじゃない場面で思っていたのと何か違うの出たな……は最悪自分の身を危険にしかねない。

 特にイルミナの場合思っていたのと何か違うの出たな、の大半は黒い闇がどろっとした感じで出てくるのでいざという時それが何かを防げるか……となるとちょっと疑わしい気持ちになってくる。


 ちょっと前の旧寮の時のように風を圧縮させてからの爆発、みたいな事をやろうとしてもイルミナの場合どろっとした闇が出るのでそれで爆発するか、となるとまぁならない。

 ちょっとだけ水を出そうと思ってもどろっとした闇が出るし、炎を出そうとしてもどろっとした闇が出る。その闇が燃やしたいと思ったものを燃やしてくれればいいけれど、多分だがイルミナの出すどろっとした闇にそういった効果はないような気がする。

 効果がちゃんとしているなら、そもそも見た目がどうあれ術として問題がない、という事になるのだからそうであるなら恐らくはここの試練とやらもクリアできていただろう。



 とりあえず最初は炎の術から手を付ける事にした。

 学外に行って焚火だとかをする事もあったので、炎ならまぁそこそこイメージしやすかろうと思ったのだ。


 まずは焚火や暖炉なんかの炎を思い浮かべてもらって、その炎を丸める感じでウェズンは術を発動してみせた。

「これがファイアーボールなんだけど……大きさはまぁ、ボールって言うくらいだから投げつけるのにいい感じの大きさとかを想像すればいいと思う」

「……大きければいいってわけじゃないのね。小さすぎたらだめかしら」

「別にいいと思うよ。用途に合ってれば。例えば」


 言いながらウェズンは自分の周囲にいくつかファイアーボールを発動させる。大きさは大体同じだが、その中にいくつか小さな火の玉も混じっていた。


「一見すると小さいのって威力低そうだけど、これは他のやつと元は同じやつなんだよね。これを圧縮というか凝縮させて小さく見せてるだけで。だから相手が油断してぶつかってくれればぎゅっと詰まった分威力高めな一撃が見込める。

 勿論、そういう風に油断させるのもありだけど、あえて小さいやつの威力を軽めにしておくなんて事もできるよ」


「威力軽くする意味は?」

「色々」


 そんなのは戦う相手によるとしか言いようがない。

 ただの魔物なら油断誘えるだろうし。小さいやつの威力は大したことがない、と学習されれば次はそこから攻撃を切り抜けようとして、なんて行動をとるかもしれない。相手の行動がわかれば次にこちらもどうすればいいか、という作戦も組み立てやすくなる。

 対人戦であるならば、最初に威力軽めのやつにしておいて、油断したあたりで凝縮させて威力を高くしたやつを混ぜておく、なんて使い方だってできる。小さいやつの威力は大した事がない、と高をくくってくれれば、そこから突破しようとして術を使って相殺するか、それとも勢いに任せてフィジカルで乗り切るか。どちらにしても思っていたよりも威力が高ければ命中した時点で一瞬の隙を作る事はできるだろう。


 そんな風に説明すれば、イルミナは「そういうものなのね……」とどこにか感心した様子を見せた。


「あとはほら、焚火に火をつける時に威力高いやつとかぶちかましたら周囲に被害が、なんてこともあるからね。そういう時は威力を低くしたやつを使うなんて事もあるよ」

 ウェズンの中ではコンロの火の調整をするくらいの気持ちで気軽にやっているが、イルミナにとってはそれも難しいらしい。イメージしたものをイメージ通りに、ならどうにかなるがまだ見た目に反して……といった感じで発動させるのは難しいようだ。


 けれども直接ウェズンが発動させたやつを手本にして何度か悪戦苦闘したものの、それでも最終的にイルミナはファイアーボールをきちんとした形で発動させる事ができた。

 そうして柱の上にあった石に一つ、光が灯る。


「できた」

「ボール状で出すのが一番楽といえば楽だけど、以前僕がしたみたいな感じで発動させるなら参考になりそうな生き物とか植物とかよく観察してみるといいよ」

 魔物とか、という言葉は飲み込んだ。戦闘中に本当に観察されると若干困るからだ。


 その言葉にイルミナは真剣な表情で頷く。

 まだ一つとはいえ成功したのだ。そりゃあ表情も引き締まろうというものである。


「それじゃあこのまま次に進もうか」

 ファイアーボールができたなら、後はもう他のやつも似たようなノリでできるだろう。ウェズンとしてはそんな軽い気持ちだったが、イルミナは違ったのか新たな戦地へ赴く戦士のような顔をしていた。

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