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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
二章 チュートリアルなんてなかった

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指導の方向性



 あの妖精たちがイルミナに対して暴言としか思えない事を言っていたから、薄々なんとなくウェズンは状況というか事情というかを本当にほんのり程度だが把握はしていた。

 前世で読んだ本だとか見たアニメやドラマ、そういったあれこれ。

 なのでまぁ、これっぽっちも想像できない、というわけではなかったのだが。


「私落ちこぼれなのよね、魔女として」


 さらっと言われて嫌な方向に確信してしまった。

 出オチとか狙ってます? と言いたいくらいにさらっと言われた言葉が謙遜とか通り越しててどう反応するべきか悩む。

 否定したところで本人が本当にそう思っているならまったく意味がないし、かといって肯定もできない。


 ここであえて突き放さなければならない、みたいな状況だったらそりゃ肯定もしたかもしれないが、トドメを刺してどうするという話である。


 というかそれ以前に、魔女である、と言われた事に対しても何らかの反応をするべきなのだろうか、と思い始めたがそんなウェズンの内心をよそにイルミナはゆっくりと話し始めていた。


 魔女として一人前になるためには試練を乗り越えなければならない事。

 そうする事でようやく一人前の魔女となれる事。

 イルミナの試練はこの場で行われる事。


「私、昔ここで試練を失敗してるの」


 その言葉で別に失敗しても命までは失わないんだな、と思ったがそれだけだ。

 一度の失敗ならともかく、何度も同じ失敗を繰り返せばどうなるかはわからない。


 イルミナの試練を作ったのはイルミナの母で、彼女はここを作った後どこへかはわからないが姿をくらました。試練を失敗したイルミナは失意のまま祖母と共に暮らし――今に至る。


「……つまりイルミナの実家ってこの近くにあるって事?」

「いいえ。こことは全然違う場所よ。ただ、魔女の試練に関しては適した場所があるから家から離れる事はそう珍しいものじゃないの」

 そう言われてしまえば別におかしいとも思わない。

 町中で魔法や魔術をぶっ放すような試練とかあったら流石に迷惑だろうし、そういうのは人里から離れた場所でやってくれと思うのは何もおかしな話じゃないからだ。


 少年漫画でだって主人公たちが修行するにあたって、町中でやるとかそうないわけだし。むしろ町中で暴れまわられても困る。漫画の中ならそういう世界観でスルーされるだろうけれど、実際にやったら近隣住民が黙っていない。例えばこれが文明の欠片もなさそうなド田舎で自然しかない、みたいな海とか山の近くならまだしも。


 というかだ。

 イルミナのお母さんがここを作った、と言われてウェズンは改めて周囲をぐるりと見まわしてみた。

 えっ、作れるんだこれ……という気持ちになる。

 建築、というよりは魔法での創造だろうか。そうなんだろうな……と思うも、これをどういう意図で作ったのかまではわからない。イルミナが一人前になるための試練を作った、という意味では理解できているが、どうしてこういうものになったのか、とかそこら辺まではわかるはずもない。


「それで、試練って?」

 イルミナが突然自分の事を師匠なんて呼んだのは間違いなくそこに関係しているだろう。

 いやでも、師匠と呼ばれるような凄い何かをした覚えはないのだが……という困惑が大きい。一人前の魔女になるための試練であるならば、ウェズンが手伝う事はないと思うのだが……


「魔術ね。魔法については多少どうにかなってるんだけど、魔術がね、ホント駄目で」

 言いながらイルミナは柱の上にある石を指差した。

 柱の四面にくっついている石。先程ウェズンも確認したし、なんだろアレ……とは思っていた。


「きちんとした魔術を発動させる事であの石が光って、全部光らせたら終了」

「わかりやすいな」

 わかりやすいけれど、それをかつてのイルミナは失敗したというわけか。


 魔女。そして落ちこぼれという本人の申告。

 そして先程の妖精たちの言葉。


 それらを組み合わせれば自ずと想像されるのは――


「いやまって、でもイルミナ魔術とか魔法使えないわけじゃなかったよね……?」


 そう。これが例えばどれだけ頑張っても魔法も魔術も使えない、とかであればわかる。

 けれども精霊と契約して魔法も使えるようになっているし、魔術だって一緒に魔物退治に行った時に使っているのをしっかりとこの目で見ている。

 その魔術だって威力的には申し分ないのだ。これが見掛け倒しで全然魔物に効果がない、とかであればまだしも。

 魔術の威力は恐らくクラスの中でも上位にいるはずだ。クラスメイト全員の魔術の力量とか完全に把握してないから推測になるけれど、それでも。

 それでもイルミナの魔術は決して使えないものではないのだ。


「使えりゃいいってもんじゃないのよ」

「あ、はい」

 よくわかんないけど真顔で言われたのでウェズンは素直に頷いてしまった。


 これはあれだな……?

 ご飯とかくえりゃいいってもんじゃないんだ、みたいな感じに受け取っていいやつだな……? と脳内で変換しておく。お腹いっぱいになれば味とかどうでもいいでしょ、みたいに言われたらそりゃあウェズンとて反論はする。味は大事だ。栄養も大事だけど栄養ばかりを追求した結果一口食べた瞬間絶望するレベルの不味さとかなら、流石にちょっと。


 魔術の場合はそれに当てはめるとどうなんだろう……? とは思ったけれど、多分そこら辺は魔女界隈ではきっと重要な事なのかもしれない。知らんけど。


「魔法に関しては精霊の手助けがあるからまだマシだけど、魔術は基本全て己の魔力のみで実行されるでしょ。だからこそ、重要視されるの」


 そういえば、学園で精霊と契約する以前に魔術を使った事があるかどうかを聞かれた事もあったな……と思い出す。使った事があるかどうかは育ってきた環境による違いもあるだろうと思ってウェズンは特に気にしていなかった。最終的に自分が望んだとおりの結果を得る事ができればそれでいいと思っていたからだ。


「テラ先生はあまり言ってないけど、魔術って実はとても重要なのよ。そりゃあ浄化魔法が使えるかどうかが重要なのは言うまでもないんだけど、精霊の手助けがあっても魔術が上手く使えない人はいずれその手助けがあっても上手く魔法を行使できなくなるから」


 いまいちよくわかってなさそうな表情のウェズンにイルミナは渋面を浮かべつつも告げる。


 そう、魔術がいまいちすぎて、このままではいずれイルミナの魔法もそれに引っ張られて今はかろうじてマシレベルなものが更にレベル低下する可能性を秘めているのだ。これはとても由々しき事態である。

 浄化魔法さえ使えればあとは物理で強ければ案外どうとでもなりそうな学園はさておき、学園を出たあとの事を考えるとイルミナの未来はお先真っ暗状態である。

 何せ彼女は魔女の血を引いている。

 けれどもただ魔女の血を引いてるだけ、というのが今の評価だ。


 母はいないからどう思っているかはわからない。けれどもきっと、失望はしているだろう。

 祖母は既に諦めている。表向きそれを露骨に出したりはしていないけれど、しかしイルミナが一人前の魔女になる事はないととうに諦めているのだというのは、祖母の一線を引いた目を見れば理解するしかなかった。

 言葉ではそんな風に言ってはこないけれど、しかし態度の端々にそれらが滲んでいるのだ。

 直接言われていなくとも、イルミナがそれを感じ取るのは容易であった。


「魔術に必要なものって何かわかる?」

「え? 魔力」

「そうだけど、そうじゃなくて」


 そりゃ魔力がなかったら発動なんて絶対しないから必須ではあるけれども。

 そうではないのだ。

 魔力がある、から魔術がまともに発動すると思ったら大きな間違いなのである。


「詠唱だとかから発動させる魔術の根本的な部分を理解する事」

「基本ね。そしてそれができれば詠唱なしで発動させる事も可能になるわ。詠唱しなくても発動できるようになると軽視されがちだけど、詠唱は魔術の全てといってもいいわ」


 詠唱は例えるならば設計図である。

 なので基礎を理解できればいずれ無詠唱で発動もできるけれど、そうじゃないうちは声に出さずとも詠唱はしておいた方が成功率は高い。

 何度も行使していくうちに、自分がどういう術を使うつもりなのか、それを理解してそこで無詠唱でも発動できるようになる……のだが。


「私が聞いてるのはもっと根本的な……根幹とでもいうべき部分というか」

「集中力と想像力」

「そうそれ!」


 ウェズンの言葉は平坦すぎて何でこんな根本的な事聞かれてるんだろう……? とでも言いそうな顔をしていた。まぁ、イルミナとて普通に魔術を行使できるのであればそりゃそんな顔をするだろう。何でそんな基本中の基本以前の基礎ですらないような、当たり前の事を聞かれるのだ、となってもおかしくはない。

 だがしかし、イルミナにとってはその部分が大きな問題であった。


 集中力は問題ない。発動させようとすれば瞬時に発動はできる。

 だが――


「問題は……想像力なのよ……」

 力なく告げる。


 見て、と言ってイルミナは魔術を発動させた。

 ウェズンとイルミナから離れた空間で発動された魔術は、底からじわりと滲むような闇が溢れて、そうしてどろりと広がり溶け、消える。


「ファイアーボールを発動させようとしました」

「えっ!?」

 とんでもない大きな声がウェズンの口からまろびでた。

 それから目を何度かぱちぱち瞬かせて、闇が消えた場所とイルミナを交互に見る。

 五度見された。見過ぎである。


「明確にイメージするっていうのがとても苦手で……どんな術を発動させようとしてもああいう感じになるのよ……」


 自分で言ってて悲しくなってきたのかイルミナは両手で顔を覆った。


「成程確かに由々しき事態……?」


 そう呟いたウェズンの声は若干震えていた。

 ついでに自分がここに連れてこられた理由も何となく把握した。


「いやでもそれ、先生に頼むべきでは……」

「実践あるのみって言われるのが目に見えてたから」

「あぁ……テラ先生なら言うな」

 それ以外の先生なら、と思うがそもそもそれ以外の教師と関わる事があの学園、正直あまりない。他のクラスとの合同座学授業だとかがないわけじゃないけれど、そういうのに一度や二度出た程度では流石にこんな事を頼むのも言いにくいだろう。

 ちょっとしたヒントが欲しい、程度ならまだしもイルミナの場合は割と基礎からだ。言い出しにくい、という気持ちはわからなくもなかった。


 あと、正直想像力に関する部分とか指導がしにくいだろうな、と考えるとそりゃ気軽に聞けないよな、とも。


「このままだとそのうち魔法までどうしようもなくなりそうなのよ。流石にそれは困るし……だからね、この機会に何とかしたいの。助けて師匠!」

「勝手に師匠にされてんの草」


 弟子を持った覚えはこれっぽっちもないのに何かしれっと弟子になってるのなんなんだろう……と思ったが多分ここでごねたところでイルミナも同じくごねるしきっと駄々もこねるだろう。

 とはいうものの、一体どうしろというのか。

 正直ウェズンも若干途方に暮れた。

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