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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
二章 チュートリアルなんてなかった

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舐めプじゃなかった



 ホラー探索物。脱出ゲーム。もしそうであるならばこのホールがスタート地点っぽいよなぁ、と思っていたウェズンではあったが、まさかそのスタート地点然とした場所にいきなり何の前触れもなくぽっかりと穴が開いているとか、想像していたかと問われれば一切していないと答えられる。


 大体こういうのは何らかのフラグを立てた上で、ゴォンとかゴゴゴ……みたいないかにも何らかのギミックが発動しましたよみたいな音がどこからともなく聞こえた……とかそういう感じのナレーションなりモノローグなり挟んでから出るべきではないのだろうか。

 まぁ、ゲームではなく現実ではそんなお約束がなくても仕方ないのかもしれないが、いきなりぽっかり開いてる穴とか正直心臓に悪い。

 よく見るととても頼りない細さの鉄梯子がかけられている。えっ、これで下りんの……? と言いたくなるくらいの頼りなさ。正直これ、人の体重支えられます? という疑問が出るくらい細い。


 小さな子であればまぁ……といった具合ではあるが、少なくともそれなりにすくすく育っているウェズンだとかアレスでは下りるだけでも不安を感じる。二人同時に下りていくのは危険だろう。そう判断し、まずはウェズンが下りる事になった。途中でどこか踏み抜くのでは……という不安もあったし何だったら下りてる途中でギッ、ギッ、と軋んだ音は鳴るしで下りてる途中は一切何の安心もできなかったけれど。


 それでもどうにか下に下りて、周囲を確認する。

 下りた場所は特に何があるでもない。円形の空間。ただ、そこから一本通路が伸びている。一応先に進めるというのがわかるが、通路の先は暗く何があるかもわからない。

 けれども先があるので、上に向けて声をかける。

 少し経って、アレスがゆっくり下りてくるのが見えた。とても慎重に下りてくるのを見て、自分もあんな感じだったんだろうな……と遠い目をする。

 下りているその動きにとても戸惑いを感じる。

 そうだよな、わかるわかる……とウェズンはそんなアレスの様子を見ながら頷いていた。

 何せとても下りている途中不安だったもので。

 下りてるからまだいいが、これ向こうの通路から何かから逃げてるところでこれをのぼったら脱出できる! みたいな状況になってたら、焦りすぎて踏み外したり力入りすぎてあの足場どっか壊れたりしない? と思ってしまえるので、この先に何があるかまだわからずとも下りてるだけならまぁまだ……という思考に入る。


 そうこうしているうちにアレスも下りきったので、唯一ある通路を指し示す。ぽっかりと開いているそれは、まるで何か化け物の口のようにも思えてきた。


「……何もなければいいんだがな……」

「そういう事言われるとさ、逆に何かありそうだからやめてくんないかな」

 知ってる? フラグっていうんだよそういうの。とは流石に言えなかった。相手がイアだったら言ってた。


 暗い通路の先を照らすようにウェズンが発動させた照明魔法で、通路の先がどうにか塞がっていない事だけは確認できた。これで崩壊していて先へ進めませんでした、なんて事になっていたら完全に打つ手なしである。

 崩れた瓦礫をどかせばいい、と思われがちだがたった二人でその作業は流石に厳しい。魔法を使うにしても、崩れたその先が完全に埋まっていたら。あと瓦礫を別の場所に移動させるにしてもここはそれも難しいだろう。


 通路が通路として機能しているだけマシ。そんな風に思いながら、二人は横に並んで歩いていた。意外と通路は広く、隣にもう二人くらいいても全然余裕で歩ける広さがある。人工的につくられただろう壁面から天井を見回して、いきなり崩れそうな感じがしない事にホッとした。


「しかし……随分広い通路だね」

「そうだな、さっきの鉄梯子の貧弱さを考えると不自然なくらいに」


 この通路の先にあるどこかから館の中へ行くにしても、館から向こうへ行くにしても。

 荷物だとかを抱えて移動するような状況は想定されていないのではないだろうか。何せ途中のあの鉄梯子が本当に貧弱すぎるので。下手に荷物だとかを抱えて移動したら重さで本当にバキッと逝ってしまいそうだ。


 ウェズンはリングの中に荷物を収納すればいいだけだが、そうでなければ荷物は鞄に入れるなどして持たねばならない。背負うにしても、あまり重たければやはりあの鉄梯子で躊躇うだろう。細すぎて握る手もなんというか、本当にこれ握れてる? という不安すらあったくらいなので。


 荷物。リング。


 その単語でふとウェズンは疑問に思った。


「あれ、そういえば……アレス、きみ魔術使えたんだよね。って事はどこかで……」


 何も教わらずに自然と扱えるようになっていました、という人間が果たしてこの世界にどれくらいいるのかは知らない。けれども、扱いを失敗すれば瘴気が発生するとわかっているそれを、独学でさせるような事はないだろう。必ず周囲の誰かが教えるはずだ。下手に失敗を積み重ねられて瘴気が大量に発生したらどこまで被害が広がるかわかったものじゃないのだから。


「…………あぁ、教わっている。魔法もな」

「って事はどこかの学校で……?」


 そう言うとアレスはとても気まずそうにウェズンから顔を逸らした。


「…………フィンノール学院だ」


 その言葉にウェズンは思わずぽかんとした顔をしてアレスの方を見た。相変わらず顔は逸らしたままだけれど、聞き覚えのあるその名前に、え? と思わず聞き返す。


「あの、勇者育ててる?」

「そうだ」

「へぇ……」


 ウェズンの反応としてはその程度だった。へー、そうなんだー。それ以上でも以下でもない。

 あっ、じゃあファラムやウィルと同じところなのか、程度の感想である。

 成程、あの学院の制服は白が基調だし、アレスならとてもバッチリ着こなせるのではないだろうか。脳内で想像してみると、なんだか正統派ファンタジーの騎士か何かに思えてくるし、何なら乙女ゲームの攻略対象か? みたいにも思えてくる。割とどのジャンルにいてもおかしくない程度の存在感。

 まぁ、現状は完全部屋着なのでとてもそうは思えないのだけれど。

 とりあえずTシャツに書かれた黒幕は僕ですの文字が酷い。あとスリッパ。途中で脱げる事もなかったとはいえ、あの鉄梯子よくこれで下りてこれたなと思う程である。


 気を抜きすぎでは……? と思えるくらいのラフな格好と言えばそれまでだ。


「え、まってそれじゃリングは?」


 フィンノール学院の生徒もグラドルーシュ学園同様生徒にはリングを配布しているはずだ。

 リングは基本つけっぱなしにしておいた方がいい、と言われていたのもあってウェズンは実際風呂に入る時も寝る時だってつけっぱなしにしている。身体を洗う際に外す事がないわけじゃないが、外すというよりは少しサイズを変えてリングの場所を移動させて、といった具合で完全に身体から離すような事はしていない。学園の、寮の自室ならそう何かあるとは思わないがそれでも油断はできない。いざという時の事を考えるとリングは生命線だ。リングの中には一応着替えもいれてあるので、万一風呂場で襲われて挙句魔法でどこかに飛ばされて全裸でどうしようもない、という状況はリングがあるなら回避できる。着替えが常にあるという安心感……とまでは思っていないが、まぁ何かあってもどうにかできそう、とは思っている。


 リング一つの有無で心の余裕度合が大分違ってくるのだ。つまりは。


 リングのない状況、それに服も制服だとかの戦闘に向いている素材などではない場合。つまりは今のアレスのような状況だと、本当に頼れるのは魔術と魔法なのだがそれだって万能でも全能でもない。怪我をしても治癒魔法だとかで治せるには治せるが、あまりにも酷くなると魔法を発動させるための意識を保っていられるかも疑わしい。ちょっとでも攻撃を食らったらその時点で大分ヤバイ、となるのだ。

 やられる前にやれる、というのならまだしも、そんな展開は滅多にないだろう。


「……恐らくあいつが持ってるか、多分自室に捨てられてるだろうな」

「えっ、あの、一体どういう状況? リング外して、とか言われたの?」


 リングを外す状況、と言われても正直ピンとこない。

 学園側からリングの調整をしないといけないので一度回収します、とか言われたらウェズンだってリングを外すだろうとは思うけれど、それ以外で外す事があるか……となると無い、ような気がする。


「俺のリングは手首につけていたのだが」

「うん」

「あいつ俺の手首切り落として」

「えっ」

「そこからリングだけ強制的に外して治癒魔法で手首くっつけた上で無理矢理連れ出したからな」

「鬼畜の所業……」


 それ以外に何を言えというのだろうか。

 リングを外すように言うのではなく、物理で回収するとかどんだけ……!

 というかだ。アレスの格好から判断するに間違いなく彼は自室にいたのだろう。フィンノール学院も多分寮とかだろうし。という事はだ、アレスの自室には手首を切り落とされた時の血痕とかがそのままなのでは……なんていう部分にまで意識が向いて、災難が過ぎるな……と思わず呟く。


「えっと……なんか恨みでも買ったの? 例えばほら、故郷の村焼いたとか」

 ウェズン的には正直それくらいやってたならむしろ手首からリング強制的に回収してここに放り込んだとしてまぁトントンかなと思わないでもないのだが、これだけの仕打ちを受けるにあたって何をしでかしたらこうなるのか、という正確なラインがよくわからない。


「いや、生憎学院に入ってからあの人とは知り合った。ついでに言うと教室も違うしロクに話もしていない」

「それが本当なら逆恨みとかのセンかな……えっ、どっちにしても災難が過ぎるが!?」


 つまりは、こんな目に遭うような心当たりもロクにないまま下手したら死ぬような状況に追い込まれてるわけで。どうにかここから脱出して無事に帰ったとして、自室は血痕そのままだろうから片付けないといけないだろうし、更にはその相手も同じ学院にいるから次に何を仕出かしてくるかわからない……という事になる。


 勇者育成する学校、ってもうちょっとこう……清く正しく美しくをモットーにでもしているような印象だというのにアレスに関して言うととんでもなくギスギスしている。


 立場的には将来的に戦う事になるかもしれない相手、ではあるのだが、これには流石に同情する。

 ともあれ、彼が非武装でリングすら持っていない事についてはよくわかった。これ以上深堀してもそのお相手について知るだけだろうし、正直危険人物に対する情報は欲しいがのんびり話をしていられる余裕はそろそろなくなりそうだった。


 何せ、通路の先にこれまたでっかい扉が存在していたもので。

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