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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
二章 チュートリアルなんてなかった

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始まらない探索



 流石に合成獣キメラを倒した室内でそのまま会話をする、という気にはなれなかったので一先ず廊下へ出る事にした。

 そうしてお互いに改めて自己紹介をして話をしてみれば、アレスの事情は大体アレスに成りすましていた合成獣キメラの言い分と変わらなかった。


 とはいえ一致していたのはここに来たのは無理矢理放り込まれたから、という部分だけだ。


 それ以外の部分は異なる。

 アレスはオードと一緒に放り込まれたわけだけど、ここが魔女の作った人食いの館であるという情報は把握していた。合成獣キメラがアレスの姿を真似て喋っていた時のアレは嘘でもなんでもなかったらしい。

 ともあれ、アレスもオードもここが危険な場所である事は最初からわかっていたわけだ。そしてそこにロクな装備もないまま放り込まれた。

 だからこそ二人は一緒に行動していたのだが、そこにあの合成獣キメラが襲い掛かって二人を分断。そうしてオードを殺害した後、合成獣キメラはオードの姿に変化しアレスと合流。アレスはどうにか撒いて逃げてきたというオード(キメラ)の言葉をまんまと信じ、空の本棚が並ぶ部屋へと誘導されてそこで襲われ――今に至る。


 合成獣キメラはどうやら相手の血を一定量摂取する事で相手の姿になれるらしく、そしてまた本人が持ち得る記憶もある程度持つ事ができていたのだとか。

 だからこそアレスはオードが偽物である事に瞬時に気付けなかった。本人――というかこの場合オードとアレスしか知らないような内容であってもあいつは知っていたようで、だからこそ余計に信用してしまったわけだ。


 それを聞いたウェズンは、すごく……犯罪に使えそうな能力です……と内心で戦慄した。

 一定量の血液を摂取する必要があるにしても、別に全身の血液を啜らないといけないわけではない。見ればアレスも若干怪我をしていたし、本棚の下敷きになった際頭からも血を流していたから恐らく血はそこで採取されたのだろうとは思う。

 今現在こうして自力で動けているアレスを見る限り、摂取する血液量は決してそこまで多いわけではないのだろう。


 何を思って魔女があの合成獣キメラを失敗作と断じてここに閉じ込めたのかわからないが、うっかり世に解き放たれるととても厄介な事になりそうなので、失敗作扱いで良かったな、とすら思っている。


 アレスは怪我をしているとはいえ、頭から流れる血だけでそれ以外は特に大きな怪我をしていなかった。なのでそれについてはウェズンが治癒魔法を発動させて治した。魔術でも治せなくはないのだが、精霊の補助がある魔法の方がこういう時は安心できる。アレスも治癒魔法が使えないわけではなかったようだが、いかんせん怪我をしているので集中力に欠ける可能性があった。それでなくともモノリスフィアが使えない程度には瘴気汚染されている場所だ。ここで下手に失敗でもされたら、事態はもっと最悪な方向に傾くのでは。そんな嫌な予感がしてもおかしくはなかった。


 アレスからすればウェズンはいきなり自分の事を知っている見知らぬ人物だ。なのでウェズンも偽のアレスに話した内容を再び説明し、そうしてお互いに情報のやりとりを終わらせて。


「あ、そうだ。これもしかしてきみの?」

「……そうだな。これをどこで?」


 一瞬訪れた静寂。そこでふとウェズンは思い出した。

 偽アレスと出会ったあの部屋でみつけた物を。

 部屋の中に落ちていたそれが気になってあの部屋に入ったようなものだ。その真上に偽アレスがいたし襲い掛かって来たのもあってすっかり忘れるところであったけれど。


 柔らかな布地。元は丁寧に折りたたまれていたのだろう、折り目がついているのがわかる。

 けれど今は踏まれて靴跡がついた状態で、なんとも無残な状態であった。


 それは眼鏡拭きだった。偽アレスが襲い掛かって来た時、彼の腕を掴んでなんちゃって一本背負いの要領で叩きつけた時に、一歩踏み込む形になってしまったウェズンはそんなつもりはなかったけれど落ちていたそれを踏んでしまっていた。靴跡はその時の名残である。

 偽アレスと話をする直前でそっと回収して、あとでこっそり洗浄魔法とかで綺麗にしてから何食わぬ顔で返そうと思っていたのだが偽アレスが床にあったそれを気にした様子はなかったし、なんだかんだであいつに襲い掛かられて倒してしまったので、うっかり忘れるところだったのだ。


「えぇと……あの偽物が」


 今思えばあの合成獣キメラ、ウェズンが館の中を探索していた事はわかっていたのだろう。そうして一通り見ていく事を察知して、あの部屋に潜んでいたという事か。

 天井じゃなくてもっと別の場所にいればよかったのに、と思わないでもないが上から奇襲がくるとか建物の中ではそう思うものでもない。それに、どうにもあの合成獣キメラ、血を摂取してその個体に変化できるわけだが見た目だけではなく能力もそれなりに引き継いでいるらしかったし。

 ということは今目の前にいるアレスも、見た目明らかにインテリ系だというのに天井に張り付けるだけの体力があるという事か……そう考えると恐ろしいものがある。

 ……それとももしかして、それくらいはこの世界の人間からしたら普通なのだろうか?

 他種族の血もいくつか混じってるらしいし、人によってはそれくらい余裕ですけど? となっていてもおかしくないのかもしれない。


 ともあれ、ウェズンのその一言でアレスは納得したようだった。

 そうか、すまない。なんて言いながら受け取る。

「ごめん、思い切り踏んづけた」

「わざとじゃないんだろう。仕方ないさ。それに洗えば済む話だからね」


 そう言われて、ウェズンはホッと安堵の息を吐いた。そう言ってもらえるとこちらとしても助かる。


「それで、これからどうしよう」

「どう、ってそりゃあ、ここから出る方法を探すしか」

「あるの?」

「……どうだろうな」


 生憎ウェズンのこの館の知識は魔女が作った人食いの館という事しか知らない。さっき名称を知ったばかりという、ほぼゼロに等しい知識だ。

 けれどもアレスはウェズンよりはここに詳しいだろうし、そう思って問いかければアレスもまた難しい顔をしていた。


「入口の扉ぶち壊すとかは」

「できなかった」

「え」

「真っ先にオードと一緒に試した。俺も、あいつも魔術や魔法に関してはそれなりの腕があると自負しているけれどそれでも無駄だった。それどころか……」


 そこまで言うとアレスは一度言葉を切った。言おうか言うまいかまるで悩むように。


「あの扉、特殊な素材を使われてるらしく、魔力を吸収して強度を高めているように感じた」

「つまり、攻撃すればするほど向こうは頑丈になってくって事か……え、弱体化させる方法とかないの?」


「あったら簡単に脱出できるだろうな。けれどもここは簡単に脱出されたら困る場所だ。そんな甘い方法があるとは思えないし実際にそういった方法は見つかっていない」


 なんてこった。

 危うく声に出しそうになったけれどどうにか耐えた。


 あの時ウェズンも魔術や魔法でぶち破ろうかと考えたけれど実行に移したりはしていない。けれども、やらなくて良かったと実感する。

 もしあの時そんな事をしていたら、間違いなく無駄に消耗していた。そうなると合成獣キメラに魔術をぶちかました時、もしかしたら魔術の威力が落ちていたかもしれない。そうなっていたら、あの合成獣キメラだってこちらに反撃する余裕はあっただろう。そうなっていたら、最悪ウェズンの血もとられていた可能性がある。

 正直ウェズンの姿を真似られたとして、何か不都合があるか、という疑問がわくがもし奴がこの館を出て神の楔まで移動する事が出来たなら。

 偽アレスはウェズンの制服を見てグラドルーシュ学園の生徒だとわかっていたようだった。つまりは、ウェズンの姿を真似ていた場合、そして神の楔で転移できる状態であったなら奴は間違いなく学園に何食わぬ顔で戻っていたに違いないのだ。さも自分はウェズンですよという顔をして。

 そうして更なる獲物を求めて――


(完全にB級ホラーにありがちなやつです本当に……いやまて)


 まぁウェズンの姿をして学園に行ったとして流石に学園が全滅するとは思っていない。だが、まぁ、被害に遭う奴はそれなりにいるだろう。

 とはいえそれはあくまでも仮定のもしもの話だ。


 だが、とそこで正気に戻る。

 そもそも、いくら誰かの姿を真似る事ができると言ってもあの合成獣キメラは果たしてこの館から出る事はできるのだろうか?

 失敗作を押し込めて内部で勝手に殺し合いをさせて処分するような館だ。入るのは簡単かもしれないが、出る事に関しては一筋縄ではいかないだろう。特に、処分予定の合成獣キメラにとっては。


 想像していたB級ホラーな未来予想図はあくまでも想像で済みそうだ、というのは何よりだが、別段何の解決にもなっていない。



「……そういえば、アレスとオードをここに無理矢理放り込んだっていう人はどうやって……?

 僕は雨を避けようとして玄関先を借りようとしたら扉が勝手に開いて引きずり込まれたんだけど」


 アレスがここに来た経緯は偽アレスからもアレス本人からも聞いたけれど、そういやすっかり忘れていた。

 近づいただけで取り込まれたウェズンのように、その人だってここにいないとおかしいのではないか。


「…………あの人はこの館に近づいていない。俺とオードを魔術で玄関先までぶっ飛ばした」

「なるほどねー」


 つまり玄関先に近づいたらオートで取り込まれるって事ねオッケーもっと早く知りたかった!


 その無理矢理放り込んだ人というのが片手で二人の首根っこでも掴んで玄関の扉を普通に開けて放り投げて扉を閉めていった、とかならなんで? ってなったかもしれないが、距離を取ってそこから魔術で二人を玄関先までシューッ! 超! エキサイティン!! しちゃったわけね、とそれはもうざっくりと理解してしまった。


「……魔術でって割によく服とか無事だったな……」

「魔力の制御精度がおかしいんだあの人」

 あと多分頭もおかしい、とか言われて否定できる要素がみつからなかった。何せウェズンはその人の事を知らないので。


 とりあえず、考えてみたけれど脱出できそうな糸口がまるで見つからない。


「となると後はもう、地下室とか隠し部屋とかそういうのを探すべきか……?」


 脱出物にありがちなやつに一縷の望みをかけるしかないのでは。そう思って口にした言葉は案外すんなりアレスに受け入れられた。

 多分一階も二階もすべての部屋を見たところで脱出できるような何かがあるとは思えなかったし、だがしかし一度入ったら出られないとなった場合、もし魔女がうっかり手違いで入り込んだなら魔女だってここで死ぬしかない。最終手段みたいな脱出方法がきっとあるはずなのだ。


「隠し部屋と地下室なら地下室のがなんとなくありそうだよな」

「あぁ、では一階を虱潰しに探していこうか」


 場合によっては二階の隠し部屋から地下へつながっているとかいう可能性もあるけれど、それは一階を調べ尽くして何も出てこなかった時に考えよう。


 思っている以上に先が長そうだな……なんて思いながら一階へと移動して。


 誰が思うだろうか。

 ホールにぽっかり穴が開いているだなんて事態。

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