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待ち構えていたものは



 テラが言うとおり、本当にさらっとした説明だけで本日は終了らしい。

 他の教室の生徒たちも同じような時間に終わったらしく、廊下は思っていた以上に賑わいを見せていた。


 部屋のカスタマイズ、と聞いてそわそわしている者たちが足早に寮へ戻ろうとしていたり、それより先に食事を済ませてこようと食堂へ向かう者たちもいた。


 マップだけ見てもよくわかんないから、さらっと確認してから戻る、という相手もいたのだろう。

 皆が一斉に同じ方向へ向かって移動しているというわけでもないので、だからこそウェズンとイアが適当に廊下をぶらぶら歩いていても特に咎められるような事にはならなかった。


「そういえば上級生とかは?」


 新入生は部屋のカスタマイズだなんだとやる事もあるだろう。

 けれども既に在籍している上級生には関係のない事で、もしかしたら普通に今頃授業を受けているはずだ。

 そう思ってイアに問いかけるも、イアは、

「上級……? あ、そっか、学校ってそういうものだったね。

 あのねおにい、この学園は学年でクラスが分かれるっていうよりは、先生ごとに分かれるって感じなの」

 一瞬何を言われたのかわかっていなかったのか、しばし考え込む様子だったが理解してからはあまりにもあっさりと返されてしまい今度はウェズンの理解が追い付かなくなってしまった。


「僕たちのクラスにはそういう人いなかったよな?」

「そうだね」

「でも他のクラスには既に去年入学したとかその前に入学した先輩がいると?」

「そうだったはず」

「……留年とは違うのか?」

「違うはずだよ」


 割と大半の内容を忘れているイアであるけれど、この学園のその辺の事はとりあえず覚えていた。

 毎年入学してくる生徒を、適性検査だとかのテストをした上で各クラスに振り分ける。学年だとかは正直あまり関係がないのだとか。

「普通の学校は、何年間か通って卒業するでしょ? でもここそういうんじゃないから、ある程度必要な魔術とか教わったらさっさと帰っちゃう人もいるはずだし、在籍し続けて魔王に選ばれるまで粘るって人もいたはず」

「それ本当に退学や留年と違うのか……?」

「違うと思うよ。おにいここが魔王を育てるための学校だってのはもうわかってるでしょ?

 じゃあ、次に魔王が選ばれるのはいつ? ってわかる?」

「いや。聞いていないな」

「三年後。魔王と勇者の戦いは十年に一度。その十年に一度が次は三年後に迫ってるってわけ」

「ん? という事は僕たちは次の次あたりで魔王になるのを目指すという事か?」

「違うよ。三年後。確かに早い段階から入って実力つけて、って感じで狙ってる人もいるけど、基本的な魔術だとかの指導を受けるだけとかそういう人達はその辺気にしないから。

 勿論実力がある人なら一年前に入学して魔王狙うのも可能かもしれないけど」


 大体さ、とウェズンを見上げてイアはさらに続ける。


「普通の学校なら学年で振り分けられるんでしょ? そしたらあたしとおにいが同じクラスになるはずないじゃん」

「……それもそうだな」


 そうだった。言われるまでそのあたりがすっぽ抜けていた。

 しかしそれでは学園というよりはどこぞの職場みたいな感じがするな、と思える。自分より年上の後輩とか年下の先輩がいてもおかしくないというわけだな。

 思い返すと先程ウェズンが気になった生徒たちも同年代とは言えない気がした。大まかには同年代かもしれないが、多少の年齢差はありそうな気がしている。


「ところでイア」

「なにおにい?」


 移動しているうちにほとんど人がいない場所まで来たので、ちょうどいいと思いつつ聞く事にする。


「あのクラスの中でイアが覚えている奴はいるか?」


 流石に誰が主要キャラだ? とは聞けないために若干言葉をぼかしたが、とりあえずは理解されたらしい。

 んーと、と呟いてイアは無意識にか天井を見上げた。


「……それが、いない気がするんだよね」

「いない?」

「うん、ライバルっぽい相手がいたはずなんだよ。金髪の」

「レイやヴァンではなく?」

「髪の色が近いのはレイかもだけど、確か片眼鏡モノクルつけてたと思うんだよね。だから違うと思う」

 雰囲気ももっと落ち着いてた気がするし、と言われてしまえば別人だなと思ってしまう。


 いや、もしかしたらこの先何らかの出来事があったらレイが大人しめの雰囲気を持つようになってなおかつモノクルをつけるようになるかもしれない。

 けれども、そう思って想像してみたけれどいまいち上手く想像できなかった。それならやはり別の誰かだと思った方がまだ有り得る気がしてくる。


「これから転入という形でやってくるのか、それとも」

「原作から遠ざかったか、かな?」


 イアの言う事も一理あった。

 イアは自分が転生者であると告げたが、ウェズンは告げていない。

 けれども、この時点で転生した人間が二名いるわけだ。

 自分たち以外の誰かも転生していたとしても、何もおかしくはないわけで。


 もし自分たち以外にも転生者がいたとして、その転生者がこの世界について知っているのなら。

 積極的に原作に介入するか、それとも原作から遠ざかるかの二択に分かれるのではないだろうか。

 モブであるなら傍観者の立ち位置を選ぶ事も可能だとは思うが、主要キャラっぽい人物に転生した場合は傍観の立場を選ぼうにも周囲がそうさせてくれない場合もある。


「ん、ん~? でも、なんかレイとヴァン、あとイルミナはいたような気がしなくも……どうだったかな……?」


 つい今しがた出した名前の他に、ウェズンも何となくヒロイン枠とかで主要キャラになってそうだと思っていたイルミナの名が出たものの、イアの様子からは確定であるとは到底言えそうにない。


「サポートデバイスがないだけでこんな記憶力って下がるものなの……?」

「いや僕に聞かれても。そもそもそのサポートデバイスがあったという経験をした事がない」

「そうだよね」


 イアの話からして、脳にスパコンでも埋め込んでるのかってくらい高性能らしきサポートデバイス。正直気にならないわけではないが、だからといって体験したいとは思わなかった。

 いかんせん前世のウェズンの時代ではまだ精々耳あたりにマイクロチップを埋め込むだとかの話が出始めたあたりだったので。しかもそれだって人間ではなくどちらかといえば犬や猫といったペットの話だ。


 近未来物の話では手首に個体識別コードが埋め込まれたチップだかなんだかがあって、みたいなのもあったとは思うがそれが実現するのは相当先か、はたまた実現しないまま空想で終わるのではないかと思っている。実際どうなったかなんてどのみち確認しようがないけれど。


「特に思い出した内容もないか?」

「うん。生憎さっぱり」


 悪びれもせずに言い切るイアに、ウェズンも特に期待していたわけではないのでそうかと返して終わる。


「それじゃ、そろそろ戻るか」

「そうだね。お部屋の中身を変えるとか、ワクワクしちゃうね」

「……そうか?」

「うん! 今はあまりインテリアとかないけど、揃えて自分の好きな部屋にできちゃうんでしょ? えーっ、お花とかいっぱい飾っちゃおうかなあ!」


 きゃっきゃしているイアは浮かれ切っているが、ウェズンはイアと同じテンションにはなれそうにない。


 というか、前世でもそういえばそんな感じのゲームはあったな、と思いはするのだ。衣装を集めてお気に入りコーデしちゃおっ☆ みたいなのとか、家具を集めて理想のお部屋を作っちゃおう☆ だとか。

 なんなら無人島を開発する、なんてのもあったしそういうゲームに一定の需要がある事は理解してはいる。


 実際の自分の部屋の模様替えなどそう何度も気軽にできるものではないし、それならせめてゲームの中くらい……となるのだろうな、程度の理解力しかないが。


 つまりウェズン、部屋の模様替えだとかそういったものに全くの無関心であった。


 実家の部屋に至っては寝起きする場所があればいい、くらいで家具だとかは両親がどこからか持ってきた物で間に合わせていたくらいだ。もっと言えば服装もいちいちコーディネートだとかを考えるのが面倒すぎてある物の中から適当に選んでいた。


 町の学校だとかは制服がなく、私服で通う事になっていたけれど流石に毎日同じ服で通うのはどうだろうかと思っていた。実際通わなかったけど。

 そういう意味では制服があってとりあえずそれ着ればいい、というこの状況はとても楽と言えた。

 一応寮生活といえども休日は存在しているらしいので、私服でお洒落をしたいだとかいうのは休みにでも張り切るのだろう。



 前世であれば、これ何であるんだ? と疑問に思う内容の校則もあったけれど、果たしてこの学園はどうだろうか。

 ウェズンくらいの年齢になると大体反抗期だとかが訪れていてもおかしくないので、クラスメイトあたりに制服とかかったるー、めんどいから私服で登校しちゃえ☆ みたいなのが出てくるかもしれない。

 その時のテラの反応で大体校則違反した時の危険度が判明するんじゃないかなぁ……なんてぼんやりと考えて。


 イアの理想のお部屋づくり発言にそこそこ適当な相槌を打ちつつも、学園を出て寮へ戻るべく、イアとはお別れした。

 男子寮と女子寮は東西で別れているので一緒に帰るといっても学園を出るあたりまでだ。


 学園から寮までは大体徒歩で十分から十五分程度といったところだろうか。前世だったら間違いなく交通機関を使うが、生憎この世界に気軽に使えそうな交通機関はあまりない。

 いや、一応父の話でかつてはあったのだと聞いてはいる。ただ、今はもう使いたくとも使える状態に無いだけで。


 とはいえ、魔力次第で高速移動できるだとかそこそこの距離をワープできるだとかの魔法や魔術があるらしいので、今の世の中はそっちが主流なのだろう。覚えられない奴は徒歩で行け、って事になるけど。いや一応馬車とかあったはずだし、探せば他にも自転車みたいなのとかあるかもしれない。


 なんて事をだらだら考えているうちにウェズンは寮へ戻って来た。

 外から見る分にはとても小ぢんまりとしているが、中は案外広い。空間拡張の魔法がどうこう言ってた記憶があるので、つまりはそういう事なんだな、と雑に納得させた。


 これが前世の世界であるならどういう仕組みなのかと考えて現実的に有り得ないだろうとなったかもしれないが、いかんせん魔法だの魔術だの言ってる挙句親が普通にそれを使いこなすような世界に生まれればちょっとやそっとの超常現象で驚くはずもない。


 あ、そういう事ね、オッケオッケ把握。

 くらいのノリで受け入れてないと、ウェズンの脳みそはとっくにパンクしていただろう。


 一応各階に転送できる魔法陣があるけれど、なんとなく階段を移動して自分の部屋へと戻ってきてみれば。


「オカエリナサイ。お待ちしていました」


 なんでか部屋にゴーレムが待ち構えていた。

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