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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
二章 チュートリアルなんてなかった

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迷い子、二人



「えっと……ごめんね大丈夫?」


 やっべもしかしたら殺しちまったか!? と焦ったのも束の間。

 どうにか生きていた彼に、ウェズンは若干の気まずさを込めて謝罪をしていた。


 そもそも謝る必要があったのか。

 襲い掛かって来たのをマトモに見ないまま迎撃しただけなので、ウェズンが完全に悪いとは言い切れない。撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけとかなんかそんな言葉もあったような気がするし、その理屈でいくなら反撃される可能性を考えた上で攻撃すべきなので。

 反撃されたくないならば、まず自分から攻撃を仕掛けないか、もしくは反撃する余地もなく一撃で仕留めるか。

 そうじゃなければ反撃されたって仕方のない事だ。


 反撃した側が完全に悪い場合、というのを考えてみるとこの場合はウェズンが不法侵入者で、目の前の彼がこの館の正式な主である場合……だろうか。

 それにしたってウェズンとて好きでここに入ったわけではないので、何もかもが悪いとは言えないと思うけれど。


 襲い掛かって来たのは、ウェズンとそう年は変わらないだろう少年――いや、どちらかといえば青年だろうか――であった。

 あくまでも見た目という意味で、もしかしたら年齢差がとんでもない可能性もあるけれど。


 ドアが閉められた室内。そこで青年は明かりの魔法を唱えてほんのりと部屋の中を照らした。

 あ、魔法とか使って大丈夫なんだな、とそこでようやくウェズンは納得したのである。何せ今の今まで魔法とか使ったら何かこう……罠とか、化け物が察知して襲ってくるのではないか、だとかの被害妄想が消えてくれなかったもので。


 雷の光だけに頼っていたらそりゃもう目に負担がかかりすぎていたのもあって、柔らかい光で照らされた室内にようやくホッとしたのもある。


 そうして精神的にも多少落ち着きをみせたウェズンは、そこでようやく自分に襲い掛かってきた青年をマトモに視認したのである。


 一言で言うならば、完全にどっかの町とか村で暮らしてそうな青年に見えた。

 銀色の髪は少し長く後ろで一つに結ばれている。意外と背は高かったので後ろから見ても女性と間違えたりはしないだろうけれど、しかし今現在部屋の中央で座り込むようにしているので、その状態で後ろ姿を見ればもしかしたら女性と間違えたかもしれない。


 少しツリ目がちな青紫の瞳は背中を強打した痛みがまだ残っているのか若干潤んでいた。声に出して痛い痛いと喚いたりはしていないが痛いのは間違いないだろう事から、何となく罪悪感が湧き上がってくる。その彼の左目には、片眼鏡モノクルが装着されていた。


 顔立ちが整ってる事もあってか、やたらと様になっている。ヴァンのように白衣でも羽織っていたなら、間違いなくどこぞの研究員か何かだろうと信じて疑う事すらなかったに違いなかった。


 だがしかし、そんな彼が着ている服は研究員だとかを彷彿とさせるようなものではなく、いたって普通の――白いTシャツにモスグリーンのハーフパンツである。更に履いてるのはスリッパ。外を歩く用のスリッパがないわけではないが、完全に室内――それも病院だとかにあるような、どこからどう見てもスリッパである。

 えっ、この人その状態で天井に張り付いて奇襲攻撃仕掛けようとしたの!? と少し遅れてからウェズンは驚愕した。よく途中でスリッパが脱げて落ちてこなかったな。


 ついでに言うとTシャツには黒幕は僕ですという文字が書かれていた。

 突っ込むべきなのだろうか。

 前世でもこういう何かネタに走った感のあるやつがなかったわけじゃないので、そういうやつならスルーしてもいいけれど、もしこれがマジモンの自己主張だったら。いや流石にそれはないか、と内心でそっとその発想を抹消した。


 Tシャツに書かれた文字を気にしなければ、完全に彼の姿は室内着だとか、ご近所を散歩する単なるにーちゃんの図である。スリッパを見る限りは室内向けだが。

 どっちかっていうと顔立ちだけならキッチリした服装の方が圧倒的に似合いそうではあるけれども。


「……あぁ、大丈夫だ背骨が折れるかと思ったが」

 けほ、と小さく咳き込んでから男がこたえる。


 ウェズンは別に渾身の力で仕留めようとか思ったわけではない。だが、上からやってきた勢いだとかを利用してぶん投げるように叩きつけた自覚はあった。

 これが、仕掛けたのがウェズンで反撃されたのもウェズンであったなら、多分そこまでのダメージは無かっただろうと言える。

 何故ってウェズンが着ている制服はそういったダメージを軽減するための細工がされているからだ。素材、製法にこだわって作られた学園自慢の逸品である。

 なのでもし床に叩きつけられたのがウェズンであったなら、いてて、の一言で済んでいた可能性が高い。


 だがしかし男の服装はそういった防御力だとかはほぼ無いに等しいものであり、そんな状態でウェズンの攻撃を食らってしまったからこそ、思った以上にダメージがあったのだろう。


 授業でテラが言っていた学外に出る時は制服きっちり着用しとけよ、の言葉が思い出される。

 もしウェズンも彼のような防御力とは無縁そうな普通の服のままであったなら、多分館の中を移動するにしても、ちょっとした怪我が命取りになりかねないのでもっと恐々として小動物のようになっていたかもしれないのだ。



「それでその……きみは、一体……?」


 ある意味でこれが一番重要な疑問だろう。

 まずこの館の住人であるならば、どうにか外に出してほしい。雨が止んでから。


「……アレス。アレス・クランシード。そっちは……グラドルーシュ学園の生徒だな。もしかして授業の一環か……?」


 アレスの視線が一度下に向けられて、それからすぐにウェズンへと向く。

 どうして学園の生徒だと……? なんて疑問に思う必要もなかった。何故って制服着てるんだから知ってる奴はそりゃ知ってるだろう。


「授業、ではないかな……」


 一応授業の一環で魔物退治に出たのはそうだけど、その後の神の楔の転移事故までは授業の一環に含んでいいものではない。いや、あの学園なら何かこの手の事故もこれも一つの経験だとかでしれっと受け入れてそうではあるんだけれども。冷静に思い返すと常識とか倫理観とか多分あの学園では役に立たない代物な気がしてくる。法は有れど無法地帯。何かもうそんな気がしてきた。


「神の楔の転移事故でここに……っていうか少し離れた荒野に出て。近くに神の楔がないから帰るに帰れなくて、神の楔を探そうとして移動してたらここに」


 ふぅん、とでも言いそうな顔をしてアレスは頭をボリボリと掻く。先程ウェズンに奇襲を仕掛けた時とくらべてあまりにも緊迫感が消え失せていた。


「そうか。事故か。ちなみに俺はここに無理矢理放り込まれたクチだ」

「どういう状況!?」


 無理矢理って何? と思わず叫びそうになる。

 つまりは、無理矢理ここに放り込んだ相手がいる、というのはわかるけれど誰それ。

 自分が置かれた現状も完全に把握できているか疑わしいというのに、更にこれ以上の情報を追加されましても……という気分で一杯になってくる。


「まぁちょっとした内輪揉めだな。結果としてロクな装備もないままこんな物騒な場所に」

「えっと、ここがどこだかご存じな感じ?」

「魔女が作った人食いの館」

「……うん?」

「魔女が作った人食いの館」

「あ、いや、聞こえなかったとかじゃなくてね」


 人食いの館だけで充分にお腹いっぱいワードであるというのにそこに魔女が作ったとかいう前置きがついて更にお腹いっぱいになってくる。なんだこの……全然いらないワードだけを集めましたみたいな雰囲気。というかそれは組み合わせてはいけない単語ではないだろうか。


 人食いの館っていう言葉だけならまだしも、魔女が作ったとなるとつまりは人為的。

 そもそも人食いの館が自然発生してたまるかという話ではあるのだが、そこら辺はホラー物でいうなら何かこう、不幸な事故で住人が死んだ後次々に惨劇が……みたいな呪われしなんとか、みたいな感じでそう呼ばれるようになりましたよ、とかで勝手に自己完結できなくはないのだ。

 だが魔女が作った、となるとつまりは最初から人を食うのを目的として作りましたみたいな意味合いにしか受け取れない。


 なんやかんやあって色んな出来事があった結果そう呼ばれるようになった、とかではなく最初からという時点で色々と酷い。



「てか、え、そんな場所に放り込まれたの? 無理矢理?」

「あぁ、まぁ、あの人ならいつかやると思っていた」

「冷静かよ」


 もし自分がそんなことになっていたらもっと取り乱していたかもしれないというのに……ロクな装備もないと本人も言っていたが、その割に落ち着いてるし……


「もしかして、何か秘策というか打つ手がある、とか?」

「いや全く」

「なんっでだよ!」


 現状をどうにかできると思っていたからそうなのかと思っていたが、どうやらそんな事はなかったらしい。危機感死んでらっしゃる? と聞きたかったがもし実際に危機感がご臨終してたらウェズンの心労が半端ないのでそれは聞かなかった。


 とりあえず、いきなり奇襲されたとはいえ彼は敵と認識しなくてもよさそうだ。

 そのことに関しては、救いと言えたかもしれない。

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