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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
二章 チュートリアルなんてなかった

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強制探索



 あまりにもあまりすぎるいかにもな洋館の中に入るつもりは、ウェズンには本当になかったのだ。

 だがしかし、玄関先に行った瞬間扉が開いて目に見えない何かにぐいっと引っ張られるようにして気付いた時には館の中に入っていた。そして閉まる扉。

 押しても引いても開く気配がない。渾身の力を込めても無駄だったし、魔法なり魔術なりぶちかまそうと思ったもののなんだか唐突に嫌な予感がしたのでそれは実行しなかった。



 この世界の建物に使われる建材には、魔法だとかの攻撃に耐性のある素材が使われている。

 これも、授業でやった内容の一つだ。

 普通に考えるとそういう素材ってなんだかとても高価な物のような気がするが、実際はそうでもないのだとか。むしろ高価な素材というのは瘴気耐性のある素材らしい。

 言われてみれば納得した。


 魔法も魔術もそれなりに日常で使われる可能性の高いものだ。

 覚えていない、修得していない者も勿論いるけれど、魔王だとか勇者だとかを育てる学校、またはそれに近しい学び舎に通えば魔物を倒すための力として精霊と魔法契約を結んだりするのだ。使えない人間もいるとはいえ、使える人間が少数なはずがない。

 となると、建物だとかの身の回りの物にはちょっとした魔術だとかで壊れたりしない程度の耐久性が必要になってくるわけで。


 魔法というものが希少で使える人材が少ない世界であれば、そういった素材もきっと希少扱いをされただろうけれど、この世界では全くそんな事はなかったというわけだ。

 なのでまぁ、いくら人が気軽に立ち寄れそうにないような場所にある建物だろうとも、簡単に魔法だとか魔術で壊れるようなもの、というわけではない。


 なのでここで建物を壊してでも脱出するぞ、となるのは相当のっぴきならない状況になった時だとかにしておくべきだろう。素材によっては放出された術の魔力を吸収するタイプもあるらしいし、やたらと魔力を消耗しても結局壊せなかったし脱出もできませんでした、これからは諦めて他の出入口を探す事にします、なんてなった場合、後々の事を考えると大変なのは言うまでもない。

 吸収するだけならまだ可愛らしいけれど、威力そのままカウンターしてきます、みたいな素材だとかもあるらしいし。テラ先生曰くそういうのは滅多にないとの事だけど、全く無いわけじゃないので軽率にやらかすのは不味い気しかしない。


 なのでウェズンは扉をどうにか強引に壊すという方法は後回しにする事にして、まずは内部の探索をする事に決めた。脱出ゲームの基本だよな、なんて言い聞かせて。

 ゲームではないので基本に忠実にしたところで脱出できるとは限らないのが現実がいかにクソかという事でもあるのだが。


 まぁでも、ゲームシステムに縛られてそこ絶対通れるだろ! みたいな場所が通れなかったりするような状況も、現実ならどうにか通ることができるかもしれないし、モノは考えようである。

 どうにか気持ちを前向きにしていかないと何というか心折れそうなのでどんなくだらない発想だろうと思いついているうちはまだマシ、と言い聞かせてウェズンは恐る恐る館の中を移動していった。


 窓の外は豪雨のせいですっかり暗いのだが、結構な頻度で雷の光で明るくなるので窓付近であれば明かりの魔法を使おうとか思わずともそこそこ見える。

 見える……のだが、やはり一定の光量の方が安定して見やすい事は確かだ。


 カメラのシャッターを切る際のフラッシュみたいにピカピカされてるせいで、目がちかちかしてくる。ぶっちゃけると記者会見の時のフラッシュレベル。

 だがしかし、本当に魔法で明るくして大丈夫なのか? という疑問もあった。


 何せここがどこだかわかっていない。

 いきなり扉が開いて謎の力で館の中に引きずり込まれたのだから、なんていうか予想もしていないようなクリーチャーが出てきてもおかしくはないわけだ。

 魔法を使った時点で、はたまた魔術を使った時点で魔力の動きとかを察知して襲い掛かってくるエネミーがいないとも限らない。

 この館が比較的安全である、と判断できるまでは軽率にあれこれやってみよう、とは中々思えなかった。


 ピカピカゴロゴロ耳にも目にも騒々しい外からの刺激をどうにか気にしないようにしつつ、長い廊下を移動していく。窓の外は雷光がない時は驚く程真っ暗だった。雨が地面を打つ音はごうごうとうねるようで、外の様子を知らないままであれば何か化け物でもいるのではないか、と思える程だ。


 完全にホラー作品の導入部分である。


 外を移動するには厳しい程の悪天候。

 雰囲気たっぷりの洋館。

 閉じ込められて出られない。


 完全に序盤の雰囲気だけなら満点である。しかも閉じ込められている原因が不明ときた。何らかの魔法の力でも働いていると考えるのが普通なのかもしれないが、本当に魔法かどうかもまだわからない状況なのだ。

 しれっとクローズドサークルに閉じ込められた状態で、しかもここに来るまでの展開が神の楔の転移事故。

 悪しきものの力が働いています、とか言われたらまぁ納得できそうな感じではあった。


 そもそも悪しきものとは? という疑問もあるけれど。

 この世界の人間からすれば世界を滅ぼそうとしている時点で神が悪にでもなるのだろうか。だが神からすれば人間こそが害悪とか言いそう。


 とはいっても神の楔の転移事故なので、どちらかといえば神の力が関与してると考えるべきだろうか。大体神の楔を人間の都合で設置できるわけでもなし。


 ドォン……! と少し近くで雷の落ちる音がした。


「うへぇ……」


 さっきからそりゃもうピカピカドンドン騒々しいけれど、だからといって慣れるか、と言われるとそうでもない。館に直撃しても多分大丈夫だと思いたいけれど、大丈夫じゃなかった時の事を考えるとそりゃもうウェズンの表情だって歪もうというものである。


 廊下の突き当りにあったドアを開けてみれば、そこは応接室だろうか。少なくともここの住人の私室といった雰囲気ではない。だが、応接室というにも少し不思議な感じがした。

 玄関からここに来るまで一本道だった。そしてドアを開けたら応接室風の部屋だったわけだ。他の場所へ行くドアは少なくとも見かけなかった。隠し通路だとか隠し部屋だとかの存在があるかもしれないが、あるとしてもこんな入ってすぐの場所にはないと思う。


 室内を見回せば、少し見づらいが壁に同化するような色で他の場所へ行けるだろうドアがあった。なんてわかりにくい。だがドアがなければ本格的に隠し通路とかを探すところだったので、ウェズンはそのままドアへ近づいてそっと開けた。また廊下が続いている。窓から差し込む雷光が眩しい。


 ショートコント・謝罪会見、とか脳内でそんなふざけた事を思いながら、特に謝罪するような内容が思い浮かばなかったのでそのまま進んでまたドアを開ける。ホールだった。


 よくある探索物の洋館にありがちなスタート地点みたいな感じ、ととても雑かつ身も蓋もない事を思う。


 本当のスタート地点はここからだ、みたいな気がした。


 窓の数が少ないからか、こちらはそこまで眩しいと感じなかった。とはいえ、チカチカとした光は頭上で主張していたが。多分、ではあるがここの住人の部屋は二階だろう。地図とかあると助かるのだが。

 この近辺で神の楔があるだろう場所を見つけない事には、帰るに帰れない。


 一階は使用人の部屋だとかがありそうではあるけれど、使用人の部屋に地図があるか、と考えると可能性は低いように思えた。

 この館がまともに使われていた時があるなら、使用人が食料の買い出しだとかに行くのに地図があるかもしれない……が、ちゃんとした地図を使用人に渡していたか、と考えるとどうなんだろう……となる。

 ざっくりしたメモみたいなので渡されている可能性はあるけれど、マトモな地図は渡さないような気がした。そもそもここ食料の買い出しとかに行くにしても、人里とか本当に近くにあるのか? という疑問しかない。

 それならまだこの近くの神の楔の場所を記したメモとかのが可能性としてはありそう。というかそもそもこんな辺鄙な場所にどうして洋館があるのか。


 辺鄙な場所に建物がある、というそれそのものについては別におかしいとは思わない。

 世の中様々な人種が存在しているので、人里離れた場所で暮らすようなのがいても何も不思議ではないからだ。

 とはいえそれは前世基準の話であって、この世界では魔物だとか瘴気濃度だとかの問題があるので人里離れた挙句神の楔も近くに無ければマジでなんでこんな場所に……!? と思うのは仕方のない話。


 いつぞや学外授業で訪れた魔女が住むような感じで、もしかしたら案外近場に神の楔があるのかもしれない。そう思わないととてもじゃないがやってられない。


 リングの中に収納した食料は数日分ある。なのでまぁ、数日は大丈夫なわけだ。


 雨がやんで、案外すんなりとこの館から出る事ができたとして、周囲を探索して神の楔が見つかるまでどれくらいかかるかはわからないのでたった数日……!! という焦燥感が消える事もないけれど。



 使用人部屋か、それとも恐らくここで暮らしていた住人の私室か。

 少しだけ考えて、ウェズンはとりあえず近くから探索しよ……とあっさり決めた。館なんてものに馴染みはないけれど、それでもなんとなくどこに何があるかくらいはわかる。

 ここがギミックたっぷりなダンジョン型の洋館とかならまだしも、恐らく普通に誰かが生活していたような場所だ。ならば、あまり突飛な感じにはなっていないだろう。

 少なくとも玄関開けたらいきなり風呂が! とかそういう事にはなってなかったし。


 そうして適当な部屋のドアを開けて、簡素ではあるがベッドだとかクローゼットだとかが置かれているのを見て、あぁやっぱここ使用人の部屋とかだろうな……と思ったのも束の間。


「うわ……!」


 ウェズンは見てしまった。


 ベッドのすぐ下、寝てたら落ちましたよ、みたいな位置の床に死体が転がっているのを。

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