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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
二章 チュートリアルなんてなかった

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これは迷子にあらず



 カッ、という閃光。後に地の底から響くような轟音。

 それらを引き立てるようなノイズめいた音。


 まぁ要するに。


 土砂降りの雨である。

 なんなら雷雨と言ってもいい。


 外にいたなら間違いなくずぶ濡れで、早々に顔なんて上げられなくなっていただろう事がわかりきったくらいに悪天候。むしろ雷そこらにドッカンドッカン落ちてるから外にいようとは到底思うはずもない。室内に避難できてよかった……と思うべきなのだろうが、生憎ウェズンは素直に喜べなかった。


 話は少し遡る。


 学外授業と言う名の魔物退治に出向く事になったわけだが、そこは割といつも通りだった。

 魔物退治がいつも通りとか言えるくらいにはすっかりお馴染みになった事に関してどうかと思うが、そこを気にしていては話が始まらない。

 魔物退治に関しても特に苦戦はしなかった。前に戦ったタイプの魔物である事。そしてそこまで強くなかった事。とはいえ、油断していたわけではない。ただ、ちょっと思っていたよりも数が多かった。


 そこまで強くなかったといっても数が多いとそれだけで手間だ。


 大半を討伐したあたりで疲労が出るのも仕方がなかった、と言える。言い訳になるかもしれないが。

 神の楔があったのは町や村の入口などではなく、人のいないというか来なさそうな場所だった。事前に言われていた討伐数はクリアしていたので、じゃあそろそろ帰ろうかとなったから神の楔の近くまで行って。


 そこで、他の魔物が襲い掛かって来た。


 もう少し万全の状態であったなら。もしくは、魔物退治をこれから開始する、という来たばかりの状態であったなら周囲への警戒だってもっとしっかりできていただろう。けれどもそこそこ疲れていて。これでやっと帰れるという安心感。油断していたつもりはないが、ほんの一瞬気が緩んでいたのは否定できなかった。


 イルミナが咄嗟に放った魔術で魔物は絶命し消滅したけれど、その衝撃は魔物だけに向かったわけではなかった。神の楔にもイルミナの魔術は命中し、そうしてそこで。



 ヴン……!


 というなんだか不吉に思える低い音がして。

 気付いたらウェズンは全然見知らぬ場所に転移していたのだ。

 そして何が最悪って、転移した先、見渡せる範囲に神の楔がなかったのである。


 どこかもわからぬ場所に、身一つで放り出された。


 正直まだ麻袋に無理矢理詰め込まれて拉致された方が帰れる可能性がありそう。袋かぶせられて視界が何も見えてなくても意識があるなら移動中の物音だとかで情報を得る事ができるかもしれないし。

 だがしかし神の楔での転移は一瞬で行われるものなので周囲の景色が切り替わる前後で何らかの情報を得られるか……となるとほぼ無理に等しい。

 近くに神の楔があるなら戻る事は可能だった。

 だがウェズンの周辺に神の楔はない。


 完全なる転移事故である。


 少し前の授業でやった転移事故が、まさか自分の身に降りかかろうとは……



 基本的に神の楔はちょっとやそっとの攻撃などではビクともしないが、それでもたまに不具合を起こす事があるのだとか。とはいえその可能性もかなり低く、本当に滅多な事では起こらないと言われていた。

 その滅多な事では起こらない出来事に巻き込まれたわけだ。


「……え、何、今宝くじとか買ったら当たるわけ?」


 あまりにもあまりな出来事に、ウェズンは思わずそんな事を呟いていた。

 転移事故が発生する確率がどれくらいだったかまでは覚えていないが、大半の人間は遭遇する事もないと言われていた気がする。

 意図的に神の楔に攻撃を仕掛けて事故を誘発させようとしても、まず無理。

 高威力の攻撃をぶつけたからとて必ずしも不具合が発生するわけではないらしいし。

 威力に関係なく起きる時は起きるらしいのだが、その可能性はほぼゼロ。

 ほぼ、であって完全なゼロじゃないあたりよ……



 しかもこの場には自分一人。

 見知らぬ場所でたった一人とか、まだ危険な目に遭ったわけじゃないのに内心で「ヤバイヤバイヤバすぎる……!」という感想が止まらない。

 これが前世であったなら、まぁ、そういう風に思うのなんて精々山で遭難した時とかではなかろうか、と思っている。山じゃなくたって、例えば海外で車がエンスト起こした所がハイウェイから遠い砂漠が近いような道路? 何それ感じとってどうにか通っていってね! みたいなところもかなりヤバイと思っているが、ウェズンは別に海外にそう何度も足を運ぶような事がなかったので。精々テレビで九死に一生だとかを扱った番組でチラッと見た程度である。


 日本も田舎と都会の差がエグイと思う事はあるが、海外に比べればまだマシな方である。海外の田舎、マジでなんもないとかザラ。しかも治安が悪いところは自販機なんて勿論あるはずがないし、コンビニも24時間営業とかじゃない。ちょっと不足した物を買いに行こうと思っても時間帯によっては行ってももう店がやってないなんて事もよくある話だ。というか、そんな時間に下手に外に出ると今度は自分の命が危険に陥る。

 海外全部が全部そうじゃないけど、ヤバいところはとことんまでヤバイと同僚が言ってたっけな……とどうでもいい部分に意識を飛ばす。

 正直現実逃避でもしないとやってられなかったのだ。


 周囲を見回したところで神の楔らしきものは見当たらない。現在地がどこなのかもわからない。

 となると、後はもうどうにか移動して神の楔を見つけなければならない。

 人里があるならまだそこから情報を得られるかもしれないが、人が住んでそうな気配が近くでしない。


 荒野であった。

 なので見渡したらなんもない、というのがよくわかる。

 少し離れたところからポツポツと木が生えていて、そこから更に遠くは自然がそれなりにありそうではあるがウェズンがいる場所は完全に荒野。見晴らし良すぎて逆に困惑するレベル。


 モノリスフィアで誰かと連絡を取ろうとしたが、瘴気濃度がそこそこある場所なのかうんともすんとも言ってくれない。完全に詰んでる。

 瘴気を浄化できれば連絡はワンチャンあるけれど、自分が瘴気汚染されたならまだしも土地そのものを浄化するとなるとかなりの労力である。ウェズンの浄化能力がそこそこ高いというのは最近自覚しつつあるけれど、それでも土地をキレイキレイできるかと言われれば無理だ。

 一時的にならなんとかなるかもしれないが、どう考えても焼け石に水。



 まぁ、偏見ではあるけれど見渡す限りの荒野がクリーンな場所か、と言われるとちょっと首を傾げたくなるので瘴気濃度が高かろうとウェズンは特になんとも思わなかった。

 何というか自然たっぷりな場所はそこそこ浄化されてる感じだけど、そうじゃなければ瘴気汚染されてるとなってもあぁやっぱりな、と思ってしまうわけで。


 見渡したついでに空模様が目に入って、思わず顔をしかめた。

 なんというか、とてもどんよりしている。

 そう遠くないうちにざっと一雨きますよ、と言わんばかりの空模様だった。


 神の楔を見つけなればならないのは勿論だが、万一途中で雨が降った場合の事を考えて雨宿りできそうな場所を探した方がいいかもしれない。

 そう考えると、進むべき方向は荒野ではなく少し離れた場所に見える木が生えてる場所の方がいいだろう。

 雨が降って雷がおちるくらいだと木の近くも大概ではあるが、伸びた枝葉が傘の役割を果たしてくれるので雷さえなければ大丈夫なはず……



 そう思って移動を開始したわけだ。

 そうしてウェズンが木々が生えている場所まで辿り着いたあたりで、パラパラと雨が降り出した。けれども枝葉に覆われた場所は雨水の重さで耐えられなくなった場所以外はほとんど濡れる事もなく。

 思っていた以上に強い降りに、こっちに移動して正解だったな……と内心で安堵したのだ。


 ところがその思いを直後に裏切るかのごとく、遠くの方で聞こえたドォンという音。ゴロゴロという音も聞こえたし、なんならそのちょっと前にぴかっと光った気もしたので、それが雷であるという事は疑いようがなかった。


 もしかしてこっちに来たの失敗だったかも……と一瞬前の考えを翻して思う。

 何せ音は徐々に近づいてきているのだ。このままそこら辺の木に落ちて、その木が燃えたりしようものなら。

 山火事のような事にはならないと思うが、この周辺の木が一斉に燃えたら大惨事は間違いない。

 ずぶ濡れ覚悟で他の場所に行くべきだろうか……と思ったあたりで。


 視界の隅に映ったのだ。


 古めかしい洋館が。


(ホ、ホラーにありがちな導入みたいなお手本みたいな洋館あるー!?)


 そう叫ばなかったのは、半分は意地だった。

 というか、叫んだ結果何かおかしなフラグが成立してここからホラー展開が始まりますよ、とかいう事にならんか……? と思ってしまったのだ。それくらい、何かもうホラーにありがちな洋館だった。


 大抵こういうのは館に入った時点で何かに巻き込まれる。

 むしろ入ったら閉じ込められて出られなくなって、自分から入っておきながら今度は出るために館の中を右往左往する羽目になるのだ。そうしてどうにか脱出するまでがセオリー。


 正直嫌な予感しかしない。

 しないのだが……


 館の周辺は木に囲まれてるわけでもなく、仮にそこら辺の木に雷が落ちて燃えたとしても館にまで被害はいかない気がした。

 流石に誰かが住んでる感じはしない。なので鍵がかかってるだろうと思う。

 中に入らなくても、玄関先なら雨をしのぐことくらいはできそうだ。


 そう判断してからのウェズンの行動は早かった。全速力でダッシュして館へと向かう。


 万が一、誰かがいて中に入れる可能性も考えたけれど、何というかいかにもホラーものに出てきそうな洋館だ。ウェズンは中に入る気はこれっぽっちもなかった。玄関先で雨が止むまで場所を借りよう程度にしか思っていなかった。



 それなのに。


 どうしてだかウェズンは現在その洋館の中にいるのだ。入るつもりなんて本当にこれっぽっちもなかったのに。


 雨風をしのげているという点で、ついでに外の天気がどんどん酷くなってるので玄関先にいた場合間違いなく濡れてただろう事を考えても。

 室内に避難できてよかった、とはどうしたって思えなかったのだ。


 入ったはいいけど閉じ込められたので。

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