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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
二章 チュートリアルなんてなかった

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嫌な方向の決意



 そんなこんなで、別段険悪な雰囲気になるでもなく連絡先を交換してイフとはそのままお別れするつもりだったのだが。


「そういやお前、あいつとなんかあったん?」


 思い出したかのように出された声に、立ち去ろうとしていたウェズンの足は中途半端なところで止まる形になった。


「あいつ?」

「ほら、お前と一緒にいただろ。あの女みたいな」

「ルシア?」

「多分それ」


 イフからすればウェズン以外の連中など名前とか知らないし、なので名前を言われてもわかるはずがない。だからこそあの時見たままの外見の特徴を口にすれば、思い当たったウェズンが口にした名。であれば、多分それで合っているのだろう。


「あいつお前の事殺そうとしてただろ。一体何しでかしてそうなったんかなって」

「え?」

「ま、ちょっと葛藤してたみたいだから、あの時はオレが便乗して襲った形になったけど」

「え?」

「なんだ、もしかして自覚ナシか?」


 けろっと言われても、ちょっと情報が追い付かない。

 殺そうとした? 誰が? ルシアが?

 誰を? ウェズンを?

 ……何で?


 正直、殺されるような心当たりが何一つとして存在していない。

 あの時、と言われて思い返してみる。

 確かにウェズンが階段から押されたあの時、後ろにいたルシアはこちらに手を伸ばしかけていた。

 だが、突き落とそうという伸ばし方ではなくどちらかといえば掴み止めようという感じだった……ようにウェズンは思っていたがイフの言い分では違うらしい。


 突き飛ばして落とすにしても、ルシアのあの様子ではできなかったのだろう。

 便乗、と言われて確かに突き飛ばされたのはそうだし、イフの言葉に嘘はなさそうだ。


 学外授業で一緒になった時も別にルシアに対して何か失礼な事を言った覚えはないし、何かをした覚えもない。寒がっていたルシアにコート貸したりココア差し出したりはしたけど、それで殺そうとなるのであれば理不尽極まりない。親切にして殺されかけるとかまぁそう思うだろう。

 だが、もしかしたら。


 こちらが親切にしたつもりで実はルシアの種族的――彼も人間の括りだろうけど他の種族の血が混じってるだろうし――にやってはいけないタブーを知らず踏んだ可能性はある。

 ある、けれど知っててやったなら敵とみなされるのもわかるが、知らない相手を毎回敵認定していたらそれはそれで大変な事になるだろう。


 それ以外でも一緒に行動した時に特に変わった行動はしていなかったように思うし、イアから聞いた話でも何か変わった風習だとかを持ってる感じでもなかった。


 クラスの中では割とわかりやすいタイプの生徒だと思われる。

 痛いとか辛いとか結構あっさり口に出すタイプ。下手にやせ我慢をしないので、わかりやすいとでもいうべきか。実際旧寮に入る時だって、オバケが出たら叫んで逃げるとか、虫が出ても逃げるとか宣言していたし。あれは冗談でもなんでもなく本気で言っていた。

 思ったことは割と口から出すタイプなのでわかりやすいと思っていたが、それがルシアの計算だとしたら。

 肝心な事は口に出さなければ、わかるはずもない。そして周囲はルシアが割と口から思った事を言うタイプだと思っていれば、肝心な部分を言わなければ誰もそれを知らないまま。

 意図的にそうしているのであれば、別の意味で厄介なタイプではある。

 ある、のだが……


 ウェズンにはとてもそうは見えなかったし思えなかった。


「そう、だね。心当たりがない」

「ホントにか? じゃああいつは特に理由もなく誰かを殺そうとするタイプって事か?」

「さぁ……?」


 相手は誰でも良かった。ただ人を殺してみたいと思った。

 そんな犯行動機でやらかした事件が前世でなかったわけじゃない。ニュースでそれを見た時、なんだそれと思ったのを覚えている。

 ルシアもそういうタイプなのだろうか……?

 いや、にしたってだとしたら、もっと簡単に殺せそうな相手にするはずだ。

 失敗したら自分が危険な目に遭うのだから、誰でもいいと言いながらもそういう手合いは確実に殺せそうな相手を狙う。

 ……そう考えるとどちらかと言えば危険なのは最近よく一緒にいるイアのような気がしてきた。

 だがしかし、イアがルシアを警戒した様子は一切ない。全く無い。これっぽっちもだ。


 原作の事をほとんど忘れているとは言っても、流石に自分に対して危険な人物とかはうっすら覚えてたり思い出したりするのではないか。

 旧寮に入ってから襲撃があると思いだした事もあるし、ルシアと一緒に行動していてちょっとでも危険な目に遭えば忘れていても思い出すだろう、とは思う。

 殺される直前に思い出す、という可能性もあるから大丈夫だろうとまでは言いきれないが。


「ふーん、ま、気をつけろよ。ここは他人を蹴落として自分がのし上がってくような場所だ。そうやって最終的に実力を示して、こいつになら従ってもいい、というようなのが集まってくる。

 いざとなれば邪魔な相手を謀殺なんてのもある話だ。そいつにとってお前が邪魔だと判断するような何かがあったとしても別におかしな話じゃあない」


 切り株に腰を下ろしたまま、膝の上に肘を立て頬杖をついていたイフは中途半端に振り返った体勢のウェズンを思っていたより真剣に見ていた。

「弱い奴倒してもそんなのは当たり前の話だ。強い奴を倒せばその分自分の価値は上がる。それを狙っている可能性は充分にある」

「……理屈はわからんでもない。一応忠告として受け取っておくよ」


 とはいうものの。


 正直自分が強者の側にいるか、と問われると自分では是と言えない。

 そりゃあ、まぁ、自衛できる程度には実力はあると思っている。だが周囲から見て圧倒的に強者の側だと思われているかと言われれば……ウェズンはそこまでではないだろうと思うわけだ。それというのも自分より凄い奴を見てしまったから。それがなければもうちょっと調子に乗っていたかもしれない。

 それこそ、人生二周目というのもあって強くてニューゲームくらいの感覚で。


 なので自分を倒して上にのし上がっていこう、と思う奴がいるとは到底考えられなかった。狙われるのがレイならまだ理解できた。

 だが、イフが言った事が全て嘘と断じる事もできない。偏見というか前世の知識というべきか、精霊が嘘を平然とつくとは思えなかったので。そりゃあ、すべてが善良な存在というわけでもないだろうけれど、意味のない嘘をつく必要がないと思える。


 こう、ギリギリ嘘ではない範囲で踊らせてその様を楽しむ、とかいうのはいるかもしれないけれど。


 イフの言葉が嘘ではないとするならば、ルシアが自分を殺そうとしていたのは事実なのだろう。


 ……いやなんで? とは思うものの。

 気になったのでモノリスフィアのメッセージアプリを立ち上げてイアに、

『ルシアと何かあった?』

 とだけ送っておいた。


 妹とのいざこざで自分に飛び火した可能性もゼロではないかなと思ったので。

 妹は別に悪気があって誰かを陥れようとするタイプではないが、ちょっと前世の知識だとか記憶だとかが偏っている面もある。情緒面で微妙な点があるのもあって、知らぬ間にルシアの地雷を容赦なく踏んづけていった可能性はあり得た。


『何もないよ』


 という返信が即座にやってくる。


 という事は、イアにとっては特に何かしでかした心当たりもないわけか。

 となるとあとはルシアが何をどう受け取ったか、という事になる。


 こちらが良かれと思ってした事でも相手からすれば迷惑極まりないなんて事もあるわけで。

 それで恨まれていたら流石にどうしようもない。心当たりがこちらには何一つとしてないのだから。


『何かあったの?』


 少し遅れてイアから更にメッセージが届く。


『第三者からルシアが僕を殺そうとしていた、というタレコミが入った』


 イフの事はどこまで明かしていいかわからなかったのでそこはぼかす。


『ん? あったかなそんな……あ、あれ? や、あったかも? でも大丈夫だったはず』


 どうやら原作に関係しているらしい。


『確か、紆余曲折あってどうにかなったはずだから大丈夫だと思う』


 根拠も証拠もないとても漠然とした大丈夫という言葉。

 紆余曲折何があるのか、という部分が気になったものの、イアが詳細を送ってこないという事は知らないままの方がいいのかもしれない。単純に思い出せていない可能性もあるが。


 というかだ。


 ルシアがウェズンに何かしらやらかそうとしているのを知った上で、イアはルシアと行動を共にしているという事なのか……最終的に問題ないと判断したからだとは思うが、それでもせめて。


 一言くらいは言ってほしかったな、というのがウェズンの本音である。


「……まぁ、多分どうにかなると思うから、それに関しては様子見しとくよ」

「ふぅん?」


 イフの反応は、特に何があるでもなかった。どうでもいい話に相槌を打っただけとも思えたし、一応知らせたから後はそっちに任せるといった感じでもあった。

 たまたま知り合って、何か面白そうだからあえて藪を突いてみた、くらいの気持ちなのかもしれない。


「ま、そこそこ暇してる事多いから、そん時には遊んでやるよ」

「……お手柔らかに」


 その遊ぶ、は割と命の危険が含まれているのでは、と思ったが声には出さずかわりにそう返す。

 人と精霊の感性がどれくらい違うかもわからないが、本当に話だけで済んだ事に対してウェズンはそっと安堵の息を吐いて、そうしてその場をあとにした。


 これ以上長居すると、今暇なら旧寮行くか? というお誘いの言葉をかけられそうな気もしたもので。


「そういえば」

「んぁ?」


 そのまま立ち去ってしまおうと思っていたが、ふと気になった事を思い出したので振り返ってイフに声をかける。イフもこのままウェズンは帰るんだろうなと思っていたのか、話しかけられるとは思っていなかったようで思った以上に間の抜けた声が出た。


「旧寮に入って、攻撃を仕掛けるまで結構時間があったと思うんだけどさ。

 なんで入った直後じゃなかったんだ?」


 掃除当番と言われて行ったわけだが、実際に掃除当番は嘘だった。

 なのにわざわざ掃除する事になったのだから、どうせなら掃除を始める前にでも攻撃してくれば良かったのだ。それとも、掃除しているところを、油断している時に狙うつもりだったのだろうか。

 そこだけふと気になったのでウェズンは問いかけたに過ぎない。


 あぁ、とイフはなんだそんな事か、とばかりに頷いた。

 もっと答えにくい質問がくるかとも思っていたので。


「そんなの簡単だろ。入ったばっかで襲ったら、すぐ寮の外に逃げられるだろ」

「……あぁ、そういう」

「そういうこった」


 納得した。納得してしまった。

 確かに入った直後に襲い掛かられていたら、何が何だかわからない状態で応戦するとは思う。だが、同時に寮の外に逃げるという選択肢だって存在していた。


 だがイフが襲ってきたのは寮の四階。ある意味で最奥だ。

 もう一人の女が下の階で仕掛けてきたわけだが、もしかしたら二階と一階にも他の誰かがいたのではないだろうか。


「あのまま下に行って外に出るまでに他の連中が攻撃仕掛けるはずだったんだよなぁ……」

「やっぱりか……」


 ウェズンの考えを肯定するような呟きに、とても嫌な納得をしてしまった。


 簡単に逃げられたら意味がない。だから、そう簡単に逃げられなくなってから仕掛ける。


 理屈としてはわかるけれども。


「やっぱそのうちテラ先生の事は殴ろうと思う」

「そうか。ま、頑張れ」


 待ち伏せていたイフたちよりも、どちらかといえばより一層テラに対しての怒りが出た瞬間だった。

 ウェズンのそんな反応に対して、イフはケラケラ笑うだけだったので、教師に対して攻撃を仕掛けるのは多分セーフらしい。

 まぁ、今の実力差を考えると殴ったとして反撃食らうのはわかりきっているのでいつになるかはわからないが。


 目標ができたのは、いい事だと思う。

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