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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
二章 チュートリアルなんてなかった

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再会は突然に



 その日は授業が早くに終わり、ウェズンは暇を持て余していた。


 正直、暇をしている余裕があるのか、と問われると無いとは思う。思うのだが、だからといって修行に明け暮れてばかりもどうかと思ったのだ。オーバーワークはよろしくない。

 そりゃあ、ピンチに陥った時に、

「くっ……! あの時もっと修行していれば……!!」

 みたいな後悔をする事はあるだろう。

 というか万全の状態を保っていたとしてもピンチになったら過去のどこかを後悔する羽目になるのだ。どうせ。


 しかし何事もやりすぎだってよろしくはないのだ。


 スポーツ系の部活に所属していた前世の友人は張り切りすぎて身体を壊し最後の年の大会に出場できなくなった、なんてこともあったし。目標に向かって邁進していたはずがその目標を潰したのが自らのやりすぎな練習だったという事実。悔やんでも悔やみきれない。

 見ているこっちも慰めの言葉なんて出てこなかった。


 とまぁ、そういった前世の記憶があるせいで、修行をせねばという思いはあるのだがやりすぎもよくないと思っているのもまた事実。

 これがゲームで将来的に戦うラスボスのステータスとかわかってて自分の適正レベルとかもわかっていればそこを目標にできるのだけれど、そういうのが一切わからないので何をどうしたって焦るのは免れない状況だ。勿論ゲームの方が失敗してもやり直せるから圧倒的に気楽ではあるのだけれど。


 午前中の授業が中々にハードだったので午後も身体を痛めつけるような真似はしたくない、というのが本音でもある。

 ちなみにイアは学園内の敷地のあちこちを彷徨う事にしたらしい。


 大体途中、もしくはもう引き返せなくなってるような状況で「あ、そういえば」と思い出す事が多いせいか、せめてあちこち見ていけばもしかしたら記憶のどこかに引っかかる何かが発見できるかもしれないと考えての事らしい。

 とはいえ、今思い出せたとして役に立つものが思い出せるかどうかは微妙なところだ。


 なんというか大まかなストーリー展開が変わらなければどうにかなるとは思うけれど、そもそも主役二名がイレギュラー状態なので。

 もう不確定要素しかないと言っても過言じゃないのに、むしろまだ原作に沿ってる――と思われる――方が逆に奇跡ではないだろうか。ウェズンはそう思っているが、流石にイアにそれは言えなかった。

 終わりよければすべてよし、という言葉があるので正直ウェズンはそれに期待している。そう、もういっそ世界の滅びを回避出来ればそれで。あまり多くを望むとロクな事になりそうにないし……


 もしかしなくてもそういう妥協する考えもダメなんだろうか……と思いはすれど、あまりにも目標を高くしすぎてもな……というのが本音だ。大体目標高くしすぎるとそこに到達できずに早々に心折れるとかよく聞く話でもあるし。

 前世の弟の一人がそんな感じで玉砕していた。


 状況が状況であるものの、ウェズンの心境としては、もうどうにでもな~れ! に近い。イアが知ればちょっとだけ顔を青ざめさせて大丈夫なのおにい……? と震える声で問いかけたかもしれないが、別に心の内を明かす事もないので問題ないだろう。


 そうしてふらふらと適当に自分も学園内を彷徨う事しばし。


 少し前に足を踏み入れる事になった旧寮の近くまで来た時だった。


「あ」

「え?」


 旧寮側からやって来たのだろう。一人の男がこちらを見て声を上げる。

 そしてその声にウェズンもつられるようにそちらを見て、同じく声を上げた。


 見覚えがある。

 というか、たった数日で忘れるにはあまりにも……といった感じだ。


 赤い髪を立てている褐色肌の男。金色の目は以前見た時のような好戦的なものは鳴りを潜めていてどこかきょとんとしている。


 だがしかし、それは紛れもなくウェズンが戦った相手であった。

 思わず、というかほぼ反射的に身構える。


「お。や、まて、ここで戦う気はないぞ」


 出会いが出会いだったので、まぁそうなるだろうなと男も思ったのだろう。

 困ったように片手を前に突き出して「ないない」とばかりに手を振る。


 ここじゃなければ戦うつもりだったようだが、流石にここで戦うと周囲への影響が大きい。それをやると多分間違いなく二人とも怒られる。誰ってこの学園の偉い人に。


 もしこれがバトル系少年漫画であったなら、主人公はきっと頭に血をのぼらせて「ふざけるな!」とか「知った事か!」なんて言いながら攻撃を仕掛けていたかもしれない。男もそうなれば応戦するしかない。

 そうして周囲にそこそこ被害が出たあたりで、学園の偉い人もしくはそれに近しい立場の誰かがやってきてお叱りコースになっただろう。


 だがしかしウェズンはそこまで熱血属性を兼ね備えていたわけではなかったので。


「……前回いきなり攻撃してきた相手の言う事を鵜呑みにはできない」


 いきなり警戒を解く事もなかったが、心の衝動の赴くままに攻撃を仕掛ける事もなかった。とりあえず構えたままである。


「や、あの、前にあの教師も言ってたと思うんだけど。マジで。ここで戦うつもりはない。あの寮の中ならまだしも」


 そうは言われても、いきなり人の事を玩具扱いしようとした相手だ。それをすんなり信用しろというのは……というのが本音である。


「念の為聞くけど。戦う気がなくてもこっちが攻撃仕掛けた場合は?」

「そりゃまぁ、守りに入るくらいはするぞ。とはいえ、ここらへんで戦って周囲に被害出すと間違いなくオレたち怒られるかんな。説教だけで数時間は潰れるぞ冗談ではなく」


 戦うつもりがなくとも一方的にやられてやるつもりもない。それはまぁ、ウェズンからしてもわかる。黙ってやられて泣き寝入りしろとか言われてそれを受け入れる奴とか普通に考えていないだろうし。

 だが、その勢いで戦った場合、男だけではなくウェズンまで怒られると断言し、ついでに説教は数時間と言い切られた。それも真顔で。


 この場をどうにかしようとした咄嗟の嘘というには、あまりにも表情が真に迫っていて。

 嘘だとか冗談には到底思えず、ウェズンは男の言葉を信用するしかなかったのだ。



 ――ここじゃなんだから、と言われてあまり人目に付きそうにない場所まで移動する事になった。

 というのも、男はあまり大っぴらに生徒たちに姿を見せて行動するわけにはいかないらしい。

 その割に普通に旧寮から出てきているが、考えてみればあの近辺はそう人が来る感じでもない。だからこそ、男もそこまで気にせず移動していたのだろう。


 人もロクに来ないような場所に連れていかれて、そこで「馬鹿めまんまと騙されたな!」みたいなノリで攻撃を食らうかと内心警戒もしたが、そうはならなかった。


 人目につかない場所らしいが、そこそこ見晴らしのいい所。連れていかれた先はそんな場所だった。少し小高い丘の上。学園からはそこそこ遠いので確かにここまで誰かが来る事はあまりないのかもしれない。

 大きな切り株があって、椅子代わりかそこに男は腰をおろした。


「で、何が聞きたい」


 わざわざついてきたんだ。それくらいあるんだろ、と軽く言われウェズンはどうしたものかと一瞬だけ考えた。


 聞きたいことがないわけではない。

 だが、話をするためにこうしてやってきたというわけでもなかった。


 単純にちょっと前に唐突に戦う事になった相手とバッタリ遭遇して、再び戦闘かと思って身構えたものの戦うつもりがないと言われ。というか先程の場所で戦うと二人そろって怒られると言われたので戦うのをやめているだけで。


 疑問はある。


 それを聞け、と言われているのだろう。


「何が、って言われると全部って言いたくなるんだけど。

 まず、あんた何者」


 旧寮内で襲われた時も言ったような気がする。言ったっけ? 言ったよな?

 あの時は突然の出来事すぎて、思っただけで口に出していない可能性もあったけど、多分言った気がする。

 そんな風に思いながらもまずは確実に答えられるだろう質問をした。


「あー……なんって言えばいいかな……一応、ここの協力者? そんな感じだ」

「や、名前聞いてんだよこっちは」

「…………そうか。名を聞かれるのは久方ぶりだな。とりあえずイフでいいぞ」


 答えるのにそこまで難しい質問をした覚えはないが、だがしかしどうやらそれはウェズンの価値観だったのかもしれない。とりあえず、という前置きがある時点で実際の名がもっと長いかもしくは全然異なる偽名である可能性が出てきた。

 いやでもまぁ、呼び名がわからないであんた、とかお前、と言うよりはマシだろう。きっと。


 協力者という言葉から教師ではない。

 教師であればそのまま教師だとこたえるだろう。


 生徒でもないし教師でもない。


 となると、学園内ではなんともよくわからない立場である。


「イフはえぇと……人間じゃない、んだっけ?」

「……知ってたのか」


 この学園にいるのは教師の他はほとんどがゴーレムだとかホムンクルスだ。けれども、イフは恐らくそのどちらでもない。そして、旧寮から無事に帰って来た後でイアから旧寮で遭遇した相手が人ではない事だけは聞いていた。この世界じゃ既に人間という存在は色々な種族の血が混じったデミヒューマンだ。イアの言葉からすると、それにすら当てはまらないのだろう。


 少し前に遭遇したウィルはエルフだと言っていた。けれどもエルフとてこの世界では人間の括りだ。


「どっから知ったんだ……ま、いいけど。そうだな、オレはこの学園に協力している精霊の一人だな」

「精霊……!?」


 思ってたのと何か違う……!! とは声に出さなかった。


 魔法を使うために契約する存在。そういうものとして認識していたけれど、姿を直接目にする事がなかったので精霊という言葉から漠然と前世、ゲームで見た色々な精霊像を想像していた。物質めいた形のものから人の姿をしたものまで様々存在していたが、ウェズンが想像していたのは人というよりは自然を具象化したものだとか、人の形から明らかに遠ざかっているようなものだったのでまさか普通に人の姿をしている精霊がいるとは思ってもみなかったのだ。


 いや、でも、思い返してみれば知らぬ間に精霊と契約する事になっていたウェズンではあるが、もしかしたらあの人がそうなのでは……? と思える存在も一応人の形はしていた。ただ、本人が自分は精霊であると宣言したわけでもないので、精霊でない可能性も勿論普通に存在しているのだが。

 なので精霊だと自己申告した人型はイフが初だ。


「ついでに下の階にいた奴もそうだな。オレたちはあの旧寮内にやってきた連中を鍛える名目で戦ってもいいという許可が出ている」

「だからか……」


 なんでいきなり襲われてたんだ……と思ったが、テラの言葉やイフの言い分を聞けば流石に理解するしかない。突然襲われるにしたって、これが何らかの恨みを買って、だとかならまだしも身に覚えが一切無かったのだ。テラが仕向けたとはいえ、襲われる原因がわからないまま戦うというのは中々精神にきた。

 初日で生徒同士で殴り合いさせるようなところなので、こういう事があってもおかしなことではないのかもしれないが、それはそれこれはこれである。


「あの時はめちゃくちゃ痛かったな……お前見た目によらず結構強いのな」

「はぁ、どうも」

 多分褒められたのだろうと思ったので一応そう返しておく。


「この先も旧寮いったらああいう感じでバトルになるんですか?」

「そうだな。一応、事前に連絡くれれば多少の注文には応えられる。何も言わないできたら問答無用で、って感じになるけどな」

「成程危険地域」


 というかだ。


「事前に連絡も何も、どこにって話ですけど」

「お、なんだ。連絡先交換するか?」


 言いながらイフが出したのはモノリスフィアだった。持ってるんかい、と突っ込むところだったが寸前で言葉を飲み込む。


「ま、オレもそれなりに忙しい時とかあっから、繋がらない時とかあるけど」

「緊急時以外はメッセージアプリの方に連絡しておきますね」


 そもそも連絡する事があるのかは謎だが。

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