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魔力がモノを言う世界



 はい先生! と再び別の生徒から手が挙がる。


「武器を持っていない生徒はどうすればいいですか!?」


 その質問が出たのはある意味で当然だった。

 何せテラは武器の所持は必須であるとのたまった挙句、


「ま、死んでもそこは自己責任だ。お前らはこの学園に来た時点で庇護者からはほぼ抜けたも同然だからな」


 なんて言ったからだ。


 そういえば、学園に入学するにあたって、みたいな書類が届けられたのは覚えている。

 その時に同意書とかそんな感じの書類もあって、そこにサインした事も。


 場合によって死ぬことがあります、なんて物騒な一文があった事もウェズンはよく覚えていた。

 脅しとしてはあまりにもストレートすぎるだろう、と思ったものの、父の話では時として魔物と戦う事もあると言われていたのでそういう意味で命を落とす可能性があるからだと思っていた。

 前世の、魔物なんて漫画やゲームの中くらいでしか存在しないような平和な世界ならともかく、ここはそうではない。

 魔物はいるし魔法だとか魔術だとかと呼ばれるものは存在してるし、なんだかんだ物騒な世界だ。

 だから、ちょっとした事故で命を落とす可能性があると言うのは理解しているつもりだった。


 昨日の殴り合いだって、よく考えたらあの時点で当たり所が悪くて死ぬ可能性もあったのだ。ただのテストみたいなノリでやる事になったけれど。

 ポーションだとかの傷を治す薬があるからこそ、あれくらいは日常茶飯事なのだ、とウェズンはこの世界の常識を理解しようとしていた。きっとこの世界で前世の常識は時として全く役に立たないだろう事が窺えたからだ。


「今の時点で武器がない奴に関しては、購買部で買うか自作しろ」


 生徒の質問にさらりと答えるテラ。

 その言葉に、購買部があるという事を知った。

 いや、この規模の学園ならそりゃあるだろうなと思っていたけれど。

 けれども売られているのは精々ちょっとした軽食だとか文房具だとか、そういう当たり前の物しか想像していなかったので武器まであるんかい、と思ったのも仕方のない話である。


 というか自作ってそっちの方が逆に難しくないだろうか。


 材料から集めてってわけだろう?

 いや、でも、もしかしたら何かこう、案外簡単に作れる方法があるのかもしれない。ゲームにありがちな錬金術とかそういう方面で。


 武器買うにしてもお金足りなかったらどうしよう……なんて呟きが少し離れた席から聞こえた。それは小声であったもののテラの耳にも聞こえていたらしく、

「金がないならバイトしろ」

 の一言で終了した。


 学園内でバイトとかあるんですか……? と更に質問が出そうになったものの、そこら辺は学園案内のパンフレット参照しとけよ、で終了されてしまった。

 そういえばあったなそんな物。

 昨日寮の部屋にたどり着いた時に机の上に置かれていたのは覚えている。

 とはいえ、何かもう疲れ果ててそれを見る余裕もないままベッドに倒れ込むようにして眠ってしまったので一ページも見ていないのだが。

 他の生徒たちも大半はそうだったのだろう。

 そういえば部屋にあったあれ……なんて感じの呟きがそこかしこで聞こえてきた。



「じゃとりあえずさっさとそのリング装着してくれ。あと、無いとは思うが失くすなよ。再発行はしないからな。というか、紛失した事にして別の町で売り払おうとした奴が過去いたけれど、それ個人認証した後は後書き不可だから。馬鹿な真似はやめとけ」


 そう言われてあからさまにガッカリした生徒はいなかったようだが、確かに何か凄いアイテムだと思うし売れば高値がつく、と思う奴がでてもおかしくはない。


「基本的に外そうと思えば外せるけれど、第三者が無理矢理外すとなるとその場合はアレだ。装着してる部分――指とか手首とかだな。その部分ごと切り落とすとかになる」


 そう言われて数名顔を青ざめさせる。


「え、あの、それって……」

「過去にあったぞ。そういう事件」


 さらっと返された言葉に何名かの生徒からヒュッという呼吸失敗しましたみたいな音がした。


「死んだ生徒のリングに関しては遺品回収という点で中身を開示できなくもないが、前にな、レアアイテム欲しさにそいつ殺してリングだけ持ってきた奴がいてな。いやー、まぁすぐバレたけど。

 それとさっきも言ったが失くした場合の再発行はなしだ。

 風呂に入るだとかの時もできるだけ装着しておけ。前にそういう時に外した奴を盗まれてそこから先とんでもハードモードに突入した生徒もいた」


「再発行なし、はいいんですけど紛失届とか出したりは」

「見つかるといいな」


 どこか小馬鹿にしたようなテラの笑みに、あぁ、見つかる事はまずないんだなと察するしかない。


「言っておくけどこの学園、世界各地から生徒が集まってるだけあって常識とか通用しない場合もあるから。今まで自分たちが暮らしていた場所と同じようなノリでいると思わぬ痛手を負うぞ。いいか、周囲を頼るなとは言わんが周囲をアテにするのはやめとけ。信用できるかどうかの見極めは必須だぞ」


 ごくり、と誰かのつばを飲み込む音が聞こえた。

 確かにそうだ。昨日、殴り合って一応顔見知り程度の仲ではあるけれど、それでもこの教室にいる者たちのほとんどは知らない他人だ。ただ同じクラスになっただけで信用できると考えるのは早計だろう。


 しかもテラはその言葉の後、生徒だけじゃなく教師も無条件に信用するのはやめておけ、なんて言うのだ。

 担任であるはずの男が本当に信用していいのかどうなのかわからなくなってくる。


 ともあれ、さっさとやれよ、と言われて生徒たちは机の上に置かれたリングを手に取って、それぞれが思い思いの場所に通して言われたとおりに魔力を流す。

 そうする事で大きすぎるくらいだったリングはシュッと縮まってある者の指に、手首にと最初からくっついてましたけど? みたいな感じでフィットしていた。


「先生、このリング例えば手首にしたけどやっぱ指に変えたいって時はできますか?」


 まだリングを装着していない生徒の一人が声を上げる。

「できるぞ。一度外して同じようにすればサイズの調整は可能だ」

 その答えにホッとして、今しがた質問した相手もまたリングを手に通す。

 個人認証された時点で他人の魔力での上書きはできないが、自分の魔力での上書きは可能という事らしい。

 成程、つまり手以外の場所に装着することもやろうと思えば可能なんだな、とウェズンは内心で納得したものの、下手に変わった場所につけても不便な事になりそうなので少し考えた結果、前世で身に着けていた腕時計感覚で手首につける事に決めた。


 イアを見れば、彼女はどうやら指輪サイズにしてつける事にしたようだ。


「そのリングの収納魔術は基本的に装着者の魔力に準ずる。これもさっき言ったな。

 つまり、いろんな荷物を持ち運びたいなら魔力量を増やす必要がある。大抵の物は収納できるが基本的に一部の生物などは収納できない。人間とか犬猫とかは無理だ。

 花だとかは可能。昆虫はどうだったかな……無理だったような……

 ま、そこら辺は各自で色々試してくれ。どれが収納できてどれができないのかとかいちいち覚えてねーんだわ」


 説明にもならないような説明だったが、恐らくは過去にどうしてそれを収納しようと思った!? なんて物に対するチャレンジだとかがあったのだろう、というのがほんのりと想像できてしまったので生徒たちは説明不足じゃないんですかそれー、とぶーぶー言う事はなかった。


 まぁ確かに人間だとかまで入れる事ができてしまえば、連れ去り放題のとんでも犯罪アイテムになってしまう。そこでどうしてそれが無理なのか、と食い下がる相手がいなくて良かった。



「あとそうだな……今日は基本的な説明程度しかするつもりないからパパッと終わらすけど」


 昨日が初日で今日からてっきり授業が開始されるとばかり思っていたのに、どうやらそうではないらしい。

 そもそも教科書だとかそういう物があるかもわからない。配布はされていなかった。


「お前らの寮の部屋について。

 殺風景な部屋だと思った奴らばっかだと思うけど、あの寮実はとんでも魔法がかけられてて内部の構造を大分いじれるようになってる。

 自分の与えられた室内に限り、お前らの魔力を使う事である程度自由にカスタムできるってわけだ」


 その言葉に一部がざわつく。


 ウェズンも正直ちょっとだけそわっとした。


 あの、ゲームだったら間違いなく初期アバター並みの殺風景な室内。最低限の家具はあったが、その家具があったところで意味がないくらいに殺風景の極み。牢屋の中よりはマシだろうけど、独房か何かと言われたら何人かは信じるだろうな、と思える程度には殺風景。

 広さも正直そこまでではなかった。いきなり見知らぬ誰かと同室になって集団生活しろ、と言われるよりはマシだがそれでも一人部屋にしたって狭い。

 机に向かって勉強するかベッドに横たわって寝るかくらいしかできそうにない狭さ。うっかり友人呼んで休みの日に部屋でだらだら喋るとかそういうのも無理そうな狭さと言えば、そりゃ狭いとしか言いようがないのも頷けるだろう。


「まぁでも、部屋の広さをどうにかするにしても限度っていうか節度は守れよ。前にアホほど広くして自室で遭難したとかいう生徒がいたからな」


 とんでもねぇ。


 テラは笑っているけれど、流石に笑えそうにない。

 好きなように室内をリフォームできるらしいと聞いてそわそわしていた他の生徒たちも一瞬ですんっ、とした顔になってしまっている。


「一応世話役もつくから、詳しい話はそいつに聞け」

 さっきとは打って変わって馬鹿にするような笑みではないが、どこか含みのある笑みを浮かべるテラに世話役とは……? と若干の不安がよぎるも、聞いたところで恐らくまともな答えは返ってきそうにない。


 その後はテラが魔術で学園内部の地図らしきものを取り出して、生徒たちに見えるように拡大魔術でサイズを変更し、早急に覚えておくべき教室の場所を教え込まれた。


 見る限りでは、割と普通の学校のように思える。

 だがしかし、訓練室だの錬金術室だの、ウェズンの前世の学校にはまずもってないような教室もいくつか見受けられた。


 ちなみにこれ表向きの地図な、とか言われたせいで、裏向きって言われるような部屋もあるんです……? と問い詰めたい気持ちで一杯だったが予想以上のとんでも教室がでてきた場合それはそれでリアクションに困るからか、大半の生徒は聞かなかった事にするらしい。ある意味で賢明な判断である。

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