表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
二章 チュートリアルなんてなかった

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

68/465

目的が果たされるかは謎



 生徒たちは激怒した。必ずや邪知暴虐……いや、単に理不尽なだけか、まぁともあれ、クラスの担任を一発ぶん殴らねばと決意した。

 だがしかし実力差があるが故に、殴ろうと思っても中々実行できなかった。むしろ実行しようとすると威力高めなカウンターがやってくる。殴る前に殴られる。なんてこった。


 あの後、旧寮でダウンした連中は一瞬で寮の外に魔術で出され、かろうじて自力で立っていた者たちも寮内に響き渡った声で寮から出る事となった。

 そうして寮の外に出れば、まぁ放課後という事もあったし更にそこから時間経過していたのもあって、入る前より暗くなっていたわけだ。

 そこに、平然と佇んでいるテラの姿。


 今しがた寮内に響いた声の本人なのだからいても別におかしくはないけれど、それにしたって。


「掃除当番というのは嘘だ」


 開口一番にコレである。


「お前らの軟弱っぷりを鍛えるためにちょっと放り込んでみた」


 しれっと悪気なく言い放つ。その頃には一応意識が回復していたルシアやヴァン、そしてイルミナも事態の把握を完全にしたわけじゃなくとも何となく把握しつつあったわけだ。

 イアは展開についていけなかったけれど、そもそも旧寮がレベル上げ施設だと認識していたので脳内で勝手に「あーね」と納得していた。

 ゲームでは確かここで訓練するといいよ、みたいな感じで教わって足を踏み入れて強制戦闘とかになって、その後で利用方法とかの説明になったと何となく思い出していたが、実際の現実ではそういう話の流れになっていなかったのだ。


 なおゲームでは教師とかに話しかけて、訓練したい? その心がけは良いわね。じゃあうってつけの場所を教えてあげる。そんな感じで教わるのである。

 訓練室でも一応先輩だとか他のクラスの生徒という名のNPCと戦う事はできるけれど、得られる経験値には差があったので効率という点を考えるとあまり良いとは言えなかった。ただ、時々イベントが発生するので全く利用しないというわけでもないかな……という程度の代物で。


 それに対してそれなりに経験値だとかあとアイテムとかもゲットできる機会がある旧寮はそれこそ最初のうちはお世話になっていた。周回プレイでステータス引き継げるようになるとそこまで利用することもなくなっていたけれど、それでも訓練室よりは断然お世話になっていたのだ。

 とはいえ、ゲーム内ではすっかり作業になりつつあったものなので、すっかり忘れていたけれど。


 本来ならば自分から足を踏み入れるはずだった旧寮。

 もし、ゲームと同じように他の教師からその場所を聞いて足を運ぶようになっていたなら、もう少し早くに思い出せていたかもしれない……とイアは今更のように思う。


 けれども実際は掃除当番と言われ、そうして仲間たちと向かったので。

 自分の知ってる展開と異なった事もあって、思い出すのがかなり遅れてしまったのだ。


 もしもう少し早くに思い出せていたならば……と考えてみたけれど、しかしイアはそっと首を横に振った。

 多分、思い出したとしても結果はほとんど変わらなかったのではないか。

 まぁ、多少の心構えだとか、こっちが受けるダメージだとかを軽減させる方法とかを考えたりだとかできたかもしれないけれど。


 とはいえ、これならまだいっそこれから魔物退治に出向いてもらいまーす、とか言われた方がマシなのは事実である。魔物退治なら事前に準備もするし、心構えもバッチリだっただろうに。

 掃除当番とか一切危険がなさそうな言葉で出向いた先でまさか軽率に死にかけるとか普通に予想するはずがない。


 ともあれ、旧寮に関しての説明をテラがしていたのを、一同は疲れ切った頭で一応聞くだけ聞いてはいた。


 訓練室とは違った修練場。そういう認識で合っているらしい。

 旧寮内にいた男と女については特に何も言われなかった。テラはそのうち本人から聞け、と丸投げしたので。この教師説明が時々とても雑になるのどういう事なんだろうな、と割と本気で思う。


 テラからすれば彼らの存在は特に重要だと思っていないのだ。

 知りたきゃ本人から聞け。そういう感じである。別に秘密にするほどでもないけれど、自分から言うのもな……というのもある。

 先程旧寮内で戦っていた男と女は生徒ではないし、ましてやかつて生徒で卒業したOBなどでもない。ついでに言うと教師でもない。だが学園関係者である事は確かである。


 そこら辺の説明をテラは面倒だと思い、それ故に本人から聞けと丸投げした。本人から聞けばそこまで深く突っ込まないだろうと思うけれど、テラが説明するとなると間違いなく突っ込まれるのが目に見えていたというのもある。


「えぇと……つまり、掃除は別にしなくても良かった……?」

「そうなるな」

「いやお前マジふざけんなよ」


 ウェズンが念を押すように聞けば、テラはあっさりと頷いてみせた。そしてすぐさまレイが悪態をつく。正直レイの気持ちはわかるので、誰も宥めようともしなかった。


「正直な話、お前ら才能とかそういうのはあるはずなのにこれっぽっちも扱いこなせてないというかなんというかすぎてだな。神前試合までたった三年しかないのに大器晩成型とかそういうの望んでないんだわ。もう急ピッチで仕上げてかなきゃなんねーの。今のお前らくらいの実力者なら正直間に合ってるしな。

 手取り足取り優しく教えたところでこっちの想定を超えるような強さを身に着けるでもなし、じゃあもう強くならなきゃならん、みたいに追い詰めていくしかないだろ」


 というか口で説明してすぐにそれを理解してできるならいいけど、できないだろ。


 そんな風に言われてしまえばなんとも言えない。

 正直否定したい気持ちはある。あるけれど、出来る事とできない事があるので。

 そりゃあ説明されただけでできるものだってあるだろうけれど、多分出来ない事の方が多いのではないだろうか。


 だがしかし、だからといって実戦形式で覚えていけ、というのも中々にどうかと思えるのだが。


 何事もバランスって大事だよな……とウェズンは遠い目をしながらテラを眺めていたが、ふとテラがウェズンへと視線を向けた事で視線が合う。


「お前がな……有望株ではあるんだけどな……なんっかパッとしねーんだよな……」

「はぁ」


 褒められているのか貶されているのか微妙すぎて判断に苦しむ。

 パッとしないと言われてる部分はともかく、有望株といわれているので完全に見放されてるわけでもないのだろう。とはいえ、これがアイドル目指してますとかならパッとしないも意味がわからなくもないが、目指しているのが魔王なのでテラの言うパッとしない、がどういう方向性かもウェズンにはさっぱりなのだ。


 えっ、何、これから適当に学外に出た時に町や村焼けばいいんです?

 そんな風に思ったが、そもそもそんな事したら普通に犯罪なので魔王とかいう以前の話である。


 なんだろう、この前の勇者みたく、魔王側も向こうに襲撃しかければいいんだろうか。

 ふとそんな事が脳裏をよぎったが、それをすると男子寮前を陣取っていた奴と出くわす可能性もあるのでウェズンはその考えにそっと蓋をする事にした。いやあの、今あいつと遭遇して戦う事になっても間違いなく勝ち目なさそうなので遠慮させて下さい。下手に口に出していたら、そう言って全力で拒否るくらいの勢いである。


 強者と戦って強くなれよ、とかいうのはまだわかるけど、負けたら死ぬだろう状況で当たって砕けるつもりはなかった。そういう考えがダメなんだろうか。後先考えずに突っ走ってけって事だったら、生憎テラの思惑通りにしてやるつもりはウェズンにはこれっぽっちもない。


 けれども、結果としていきなり強敵が待ち構えてるようなところに行かされるのであれば、多少は無茶をした方がいいのだろうか……?

 けれどもそれはテラの思惑に従うようなもので。


 考えた結果、どう転んでも何か駄目な方向にいくな……と思ってしまったのでウェズンは考えるのをやめた。


「あー……ま、確かに死なれたらそれはそれで困るからな。手駒が減るから。

 仕方ないからここは俺様が多少妥協してやるとして」


 随分な言いようである。


「お前らの自主性に頼ってたら多分ロクな結果になりそうにないから、これからはもっときつく厳しく育てていこうと思う。覚悟しとけよ」


「あ」


 言うだけ言ってテラの姿が掻き消える。あの教師、よりにもよって魔術か魔法かで転移しおった。

 そう気づいた時には、完全に手遅れだった。一発ぶん殴ろうにも相手は既に離脱済みである。


「……次の授業で殴るか」

「いっそ魔術のマトにすればいいんじゃないかしら」


 レイとイルミナの殺意が高い。

 とはいえ、いきなり死ぬかもしれないような状況に叩き込まれたのだ。殺意が高いのはむしろ当たり前に思えてきた。


「これから厳しくなるって、おにい」

「そうだな。厳しく育てるがどういう方向性なのかさっぱりだけど、これ大丈夫な感じのやつか?」

「……難易度変更のお知らせとかそういう感じだったかな……」


 ゲームなら任意で難易度を変更することもできた。だがしかし、ゲームでは自分で操作して変更するわけだが変更したのは自分たちではない。教師だ。戻そうとして戻るものでもないのだろう。


 とはいえ、ゲームであれば難易度を変更した時点で敵の強さだとかもかわってくるが、テラにそんな芸当ができるはずもない。魔物が突然強くなるという事はなくとも、とりあえずこれから先の授業――特に実戦形式のやつ――は間違いなく大変な事になりそうだというのは確かだった。


「おにい」

「ん?」

「今はまだ無理でも強くなったら先生に仕返ししようね」

「……そうだな」


 確かに今やっても返り討ちにあうだけだし。そう思ったウェズンはこくりと頷いてしまった。

 そうして、あ、お礼参りってこういうノリで行われるやつなのね、と妙な納得までしてしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ