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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
二章 チュートリアルなんてなかった

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放課後清掃活動



「――旧寮の掃除、ですか……?」

「おう。掃除当番割り当てられてるんだけど、今回はうちがその当番ってわけだ」


 とある日。


 いくつかのグループに分かれた状態でテラに呼び出されたのは、何の変哲もない空き教室であった。

 なので最初、今回お前ら掃除当番だからと言われた時この空き教室を掃除しろ、という意味だと思っていたのだが。


 ここにはただ呼び出しただけで別にここを掃除する必要はないらしい。


「旧、ってついてるけどそれどこだよ」


 きょとんとした表情のウェズンとは逆でとても面倒くさそうな顔をしたレイが問いかける。


「あー、そうだな。お前らのモノリスフィアはまだそこまで機能解放されてなかったから、俺様のやつで説明するぞ」


 言うなりテラの手にモノリスフィアが出現する。


 なんというか少し前に辞典機能だとかなんだとかと言われて、実のところ戸惑ってはいたのだ。

 そもそも通話機能とメール機能くらいしか使えなかったやつじゃないんですか……!? いつの間にそんな機能できたの!? という気持ちのまま問いかけたくらいだ。


 何のことはない。

 最初から全部の機能を解放しても使いこなせない奴が多いしわけがわからないまま適当に操作して余計わけわからなくする奴というのが必ず現れていたせいで、随分前に機能は段階を経て解放する事にしたのだとか。

 まぁ、取説とか出しておいても読まない奴とかいるだろうし、読んでもわからん、なんて言う奴もいるだろうなとウェズンは漠然と理解してしまったので何か新しい機能がある日突然出たとしても、理由さえわかれば特に驚く程の事でもなかった。


 それ以前にマップ機能とか真っ先に使えるようにしておくべきでは? という気持ちが強いのだが、そうするとモノリスフィアから目を離さないで画面見たまま移動して逆に迷子になるやつが過去多発したから……と返されてしまっては何も言えない。


 あっ、別にソシャゲとかそういうのやってるわけじゃなくても歩きスマホみたいな感じでやらかす奴いるんスね……とは流石に口に出さなかったが。


 とりあえずここだここ、とテラは表示された旧寮があるらしき場所を指差す。

 学園から少し離れた場所。以前勇者が強襲しかけてきた時にウェズンが行った方角とは別ではあるが、鬱蒼とした森があるらしき場所をテラは示していた。


 学園からは少し離れているので、朝起きて学校に行くとなると少しばかり面倒そうな感じではある。


「前はもうちょっと開放的な場所だったんだけどな。木が育ちすぎて日当たり悪くなってな……こっちの寮も古くなってきたし、学園の近くに新しく寮作るかってなってこっちはお役御免になったわけだが」

 木が育ちすぎた……って伐採とかしなかったのか……と思ったものの、何らかの事情があったのだろうと勝手に自己完結させる。聞いたとしてマトモな答えが返ってくるかはわからなかったので。


「てか、使ってないなら取り壊したりはしないのかよ」

「使ってるぞ」

「えっ!?」


 レイの言葉にテラが即座に返し、そしてその言葉に思わずルシアが声を上げた。


 気持ちはわからなくもない。


 使ってない建物、それも古くなったのであればいつ壊れてもおかしくないし、それでなくともここには好奇心だとかその場のノリとか勢いでやらかしそうな年代の連中がいるのだ。例えば老朽化で危険なので立ち入り禁止とか知らせてあったとしても、忍び込む馬鹿は絶対一人は出るだろうし、であるならばさっさと取り壊した方が安全まである。

 だが使っているというのであれば壊すわけにもいかない、というのもわかる。


 わかるのだが……何に使っているのだろうか。


 少なくとも旧寮を現時点で寮として使っているか、となると恐らく使っていない。授業を受けるべく学園に行くのに寮から外に出るにしても、寮よりさらに遠い場所から学園に向かってくるようなのは見た覚えがない。

 ウェズンは毎日決まった時間に出ているわけではないので、もし旧寮を利用している誰かが学園に来ているのであれば、見かける可能性があってもおかしくはないはずだ。決まった時間に毎日出ているなら、それ以外の時間に旧寮から学園に向かう人がいて見かけていないだけ、というのもあり得るけれど。


 というか、現在の寮は部屋が足りていないなんて事もないのでわざわざ旧寮を使う必要性はないはずだ。


 では、寮としての用途以外で使っていると考えるべきだが……何に?


 物置、とするにはどうかと思う。

 大体リングだとかを配布しているくらいだ。学園にだって収納魔法を施した倉庫とか普通にありそうだし、古くなった建物を物置として再利用するか、となるとそうまでして使う必要があるか? となる。


「じゃあ使ってる奴が掃除とかしたりしないのかよ」

「それやると面倒な事になるからな……ぐだぐだ言ってないでお前らはとにかく掃除してくりゃいいんだよ」

「横暴だ!」

「そうだが? 世の中理不尽で構成されてんだからそんなもんだろ諦めろ。いいか世の中を生きてく上で肝心なのは努力や友情なんてお綺麗なもんじゃねぇ。諦めと妥協だ」


「この教師……夢とか希望とかを容赦なく粉砕してきよる……!」


 ぶーぶー言ってるルシアをしれっと受け流すと、テラはまかり間違っても建物を壊すなよと告げてそれじゃ任せたと立ち去っていった。


 空き教室に取り残されたのはウェズンたちだけである。



「……え? これ、話の流れ的に今から……?」

「今からだろうよ」

「はぁ? 冗談じゃないわ……」

「でもやらないとどんな難癖つけられるかわかったものじゃないよね」

「そうだね、掃除が嫌なら代わりに魔物退治してこいとか言われてとんでもなく強い魔物倒してくる羽目になりそう」

「ありそう」


 上からウェズン・レイ・イルミナ・ヴァン・ルシア・イアである。


「えっ、というか、この六人だけ……? 旧とはいえ寮って事は結構な広さだよね……?」

「大掃除レベルじゃない」

「あ、でもそういや他のグループの人たちも何か呼び出し受けたとか言ってたし、もしかしたら他の所もあるのかも」

「じゃ、他のやつに手伝い頼むとかも無理そうか……」


 これが普段使用している教室の掃除ならまだ文句もなかっただろうに。

 しかし実際は一度も足を踏み入れた事のない旧寮である。

 場所だって今しがた知ったばかりの。一切自分が関与していない場所をやれと言われても、そう簡単にやる気になどなるはずもない。


「……しゃーねぇ、行くか……」

「そもそもその旧寮に掃除道具とかあると思う?」

「あー、先に道具回収してから行くか……」


 サボりたい。正直とてもサボりたい。

 しかしサボった場合、何かテラが酷い目に遭わせてくる気がして実行しようとは思えなかった。大体この場に掃除当番が全員揃っている中で一人だけサボるのは不可能だろうし、じゃあ全員でサボるか、となれば間違いなく後の展開が怖い。


 そういうわけで一同は休み明け初っ端から抜き打ちでテストを行うと言われた時同様の表情をしたまま掃除道具をまず回収し、それからトボトボとした足取りで旧寮がある森へと向かったのである。



「っていうかさ、旧寮使ってる奴いるんだよね。そいつに掃除させたら面倒って……一体どういう事なの?」

 気乗りしませんとばかりな態度でルシアが呟いたのは、旧寮へ向かって進んでいる途中での事だった。

「壊滅的に掃除が下手とかなんじゃないか? それ以外に何か掃除させたら駄目な理由ってある?」

「あー……身分とか?」

「いやそれは関係ないだろう。ここじゃ身分は有って無いようなものだ」


 未だぶちぶちと言っていたルシアに、どうにかなだめようとしたウェズンが適当に隣にいたレイに話を振ってどうにか有耶無耶にできないかと思えば、レイもまたどうでもいいのか適当な反応だった。

 だがそのレイの言葉は更にヴァンがしれっと切り捨て、それに対してルシアは、

「まぁ、だろうね。大体身分でそういうの免除されるなら、勇者が襲ってくる時とか危険な授業とかそれとなく除外されてそうだしさ。って事は壊滅的に掃除が苦手な奴がいるって事……?

 えっ、大丈夫かなゴミ屋敷になってたりしない? ゴキブリとか大量発生してたら悪いけどボクは逃げるよ悲鳴上げて」

 冗談の欠片が一ミリも感じられない真顔で言い放つ。


 身分に関しては確かにルシアの言うとおりだろうなと思ったのでそこはいいが、しかし同時に旧寮とやらが途端にゴミ屋敷説濃厚になって一同の足取りはより一層重くなる。


「そんときゃしゃーねーから、ゴミ屋敷にしてる旧寮とやらの使用者もゴミと一緒に纏めて処分しようぜ。あとから何か言われてもゴミだと思ったで通せばいけんだろ」

「根本から断つってのはそうなんだけど、それで先生が納得するかっていうと無理だと思うよ」


 とはいえ、ウェズンもレイの言い分に賛成したい。ゴミ屋敷になってたらそうしてる奴も一緒くたに始末してしまえば二度とゴミ屋敷にはならないだろうし。


「人の形留めてたらアウトだろうけど、ぐちゃぐちゃにしちゃえば人だと思わなかった、が通用するんじゃね?」

「平然と恐ろしい事提案するね……」


 人の形留めてない方がアウトだろう、と思ったものの、もし本当にゴミ屋敷だったらその案がとても魅力的である。とはいえ、いきなりそれを実行する事にはならないだろうが。


 そうこうしているうちに、鬱蒼として暗くてじめじめした森の中にぽつんと存在している建物が見えてくる。


 場所が場所だから、というわけでもないだろうけれど、なんというかすっかり古めかしい建物になってしまっているそれは。


「あ、もし中でオバケとか出たらそれはそれでボク逃げるから。絶叫しながら」


 ルシアがそんな宣言を真顔でしてしまう程には。


 なんというかとてもおどろおどろしいものであった。

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