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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
二章 チュートリアルなんてなかった

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嫌な可能性



 あっという間に調理実習当日が訪れたものの、それはどうにか恙なく終わりを迎える事ができた。

 これというのも事前に各自で料理の腕前だとか段取りだとかを判断するために一度実践した結果だろう。もしそうじゃなければ、最悪イアの手によって毒物は一切使用していないのに劇毒みたいな料理が出来上がるところであったのだから。


 最初から最後までやらなければ問題はないとはいえ、それを知らなければ色々と任せてしまい激マズ判定に到達していた可能性はとても高い。

 ウェズンも過去色々と検証したとはいえ、正確にどこからがアウトゾーンか、まではわかっていなかったのだ。


 イアが唯一最初から最後まで手を出しても問題なく美味しいと言える料理は現時点スターゲイジーパイだけ。だからといって調理実習の授業でそれを作るのはとても躊躇いがあった。

 他の連中が普通に家庭料理だとかちょっと手の込んだのにチャレンジした中、しれっと紛れ込むスターゲイジーパイ。違和感しかない。


 ちなみに、皆で料理の腕がどれくらいか判断するために一度皆で一品作ってみようか、というのをやらかした翌日、再び材料を持ってきてイアにスターゲイジーパイを作ってもらった。

 ウェズンはこれだけはマトモ、と言っていたがどうにも信じられなかったのだ。むしろ最初に想像を絶するほどに不味い物を食べた後でそれを信じろという方がどうかしている。

 だからこそレイたちとしては、最初に食べたアレよりはマシだからその反動でまだ食べられると思えるだけ、くらいにしか思っていなかった。



 ところが。


 実際にイアが作ったスターゲイジーパイを食べてみれば、ビックリするくらい美味しかった。

 いや嘘だろあのパイに魚が突き刺さったような見た目のパイだぞ。見た目からして美味しさから遠ざかったやつじゃねーか、と言いたくなるくらいぶっちゃけ食欲を低下させるような代物だというのに、いざ食べてみると見た目など気にならなくなるくらいに美味しかったのである。


「え、嘘だろ……」

「やだホントに美味しい……」

「えっ、これ普通に作ってたよね……」

「特におかしなものは入ってなかったな……」


 それぞれが食べた時の反応がこれである。


 普通の料理だと思った物を食べた時と比べるとまともに言葉を喋る事ができているのだ。随分な違いである。


 普通の材料を使って普通に作ったという部分は全く同じだというのに、スターゲイジーパイとそれ以外の料理の落差よ……



 とはいえ、調理実習でスターゲイジーパイは流石にちょっと……となったので授業で実際に作ったのは別の料理だ。イアにはメインよりも材料を切ったりだとかの補助に回ってもらった。

 結果としてはまぁ、可もなく不可もなく。テラからは無難だなと一言言われただけだった。


 他のグループも似たようなものだったし、なんなら失敗したところもあったようなので及第点だと判断していいだろう。



 ちなみにどうして調理実習なんてものを……? と思っていたら、ここからが本番だった。

 今回は調理室を使ったが、料理を作るとなった時に毎回そういった設備がある場所で作れるとは限らない。そんな導入から、サバイバル向きの料理の仕方を教わる事になったのである。


 つまりは、この調理実習そのものがこの本番に入る前の前振り。なんて回りくどい。

 テラ曰く、リングに色々収納できるとはいえ、常に備蓄に余裕があるかと言われるとそうじゃない事もあるらしい。

 学園から外に出る時に毎回律義に準備をしている者ならまだしも、そうじゃない奴なんかは意外とあっさり物資が足りなくなってとんでもないところで足止めを食らう事もあるのだとか。


「はい、というわけでですね、今日の授業はサバイバルで使えるあれこれなんですが。数名ホントにそんなの必要になるの? とか言いたそうな顔してますね見通しが甘くて反吐が出ます。つい先日の勇者たちの強襲とか世の中には予測不能な事がいっぱいあんだよ心してかかれ」


 いや勇者たちの強襲は予測不能も何も自分たちにだけ知らされてないだけで別に予測不能でもなんでもなかったのでは……と思ったが下手に突っ込んだところでテラに無視されるのが目に見えていたので一同はそっと口を閉じ――かけたのだが。


「はい先生、例えばどんな感じで必要に駆られたりするんですか?」


 率先してイアが問いかけていた。


「毎回律義に準備できるやつならまだいいんだけどな、そうじゃない奴とかがちょっと周囲にろくになんもないところに出向いた時とかな、金があっても店がねぇとかそういう時に神の楔で別の所に移動できればいいが、そうもいかない場合がある。瘴気に汚染されて他の地域に飛べない場合、はたまた神の楔を敵対勢力に抑えられてて使用できない場合。まぁ他にも色んな状況はあるけど、ミッションコンプリートするまで戻れない、なんて時とかもあるな。

 一日で用を済ませて帰れればいいが、そうもいかない場合何が困るって飯と寝るところなわけだ。寝床は最悪リングに寝袋でも入れときゃどうにでもなるが、飯はそうもいかない。入れてなければ現地調達。だがしかし店もないような場所だと調達してそこから更に食べられるように調理せにゃならん。

 となると、まぁ、そこそこ必要になる知識だろ」


 言っている事は別に極論でもなんでもないので、わからなくはない。


 それに、とテラはちょっと明後日の方向を見ながら口を開いた。


「前にな、いたんだよ。学外であちらさんと遭遇した挙句、お互いどっちも譲らずドンパチ始めちゃったのが。それでどっちかが倒れて終わるなら良かったんだけど、そのドンパチの影響で地盤が崩れて地下に落下して――なんて事があってな。空を飛ぶような魔法も魔術も覚えてなかったそいつらは、どうにか地上に上がるルートを探して脱出しようとしてたんだけど……食料がな」

「なかったんですか。地下なら仕方ないかなって思いますけど」

「いや、あった。意外とトカゲとか一杯いたし」

「いたからってそれ食べたいとは思わないやつですね。そもそもトカゲを食材に認定していいんですか?」

「でも他に食べるもんなかったらしょーがねーだろ。だが、そいつらはトカゲを調理する方法もわかってなかったからな。ただ焼けばいいってもんじゃないんだ。意外と表皮が固かったりするやつはただ焼いても中身は生焼けだったりするし」

「正直あまり知りたくない情報なんですけどそれ」


 生徒たちが口々にそうだそうだと頷いている。

 確かにそんな状況になった場合、やむを得ない、と思うだろう。


「まぁそれでも火が通ってりゃいけると思ったんだろうな。何となく食えそうなトカゲ見繕って生焼け状態のまま食ったそいつらは死んだ」


 ですよね! と言っていいかは微妙なところではあるが。

 なんとなく想像はついた。


「他にも一応食えそうな虫とか」

「あー! それは聞きたくなかったなー!!」


 ウェズンは思わず大声を上げてテラの言葉を遮ろうとしたが、正直あまり意味はなかった。主に女子生徒たちがうわ……とドン引きの様相を見せていたが、ウェズンの態度にというよりは虫を食べたとかいう部分にだろう。


「見た目でいけそうと思っても実は毒があるとかそういうの結構あるからな。そこら辺も覚えておこうな」

「何があっても食べたくない……いっそ飢え死んだ方がマシでは……いやでも極限状態になると食べるを選ぶ事もあるのか……うわぁそれでもあんま知りたい知識じゃないなぁ……」


 何かの拍子に神の楔に戻れないような場所には正直行きたくない……!! そんな気持ちばかりが高まっていく。だが、先程の話のように戦闘の余波で地形変わって、なんて事になってしまったあとどうしようもなく打つ手もないまま、というのも困りものだ。役に立たなくていい知識ではあるが、覚えておいて損はないのだろう。とても気は進まないが。


 それに、とウェズンは思わず妹へ視線を向けていた。

 少し前の学外授業で吊り橋から落下したという話を聞いて、無事に帰ってきたからいいようなもののそれでも聞いた時は肝を冷やしたのだ。

 あんな風に、事故としか言えないような状況になった場合も考えられる。


 やっぱり、気は進まないが覚えておくべきなのだろう。



 そのままテラのサバイバルに役立ちそうな授業は開始されたが、どちらかというとゲテモノ講座になりかけていた事に気付いたのは、すっかり授業も終わって、

「あ、今のやつモノリスフィアの辞典とかに情報追加できるから、忘れずダウンロードしておくようにな」

 なんて言ったあたりだった。


 えっ、じゃあそれ、延々話聞く必要あった? と言いたいところだがあったのだろう。

 モノリスフィアにそんな便利機能もあるのか、と感心すると同時に、しかしそうなるときっと情報をダウンロードするだけしてそのままスコンと忘れそうだなという気もした。それに、いざという時にモノリスフィアを確認できる状況じゃない可能性もあるのだ。正直必要か? と思える知識であっても、きっとこの世界で生きていくなら覚えておいて損はない……と思いたい。こう、あれだ、よくある無駄な事なんて何一つ無いとかいうやつだきっと。そう思わないとやってられない。



 まぁ、なんにせよ。


 ウェズンだけではなくクラスメイト一同は、リングの中の食料の備蓄だけはきっちりしておこうと心に決めたわけである。長期的に戻れないかもしれなくとも、初っ端からそこらの虫とか捕まえて食べるとかしたくないし。

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