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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
一章 伏線とかは特に必要としていない

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帰りたい……帰りたい、切実に。



 流石に通話だとヴァンに内容をまるっと聞かれるので、それはまずいと思ったウェズンは再びイアにメールを送った。


 結果として得られた情報は、襲撃にくる時間はそこまで長くなかったはず、というなんともふわっとした情報であった。とりあえず早く自室に戻った方がいい、と言っていたイアだが寮の前に滅茶苦茶強い奴張ってる、と返せば未だ外にいる事には納得したようだ。


 そこら辺詳しくないけど確かこの後定期的に……という言い方もどうかと思うが、勇者たちが魔王相手に乗り込んで戦いを挑んで来るイベントはそれなりにあるらしい。勘弁してくれ……

 勇者も魔王もそう変わらんだろ(笑)と半笑いで言いきれそうではあるけれど、正直ちょっと勇者側の方へウェズンの天秤が傾いた。

 いやだって、どう考えてもいつ襲いにくるかわからない相手を警戒しなきゃいけないとか、魔王側負担大きすぎんか? 勇者側もその日突然思いついて襲いにいきまーす! とかじゃないとは思うけど、それでも仕掛ける側なのは有利だと思う。


 これならまだ朝一で行われる抜き打ち小テストの方が全然マシ。


 ともあれ、そこまで長い時間居座られるわけではない、というのだけは判明した。

 つまりは先程のファラムたちの言葉は穏便にこちらと別れて見逃すための嘘というよりは、一割それが含まれていても大体本当の事であったらしい。


 ではこのままやり過ごす事ができればどうにか乗り切れるわけか……と思ったものの。


 だからといってそれじゃ戻るか、と言うにはまだ少し早いような気がした。

 彼らが完全に撤退した後ならともかく、そうでなければ戻る途中で見つかる可能性がある。折角ファラムたちが見逃してくれたというのにそうなってしまってはなんというかこう……二人の親切を無碍にしたような気になるし、わざわざ自分たちを危険に晒すとか馬鹿なの? というセルフ突っ込みまで発動してしまいそう。

 別に危険に身を置いてそのスリルがたまらない……! なんていうのは持ち合わせていないのだけれど。


 とはいえ、ヴァンはすっかりへろへろなので、正直さっさと安全であるとわかっている自室へ戻りたい気持ちはあるのだろう。けれどもまだ足元が覚束ない状態なので、あまり無理はするなと言いたい。


「そういえば、ヴァンはどうして外に?」

「……必要な薬草があってな。それを採りにきたんだ」


 一応事前に教師に生えてる場所を確認してあったらしい。とはいえ、その教師もまさか今日採りに行くつもりだとは思っていなかったのかもしれない。


「薬草ね……」


 今日も今日とて制服の上から白衣を羽織っているヴァンなので、なんというかその口から薬草が必要だった、と言われても別段おかしいとは思っていない。むしろそうなんだ、とするっと納得してしまえる。


 何の薬草が必要になってるんだろう……と思いはしたが、あまり踏み込んで聞ける様子ではないのでふぅんそうなんだ、といった感じでウェズンは頷いただけだった。

 そしてそんなウェズンをちらっと横目で見たヴァンは、ウェズンに背を向けるように身体を反転させる。

 そうして恐らくはリングから何かを取り出し――何のことはない。単に水分補給をしているだけだった。

 けほっ、と軽く咽たのか咳き込む音がする。


「それで、必要な薬草は採取できたのか?」

「一応な……その帰りにあいつらと遭遇したわけなんだが」

「……あいつ、ら?」


 ウェズンがヴァンを見た時その場にいたのはファラムだけだ。その後ウェズンと一緒にやって来たウィルの事も数に含めているなら複数形で言っていてもおかしくはないがその場合はウェズンもいたのだから、お前ら、と纏めて言う方がなんというかしっくりくる気がする。

 そんなウェズンの反応に、あぁ、と小さな声が出る。


「最初に遭遇したのはあの女じゃない。別にいた」

「え、そうなの?」


 ヴァン曰く、薬草を調達して用も済んだのでさて自室に帰ろうかと思ったあたりで、白い制服を着た男女と遭遇したのだとか。


 お、獲物発見。


 なんて言葉から瞬時にヴァンは状況を把握したようだ。相手が攻撃してくるよりも早く、ヴァンは攻撃を仕掛けていた。そうして何かを言おうとしていた女の方を一撃で絶命させ、仲間を殺されて激昂した男とそこそこやりあって、そうしてどうにか男を倒したあたりで、ファラムと出会ったのだ。

 新手か、とヴァンも状況を完全に理解しないままファラムに攻撃を仕掛けたのだが、彼女は魔法の使い方が上手かったらしい。


 高威力の魔法や魔術で応戦していたが、長期戦になると判断されてか威力を落とした術でヴァンの魔術の発動を妨害しにまわり結果として失敗した魔術や魔法の成れの果ては瘴気へと変ずる。

 接近戦を仕掛けようにも、近づいた瞬間威力の高い術を発動された事でますます近づけなくなった。

 近距離で食らえば勿論タダですむような術ではなかったのだから。

 かといって逃げようにも上手く逃げ道を塞がれてしまい、じわじわと虫の羽や足をもぐように追い詰められていたところへ――ウェズンがウィルと一緒にやって来たというわけだ。


 一応白い制服を着た連中と遭遇したのは放送が聞こえた後だったので、何が何だかわからないうちに一方的にやられるような事にはならなかったようだが、それでも追い詰められる側である事に変わりはない。


「よくその状況で立ち回れたな……」


 ウェズンとしては感心するしかない。正直あの放送を聞いた直後でもウェズンはまだ軽く混乱していたと言ってもいい。ただ、ぼーっと突っ立ったままなのは危険だと思ったからこそ見つからないように隠れたりはしたけれど。

 もしあの時に誰かが襲ってきたならば、その時咄嗟に応戦して相手を倒せていたかは……正直ちょっとわからなかった。

 上手く切り抜けられたかもしれないし、できなかったかもしれない。どっちに転んでもおかしくなかったのである。


「まぁ、襲撃にはそれなりに慣れているからね」

「物騒」


 一体どんな環境で生活してたら襲撃に慣れるんだ。

 突っ込みたかったが、あまり深く聞いてはいけない気がしたのでウェズンはただ一言そう呟いた。



『本日の特別授業終了まであと10分です。どちらもくれぐれも油断しないようにしましょう』


 そんな放送が風に乗って聞こえてきたのは、それからすぐの事だった。


「あと10分で終了か……長いな」

「あぁ、そうだな。普段はそこまで長いと思わないけど、こういう時の時間はやけに長く感じてしまうな……」


 例えば朝の準備をしている時の10分などあって無いようなものなのに、こういう時の10分は本当に10分か? と言いたくなるくらい長く感じるのだから堪ったものではない。

 そう、前世の弟だって言っていた。ソシャゲ周回とか一回のプレイはそこまでかからないはずなのに、それでも一通りやり終えて時計を見ると気付けば数時間経過していたなんてザラだった……と。

 それに対して前世の自分は何と言ったのだったか……そりゃお前、ゲーム一つしかやってないならともかく、調子に乗って複数のソシャゲ掛け持つからだろ、だっただろうか。

 それに近いことを言った気がする。記憶があやふやすぎて自信はない。とはいえ、現状そんな事は特に重要でもないのでどうでもいいだろう。


「でもまぁ、あと10分っていうなら、一応周辺警戒しながらでも戻って大丈夫かな。急ぐと誰かと遭遇しそうだけど、ゆっくりなら……」


 今いる場所から男子寮までは10分で戻れる距離ではない。なので終わってからやっと安全に戻れるぞ、となると戻るまでにそれなりの時間がかかってしまう。

 ヴァンはもとよりウェズンも正直疲れ果てたので、戻れるならばさっさと戻りたかった。

 ぶっちゃけ熱いお湯のお風呂に浸かってご飯食べてさっさと寝たいくらいに何かもう疲れてきた。


 そりゃまぁ、ここが異世界でそれなりに危険度があるとわかっていても、こんな突発的な命の危機的イベントまでどんと来い! と構えてられるはずもないのだ。世界が滅亡するかもしれないとか言われてるし、そこそこ危険なのはわかるけど、せめて事前に心の準備をさせてほしい。割と切実に。


 なので、心の準備もロクにできないまま、誰かがこちらに走って近づいてきているであろう音が聞こえて思わずウェズンは言葉を途中で切った。

 ファラムやウィルが何か忘れて戻って来た、とかであればまだいいが、恐らくは違う。

 足音からしてもっと重たい感じがする。

 後先考えず渾身の力で大地を踏みしめながら走り続けるにしても、流石にこんな重たい感じの音はファラムもウィルも出せないだろう。


「ちくしょおおおおお、まだそこまでスコア伸ばせてねーのにもう終わりかよおおおおお! あっ、いるじゃんまだ生きてる獲物がよぉ!!」

「うわ」


 なんかすっごく現状をわからせてくれる事を叫びながらやって来たのは白い制服を着た男が一人である。体格がよすぎて同年代という感じがしないが、まぁ若い方なのだろう。

 なんていうか、スポーツ系の部活にでも入ってらっしゃる? と聞きたい程度には鍛えられてる感が凄い。


 そして大地を踏みしめ走ってくるだけではなく、途中までは木の枝から枝へ飛び移ってたらしい。そりゃ足音とかそこまで聞こえないはずだわ、と納得するもそのせいである程度の接近を許してしまったのが痛い。思わず口からドン引きです、みたいな声がでるのも仕方のない事だった。


「ッシャア!! あと二人やれば上位に食い込める可能性も上がってきたぞ!」


「うわ、何から何まで状況をつぶさに伝えてくれるとか親切心の極みか?」

「つまりはこちらを逃がす気などないというのは確かか……」

 げんなりとした様子で吐き捨てるヴァンではあるが、見れば先程よりは少し顔色が良くなったように思える。


 思えるのだけれど。


 流石に戦闘に復帰できるかは微妙なので、一先ずウェズンはヴァンよりも少し前に出た。

 あと10分って放送は言ってたけど、これタイムアップした時点で自動的に回収されたりするんだろうか……しなかった場合どうなるんだろう……そんな疑問を抱えつつ。

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